酒池肉林
日常生活では使用することはまずないであろう思われますが、小説の中ではたまに見受ける言葉に「酒池肉林(しゅちにくりん)」があります。
小説では、例えば、
・司馬遼太郎の『国盗り物語』では、
“第二は、この乱世に十数年もその地位を保たれ、酒池肉林のお暮らしをなされた。 ・・・”
・ 山田風太郎の『風来忍法帖』では、
“三十畳敷あまりのその座敷は、まさに酒池肉林であった。 ・・・
・黒岩重吾の『白鳥の王子ヤマトタケル6終焉の巻』では、
“その上、酒池肉林の待遇を受け、夢のような日々を過ごした。
・ 藤沢周平の『隠し剣秋風抄』では、
“申しては殿にはばかり多いが、その別荘の遊興とやらは、酒池肉林といった趣のものだそうだ。”
小説ではこのように使用されている「酒池肉林」、一体どのような意味なのでしょうか?
漢字から判断すると、美女に囲まれて酒を浴びるほど飲んでいる状態のような気がしますが、そうではありません。
広辞苑では、「贅沢の限りを尽くしたごちそうや宴会、また、豪遊を究め尽くす事の例え」と説明しています。
辞書が示すように、「酒池肉林」とは、酒や食べ物がふんだんにある贅(ぜい)を極めた酒宴のことです。
その語源は、中国の歴史書「史記」の「酒を以て池となし、肉を懸けて林となす」という一節からと言われています。
「酒を以て池となし」というのは例えではなく、本当に酒の池があったとする説が有力で、中国最古の王朝・殷(いん)の都があった河南省の遺跡で発見された石造りの人工池が、それではないかといわれています。
池はの大きさは、長さ約130メートル、幅約20メートル、深さ1・5メートルの酒の池と言いますから、想像すら出来かねます。
また「肉を懸けて林となす」は、肉の塊をたくさん吊るすことだそうです。
「肉」という字はエロティックな意味合いで使われることもあるので、「肉林」というと薄物を着た美女がずらりと並んでいる様子などをイメージしがちですが、「酒池肉林」の「肉林」は食用の肉がたくさんあること、転じて酒の肴がたくさんあることのようです。
と言うことでこの言葉の意味は「食べ物がふんだんにある酒宴」、「豪遊を究め尽くすことの例え」を言い表す言葉なのです。
現代で言えば、高級ホテルにおいて、豪華な料理や高級酒を食べ放題、飲み放題の宴会というところでしょうか。
大会社の役員の方なら、役得による酒池肉林の待遇を受けて夢のような暮らしもできるかも知れませんが、一般の人には縁のない四字熟語のようですね。