承詔必謹
ちょうど1か月前の8月8日に、天皇陛下がビデオメッセージでお気持ちを表されました。
陛下は象徴としてのお務めについて、憲法に抵触しないようにおことばを選びながら述べられていました。
この10分間に及ぶビデオメッセージは陛下の生前退位を強くにじませる内容であり、おことばの最後には「国民の理解を得られることを、切に願っています。」と結んでいました。
これを受けて安倍総理大臣は次のように語っていました。
「本日、天皇陛下よりお言葉がありました。私としては天皇陛下が国民に向けて、ご発言されたということを重く受け止めております。天皇陛下のご公務の在り方などについては天皇陛下のご年齢やご公務の負担の現状に鑑みるとき、天皇陛下のご心労に思いをいたし、どのようなことができるのか、しっかりと考えていかなければいけないと思っています」と述べていました。
天皇陛下の生前退位について、読売新聞は8月9日から10日にかけて緊急全国世論調査を実施していました。
それによると、現在は認められていない生前退位ができるように制度を「改正すべきだ」と思う人が81%に上り、「改正する必要はない」の10%を大きく上回ったと言うことです。
しかし実際に生前退位となると様々な課題があるようです。
「生前退位の課題」
皇室典範を改正して「生前退位」を制度化する場合、
①年齢や心身の状態に条件を設けるかや天皇の意思表示が必要かなど、退位の要件をどう定めるかが大きな課題になります。
②また、天皇がどのようにして意思を表し、それをどう確認し、誰が退位を認めるのかなどの手続きについても、退位の強制を防ぐという観点から議論の対象になりそうだということです。
③さらに、退位後の天皇の位置づけをどうするかも課題です。
歴史上、譲位した天皇には「太上天皇」の尊称が贈られ、「上皇」という通称で呼ばれてきましたが、新たに呼称を決めなければなりません。
④新しい天皇との関係や、どのように公務に関わるのかも課題になります。
⑤このほか、お住まいの場所や生活のための予算、それに、宮内庁の組織や体制などの検討も必要で、皇室経済法や宮内庁法など関連する法律の改正も求められそうです。
一方、現在の天皇陛下に限って退位が可能となるよう特別に法律を制定する場合でも、同じように退位の要件などが議論の対象となる見込みで、いずれの場合にも大がかりで精緻な仕組みづくりが必要になるということです。
「承詔必謹」
「承詔必謹(しょうしょうひっきん)」、この言葉は聖徳太子の十七条憲法の第三条に載っている言葉です。
この言葉を読み下せば、「詔(みことのり=天皇のお言葉)を承れば必ず謹め」となります。
すなわち畏れ多くも天皇陛下のお言葉であれば、必ず謹んで聴かねばならない、 要するに天皇の命令に従え、ということです。
天皇陛下は、ご自身の年齢と象徴としての務めの重さを考え抜いた末に、宮内庁の関係者に生前退位の意向を示されたものと言われています。
今の皇室制度を定めた皇室典範が制定された頃とは大きく様変わりしており、天皇陛下の意向にも配慮しつつ、高齢となった天皇の象徴としての在り方について、時代に即した幅広い議論が求められます。
その上で、例え生前退位の課題がたくさんあったとしても、それらを一つ一つクリアしていき、陛下のお気持ちに沿うことが国民の義務だろうと考えますが、如何でしょうか。
「参考」
17条憲法第3条
原文
三曰。承詔必謹。君則天之。臣則地之。天覆地載。四時順行。万氣得通。地欲覆天。則致壊耳。是以君言臣承。上行下靡。故承詔必慎。不謹自敗。
読み下し
三に曰わく、詔(みことのり)を承(う)けては必ず謹(つつし)め。君をば則(すなわ)ち天とし、臣(しん)をば則ち地とす。天覆(おお)い地載せて四時(しじ)順行し、万気(ばんき)通うことを得(う)。地、天を覆わんと欲するときは、則ち壊(やぶ)るることを致さむのみ。ここをもって、君言(のたま)えば臣承(うけたまわ)り、上行なえば下靡(なび)く。ゆえに、詔を承けては必ず慎め。謹まずんばおのずから敗れん。
現代語訳
三にいう。王(天皇)の命令をうけたならば、かならず謹んでそれにしたがいなさい。君主はいわば天であり、臣下は地にあたる。天が地をおおい、地が天をのせている。かくして四季がただしくめぐりゆき、万物の気がかよう。それが逆に地が天をおおうとすれば、こうしたととのった秩序は破壊されてしまう。そういうわけで、君主がいうことに臣下はしたがえ。上の者がおこなうところ、下の者はそれにならうものだ。ゆえに王(天皇)の命令をうけたならば、かならず謹んでそれにしたがえ。謹んでしたがわなければ、やがて国家社会の和は自滅してゆくことだろう。