軌道エレベーター派

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H-IIA29号機打ち上げ成功に思う

2015-12-13 12:22:42 | その他の雑記
 さて、以前書く予定で見送ったH-IIA29号機のミッション成功について一筆。従来はロケットで衛星を打ち上げて、低軌道の「パーキング軌道」からは衛星本体でホーマン・トランスファ(遷移)をして高度約3万6000kmの静止軌道にたどりつくのが一般的だったのを、ロケットの2段目で静止軌道のちょい手前まで運んであげるようにしてあげるミッションです。パーキング軌道よりも近地点高度を高くした上で焦点間の距離を長くした遷移軌道をたどりました。無事成功して何より、さすがはJAXA、宇宙利用の新たなスタンダードを作り上げることになるかも知れません。

 今回何かと話題になりましたが、私的にはミッションの成功よりも、切り離され、放棄された2段ロケットがどういう軌道をたどるかの方が興味津々であり、調べたりJAXAに聞いたりしてみました。2段目は3万5586kmで衛星を切り離してドリフト軌道に投入した後、残りの推進剤を使って、近地点が約3000kmの軌道に落ち着くとのことです。

 少し話が逸れますが、皆さんご存知の通り高度数百kmの低軌道域は衛星の利用が特に多く、しかも軌道半径が小さいから密度も高くて「衛星銀座」などと呼ばれ。。。てはいませんが、とにかく密集域であります。そして静止軌道も需要が高い。低軌道が銀座なら、静止軌道の混雑具合(正確には対地同期の必要性から限られたポジションの混雑)は六本木といったところでしょうか。今回のH-IIAは、銀座から六本木まで自力で歩いていくのが普通だったところへ、JAXAが直行便を運行してくれた感じですね。
 そして、銀座にも六本木にもスラム街がある。すなわちデブリの密集域です。静止衛星は運用を終える段階で、最後の推進剤を使って少し高度を上げた軌道に捨てられることが一般的で、「墓場軌道」などと呼ばれています。低軌道の場合はスラムと同居状態です。近年はなるべく最後のマニューバで衛星の高度を落とし、ほどなく再突入するようにする動きが広まってはいますが、いかんせん今までのゴミが大量に溜まっていて、深刻な問題になっていることは過去にも述べてきました。

 で、今回の改良型H-IIAの放棄された2段目。「デブリとして宇宙空間には残るものの、影響が少ない場所にある」とのことで、JAXAはちゃんと低軌道に干渉しないように配慮しています。この辺、日本は世界的に見てかなり誠実な仕事をしていますが、将来、この2段目による静止トランスファのミッションの利用が増え、上述した「スタンダード」化して後乗りしてくる国も増えてくると、2段目を廃棄した軌道がスラム化したり、ほかの衛星への脅威になったりなんてこともあるのではという考えがよぎりました。今年運用を終えた磁気圏観測衛星「あけぼの」みたいに、高度が近地点で270km、遠地点で1万500kmという長い楕円軌道を通るものもありますし。

 決してJAXAや今回のミッションに難癖をつけようという意思はありません。どんな活動でも利用すればゴミが出るのは人間活動の避けられない必然であり、エントロピーが常に増大するのは自然の法則です。
 これはむしろ、優れた実例を残したということの証左であり、優れたものは模倣を生む。そして模倣が普遍化していけば、このような状況も生じうるのではないか。その時になって、新たな対処に迫られるのではないか、それを見越して、対処法を早くから考えておくべきではないか。
 うがち過ぎとはいえ、功罪含めて、ミッションの成功が新たな局面につながるのではないか。今後も日本の基幹ロケットの発展を望んでやみませんが、色々と考えさせられた一件でもありました。

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