(秋。金色の光。白いあずまや。薔薇。林檎。)
ヒャクボルコ:(目を閉じたまま、つぶやく)
………。
遅いわ…。どうしたのかしら? もうずっとこうして
待っているのに。
ちょっと起き上がって、あちらを見渡してみようかしら。
いいえ、だめね。じっとしていなければ…。
そう。それに、わたしの喉には林檎のかけらがつまって
いて苦しいの。ほんとうに苦しいわ。はやく王子さまが来
てくれないと、たいへんだわ。
どうしたのかしら? 遅いわね……。
(ヒャクボルコをみつめる二人の人物。)
かえる: ちょっと、この人ったら一体どうしたのかしらね?
白い箱になんか入っちゃって、お葬式ごっこかしら?
あんた、なにか聞いてる? なんの遊びなの?
オネコタン: さあ?
かえる: 全然動かないけど、なんだか面白そうではあるわね。
それに、ここ、なんだか良い香り。
あ、あんなでっかい林檎があるわよ!
(林檎に近寄る)
ちょっと、見てよ! 一口かじったあとがあるわ!
いやねえ、この人、食いかけたままで寝てるわよ。
だらしがないわさ。
オネコタン: わけがわからんな。
しかし、ヒャクボルコはいつもよりずいぶんと
青ざめているな。真っ青だぞ。大丈夫だろうか。
かえる: そりゃ、心配ないでしょう。なにせこの人は……。
それにしても良い香り。
林檎と、それに薔薇の香りだわね。
オネコタン: ああ、ふたつは親戚だからな。
黄金の花と果実だ。
かえる: なんの夢を見てるのかしらね。暇だわ。
(ふたたびヒャクボルコ。ついに目を開ける)
ヒャクボルコ:(起き上がり、箱に片足を乗せる)
来なかったわ…。
ええ、わかってはいたの。あれはただの物語。
それにわたしはお姫さまでもないし。それでも
林檎を喉につまらせて、箱の中に寝てました。
王子さまの口づけでよみがえるのを夢見て。
それでわかったの。
あのお姫さまは最初から王子が来るのを知ってて
林檎をかじったんだわ。毒がまわらないように、
かけらは喉のところで止めておいて……。
すごい執念だわ。だって死にそうに苦しいもの。
そしてわかったの。
わたしは最初から王子を待ってはいないことが。
わたしは、ただ、林檎が食べたかっただけ。
わたしは、ただ、林檎の夢を見たかっただけ。
わたしが、待っているのは、ほんとうは……。
それに、毒のない林檎のかけらなら
もうとっくに飲み込んでしまったわ。
(箱から飛び出す)
さ、残りを食べましょう!
あら、かえるとオネコタンもいたの?
ご一緒にいかが?
かえる・オネコタン: やあ、喜んで!
(薔薇の音楽。林檎をかつぎあげ、三人はぐるぐるまわる)
さあ今のうち うつくしい秋
のこりはみんな たべておこう
ゆめをみる ゆめをみた
もうなんだか わからない
ヒャクボルコ:(目を閉じたまま、つぶやく)
………。
遅いわ…。どうしたのかしら? もうずっとこうして
待っているのに。
ちょっと起き上がって、あちらを見渡してみようかしら。
いいえ、だめね。じっとしていなければ…。
そう。それに、わたしの喉には林檎のかけらがつまって
いて苦しいの。ほんとうに苦しいわ。はやく王子さまが来
てくれないと、たいへんだわ。
どうしたのかしら? 遅いわね……。
(ヒャクボルコをみつめる二人の人物。)
かえる: ちょっと、この人ったら一体どうしたのかしらね?
白い箱になんか入っちゃって、お葬式ごっこかしら?
あんた、なにか聞いてる? なんの遊びなの?
オネコタン: さあ?
かえる: 全然動かないけど、なんだか面白そうではあるわね。
それに、ここ、なんだか良い香り。
あ、あんなでっかい林檎があるわよ!
(林檎に近寄る)
ちょっと、見てよ! 一口かじったあとがあるわ!
いやねえ、この人、食いかけたままで寝てるわよ。
だらしがないわさ。
オネコタン: わけがわからんな。
しかし、ヒャクボルコはいつもよりずいぶんと
青ざめているな。真っ青だぞ。大丈夫だろうか。
かえる: そりゃ、心配ないでしょう。なにせこの人は……。
それにしても良い香り。
林檎と、それに薔薇の香りだわね。
オネコタン: ああ、ふたつは親戚だからな。
黄金の花と果実だ。
かえる: なんの夢を見てるのかしらね。暇だわ。
(ふたたびヒャクボルコ。ついに目を開ける)
ヒャクボルコ:(起き上がり、箱に片足を乗せる)
来なかったわ…。
ええ、わかってはいたの。あれはただの物語。
それにわたしはお姫さまでもないし。それでも
林檎を喉につまらせて、箱の中に寝てました。
王子さまの口づけでよみがえるのを夢見て。
それでわかったの。
あのお姫さまは最初から王子が来るのを知ってて
林檎をかじったんだわ。毒がまわらないように、
かけらは喉のところで止めておいて……。
すごい執念だわ。だって死にそうに苦しいもの。
そしてわかったの。
わたしは最初から王子を待ってはいないことが。
わたしは、ただ、林檎が食べたかっただけ。
わたしは、ただ、林檎の夢を見たかっただけ。
わたしが、待っているのは、ほんとうは……。
それに、毒のない林檎のかけらなら
もうとっくに飲み込んでしまったわ。
(箱から飛び出す)
さ、残りを食べましょう!
あら、かえるとオネコタンもいたの?
ご一緒にいかが?
かえる・オネコタン: やあ、喜んで!
(薔薇の音楽。林檎をかつぎあげ、三人はぐるぐるまわる)
さあ今のうち うつくしい秋
のこりはみんな たべておこう
ゆめをみる ゆめをみた
もうなんだか わからない
写真とお話がマッチしていて可愛くて面白かったです。
>林檎と薔薇は親戚
図鑑で見てびっくりしました。林檎は全然薔薇に似ていないのにバラ科なんだもの。花が似ているのかな。
(失礼ですが、あの柵状になっているのは頭のツボをマッサージする道具に似ていますね。)
かえるとオネコタンは、居間のテーブルの上に常に置いてあるので、私はいつも際限なく脳内コントを繰り広げています。(ちなみにオネコタンは、宝くじのオマケ。本名は「くじ丸」と言うらしいです…もともと細かった目はパッチリ大きく私が描き加えました)
薔薇と林檎は親戚なんですよ。なんとなくロマンですよね。
そ、それと…あの白いのは、たしかに頭皮マッサージャーです。なんで分かったんですか?
私はこのあいだネット通販で初めて見て、そのあまりにSF的なフォルムに魅了され、買ってもらいました。本来の用途からは、ずいぶんかけ離れてしまいましたが、なんとなく気に入ってます。えへ。