半透明記録

もやもや日記

『ジャン=フランソワ・ラギオニ短篇集』

2009年01月05日 | 映像(アニメーション)
《内容》
『やぶにらみの暴君』『避雷針泥棒』のポール・グリモー、『ファンタスティック・プラネット』『時の支配者』のルネ・ラルーと並ぶ、フランス・アニメーション界の異才ジャン=フランソワ・ラギオニ。処女作『お嬢さんとチェロ弾き』(1965年)で、いきなりアヌシー・フェスティバルのグランプリをさらった鮮烈なデビュー。以後、発表された『ノアの方舟』(1966年)『ある日突然爆弾が』(1969年)『大西洋横断』(1978年)など切り紙を主体とした短篇群は、いずれも世界中の映画祭で高い評価を得ているものばかりだ。
 アンリ・ルソーを思わせる素朴な絵柄と、重たく静かに時を刻む空間が、まざまざと浮かび上がらせていく人間の孤独と妄念………



《収録作品》
*お嬢さんとチェロ弾き
*ノアの方舟
*ある日突然爆弾が
*人魚に恋した男
*俳優
*悪魔の仮面
*大西洋横断


《この一言》
 “1957年6月1日。ある海岸に小船が漂着した。
 人は乗っておらず、ノートが発見されたが
  重要な記述はなかった  ”
      ――「大西洋横断」より



ラギオニ短篇集を年末年始に実家へ携帯してじっくりと鑑賞しました。

これまでに観たアニメーションの中で、このラギオニというひとの作品がもっとも私の理想に近いと感じます。物語の性質、音楽、キャラクターの動き、配色などなど、あらゆる点において私にはこの作品群はあまりに完璧に思えます。なんという暗さと鮮やかさだろう。不条理で、幻想的で、物悲しく。私にはあまりに完璧すぎます。こんな世界があったとは。

ほとんどの作品からは、どこかしら暗く悲しい雰囲気とぴりっとする皮肉を感じられます。得体の知れない恐怖も少しある。

「ノアの方舟」というお話は、かなり恐かった。ある日突然大洪水が起こると知り山頂でひとり寂しく過ごしていた男は動物たちを自らの住まいである船へと集め連れてくる……という、タイトルそのままの筋書きなのですが、黙々と作業を進める主人公の男を淡々と描くことによって、彼の狂気が伝わってくるようでした。それでつまり何が言いたかったのかは私にはまだよく分かりませんけれど、迫力は凄まじかったです。

「ある日突然爆弾が」は、素晴らしい作品です。とにかくよく出来ています。一言の台詞もなしに、物語を完全に理解することができます。オチも最高ですが、ある日突然爆弾が落ちてきた無人の町を、ひとりの男が徘徊し――という物語ですが、この無人の町を男が作り直してゆくさまが楽しくて、美しい。色合いが素晴らしい。

「人魚に恋した男」は、珍しく明るい物語でした。ハッピーエンドですし。ロマンチックで良かったです。

「俳優」も地味に面白いです。にやりとさせられるところがあります。しかし、絵は恐い。

「悪魔の仮面」は、私はとても気に入りました。大変にユーモラスです。町中の人々が仮面を付けて大騒ぎする祭りの夜、老婆だけがそれに加わらず、ひとり森の方へと向かいます。そこへ悪魔があらわれて――というお話。これは物語の展開も面白かったですし、悪魔の登場シーンの美しさには目を奪われました。素晴らしい。

「大西洋横断」は、もっとも印象的な作品。2度繰り返して観てしまいました。深い。1907年、【愛と勇気号】に乗って大西洋横断の航海に漕ぎ出した二人。誰も成し遂げたことのない冒険は苦難の連続で、いつしか二人は歪んだ時間のなかに迷い込み、果てしない海原を漕ぎ続けるのだが――というようなお話。最後は泣きます。胸が詰まるような、辛く恐ろしく、とても悲しいと同時に、航海とは、ともに歩む人生とは何かということを見せてくれる物語でした。これは傑作。画面の美しさも群を抜いています。なんということだ。

いつか、こんな風に思えたらいいですね。その途中がたとえ嵐と転覆の繰り返しであったとしても、船を降りて裸で海に飛び込む頃には、世界はまた美しさを取り戻すとしたら、それはどんなに素晴らしいことだろう。



 “ 「結局 私たちの航海は短かったのかしら」
  「そうだ 短かったんだよ」       ”





素晴らしい!!



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6 コメント

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アニメーションと文学 (ペーチャ)
2009-01-10 00:16:30
はじめまして。
きのう『東欧怪談集』の「ファウストの館」で検索していたらこのブログを発見して、色々見ているうちに、キターと思ってしまいました。ぼくの好きなものが、このブログにはある…

大まかに言って、文学とアニメーションが両方話題に上ることって少ないですからね。「ファウストの館」を検索していたのも、『東欧怪談集』に収録されている小説版と、ガリク・セコの制作したアニメ版の題名を確認するためだったりします。

ラギオニは残念ながら観たことがないのですが、海外だったら個人的にはノルシュテインとイシュ・パテルが好きで、特にノルシュテインはぼくにとって理想のアニメーションを作る人です。あとポヤールの「ナイトエンジェル」とか、ペトロフの「老人と海」とか…

これからちょいちょい訪れたいと思いますので、よろしくお願いします。
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はじめまして♪ (ntmym)
2009-01-10 11:09:01
ペーチャさま、こんにちは!
こちらこそ、よろしくお願いします!

さっそくですが、「ファウストの館」はアニメ版があるのですか!? それは興味津々です! 私はあの話は大好きなので、ぜひ観てみたいです~。

ペーチャさんはノルシュテインがお好きなんですね(^^) 私も「霧の中のハリネズミ」はすごく好きです。幻想的かつユーモラスで、すばらしい作品ですよね♪
イシュ・パテルは前から観てみたいと思いつつ、まだ観たことがありません。はやく観たいです。
ポヤールの「ナイトエンジェル」とか、ペトロフの「老人と海」は初めて聞きました。面白そうです!

私は文学もアニメもとても好きなのですが、まだまだ知らないことばかりですので、いろいろ教えていただけると有り難いです☆ よろしくお願いしますね!
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アニメの紹介 (ペーチャ)
2009-01-10 23:56:18
レビューを見る限りでは、ntmymさんは文学にもアニメーションにもお詳しそうですが…ぼくの方こそ色々勉強させてもらいます!

「ファウストの館」は、たしか『ラギオニ短編集』と同じ出版元から出ている『ガリク・セコ短編集』の中に入っていたと思います。ちなみに題名は「ファウストの家」でした。セコって可愛らしいアニメーションを作る人というイメージがありますが、この話はちょっと不気味ですよね。

イシュ・パテルは『NFB傑作選』でたくさん観られます。特に「ビーズ・ゲーム」と「死後の世界」はお薦めです。この二作のためだけでも、DVDを買う価値あり、と思っています。

ポヤールの「ナイトエンジェル」は『チェコアニメ傑作選』にあったような…うろ覚えです。これはもう傑作だと思います。なんと盲目の世界を表現しているのです、アニメーションという可視メディアで!その手法が斬新かつ鮮烈で、衝撃的でした。人形アニメですが、その人形の顔立ちが端正で、ぼくはかなり好きです。

アレクサンドル・ペトロフの『老人と海』もDVDで鑑賞できます。これは俗に「油絵が動いたような」アニメーションと呼ばれていて、本当にその通りです。これも衝撃的ですね。ちなみに原作はもちろんヘミングウェイで、監督のペトロフは他にもドストエフスキーとか、文豪の小説を幾つかアニメーション化しています。

これらのDVDは全て買うとかなり高額になるので悩みどころです。新宿のツタヤでもレンタルできませんし。もし東京にお住まいなら、杉並アニメーションミュージアムで鑑賞する手もありますが…遠くにお住まいならそれも難しいですよね。アニメーション図書館みたいなものができてほしいものです。
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おお! (ntmym)
2009-01-11 10:54:42
ペーチャさん、こんにちは!
さっそくありがとうございます♪

で、『ガリク・セコ短篇集』はすごく良さそうだったので、さっそく注文しました;
続けてイシュ・パテルも頼むつもりです。

「ナイトエンジェル」は、ペーチャさんの最初のコメントをいただいた後、「あれ……? でも、どこかで見た記憶が……」と思い、家中を捜索した結果、『チェコアニメ傑作選2』(ここに入ってました!)を持っていたことが判明。しかし未開封・未視聴;……私って(/o\;)
でも分かって良かったです。観るのが楽しみ♪

ペトロフは「春の調べ」?の人だったんですね。名前だけは聞いたことがありました。油彩調のアニメって珍しいですよね。これもそのうち観てみたいですね。

それにしても、杉並アニメーションミュージアムなんていうすばらしいものがあるのですか!
私は5年前までは東京に住んでいたのですが、今は大阪在住です(泣) でも、機会があれば行ってみたいです~(^^)

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さっそく (ペーチャ)
2009-01-12 02:22:27
さっそく注文されたのですね…行動が早い…見習いたいです(笑)

ペトロフは『春のめざめ』ですね。ちなみに原題は『ぼくの恋』。少し艶めかしい(?)邦題になったのには、鈴木敏夫の意向が反映されているとか。この作品はジブリ美術館ライブラリーからDVDが出ているので、少し大きなレンタルショップになら置いてあると思います。ペトロフの最高傑作は『老人と海』だと思っていますが。

杉並アニメーションミュージアムは少々辺鄙なところにあるので、事前によく交通手段を調べておかないととんでもなく歩く羽目になるかもしれないので要注意です。東京に来られた際にはぜひ。無料でDVDが見放題ですよ。全国にこういう場所ができるといいですね。

それでは、また知っているアニメや小説のレビューなどにはコメントすることもあろうかと思いますので、そのときはよろしくお願いします!
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……惜しい; (ntmym)
2009-01-12 14:04:42
「春のめざめ」……でしたね; 惜しい(/o\)
近所のレンタルショップに置いてあったように記憶してますので、今度借りてみます♪

ガリク・セコのDVDは中古ですが安価なものがみつかったので勢いづいて注文しましたf^^; いつも激レア・プレミア価格になってから欲しくなることの多い私は、欲しいものは手に入るうちに! が、最近のモットーです。

私も面白い小説やアニメをどんどん読んだり観たりしていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします♪
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