半透明記録

もやもや日記

『ナンセンスの機械』

2009年07月09日 | 読書日記ー実用

↑【ゆで卵をつくる時の自動時間計測機】


ブルーノ・ムナーリ 窪田富男訳(筑摩書房)



《内容》
イタリアの多才な芸術家ブルーノ・ムナーリによる、《学生時代、友人たちを笑わせようと思って、ただそれだけの理由で、描いたものである》愉快な機械の数々。


《この一文》
“赤海から雨をたっぷり含んだ雲をいくつか連れてきたまえ。赤海から雲を連れてくることが困難な場合は、臨時措置として、わが国の雲、とくにロンバルディア平原かヴェスヴィオ山の雲を利用してもよいはずだと思っている読者のいることも、ぼくはちゃんと承知している。どちらにしても、この機械が動くことはたしかだ。
  ――【雨を利用してシャックリを音楽的にする機械】より ”




先日、ちょっとした偶然から、私はブルーノ・ムナーリという人のことを知りました。最初は、火のついたロウソクの側に置かれた檻に、耳を澄ました猫が入っているというユーモラスな絵に惹かれたのですが、どうやらこの人はとても面白い人らしい。

この『ナンセンスの機械』には、13個の愉快な機械について、文章とイラスト両方で読者を楽しませてくれます。そのどれもが軽快なユーモアに溢れた、鮮やかで心浮き立つような、思わずにやりとしてしまうような仕掛けの、楽しいものばかりです。『ピタゴラスイッチ』のピタゴラ装置にもっと動物的要素を加えたというか、レーモン・ルーセルの『ロクス・ソルス』に登場する奇妙な発明品に、可愛らしいイラストを付けたというか(と言うものの実は私は『ロクス・ソルス』はまだ途中までしか読んでませんが)、何と言うかそういう感じです。


全ての機械は、まず番号付きでその機械の各部分についての説明があり、装置全体の図解イラスト、最後に「ノート」として部品のいくつかに関する詳細な補足説明など、という形式で掲載されています。これが面白い。

たとえば、【ゆで卵をつくる時の自動時間計測機】で重要な役割を果たすカタツムリのマリア・ルメーガ女史は、元新聞記者で、そのころに女史がいかに工夫を重ねて新聞を売ろうとし、しかもそれらのすべてが徒労に終わってしまったことを嘆いたりもしている悲しみのカタツムリであるということが延々と説明されていますが、そういうどうでもいい設定が面白いですね。

他には【目覚時計をおとなしくさせる機械】、【疲れた亀のためにトカゲを使ったモーター】、【怠けものの犬の尾をふらせる機械】など、いったい何のために必要なのか理解不能な機械が目白押しです。しかし、それらをじっくりと眺めていると、機械としては確かに機能することが分かりますし、何か生活というものが突然楽しく美しいものであったことに気づかされないこともないような気もしてきます。

人は発明ということをわりと好むものだし、そういうものを目にすると、どういう仕組みになっているのかついつい気になってしまうものです。しかもそれには必ずしも「もっと便利に、もっと速く!」という目的があるばかりではなく、「もっと楽しく、もっと美しく!」という方向性があったって、別に構わないんじゃないだろうかと思えてきました。うーむ。これは盲点でしたね。

というわけで、ものごとを別の見方で見てみたい、ものごとを出来るだけ面白いものとして考えてみたいときには、これはうってつけの一冊ではないでしょうか。





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