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『怪奇小説傑作集4 フランス編』

2006年11月06日 | 読書日記ーフランス
G・アポリネール他 青柳瑞穂・澁澤龍彦訳(東京創元社)

《収録作品》
ロドリゴあるいは呪縛の塔(マルキ・ド・サド)/ギスモンド城の幽霊(シャルル・ノディエ)
シャルル十一世の幻覚(プロスペル・メリメ)/緑色の怪物(ジェラール・ド・ネルヴァル)
解剖学者ドン・ベサリウス(ペトリュス・ボレル)/草叢のダイアモンド(グザヴィエ・フォルヌレ)
死女の恋(テオフィル・ゴーチェ)/罪のなかの幸福(バルベエ・ドルヴィリ)
フルートとハープ(アルフォンス・カル)/勇み肌の男(エルネスト・エロ)
恋愛の科学(シャルル・クロス)/手(ギー・ド・モーパッサン)
奇妙な死(アルフォンス・アレ)/仮面の孔(ジャン・ロラン)
フォントフレード館の秘密(アンリ・ド・レニエ)/列車〇八一(マルセル・シュオッブ)
幽霊船(クロード.ファレール)/オノレ・シュブラックの消滅(ギョーム・アポリネール)
ミスタア虞(ゆう)(ポール・モーラン)/自転車の怪(アンリ・トロワイヤ)
最初の舞踏会(レオノラ・カリントン)


《この一文》
”「ただ事実があるのだ。そしてその事実が、あなたと同様このわしを驚かすのだ。いつまでもつづく幸福という現象、ふくれあがるばかりで決して割れないシャボン玉! 幸福がつづくというだけでも、すでにそれは一つの驚異なのだ。いわんやこの幸福が罪の中の幸福であるというにいたっては、あいた口がふさがらない。」
 ---「罪のなかの幸福」(バルベエ・ドルヴィリ)より       ”



21編もの短編小説が収められているので、全部読むまでにはちょっと時間がかかってしまいました。しかし、どれもとても面白い物語ばかりでした。

サドの「ロドリゴあるいは呪縛の塔」は、予想と違って面白かったです。サドに関しては、かつて『悪徳の栄え』を途中まで読んで、なんとも言えない気持ちになり、それ以上は読まなくていいやと投げ出した経験があります。なので、期待はしていなかったのですが意外にもすごく面白かったです。

ノディエの「ギスモンド城の幽霊」は、登場人物のひとり神秘主義者で激しやすい性格のセルジイには共感しました。もうひとりのブートレも、「ともかくヴォルテールとピロンの言葉を思い出してみたまえ!」と言っては、ありとあらゆることにかたを付けるあたりの性格が素敵。
物語の展開も良い感じです。登場人物たちはギスモンド城で幽霊に遭遇するのですが、その場面がとても幻想的で、しかもちょっとおかしいような。ノディエってこんなんだったっけ?と、昔読んだ『ノディエ幻想短編集』(岩波文庫)の内容をきれいさっぱり忘れてしまっていることに気が付きました。ちらっと読み返すと、「ベアトリックス尼伝説」が猛烈に面白かったことを思い出しました。これって、この人の作品だったのか。なるほど。

ゴーチェの「死女の恋」は超傑作。何度読んでも面白いです。私はこの本のほかにも岩波文庫と教養文庫から出ていた同じ物語が収められた短編集を持っています。とにかく華麗でドラマティック。死女であるクラリモンドがむちゃくちゃ魅力的なのです。

バルベエ・ドリヴィリという人は、ここではじめて知りましたが、この「罪のなかの幸福」という物語はとても面白かったです。幸福を求めて罪をおかした男女のロマンスが主題なのですが、それを当事者ではなく、かれらの家庭に出入りしていた町医者によって語られるところがいいです。男女の恋はとてつもなく盛り上がっているらしいのですが、それがちょっとひねくれた医者の老人によって観察・分析されるという、その距離感がいいです。

「奇妙な死」のアルフォンス・アレは、この感じはすごく好きだなー、しかも他の作品をどこかで読んだような気がするなーと思ったら、『フランス短篇傑作選』(岩波文庫)収録の「親切な恋人」でした。あー! そうだ! 私の大好きな話だ! いずれも、ロマンチックでとぼけたようなオチが魅力的です。いいなあ。

シュオッブの「列車〇八一」は、いままで読んだこの人の作品とはちょっと違った趣でしたが、この人は創作範囲が非常に広いらしいので、こういうのもあるのかーといった感じです。不気味ではらはらしました。(そういえば、この本は「怪奇小説」なんだっけ)

クロード・ファレールの「幽霊船」は、まったく同じ話をつい最近に読んだはずと思い、調べてみると『詩人のナプキン』(ちくま文庫)収録の「颶風」と同じでした。あー、そうだった。このちくま文庫に収録された同じ人の「萎れた手」というのが最高に素敵だったんだよなー、思い出しました。「幽霊船」は、個人的には、まあまあというところでしょうか。

他の作品も、なかなか味わいがあって良いものばかりでした。やはりフランス小説は良い。おすすめの一冊です。