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2015夏 ドイツ/クロアチア/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紀行 17:ドイツ博物館のカールツァイス

2015-10-24 | 旅行記:2015 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
Photo:Zeiss Planetariumドイツ博物館


16:ノイエ・ピナコテークと夕暮れの駅からの続き

2015年8月13日


ミュンヘンで宿泊した中央駅裏のホテルの部屋からは、青いトラム(路面電車)がBayer通りを走っているのが見える。

今朝はホテルの目の前にある停留所からトラムに乗って出かけよう。
中央駅前でトラムを乗り継いで、向かった先は…


ドイツ博物館

言わずと知れた世界最高峰の博物館として名高いドイツ博物館、ここを訪れるのはこれで2回めだ。
前回来たのは3年前のゴールデンウィーク休暇の時だった(→HAYABUSA - Zuruck zur Erde ~ドイツ宇宙紀行 2012初夏~ その12:ミュンヘン、ドイツ博物館





“世界最大のおもちゃ箱” とも称されることがあるドイツ博物館。
この世のありとあらゆる事柄がつめ込まれた空間といった趣なので、本当におもちゃ箱に迷い込んだような気分になってしまう知的迷宮なのである。




カメラ好きには堪らないであろう、カメラとレンズの森をくぐり抜け…




ロケットボーイ達の飽くなき宇宙開発競争の歴史を垣間見たら…




目の前に出現するのは、宇宙を知ろうとした人類の挑戦と冒険の記録、天文学の展示室。

その片隅にひっそりと佇む、奇妙な機械がある。






ウニか栗のいがのような無数の突起に覆われた、無骨な機械の塊。
決して美しいとは言い難いが、何とも不思議なオーラをまとったような存在感のあるこの物体こそ、人類史上初めての光学式プラネタリウム投影機。

1923年に地元ドイツのカールツァイス社によって製作されたツァイス・プラネタリウム投影機モデル1、ツァイス1型である。





…“プラネタリウム”という名のつく機械の歴史は古く、1781年にオランダ北部フリースラント州にあるFraneker(フラネケル)という小さな町に住む羊毛加工業者にしてアマチュア天文学者のアイゼ・アイジンガーが、自宅リビングの天井にたった一人で作り上げた機械式のリアルタイム惑星運行表示装置がその起源である。
(この「アイジンガー・プラネタリウム」を僕は今年の初夏に念願叶って初めて見に行くことが出来た。→2015初夏 オランダ・チェコ紀行 2:Franeker 世界で最初のプラネタリウム“アイジンガー・プラネタリウム”

「アイジンガー・プラネタリウム」は歯車じかけで動く太陽系の惑星運行シミュレーターだが、夜空に光る星々を人工的に暗闇に再現する光学式投影機としてのプラネタリウムの元祖はこのツァイス1型だ。

アイジンガーのプラネタリウムが彼の自室の天井で惑星の運行を開始してから一世紀以上を経た1923年10月、カールツァイス社からドイツ博物館に納入されたツァイス1型が一般公開を開始、人々は昼間に人工の星空を見る事が出来るようになった。

ここドイツ博物館は、光学式プラネタリウム投影機が初めて人類の前に出現した記念すべき場所であり、プラネタリウムの聖地なのだ。

そんなドイツ博物館には、もちろん今でもプラネタリウムがあり来館者の人気を集めている。
僕も入館と同時に館内のレセプションコーナーでプラネタリウム鑑賞券を買い、初めての聖地でのプラネタリウムを楽しもうと思う。
…実は前回ドイツ博物館に来た時は確かプラネタリウムが改修工事中で観ることが出来ず、プラネタリウムファン憧れの聖地ドイツ博物館のプラネはまだ見たことが無かったのだ。

現在のカールツァイス社の公式サイトにはドイツ博物館のツァイス1型について紹介したページがあり、それによると投影開始当初はドイツ博物館には10メートル(33フィート)の小ぶりなドームが造られ、その中でツァイス1型の投影が行われたらしいが、ドームはその後拡張されて現在は15メートル(49フィート)の中規模サイズのものになっている。
ドイツ博物館の本館建屋正面玄関の上にそびえる塔の最上部に鎮座する巨大な筒状の構造物が、そのプラネタリウムドームである。


迷路のように入り組んだドイツ博物館の館内をさ迷うようにして、どうにか本館最上階のプラネタリウムドーム室の入り口に到着。
正午の上映開始までまだ1時間半もあるので閑散としている。ゲートは施錠されていて係員もいないのでドーム内にはまだ入れない。
一刻も早く聖地でプラネタリウムを観たいと思ったが、やはりいくら何でも気が早すぎたようだ(笑)

仕方がないので、ドーム周辺の屋上バルコニーから博物館周辺の風景を眺める。


ドイツ博物館はミュンヘン市内を流れるドナウの支流イーザル川の中洲に建っている。
本館最上階からは真夏の青空のもとに緑豊かなイーザル川とミュンヘンの街並みを一望することが出来て、なかなか気持ちが良い。




ドイツ博物館本館の時計塔も見える。
…よく見るとBarometer(気圧計)とHygrometer(湿度計)がそれぞれの面に備えられていることが分かる。

やがて上映開始時刻が近づくとプラネタリウムドーム室入り口付近には人々が集まり始め、エントランスが人であふれた頃にようやくゲートが開いて入場開始。
さぁ、いよいよ念願のプラネタリウムの聖地へ…!!


これが、世界で初めての光学式プラネタリウム投影機がデビューを飾ったドイツ博物館のプラネタリウムドームの内部だ。
つい最近、大規模なドームの改修と機材の更新入れ替えが行われたばかりとのことで、15メートルの中規模サイズのドーム内はとても近代的な雰囲気。
座席も以前より定員を減らして、その分ゆったりとしたものに交換したらしくて座り心地も抜群なので、これは投影中に居眠りに気を付けなければならない厄介なタイプのプラネタリウムだ(笑)


コンソールも今どきのプラネタリウムらしい、デジタル制御のモニタが並ぶ。


こちらも今どきらしい、デジタル投影のフルドームシステムもカールツァイス製。
ツァイス・パワードームVELVETが備わる。


そしてこれが、現在のドイツ博物館プラネタリウムの御本尊、カールツァイスSKYMASTER ZKP4
…なんと、僕の地元九州にある宗像ユリックスのプラネタリウムで使用されている投影機と同じモデルだった。
(→宗像ユリックスプラネタリウムでカール・ツァイスを見てきました

光学式プラネタリウム投影機の元祖であるカールツァイスの投影機がデビューした場所であるドイツ博物館のプラネタリウムでは、初代のツァイス1型以降何度か機材の更新・モデルチェンジが行われたが、その都度必ず同じカールツァイス社製の投影機が使用され続けてきた。

1960年にドーム径が10メートルから15メートルに拡大された際に初代ツァイス1型に代わって投入されたのはツァイスIV型(日本の渋谷・五島プラネタリウムや名古屋市科学館の旧プラネタリウムで使用されていたものと同じモデル)であり、その後1988年にツァイス1015型に置き換えられた後、現在のZKP4に至るまでカールツァイス社の歴代の名機たちがこの「プラネタリウムの聖地」に君臨し続けてきたのである。

そして始まった、聖地でのプラネタリウム投影。
…カールツァイスの投影機に特有のあたたか味のある優しい星空が、真夏の光り輝くミュンヘンの青空のもとにあるドーム内の暗闇に広がる。
それは、旧ユーゴスラビア時代からザグレブの街にも、そして4年前からは僕の故郷九州にもある人工の星空。
世界中の人々を魅了してやまない、ここドイツ博物館で生まれた奇跡の星空…

投影終了後、御本尊のZKP4を間近からじっくりと眺める。


脚部に輝くSKYMASTERのロゴが頼もしい。



ZKP4はカールツァイス社製プラネタリウム投影機の現行モデルの中では最も小型で、ドイツ博物館プラネタリウムの15メートル径ドームはその対応能力ぎりぎりの大きさの筈だが、コンパクトな機体に内蔵された7000本の光ファイバーが生み出す星空の投影は全く無理を感じさせなかった。



さすがは光学式プラネタリウム投影機の元祖・カールツァイス。
ZKP4の小さな機体からも、プラネタリウムの聖地を与る名機の貫禄を感じさせてくれた。

かくして念願叶い、聖地でのプラネタリウム投影を堪能してすっかり満ち足りた気分で、僕はドイツ博物館を後にした。
この世界最高の博物館には今後も幾度となく訪れる機会があるだろう。
その度に、最上階のドーム内に秘められた奇跡の人工の星空は、代替わりを繰り返しながら末永く僕を迎え楽しませ続けてくれると思う。

ありがとう、そしてまた会おう。
プラネタリウムの聖地、ドイツ博物館と歴代のカールツァイスたち。

18:ミュンヘン散歩~アルテ・ピナコテークに続く