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2015夏 ドイツ/クロアチア/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紀行 11:ザグレブ発サラエボ行き397列車の旅 後編

2015-10-04 | 旅行記:2015 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
Photo:日の暮れた終着駅サラエボに到着した397列車



ザグレブ発サラエボ行き397列車の停車駅と走行ルート表



10:ザグレブ発サラエボ行き397列車の旅 前編からの続き

ボスニア・ヘルツェゴヴィナの入国駅Dobrljinでは結局、定刻より25分遅れて12時15分に出発。
無事に手元に戻ったパスポートのページをめくってみると、かすれた薄いインクでボスニア・ヘルツェゴヴィナの入国スタンプが捺されていた。

397列車はDobrljinを出ると、後はもう停車駅に着く度に列車の遅れが拡大していくような有様。
今さら先を急ぐ気など全く無い、なぁにどうにかなるさ、今日中にはサラエボに着くだろうさ、と言わんばかりの、のんびりとしたローカル線国際列車の旅が続く。




ボスニア・ヘルツェゴヴィナ領内に入ると、駅名がロシア語などに用いられるキリル文字による表記に変わった。

一言で「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ」と呼んでいるが、実際にはボスニア・ヘルツェゴヴィナは2つの共和国で構成された連邦国家である。
その2つの共和国のうちセルビア人が主体となっているのがスルプスカ共和国で、言語もセルビア語でキリル文字が用いられる。
サラエボ行き397列車が国境を越えてボスニア・ヘルツェゴヴィナ領内に入ったDobrljinの一帯はスルプスカ共和国の領内であり、車窓にもキリル文字の表記が見られるようになる。

ところが一つ困ったことには駅にはセルビア語のキリル文字の駅名表示しか無く、そして僕はキリル文字が全く読めないので、今どこの何という駅に着いたのか、列車は今どこを走っているのかがさっぱり分からなくなってしまった。
手許に用意しておいた、インターネット経由で手に入れた397列車の停車駅時刻表と見比べようにも、既にかなりダイヤに遅れが生じている上に時刻表に記載されていない駅にも頻繁に停車しているようで、もう何がなんだかわからない有様。

…まぁいい、あくせく状況を調べるのは諦めて気ままに行こう!
「なぁに、どうにかなるさ」、多分これがボスニア・ヘルツェゴヴィナの流儀なんだろうから。



397列車はスルプスカ共和国のどこかの名も知らぬ小さな駅に停車しながら、相変わらずのんびりと走っていく。


駅構内に、腕木信号機を発見!
信号灯のレンズも割れていないし、まだ現役で使われているものなのだろうか?


停車駅ごとに、それなりの数の乗客の乗り降りがある。
1日に1往復だけの国際列車も、ローカル線の地元の人達の足として活躍しているようだ。


駅前広場に静態保存されているSLを発見。

ずっとコンパートメントの客室にこもって座っているのにも飽きてきたので、397列車の編成を歩き回って車内の散歩をしてみよう。


編成最後尾まで行って、デッキのドア窓から走り去る線路を眺める。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナでは基本的に山林か田園地帯の風景が延々と続く。

一方こちらは編成の最先頭。397列車を牽引する電気機関車の顔が間近に見られる。



ヨーロッパの鉄道で広く使用されているリンク式(ネジ式)連結器の構造も手に取るように見えるので、鉄道ファンなら見ていて飽きない。

デッキの出入り口ドア扉にはこの列車のサボ(行き先表示)が張り出されている。
同じ編成がザグレブとサラエボの間を行ったり来たりして運用されているようで、往復分の両方の列車番号と停車駅が上下互い違いに表示されていた。毎日、終着駅に着いたら上下を逆に入れ替えるのだろう。



こちらのドアには、サボの印刷が間に合わなかったのか、コピー用紙に列車番号と駅名を適当にプリント出力したものが無造作に差し込まれていた。
この大雑把さが、いかにもバルカン半島(笑)

ボスニア・ヘルツェゴヴィナに入ると停車駅ごとに乗客の乗り降りが頻繁になり、車内が混み合ったかと思うと一斉に下車してがら空きになったり。
空いているコンパートメントも目立つようになってきた。


397列車で使用されている、2等車の切符で乗れる1等個室コンパートメント客車の室内。
古びてはいるが、さすがは1等車。かなりゆったりとしていて乗り心地は良い。おそらくドイツあたりで優等列車に使用されていた客車の中古車を譲り受けて使用しているのだろう。

ただし、さすがに古さのせいか、時々窓が開かなくなっているハズレの部屋もあって、運悪くそういう部屋に座ってしまうと真夏の陽射しが降り注ぐ下ではかなりつらいかも(もちろん冷房などは付いていない!)。






窓を開けて外を見ると、山あいに小さな町並みが広がるボスニア・ヘルツェゴヴィナの美しい風景。
ここは山が多い国で、どこか日本の山里の風景に似ている気がするので心が安らぐ。


だが町並みをよく見ると、丘陵の一面が墓地になっていることが多い事に気が付く。
…紛争の犠牲者が埋葬されているのだろうか。のどかな山村の風景にも、胸が痛む歴史の記憶が残されていた。




ボスニア・ヘルツェゴヴィナの野を越え山越え、畑と川を越えて汽車は往く。


窓から外を見ていると、地元の人との思わぬ出会いがあったり。




そして時々、思い出したように小さな駅に停まる。


ようやく、駅名表示がキリル文字とアルファベットの併記になってきた。ここはStanariという駅であることが分かるのが何気に嬉しい。
…でもStanari駅も397列車の停車駅時刻表には記載されていないんだよなぁ。
もうそろそろ、スルプスカ共和国と共にボスニア・ヘルツェゴヴィナを構成する共和国であるボスニア・ヘルツェゴヴィナ連邦の領内に入る。





ところが、スルプスカ共和国からボスニア・ヘルツェゴヴィナ連邦に入ってしばらく走った後で停車した駅で列車が動かなくなってしまった。
どうやら列車の車輌に何か技術的な問題が発生したらしく、鉄道の技術スタッフと見られる人たちが駆けつけて車体の床下を覗き込んで何やら検査しているが、いつまで経っても列車が発車する気配がなく埒が明かない。


発車を待ちくたびれた乗客たちは、列車から降りて散歩を始めた。
まぁ、こういう運行トラブルはヨーロッパの田舎ではよくあること。焦っても始まらない、のんびり列車の出発を待つ。
「なぁに、どうにかなるさ」!


停車したまま動かない列車を、興味深そうに見に来た近所の子供。
もうそろそろ日が暮れるから、キミも家に帰ったほうがいいよ~


結局、1時間近く停車していたが何とか修理が完了したらしく、397列車はおっかなびっくりといった感じで再び走り始めた。
さぁ、終着駅サラエボまであと一っ走り…


午後7時半過ぎ、ザグレブ発サラエボ行き397列車は定刻より1時間半ほど遅れてサラエボ駅に到着した。
ザグレブから約10時間半の長い長い列車の旅だった。





すっかり日が暮れて暗くなった空の下に突如、きらびやかな都市サラエボの夜景が現れ、周囲の山並みにモスクからのアザーン(礼拝の時間を告げる呼び掛け)がこだまする。
サラエボにはムスリム人(ボシュニャク人)の市民が多いことが窺い知れる、エキゾチックな旅の一日の終わりとなった。

12:束の間のサラエボ~戦争の記憶に続く

2015夏 ドイツ/クロアチア/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紀行 10:ザグレブ発サラエボ行き397列車の旅 前編

2015-10-04 | 旅行記:2015 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
Photo:朝のザグレブ中央駅で発車を待つサラエボ行き397列車


9:ザグレブ散歩~トラムに乗って現代美術館へからの続き

2015年8月10日

朝9時、駅前のビジネスホテルをチェックアウト。
今日は丸一日列車移動のハードな日程となるので、ホテルの朝食ビュッフェをたっぷり食べて腹ごしらえを済ませた。
気合を入れて、ザグレブ中央駅に向かう。




ザグレブ中央駅のコンコース列車発着案内板に表示された、9:18発の列車にこれから乗車する。列車種別はBrziとあるが、これは特急や急行より格下の「快速列車」というような位置付けらしい。
SISAK・DOBOJ経由のSARAJEVO(サラエボ)行き…
そう、クロアチアの首都ザグレブとボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都サラエボを結ぶ国際列車だ。

現在、ザグレブとサラエボを直通運転する列車は1日に1往復のみ。この9:18発サラエボ行き快速列車は“唯一の隣国の首都行き国際列車”ということになる。


これが、そのサラエボ行き「国際快速列車」、特に列車名や愛称は付いておらず単に列車番号で397列車と称している。
昨日の朝にミュンヘンから国際寝台列車LISINSKI号でザグレブ中央駅に到着した時にも見たが、今朝も昨日と同様に電気機関車が牽引する古びた客車の3輌編成で発車を待っていた。

乗車券は既に昨日の朝にザグレブ―サラエボの往復切符を購入してあるので、そのまま397列車に乗り込む。

昨日、切符を買う時にザグレブ中央駅の窓口の中年女性職員氏は「サラエボ行きの列車は2等車だけみたいよ。」などと言っていたが、実際には3輌の客車のうち真ん中の1輌が1等と2等の合造車でその両隣りはどちらも1等車だった。だが、別に座席指定されている訳でもないし、他の乗客も等級の違いを気にしている様子もないので「これはおそらく、古い1等車を格下げして2等車扱いで運用しているのだろう」と判断して、適当に空いていた1等の客席に腰を下ろす。客室は全て6人個室のコンパートメントだった。

午前9時18分、397列車は定刻通りにザグレブ中央駅を発車、一路サラエボを目指し走り始める。



ザグレブ中央駅を出た直後は市街地を慎重にゆっくりと通り抜けるように走っていたが、やがてサヴァ川の鉄橋を渡ると周囲の風景がひらけて田園地帯となり、397列車も一気に加速してかなりの高速走行で駆け抜けていく。



列車が本腰入れて走り始めるのと同時に、車掌氏が巡回してきて車内検札が行われた。

さて僕は1等車のコンパートメントに座っているのに持っているのは2等の切符で、しかも難解なクロアチア語で手書きされているので何と書かれてあるのか全く解らないという状況なので、「あっ、なんだかこれって宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニが車掌に検札を受けるシーンみたいだ」などと思いつつ、ちょっと緊張しながら昨日買った切符を手渡すと、車掌氏は別に「これは三次空間の方からお持ちになったのですか?」などとは言い出さずに何やら切符の台紙の裏にチェック印を記入しただけで返してくれた。

どうやら僕の予想通り、この列車では2等の切符でも1等車のコンパートメントに乗って構わないようだ。


397列車は十数分おきにザグレブ郊外の小さな駅にこまめに停車しながら走っていく。
国際列車とはいえ、ザグレブ都市圏の近郊輸送も担うダイヤとなっている。





のどかで美しいクロアチアの田園風景を眺めながら快調に飛ばしてザグレブから約40分、午前10時にSISAKに到着。


SISAKはかつては大規模な機関区がある鉄道の要衝だったようで、駅構内には立派な扇形庫を備えた転車台が残り、雨ざらしだがSLも静態保存されている。

SISAKからさらに走ること約1時間、午前11時にVolinjaに到着。



ここがクロアチア領内での最後の停車駅となり、車内に出国審査官が乗り込んできて乗客のパスポートのチェックが行われ、出国のスタンプが捺された。

Volinja駅では乗客の出国手続きが行われるのと同時に、397列車の越境準備も行われる。
ザグレブからここまで397列車を牽引してきたクロアチア鉄道の電気機関車が切り離されて、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ鉄道の機関車に付け替えられた。



真っ赤で派手なクロアチアの電気機関車から、くすんだ朱色のボスニア・ヘルツェゴヴィナの電気機関車に交換したが、見たところ機関車の形状が全く同じなのでどうやら同型式同士での機関車交換のようだ。

これが日本のJRのブルートレインなら、鉄道会社の管轄が変わっても運転士が交代するだけで、同じ機関車が直通で乗り入れて牽引ということになるのだが…
国が変わるとなるとそういう訳にもいかないらしい。
だが、ここVolinjaでも国境など関係無かったかつてのユーゴスラビア連邦時代は、機関車が交換されずに直通で運行を行っていたのだろうか?
…などと、ふと思う。

30分足らずで乗客の出国審査と機関車交換を終えて、国境の駅Volinjaを出発。

やがて397列車は、おそらくクロアチアとボスニア・ヘルツェゴヴィナの国境となっていると思われる川を鉄橋で渡る。



ボスニア・ヘルツェゴヴィナの国境地帯には、現在でも内戦時に埋められた地雷が処理されること無く大量に残されていると聞く。
一見のどかで風光明媚なこの風景の中にも、恐ろしい戦争の遺物が今も隠れているかも知れないと思うと背筋が寒くなる…


戦争の記憶に少し緊張もしたが、397列車はどうやら何事も無くボスニア・ヘルツェゴヴィナ国内に入ったようだ。
車窓には山すそに、とうもろこし畑が続いている。どことなく日本の農村を走るローカル線に似た雰囲気の車窓が広がる。











さてザグレブを出てからここまでほぼ定刻のダイヤ通りに走ってきた397列車だが、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの国境地帯で急に走りが鈍り始めた。
Volinja国境駅を出ると10分足らずでボスニア・ヘルツェゴヴィナ側の入国駅に到着する筈なのだが、なかなか駅にたどり着かない…



結局、定刻より10分程度遅れて11時40分頃にボスニア・ヘルツェゴヴィナ領内での最初の停車駅Dobrljinに到着。



Dobrljin駅ではボスニア・ヘルツェゴヴィナの入国審査が行われる。
入国審査官が車内に乗り込んでくるがパスポートチェックは車内では行われず、乗客のパスポートをすべて回収すると列車を降りて、駅にある国境事務所に持って行ってしまった。

パスポートが手元に戻ってくるまで、何もすることがない。真昼の田舎の駅で、静かでのんびりとした時間が過ぎていく…
そんなことを言っているうちに、とっくに発車時刻を過ぎてしまった。
これが『ボスニア・ヘルツェゴヴィナ時間』って奴か。同じ旧ユーゴスラビア同士でも、時間にきっちりしていたクロアチアとは随分勝手が違うな…

まぁ焦っても仕方がない。それに、郷に入れば郷に従えだ。これがボスニア・ヘルツェゴヴィナの流儀だろうし、こういう呑気な旅も悪くない。
そのうちパスポートも戻るだろうし、列車も再び走り始めるだろう…


ザグレブ発サラエボ行き397列車の停車駅と走行ルート表

11:ザグレブ発サラエボ行き397列車の旅 後編に続く