東京湾臨海署安積班シリーズ最新作が発売されていたので、早速買っておいて、日曜日なのをいいことにすでに松岡圭祐の『ノン=クオリアの終焉』を一気読みしたにもかかわらずこの本も一気読みしてしまいました。
松岡圭祐と傾向はだいぶ違い、今野敏の警察小説では誰も飛び抜けた超人的な働きをせず、それぞれの個性を生かしてそれぞれの働きをすることで事件が解決に導かれていくという過程のドラマなんですね。
東京湾臨海署の強行犯第一係長である安積は正義感が強く、人情に厚く、部下を信頼し大切にする一方で、上司に対してもはっきりと意見を述べる、いい刑事さんキャラです。自信満々のように見られる一方で、本人は謙虚で、部下の扱いに気を使って割とうじうじ悩んでたり、上意下達の警察組織の中でありがちな人間関係の葛藤を抱えつつ、なるべく衝突の少ない方法で捜査を進め(させ)、不要な忖度をせず、ただ愚直に事実を探求していくので、アクションは少なく地味です。
この巻での事件は、グラビアアイドル彩香が江東マリーナで絞殺されたことです。近くのプレジャーボートで被害者のものと思われるサンダルが見つかったため、その持ち主である芸能界の実力者がかねてからこのアイドルと愛人関係にあるという噂のため容疑者候補に挙がりますが、果たして真実はどうなのか。芸能界は暴力団と切っても切れない関係にあり、この芸能界のドンとされる柳井武春自身も暴力団員上がりで、現在でもその筋で顔が効くと噂され恐れられているが、その真相はどうなのか。殺されたアイドルとの本当の関係はなんなのか。
シリーズものなので、安積班のメンバーばかりでなく警察組織内の因縁のある人物も割と何度も登場します。同じ署内の安積をやたらとライバル視する強行犯第二係長・相楽は今回は安積に対して比較的協力的な態度でしたが、本庁の捜査一課からは佐治基彦係長が率いる殺人犯捜査第五係が参加し、かつての部下の相楽には信頼を寄せ、安積には事あるごとに意見・行動に口をはさみいちゃもんをつけるブレないいやな奴キャラでいい味を出しています。
池谷管理官や田端捜査一課長というお馴染みの顔ぶれの他、『晩夏』で交機隊の速水に徹底的に警察官としての基本姿勢を叩き直されたはずの矢口刑事まで登場します。多少の礼儀はわきまえるようになったようですが、まだかなり反抗的・生意気な若造ぶりで…
興味深いと思ったのは、「働き方改革」の警察官への影響が描かれていたことですね。捜査本部が立ち上がればそこに吸い上げられた警官は基本的に泊まり込み、捜査が佳境に入れば不眠不休も常識という労働形態と労働時間にこだわり、それを減らそうとする働き方改革は根本的に相容れないので、それを現場ではどう折り合いをつけていくのかという細かい現実問題が書き込まれていたのがリアルで、なるほどなと考えさせられました。犯罪や事件は警察官の労働時間などお構いなくいつでも起こるので仕方がない面もあり、人員を増やそうにも予算の関係プラス全般的な人手不足で人が集まらない辺りが悩ましいところでしょうね。
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