徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:本田勝一著、『<新版>日本語の作文技術』(朝日文庫)

2021年08月06日 | 書評ー言語


5月に翻訳者向けの「日本語ブラッシュアップセミナー ~構文力強化編 」というオンラインセミナーを受講した際に、参考文献として本田勝一の『日本語の作文技術』を勧められました。それ以降、娯楽ではなく腰を据えて読書をする時間がなかなか取れずに3か月近く経ってしまいましたが、ついにこの本を読破することができました。

感想を一言で表すとすれば、「目から鱗が落ちる」。これに尽きます。

これまで専門であるドイツ語に関しては構造的な問題などかなり詳細に分析・研究することはあっても、母語である日本語にはそのような分析的な目を向けたことがありませんでした。文章の章立てや論理性に気を使うことはあっても、1つ1つの文について細かく検討することはなかったのです。そこに落とし穴があったのですね。

「翻訳調」と言われる文体(もどき)があります。これは一目で何か別の言語からの翻訳だと分かるような文体のことです。たとえば「Aおよび/またはB」といったフレーズを見かけたことはないでしょうか?
私は翻訳校正も手掛けているので、よくこのようなフレーズを目にします。これは英語の「A and/or B」またはドイツ語の「A und/oder B」に対応するものですが、それを知らない日本人が翻訳された日本語の成果物のみを読んだら「何だこれは?」としか思わないのではないでしょうか。日本語にはこんな接続詞の用法がないのです。
以前、英日翻訳講座のコースを受講していた時に、先生にこの頻出フレーズを日本語でどう処理したらよいのか相談したことがありますが、おおむね「AおよびB、またはそのいずれか一方」という感じに訳せばよいのではないかという回答をいただきました。それ以来ずっとこの処理法を実践しています。

よい翻訳とは何か。それはそれが翻訳であることを見破られない文章です。「翻訳調」であってはならないわけです。だからこそ、翻訳者に求められるのは実はターゲット言語の能力、私の場合はそれが日本語能力なのです。

この本ではこのような翻訳の問題にも触れられています。

日本語を書く上で悩ましいのは句読点の特に読点「、」の使い方です。これを学校で教わることはまずありませんし、どこにも標準化されていません。おそらく意識して使っている人は少ないと思います。意識している人は使いすぎている傾向が強いような気がします。読点の多すぎる文章は読みづらく、見苦しいものです。なぜでしょうか?読点のところで息継ぎのような休止をするからです。休止が多ければ文章の流れが破壊されるから見苦しくなるわけです。読点の多い文はぜーぜーと息切れしているような印象を醸しだします。
また、そうした文には読点を打ってはならないところにも打たれているので、文意を理解する妨げになるのです。

著者曰く、句読点の検討をする前に語順を正すようにすべきだとのことです。つまり、語順が正しければ読点を1つも打つことなく理解しやすい文を作ることが可能だというのです。どうしても必要なところにだけ読点を打つ。それ以外には、何か強調をしたいなどの趣味で打ってもよい。そういう原則です。
まずは語順。それから句読点。
この理由から、この本ではまず日本語の語順にはどういう規則があるのか検討することから始まります。
以下が目次です。
第1章 なぜ作文の「技術」か
第2章 修飾する側とされる側
第3章 修飾の順序
第4章 句読点のうちかた
第5章 漢字とカナの心理
第6章 助詞の使い方
第7章 段落
第8章 無神経な文章
第9章 リズムと文体
あとがき
新版へのあとがき
参考にした本

翻訳文を検討する際には一度声に出して読んでみるといいと言われます。そのことを知って以来ずっとそれを実践していますが、おかしいのは分かってもどう直していいのか分からないことがたまにあって悩ましい思いをしていました。でもこの本を読んで解決の糸口を見つけました。徹底的に語順を変えて行くことで分かりやすくリズム感もよい文章が書けるようになります。
語順を変える際の規則は実はすごくシンプルで、修飾する側の長いものから短いものへ順に並べるだけです。もちろん他にももうちょっとあるのですが、最も簡単な指針としてこれを心がけるだけでずいぶんましな文章が書けるようになると思います。「ましな文章」とは、必要最低限の読点しか使わずにすんなり理解しやすい文章のことです。
今はSNSで猫も杓子も文章を書く時代です。このため内容ばかりでなく文自体が崩壊しているようなひどいものを見かけることも多くなっています。あなたの文はいかがですか?一度じっくり検討してみませんか?この本を読めばきっと「そうだったんだ!」と思うことがたくさんあると思います。


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