goo blog サービス終了のお知らせ 

まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

奇々怪々人間ベラの冒険

2024-03-03 | イギリス、アイルランド映画
 「哀れなるものたち」
 ヴィクトリア朝時代のロンドン。天才的な科学者デクスター博士は、自殺した女性の脳を彼女が身ごもっていた胎児のものと取り換え、赤ん坊の心で蘇生した女性をベラと名付け養育する。幼児から少女へと精神が成長したベラは、屋敷から出られないことに反発と不満を募らせ、弁護士のダンカンの誘惑に乗って彼と共にリスボンへと出奔するが…
 独特すぎる作風が一度ハマるとクセになる、ギリシアの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の新作を、ようやく観に行くことができました(^^♪前作「女王陛下のお気に入り」も強烈でしたが、この最新作はさらにスケールアップ、パワーアップしていて、まさに驚異とインパクトのカオス状態でした。内容も演出も演技も、すべてが文字通りぶっとんでます。まさにクレイジーファンタジー。ポリコレ、コンプラ時代の今、よくこんな映画作れたな~と感嘆あるのみな、下ネタ満載のエログロ映画でした。清く正しい紳士淑女は観ないほうがいいかもしれません。私はこういう映画、大好き!めっちゃくちゃ面白かったです!

 ヒロインの自分探し、成長の物語ってありふれたテーマですが、この映画は前代未聞なほどに斬新で特異。ありえないほどの怪奇な方法で爆誕したベラは、まさにニュータイプのヒロイン。ベラの冒険が、めくるめくような華美さとグロテスクさ、そして大胆不敵な愉快痛快さで描かれています。ベラの固定観念とか常識、モラルにとらわれない自由さ、勇敢さに圧倒され唖然ボー然となりつつ、これこそ女性の理想の生き方なのではと憧れも。恐れ知らずの行動力、実践力で世界を知り自我に目覚めるベラですが、性への探求心の貪欲さにはただもう畏怖、そして爆笑!ダンカンとヤリまくるだけでは満足できず、パリで娼婦になっていろんな男ともヤリまくり、その過程で考察を深めていくベラのトンデモ社会勉強が笑えました。男性優位な社会の矛盾や理不尽さ、女性の自立や自由も、ストレートに大真面目に描くのはもう廃れた手法で、「バービー」やベラみたいな異形のヒロインが非現実的な世界で目覚めて行動する、という描き方がトレンドになってるんですね。

 この映画、何といってもベラ役のエマ・ストーンですよ。いったいどうしちゃったの?!と仰天する怪演、そして脱ぎっぷりヤリっぷり。ハリウッドの今をときめくトップ女優のエマ石が、おっぱいもヘアも丸出しであられもなく下品に卑猥に、そしてあっけらかんと痴態を繰り広げてるんです。すごいわエマ石。彼女ほどの人気女優になったら、フツーは守りに入って無難な仕事しかしなくなるはずなのに。オスカーを受賞した「ラ・ラ・ランド」なんか比ではない女優魂の炸裂ぶり。その攻めまくった演技、あっぱれの一言です。ドギツいコメディ演技なところもまた非凡。日本の同世代女優には絶対不可能な、ウルトラC級の激烈演技でした。ギョロ目と大きな口という漫画顔も、怪奇映画のヒロインにぴったり。今年のアカデミー主演女優賞、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のリリー・グラッドストーンとの一騎打ちみたいですが、リリグラ石の演技が真珠なら、エマ石のは誰も行ったことがない惑星の石、みたいな。

 ダンカン役は、大好きなマーク・ラファロ。彼の珍演もなかなかのものでした。うさん臭いヤリチン色魔役なんて、マークもよく引き受けたな~。でもそんな役でも実力と魅力を発揮し、卓越した俳優であることを証明してるマークです。マークも毛むくじゃらな全裸をさらしてヤリまくってます。ベラを弄ぶつもりが逆に骨抜きにされ、いい男風だったのが身も心もボロボロになっていく姿が滑稽。あのメンタル崩壊っぷり、オスカーの助演男優賞候補も納得の珍妙さでした。笑えるシーンいっぱいあるのですが、特に笑えたのはダンスホールでベラと踊るシーン。変なダンス!女王陛下のお気に入りでも、変ダンスありましたね。

 モンスターな風貌と悲しい父性愛のデクスター博士役、ウィレム・デフォーもオスカー候補になるべきだった名演と存在感。博士が語る、父親に人体実験のモルモットにされた幼少期のエピソードが、非道すぎてホラーでした。豪華客船でベラが仲良くなる老婦人役で、ドイツの名女優ハンナ・シグラが登場して驚きました。博士の屋敷にいるアヒル犬がファニーなヤバさ。

 トンデモな話や演技だけでなく、映像と美術、衣装も独創的で目に楽しいです。ロンドンやリスボン、パリが舞台になってるけど、ほとんど架空の世界のような、妖しい近未来っぽい風景がシュールです。体力気力がある時に、また観たい映画です。それはそうと。脳みそを取り換えるという設定は、楳図かずお先生の名作怪奇漫画「洗礼」を思い出させました。

 ↑ まずありえないけど、続編作ってほしい(笑)


癒しの村

2024-02-23 | イギリス、アイルランド映画
 「ひと月の夏」
 第一次世界大戦で心に深い傷を負ったバーキンは、ヨークシャーのオズゴッドビーで教会の壁画修復の仕事に就く。村人や牧師の妻アリス、村で発掘調査をしているムーンとの交流は、バーキンの心を静かに癒していくが…
 ヘレン・ミレンがカンヌ映画祭女優賞を受賞した佳作「キャル」のパット・オコナー監督作。空前?の英国美青年ブームが起こった80年代後半、「アナザー・カントリー」で人気美青年リスト入りしたコリン・ファースの初主演作。1987年の作品だから、コリン当時27歳!当然ですが、わ、若い!お肌つるつる&すべすべ!韓流アイドルやイケメン俳優と違い、メイクばっちり感がない自然な美白肌は、まさにイギリス美青年。輝くばかりの若さですが、元気溌剌!な若者ではなくて、もう人生の酸いも甘いも嚙み分けたような沈着と憂いは、すでに老成した紳士の風情。27歳でこんなに大人っぽい俳優、日本にはいません。40過ぎてもアイドル芸な自称俳優はいますが。

 すごい気難しそうなところは、現在と変わってませんね。性格が悪いのではなく、すごく内省的で不器用なため誤解されやすい、そして心に傷や闇を抱えているバーキンのような役は、コリンの十八番でしょうか。いかにも苦しんでいる、悲しんでいると周囲や観客に訴えてくるような演技ではなく、寡黙さの中に何げない表情や仕草で心の痛みを伝えてくる演技が秀逸です。悲惨な戦争体験のトラウマで、吃音になってしまったバーキン。コリン、後年オスカーを受賞した「英国王のスピーチ」でも、吃音に悩む役でしたね。

 でもほんと、若い頃のコリンってスマート!無駄な肉が全然なさそうな長身痩躯。ピクニックシーンで寝そべって伸ばしてる足、長っ!今回は元従軍兵士役ですが、コリンもまた上流階級の役が似合うイギリス俳優なので、ビンボー臭さや不潔感なんて微塵もなし。教会の鐘楼に住み込んで、お風呂もほとんど入ってないはずのバーキンだけど、いつも小ぎれいで清潔な紳士に見えるのは、やはりコリンのきちんとした個性のなせるわざでしょうか。バーキンがもし軽薄で卑しげな小汚い男だったら、誰も彼に近づいてこなかったでしょうし。孤高だけど善良、そしてイケメンなバーキンなので、勝手に人が寄ってくる。彼らとの交流もベタベタした人情話にはならず、優しさの中にも礼節や思慮があり、距離感を保つやりとりになっていたのも、いかにもイギリス、そしてコリンって感じでした。

 ムーン役は、これまた若い!ケネス・ブラナーですよ!コリンと同い年だから、彼も当時27歳!これが記念すべき映画デビュー作だって。若かりしコリン&ケネスを拝めるだけでも、一見の価値ありな映画です。ケネスはイケメンではないけど、人懐っこい笑顔が可愛く温かく、見ていて癒されます。ムーンも悲しい戦争体験の持ち主で、死にたくなるような辛さだろうに、明るく振る舞ってるところが返って痛ましかったです。同性愛スキャンダル!で軍を追放、というのがこれまたイギリスらしい。実は同性愛者のムーンですが、全然ゲイゲイしくはないです。でも、時々バーキンに向ける上目遣いとか、ピクニックでのちょこんとした座り方とか、これまた何げない乙女っぽさの出し方が、さすが当時英国演劇界の神童的存在だったケネスです。バーキンとムーンが、BLな関係に発展するのかなと期待しましたが、残念ながらバーキンとムーンの別れも、静かだけど切ない余韻。夏は毎年来るけど、必ず終わる。同じ夏は二度と来ない…

 アリス役は、大女優ヴァネッサ・レッドグレイヴの娘、ナターシャ・リチャードソン。ママそっくりですが、ママよりも柔らかく優しそう。若くして亡くなったのが惜しまれます。これといった事件や劇的な展開、シーンなどはいっさいなく、終始静かに淡々としてる映画なのですが、それがとても心地よくもありました。そしてあらためて思った。イギリスの田舎、最高!主役は人間ではなく、田舎の美しい風景や自然かも。明るく優しい陽射し、静かな森、庭の木々や草花、古い教会、ティータイム、鉄道etc.英国のカントリーライフ、憧れる!住めば私の荒んだ魂も、きっと浄化される。ヨークシャーにも行ってみたくなりました。

 ↑ 二人とも今では貫禄あるシブい大物俳優になってますけど、こんなに可愛い青春真っ盛りな頃も。また共演してほしいですね(^^♪
 

インドの愛人

2024-01-17 | イギリス、アイルランド映画
 「トリシュナ」
 インドの貧しい農村で家族と暮らす美しい娘トリシュナは、イギリス育ちの御曹司ジェイと出会い恋に落ちる。彼の子を身ごもったトリシュナは、両親に連れていかれた病院で堕胎する。それを知ったジェイは…
 ロマン・ポランスキー監督の映画や、エディ・レッドメイン出演のテレビドラマ版など、何度か映像化されてるトマス・ハーディの小説「ダーバヴィル家のテス」を、19世紀末のイギリスから現代のインドへと舞台を置き換えて映画化。トリシュナがテスなのですが、ジェイはテスに関わる男ふたりを合体させたキャラになっているなど、大胆なアレンジがなされています。

 究極のだめんず女といえば、真っ先にテスが思い浮かぶ私です。男たちに翻弄され傷つけられ、挙句は身を滅ぼすヒロインなんて、今の自立した強い女性たちからすると、ただのバカ女にしか見えないかもしれません。私もテスのような人生なんて真っ平ごめんですが、テスのような愚かさって悲しいまでに美しくも思えるんですよね~。生き馬の目を抜くような世の中をサバイバルするため、自分が傷つかないため損しないため、理不尽な男社会に抗い糾弾するため、声高に自己主張や権利を訴える女性たちはカッコいい、憧れるけど、見ていて疲れることも。近年の映画のヒロインたちも、強く賢い女性ばかり。テスのようなヒロインなんて、今のハリウッドのトップ女優たちは絶対やらないでしょうし。女性がみんな強く賢くなったら、きっと世の中も映画もつまんなくなるだろうな、なんて言うと、フェミニストに怒られちゃうでしょうか。

 女性が強くなったとはいえ、今でもテスやトリシュナみたいなだめんず女は後を絶ちません。すごい美女が貧乏で優しく、あまり賢くなく生まれると、悲しい運命をたどるんですね~。トリシュナがあんなに美女じゃなく、気が強く性格が悪くて頭が良ければ、もっと美味しい人生を歩めただろうに。何でそんなことする?!何で言いなりになる?!なトリシュナの言動には、イライラしたり呆れたりするばかりです。その理解できなさが興味深くもある。共感や好感もいいけど、神秘や謎こそ私を惹きつける女の魅力です。衝撃のラスト、ここも原作とはちょっと違います。トリシュナの、男と両親への復讐のような壮絶な最期にも、そんなことするぐらいなら男とも家族とも縁を切って独りで自由に生きればいいのに、なんて思ってしまいましたが…

 ジェイ役は、大好きなリズ・アーメッド私のイケメンレーダーをビビビとさせた「ジェイソン・ボーン」よりさらに前、当時29歳のリズ。カッコカワいい!27歳の役でしたが、もっと若く見えました。大学生役でも通りそう。コテコテのインド人って感じではなく、濃さがほどよくマイルドなところが好き。ロンドン育ちの御曹司役なので、すごくスマートで洗練されてる見た目と演技でした。前半は金持ちで優しくて情熱的な最高の恋人、後半はケツの穴が小さい最低のクズ&ゲス野郎、二つの顔を巧演してるリズです。スウィートなリズも素敵でしたが、イケズなリズもセクシーでチョベリグ(死語)。ジェイみたいに、女の傷や過ちを許せず、価値が下がったかのような扱いをする狭量な男、ほんと気持ち悪い。そんな男とわかったら、さっさと縁を切るのが一番ですが、そう簡単にはいかないのが男女の仲なのでしょうか。そんな恋愛したことないのでわかりません(^^♪

 トリシュナ役は、アカデミー賞受賞作の「スラムドッグ$ミリオネア」で一躍注目されたフリーダ・ピント。美男のリズとはお似合いの美女です。英語とインドの言葉(ヒンディー語?)のバイリンガル演技がお見事。インドの民族衣装姿も美しかったです。クズ野郎のジェイよりも、トリシュナの両親のほうに腹が立ったわ。親父は自分が起こした事故でトリシュナにも怪我させて、自分の治療費と家族の生活のためにトリシュナを売り飛ばすように工場勤めさせるし。ジェイの子を妊娠して戻ってきたトリシュナに冷ややかで、さっさと堕胎させたり。出ていけと追い出すし。インドの貧しい家に生まれなくてよかった!と心底思いました。ムンバイと田舎、金持ちと貧乏人の格差、現代インドの現実の描写も興味深いものでした。マイケル・ウィンターボトム監督の「ジュード」も、トマス・ハーディが原作でしたね。厳しい現実を描きつつ、生々しくなく透明感ある清澄な映像や雰囲気がウィンターボトム監督ならではでした。

↑ インド人って広島市街やK市でもよく見ますが、こんなイケメンにはお目にかかったことないです!ちなみにリズはインドではなくパキスタン系ですね🍛

幸福の王子を探して

2023-11-27 | イギリス、アイルランド映画
 秋の夜長の国際BL映画祭⑤ イギリス
 「さすらいの人 オスカー・ワイルド」
 人気作家としての華やかな暮らしから一転、男色の罪で投獄され、富も名声も失ったオスカー・ワイルドは、パリで孤独な日々を送っていたが…
 オスカー・ワイルドの人生は、彼が書いた小説に負けず劣らずな数奇と波乱に満ちていたようで、映画化にはもってこいな題材です。この作品は、刑務所から出た後にオスカー・ワイルドがたどった、没落と失意の日々を描いています。

 それにしても。当時のイギリス、「モーリス」とかでもそうでしたが、同性愛が犯罪だったなんて、今では考えられない理不尽さ、非道さです。作家としてみんなからチヤホヤされてたのに、同性愛者と知れると手のひら返しの迫害。人権なんかあったもんじゃない仕打ちに戦慄。今でも芸能人や野球選手など、身の処し方を誤った人気者があっという間に転落、袋叩きに遭う怖さは不変ですが、彼らの才能や活躍同様、スキャンダルで堕ちていく姿もまた関係ない一般人にとっては、面白おかしい話題でしかない。ちょっと調子に乗ってる?と感じられる有名人には、あまり驕慢にならず油断せず活動してほしいです。一寸先は闇、その闇も一般人より深いだろうから…

 オスカー・ワイルドの堕ちた没落の闇も、なかなか深くて痛ましかったです。病身だったのもですが、お金に困ってたのがイタかった。元ファンの女性や旧友、元恋人のボジーにまでお金をたかる姿がみじめ、なんだけど、本人はそんなに気にしてなさそうで、もらうのが当たり前、みたいな感じなんですよ。これが凡人との違いなのでしょうか。自己嫌悪とか自己憐憫とは無縁な自信と超然とした態度。たかりなんて卑しいマネできない、と考えてしまうところがもう卑しい凡人な証拠なのかなと、ワイルドを見ていて思いました。多くの人同様に、もっと卑屈ままでにへりくだったり忖度したりして生きてたら、きっと静かで清い晩年を送れたかもしれないけど、そんなつまんない性格や人生じゃないからこそ、歴史に残る作品を生み出せたんでしょうね。出所後は断筆してたのが惜しまれます。

 天才あるあるですが、敵も多いけど味方も多いワイルド。みじめな没落生活や病床の中でも、献身的に支えてくれる人たちがいる。不幸にした奥さんや子どもたちも、離れ離れでも変わらずに愛してくれている。厄介で迷惑なおっさんだけど、一緒にいたら楽しいし、放っておけない危なっかしさもご愛敬で、確かに憎めない魅力的な人物ではありました。才能にも魅力に愛にも恵まれた幸福な人に、私には思えました。

 オスカー・ワイルド役は、80年代に英国美青年ブームを牽引したルパート・エヴェレット。主演と監督を兼任しています。そのキャリアと私生活が、オスカー・ワイルドと何となくカブる部分があるエヴェレット氏、なかなかの入魂の演技と演出でした。見た目はグロテスクな怪人っぽいけど、ふとした瞬間に往年の美麗さが垣間見える、うらぶれても誇り高く知性は研ぎ澄まされている、それでいてどこか浮世離れしていて、皮肉めいたお気楽さがあるエヴェレットasオスカー・ワイルドでした。落剝しても結構楽しそうに遊んでる姿には、ユーモアと不屈さがあってチャーミングでした。語学が堪能なことで知られるエヴェレット氏、フランス語の台詞もまるでネイティヴのように流暢に。
 ワイルドの友人役で、コリン・ファースが出演してます。エヴェレット&ファースって、伝説の「アナザー・カントリー」コンビじゃん!アナカンファンには感涙ものなツーショット。 

 二人が一緒のシーンは、どうしてもアナカンと比較してしまうので、二人ともじいさんになったな~と隔世の念。気難しそうだけど実はとっても善い人な英国紳士、というコリンといえばな役でしたが、出番は少なく友情出演っぽかったです。ワイルドの妻役はエミリー・ワトソン。彼女も少ない出演シーンながら、印象に残る好演でした。
 ワイルドを囲む若い男たちは、みんなイケメン!さすがエヴェレット氏、お目が高いボジー役のコリン・モーガンは、「ベルファスト」にも出てましたね。ベネディクト・カンバーバッチを優しく可愛くした感じの顔?友人(元カレ?)ロビー役のエドウィン・トーマスも、優しく誠実そうな好男子でした。ワイルドがパリで親しくなる花売りの少年ジャン役は、何と!「Summer of 85」前のバンジャマン・ヴォアザン!

 可愛い!当時22歳ぐらいなので、まだ少年って感じ。底辺社会でたくましく生きてる、スレてるけど優しい男の子役で、チョイ役かなと思ったけど結構出番は多く、なかなか美味しい役をもらってました。ちゃんとお金払って彼と援助交際してるところが、さすがワイルドでした。バンジャマンくん、堂々としたすっぽんぽん姿も披露。男たちの全裸シーンは多いけど、性的なシーンは全然ないです。

 ↑ アナカンの頃のルパート&コリン

 ↑ アナカンから34年後

 両手にイケメンでご機嫌なエヴェレット氏


惨劇の降霊会!

2023-10-15 | イギリス、アイルランド映画
 「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」
 終戦直後のヴェネツィア。探偵を辞め隠棲生活を送っていたエルキュール・ポアロは、旧友の作家アリアドニに誘われオペラ歌手ロウィーナの屋敷で催される降霊会に参加する。超常現象を信じないポアロは、ロウィーナの亡娘の霊を呼び出すという霊媒師レイノルズを詐欺師と見なすが…
 ケネス・ブラナ監督・主演の名探偵ポアロシリーズの第3弾。前作の「ナイル殺人事件」から間を置かずしての公開。精力的なブラナ監督です。原作はアガサ・クリスティの「ハロウィーン・パーティー」。クリスティ女史の推理小説は中学生の時にハマって読破したはずなのですが、ハロウィーン・パーティーは読んだはずだけど全然記憶にないこの映画を観てビツクリしました。こんなオカルトホラーな内容だったっけ?!と。ミステリじゃないじゃん!?いわくありげな古い洋館で、この世に恨みや未練を残す亡霊が人間に襲いかかるといった、よくあるパターンのオカルト映画になってたのが、ちょっと期待外れというか残念でもありました。まさにイギリス!なミステリ映画やドラマが好きで、どんなホラーやオカルト映画を観ても失笑するだけの恐怖不感症な私なので…

 ケネス・ブラナ監督の斬新でスタイリッシュな演出やセンスは、「ベルファスト」とかでは素晴らしい!と感嘆したけど、ポアロシリーズでは何だろう?違う違う、そうじゃないby 鈴木雅之、それじゃない感が否めなくて。ブラナ氏はもともとシェイクスピア俳優として名をはせた人だから、ミステリ映画もシェイクスピア風の悲劇的な人間ドラマにしたいのでしょうね。それはそれでユニークだとは思うのですが、アガサ・クリスティのミステリとはちょっと合ってないのではとも。殺人の話なのに優雅で洒脱な楽しさがあるところが、私にとってはアガサ作品の魅力なんです。あと、意外な真犯人と殺人トリックも。この映画、それらがかなり疎かで雑な扱いになってたような。とにかく面妖な雰囲気と恐怖の演出、舞台劇のような容疑者たちの相克に重点が置かれていて、ミステリの部分は二の次三の次っぽかったです。

 ポアロのキャラと容貌が、原作や有名映画・ドラマとかなりかけ離れているところも、このシリーズの特色です。ここの部分が受け入れられない人って多いのではないでしょうか。私もシリーズ第1弾の「オリエント急行殺人事件」を観た時は、かなり戸惑いました。ポアロの人柄や過去を深掘りしすぎてるところも、それ必要?と首を傾げたし。でも今はもう、一般的なイメージのポワロとは別物、ブラナ氏が創造した新型ポアロ、として魅力も感じています。生真面目で内省的なブラナ氏のポアロはイギリス人っぽくて、本来の高慢で気どったオネエおじさんみたいなベルギー人ポアロより好きかも。

 その他のキャストは、豪華ではないけど通好みの顔ぶれ。霊媒師レイノルズ役は、今年「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」でアカデミー主演女優賞を受賞したばかりのミシェル・ヨー。すごい高速でグルグル回る椅子に座ったヨー姐さんのイタコ演技、あれは笑いを狙ってたのでしょうか。無惨な串刺し姿も何か滑稽で、ほとんどイロモノ扱いでした。医者の父子役は、「ベルファスト」から連投出演のジェイミー・ドーナンとジュード・ヒル。同じ父子役でも、ジェイミーは神経衰弱なパパ、ジュードはパパを支え庇う健気で賢い息子、というベルファストとはまったく違う二人の役と演技でした。ポアロの用心棒役はリッカルド・スカマルチョ。最近は英語圏の作品でよくお見掛けしますね。
 ゴンドラや古い建物、街の様子など、水の都ヴェネツィアの風景も趣深かったです。美しいけど、湿気とか水害とか衛生とか考えると、わしヴェネツィアにはよう住まんわ。古めかしくも壮麗な事故物件である、殺人の舞台となる屋敷にも。ハロウィンの亡霊よりも、ハロウィンの梨泰院のほうがはるかに怖いです。それはそうと。どうでもいいけど日本表記、ポアロなのポワロなの?

蜂蜜と鮮血!

2023-07-09 | イギリス、アイルランド映画
 夏のホラー映画祭①
 「プー あくまのくまさん」
 大人になったクリストファー・ロビンは、都会から恋人を連れ少年時代にプーやピグレットたちと幸せな時間を過ごした森へ戻ってくる。しかしプーとピグレットは、血に飢え人間を憎悪する凶獣と化していた…

 ちょっと気になってたトンデモ映画、やっと観ることができました(^^♪こんなん作って大丈夫なの?著作権に関してはディ〇ニーって怖い会社なんでしょ?訴えられないの?と思ったけど、著作権って年月が経つとなくなるみたいですね。なので堂々と製作できたようです。世界中で愛されてる可愛い〇ィズニーキャラが、恐ろしい殺人鬼となってアノ手コノ手で残虐な殺戮を繰り広げる、なんてファンには受け入れがたい冒涜、暴挙かもしれませんが、特に思い入れのない者にとっては、そのユニークな発想に苦笑いです。最近は世界的有名キャラの魔改造が流行ってるみたいで、ハイジやピーターパンもマッド化。ディズ〇ーの看板キャラであるあのネズミも、いつか?

 トンデモなパロディとしては面白いのですが、何もかもが明らかに低予算なチープさです。どう見てもゴムマスクした人間の大男なプーとピグレット。車の運転してたのが笑えた。人里離れた場所に集まった若者たちが一人一人惨殺される、という設定はほとんど13日の金曜日。殺し方もジェイソンみたいでした。ギャルたちをミンチにしたり車で頭部を轢いて潰したり、口から頭部に刃物を貫通させたりetc.ゲロゲロ(死語)すぎる残虐シーンはなかなか手が込んでましたが、私はホラー不感症なので全然怖くなかったです。笑いを狙ってるとしか思えなくて、むしろプっと吹いてしまったわ。

 ギャルたちは躊躇なく容赦なく惨殺しまくるけど、クリストファーは殺さず生け捕りにして拷問してたプー。自分を見捨てたクリストファーを憎みつつも、幸せだった頃の愛情もまだ残ってる、という設定をもうちょっと丁寧に描いてたら、切なく悲しいホラー映画になってたでしょう。B級ホラー映画にそんなん要らん!ホラーのお約束が守れていれば十分!な人なら楽しめる映画です。

海に葬る愛

2023-07-02 | イギリス、アイルランド映画
 「God's Creatures」
 アイルランドの港町で家族と暮らすアイリーンは、数年ぶりに戻ってきた息子ブライアンとの再会を喜ぶ。しかし、アイリーンの職場の同僚サラを暴行した容疑でブライアンは逮捕されてしまう。息子を救うため、アイリーンは警察に彼のアリバイを偽証。それはやがて、アイリーンの家族や狭いコミュニティの人間関係に亀裂を生じさせて…

 秀作「aftersun アフターサン」でオスカーにノミネートされ、若手最旬の俳優として注目と期待の的となってるポール・メスカルの出演作を観ることができました(^^♪主役ではないけど、物語の核となる重要なブライアン役。素朴で優しい、けどどこか不安定で危険なものを感じさせる役と演技は、「アフターサン」と似ています。アイリーンじゃなくても、この子が婦女暴行なんかするわけない!と信じますよ。どこからどう見ても善人なのに、別に怪しい言動をするわけではないのに、だんだん信じる自信がなくなってしまうような闇と歪みを感じさせる怖さ、その曖昧さやさりげなさが凡百な狂ってます、サイコです演技とは違うな~と、今回も感嘆させてくれたポールでした。

 いかにもアイルランド人的な、ポールの朴訥でマイルドだけど強靭そうな風貌も好きです。農夫とか漁師とかいった、田舎の肉体労働者の役が似合うルックス。農夫や漁師のファッションって、着る男を選びますよね~。顔だけキレイなモデルみたいなイケメンとかだと、すごい違和感だし全然カッコよく見えない。逆に、顔は少々ブサイクでも屈強な体躯の男だと超イケちゃう。ポールもイケメンとか美男ではないけど、すごくガッチリして逞しいので働く姿がセクシー某有名ブランドのモデルもしてるポール、洗練されたファッションでキメてる彼も素敵ですが、この映画でのカキの養殖作業中の防水合羽や長靴のほうが、スーツより似合っててカッコいいんです

 お話そのものは、狭い世界の人間関係や男尊女卑が陰鬱に息苦しく描かれていて、決して見ていて気持ちのいいものではありません。こんな暗くて娯楽性のない映画、今の日本じゃまず作られないと思うし、誰も観たがらないでしょう。私も好きな俳優が出てなきゃ途中リタイアでした。たいして能もないのに男というだけで女より上だと当然のように振る舞ってる男たち、屈託を鬱積させながらもじっと耐えてる女たち。どっちも時代錯誤だけど、実際にはどこの国の社会もいまだに男女平等なんて絵空事ですよね。ラスト、衝撃的な悲劇をアイリーンは選ぶのですが。母性をも打ち砕くほどの、積もり積もった女の怒りと憎悪、怨嗟に戦慄

 アイリーン役のエミリー・ワトソン、久々に見ましたがすっかりおばさんになって!もう孫もいる役!彼女の鬱々しく険しい表情も怖いです。荒涼とした寒々しい海、暗鬱な雨空もかなり鬱。あんな所で私は暮らせない!ちなみにオイスター、広島県民のくせに苦手な私
 
↑ 高く評価されたTVシリーズ「ノーマル・ピープル」も鑑賞中(^^♪いい役者だわ彼ほんま!日本の20代の俳優も、もうちょっと頑張ってほしいわ~。何とかリベンジャーズとかなんとかダムとかいったオコチャマ漫画映画もいいけどさ~

追憶の日焼けあと

2023-06-22 | イギリス、アイルランド映画
 「aftersun アフターサン」
 もうすぐ11歳になるソフィは、別れて暮らす父カラムとトルコのリゾートにやって来る。二人は仲良く夏休みを楽しむが…
 追憶映画ってたくさんありますが、そのほとんどは甘ったるいノスタルジーや湿っぽいお涙ちょうだいもの。でもこの作品は、そんな類ではありませんでした。想定外の独特な作風でした。若い女性が幼かった頃にパパとすごしたひと夏を思い出して…な内容は、結構ありきたりなのですが、その描き方と父娘の関係性がなかなか斬新でした。

 まず、父娘についての説明がほとんどないんですよ。パパはどういう人なのか、こんな若い男に11歳の娘がいる事情とか、ママとなぜ別れたのかとか、パパが何でギブスしてるかとか、情報はまったくなし。見ず知らずの他人のホームビデオを観てる感じ。二人のバックボーンについては、観客の想像に委ねられています。最近の映画やドラマって余計な台詞やシーンで説明過多なので、こういう意味不明じゃない程度の謎や曖昧さは、返って心地よかったです。

 父娘が仲良くリゾート滞在を楽しんでる、しばらくはただそれだけみたいな流れなので、始めは何なのこれと戸惑いました。危うく眠ってしまいそうになりましたが、中盤あたりから何となく不穏な、何か引っかかる言動や場面が目に入ってくるようになり、眠りは妨げられました。特に事件とか恐ろしい秘密が判明なんてことは全然なくて、ずっと父娘は仲良しで楽しそうなままなのですが、パパが何かおかしい…?

 兄妹と間違えられるのも頷けるほど若くて、優しく明るい素敵なパパなんだけど、ときどき観客を当惑させ不安にさせるようなこと、表情をするんですよ。まず、娘を置いて独りで絨毯を買いに行ったこと。ソフィは気にもせず若いイギリス人の観光客たちと仲良しになって遊んでたけど、このパパ大丈夫なの?と思った。今度は夜に、ソフィがカラオケに申し込んでたことに腹を立てて、また置き去りにしてどっかに行っちゃったり。ソフィは夜道を独り歩いてホテルに戻り(途中で男に襲われて!?かとヒヤっとなるシーンあり)しかもカギがなくて部屋に入れず、という完全にアウトなダメ親父っぷりに戦慄。

 波が激しい真っ暗な真夜中の海に入っていったり、ベランダの手すりに上がって飛ぼうとしたりetc.何の説明もないけど、パパがかなり情緒不安定な男であることがだんだん明るみになってきて、それがサスペンスでもありました。少年のように無邪気で可愛いんだけど、大人になりきれない、現実と折り合えない未熟さと傷つきやすさを抱えて絶望している…そんな姿が痛ましく悲しく、見ていて切なくなりました。

 そんな可愛くイタいパパを責めることもなく、何事もないように接するソフィのほうが大人のようでした。なので見た目が幼くても、若いパパとあまりにも親密にしてるとまるで恋人同士にも見えたり。とても父と娘とは思えぬような危うさ。11歳の女の子って、フツーならあんな風に父親とイチャイチャしないでしょ。父親と二人きりで旅行とか、しかも同室とか、日焼け止め塗ってもらうとか、想像しただけでゾっとします

 明るいんだけど、幸せそうなんだけど…淡い陽光に滲むような、透き通った水に浮かぶような痛みと苦しみが、観終わってから胸を衝く…そんな映画でした。劇中時おりサブリミナルに挿入される、現在の(と思しき)ソフィが見つめる明滅するディスコシーンも印象的なのですが、そこに繋がるラストも謎めいていて、いろいろ考察してしまいます。私なりに、カラムって実は…とか、カラムはきっとあの後…と、その時は不思議に思ったシーンや言動の意味を解釈して(説明は一切ないので、あくまで推察ですが)切なくなってしまいました。

 カラム役で今年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた、アイルランドの若手俳優ポール・メスカルが素晴らしいの一言!早くも今年のmy best俳優(彼か、「イニシェリン島の精霊」のコリン・ファレルか迷う~)かも!イケメンとか美男子ではないけど、素朴で飾り気のない男らしい風貌に好感。笑顔が可愛い!かと思えば、不意に見せる鬱々しいメンヘラ顔が怖くもあって。屈強で健康そうな肉体とアンバランスな不安定さ、ガラス細工の心の表現力が高度でハンパない!まだ27歳って!神木隆之介より年下!日本のアラサー俳優も、もうちょっと頑張ってよ!ガタイのよさも魅力のポール。ムキムキマッチョではないけど、ガッチリムッチリした肉体(特にデカくてキレイなお尻!)は私好み。印象的なシーンはたくさんあるのですが、ホテルの部屋で裸で慟哭してる後ろ姿は特に圧巻でした。体を張った熱演!じゃない、演技巧いだろ?な小賢しいわざとらしさもない、ナチュラルだけど強烈に訴えるものがある演技は、ポールの稀有な才能と将来性を確信させるものでした。ソフィ役のフランキー・コリオも演技とは思えぬ自然さで驚嘆。シャーロット・ウェルズ監督の才気にも感嘆。トルコのリゾート地も目に楽しかったです。私も泥風呂に入ったり素敵な絨毯を買いたい!

 ↑ アカデミー賞授賞式ではやたらと姿がカメラに抜かれてて、その若さとフレッシュさが目を惹いたポール。リドリー・スコット監督の「グラディエーター」続編の主演に抜擢されるなど、ハリウッドでテッペン獲りそうな勢い!


ソーホーで娼年

2023-05-11 | イギリス、アイルランド映画
 「Postcards from London」
 田舎からロンドンのソーホーにやって来たジムは、路上で所持金を奪われ無一文になる。そんな中スカウトされ生活のため男娼になったジムは、その美しさでインテリや芸術家たちを刺激し魅了する。ジムには素晴らしい芸術作品を見ると気を失うという持病があった…
 「キングスマン ファースト・エージェント」や「ザリガニの鳴くところ」そして「逆転のトライアングル」など、最近売れっ子のイギリス俳優ハリス・ディキンソン主演作です。ちょっと、いや、かなりユニークな作品でした。ハリディキは田舎からロンドンに出てきた青年役で、スカウトされてソーホーで男娼になるのですが、男娼といっても男相手にセックスするというより、芸術家やアート好きのおじさん相手にコスプレやモデルをするのが仕事、みたいな感じでした。なので、「娼年」や「エゴイスト」みたいな男同士のラブシーンやラブストーリーを期待するとガクっとなります。


 BLちゃうやん!でも、ハリディキはすごくカッコカワいかったです。顔だけだと高校生みたいです。撮影当時は21、2歳ぐらいなので、26歳の現在よりさらに幼く見えるのも当然か。イケメンなんだけど、何だかすごくトボけた顔で、どんな時もだいたいキョトンとしてるのが可愛い。そしてハリディキといえば裸。この映画でもガンガン脱がされてました。ほぼ半裸といっていいほどに。男性キャラの美しい裸体が必要な監督にとっては重宝する俳優なのでは。最近は女優だけでなく男優まで、おいそれとは脱いでくれなくなってますからね~。そんな味気ないポリコレ風潮などどこ吹く風、キョトンと脱ぎまくるハリディキが好きです。服着てるとスラ~とした細身なのですが、脱ぐと胸は厚く腕は太いマッチョな肉体美はまさに眼福で、劇中でアートなおじさんたちを虜にするのも納得の芸術的な完璧さ。

 どの出演作でもだけど、ハリディキの裸体ってセクシーだけどエロさは全然なく、地味で色白なためかすごく清潔感があります。見た目は地味で薄いけどクセが強い役が多いハリディキですが、どんな役でも汚らしくならないのはその透明感ある風貌のおかげでしょうか。あと、彼のファッションがおしゃれでした。色白&スマートな長身長足だからこそ似合う個性的な型や色のシャツやパンツ、あれキムタクとかが着たら大事故になりますよ。

 ハリディキのアートコスプレも楽しかったです。カラヴァッジョの「聖セバスティアヌス」と「奏楽者たち」の再現シーンが特に好き。ソーホーでの現実と、スタンダールシンドロームを起こして気絶したジムの夢?の中のシーンが交錯する構成になってるのですが、夢の中でカラヴァッジョがジムたちイケメンをモデルにして絵を描くシーンと、カラヴァッジョの怒りっぽいキャラが面白かったです。カラヴァッジョについて無知な私、あの有名なメデューサの絵も彼の作品なんですね!

 ソーホーでの現実さえ何だかファンタジー?思えるほど、男娼たちがたむろするクラブや屋上、路地も異空間のような構造と色彩のセット。ロケ撮影は全然なく、演技も演出もまるで舞台劇みたいでした。せっかくロンドン、ソーホーが舞台ということになってたので、イギリス好きとしては残念。ほとんど男しか出てこないボーイズ映画で、ハリディキを囲む男娼仲間や(帽子の子が可愛かった。誰?とチェキってみたら、ジョナ・ハウアー・キングくん、近日公開のハリウッド実写版「リトル・マーメイド」の王子さま役に抜擢されてた!)美術ディーラーの黒人など、ブサメン厳禁なイケメン映画でもありました。なのでやっぱBLじゃなかったのが惜しまれます。男娼たちも妖精?実在しない妄想?みたいな不思議さでした。あと、芸術を語る台詞が私には高尚すぎてワケワカメでした


絶交宣言!“おまえが嫌いになった”

2023-02-09 | イギリス、アイルランド映画
 「イニシェリン島の精霊」
 1920年代、激化するアイルランド本土の内戦をよそに、平和な日常を保っていたイニシェリン島。気のいい独身男パードリックは、親友のコルムから突然絶縁を宣告され…
 数年前に絶賛された「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督待望の新作。早くも2023年マイベストかもしれぬ映画を観てしまった!現在アメリカの賞レースを席捲中で、来たるアカデミー賞でも多部門でノミネートされてるなど、絶賛の嵐に高まった期待を裏切らぬ、いや、期待を上まわる秀作でした!いや~ほんま面白かったです!こういう滑稽で狂ってる映画、大好き!いちおうコメディ映画ということになってますが、笑えると同時にゾっとするような人間関係の歪みや心の暗い深淵、狂気が描かれていて、とにかく奥が深い内容。それをすごく面白い話にしてるところが驚異。マクドナー監督の洞察力と脚本家としての才能には畏怖あるのみです。決して貶めるつもりはないのだけど、この映画が最高級の食材(脚本、演出、演技)で作られた絶妙な、世にもまれな珍味の料理だとすれば、キムタク主演の某時代劇大作は糖分と脂肪が多いジャンクフード、に思えて仕方がないです(ジャンクフードも好きですが(^^♪)。

 昨日まで仲良くしていた親友から突然、おまえのことが嫌いになった、もう話しかけてくるな、なんて冷たく言われ相手にされなくなったら…私もパードリックみたいに困惑し周章狼狽、落ち込んだり原因を知ろうとしたりするでしょうけど、あそこまで頑として拒絶されたら怒りや不快感のほうが勝って、何様のつもり?!こっちこそおまえなんか要らんわ!と相手以上の嫌悪で絶縁上等!となるでしょう。さすがにそんな経験はないけど、この映画のキーワードである絶交…大なり小なり、友情にしろ恋愛にしろ血縁関係にしろ、生きていれば誰でもしたりされたりはありますよね。あんなに仲良しだったのに、ふとした言動で相手の本性にハっと気づいてしまい、それが耐えがたくなって距離を置き、いつしか関係はフェイドアウト。同様に、あんなに親密だった人がよそよそしくなり、気づけば連絡もくれなくなり没交渉に。私もどっちもあります。どちらも寂しい悲しいことだけど、人生には築けば崩れるものある、来れば去るのも必定なのよと、私を含めほとんどの人は後ろめたさや割り切れなさと折り合って、他にもいる大事な人や新しい人との関係に目を向けるものですが、パードリック&コルムはそうはならなかった。その人間関係こじらせっぷりが壮絶すぎて笑える、けどサイコちっくで怖い!

 まず、パードリック。ほんとアホみたいに人のいい、愛さずにはいられない男。一方的な絶縁宣告にオロオロする姿が可哀想!なんだけど、見ているうちにコルムの気持ちも理解できてくるんですよね~。こんな奴とずっといたら、こっちまでアホになりそうという恐怖。無知無教養なのはまだいいとして、コルムの心情を察することなど到底できない、何を言っても伝わらない鈍感さが致命的でした。さらにあのしつこいかまってちゃんぶり、執着もヤバすぎる。ほとんどストーカーと化してましたし。救いのない悲惨な状況になっても、この期に及んでまだ友だちに戻れると信じてるの!?な無邪気すぎる言動には、もう笑うしかなかった。愚鈍だけど善良で見た目も悪くないし仕事も真面目だし、恋人か嫁を見つけるとか酪農業を発展させるとか、もっと他にできることあるじゃろ~と呆れつつ、狭い世界に埋没してると愛とか夢とか向上心とか見つかりようがないんだな~と戦慄も。

 次にコルム。話が進むうちに、こんな所でこんなバカと死ぬまで一緒、という人生に対する彼の絶望や焦燥、閉塞感、孤独が伝わってきて、冷たくされるパードックよりも可哀想に思えてきます。善人だけど愚かで退屈なのは、パードリックだけでなく他の島民も同じなのに、コルムがパードリックだけを徹底的に自分の人生から排斥しようとしたのはなぜ。絶交しても、パードリックが非道い目に遭ったりすると、そっと助けてくれたりするコルムの優しさはいったい。考察しがいのある複雑で興味深い心理です。コルムにしろパードリックの妹シボーンにしろ、頭がよく感受性が強い人にとっては、イニシェリン島のような閉鎖的で非文化的な、平和だけど何もない土地は地獄みたいなもの。シボーンのように自由を求めて島を出ることもできない老人コルムは、やはり人知れず精神崩壊してしまったため、あのような常軌を逸した頑なな拒絶、そして狂気的な自傷行為へと至ったのでしょうか。気の弱い人は要注意な血生臭さ、野蛮さです。まったく解かり合えず受け入れられず、どんどん険悪に過激に悪化していく終止符の打てない争いが、アイルランド内戦と重なるところも秀逸な脚本です。

 パードリック役のコリン・ファレル、キャリア最高の名演かも!大好きなコリン、もう長いことファンやってますが、ついにキター!!って感じ。オスカーにも初ノミネート!👏受賞すればファンは感涙の欣喜雀躍!今コリンの受賞のため、願掛けの酒断ちしてますハリウッド的な大ヒット狙い作品ではなく、才ある気鋭の映像作家作品で個性と演技力を深め、年齢を重ねてじわじわといい役者へと進化していったコリン。マクドナー監督にも寵愛され、「ヒットマンズ・レクイエム」「セブン・サイコパス」に続いての主演。いや~演技も見た目もコクが出てきたというか、味わい深くなりましたね~。故郷アイルランドが舞台だったためか、素朴な田舎者っぷりが自然すぎる。あの見事なまでの八の字眉、傷ついた子犬のような瞳、デカい図体で男くさい風貌なのに、頑是ない少年みたいで可愛すぎる!私なら、くだらない話しかできない粗末なオツムでも、コリンみたいな男なら邪険にするどころか溺愛しますよ。じゃれてくる大型犬みたいで可愛いじゃん!

 可哀想なんだけど、確かにイラっとさせウンザリさせる、でも憎めない男を可愛く、そして何かやらかしそうな不穏さも漂わせながら、珍妙・絶妙に演じたコリンに喝采あるのみです。
 コルム役のブレンダン・グリーソンも、「ヒットマンズ・レクイエム」に続いてのマクドナー監督作出演。恬淡と頑迷な、静かなる狂気の演技には何度も息をのみました。神父への教会での告解シーンが笑えた。シボーン役のケリー・コンドンも、アホの子ドミニク役のバリー・コーガンも、オスカー候補も納得の好演。神父やドミニクの父である警官、噂好きな雑貨屋のおばはん、死神ババアなど脇キャラも、笑えるけど身近な人や自分自身ともカブる凡庸さ性悪さ卑小さで、そういう人間の描写にも唸らされる作品でした。

 俳優たち同様、ロバや犬、馬など動物たちの名演も驚異的で素晴らしかったです。特にパードリックが可愛がってたロバのジェニーが可愛い!赤いリボンつけてたり、パードリックと散歩や仲良くしてるシーンにはほっこり。イニシェリン島は架空の島で、ロケはアイルランドのアラン諸島で行われたとか。現代社会から隔絶された原始的な生活、荒涼とした清冽で神秘的な風景。その素朴な美しさに心洗われ、そして圧倒されます。数年前に行ったイニシュモア島を懐かしく思い出しました。また行きたくなりました。パプの黒ビールも美味しそうでした。

 ↑ コリン、ゴールデングローブ賞受賞おめでとう!次はオスカーだ!ブラピとのツーショット。若い頃は似非ブラピなんて揶揄されてたコリンも、今やブラピと肩を並べるまでに。共演NGではなさそうなので、ぜひW主演作を!