まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

ひとつ屋根の下

2023-02-21 | イタリア映画
 お松のフランス大女優映画祭②
  「ラ・ファミリア」
 20世紀初頭のローマ。ブルジョアの家に生まれたカルロは、両親や弟、3人の叔母や使用人たちに囲まれ成長する。青年になったカルロは、家庭教師の生徒ベアトリーチェの姉アドリアーナと恋に落ちるが…
 イタリアの名匠エットーレ・スコラ監督の作品。主人公が生まれてから老人になるまでの80年間が、ローマの邸宅からカメラが一歩も出ずに描かれています。舞台劇のようで、映画ならではなカメラワークや演出が出色です。二度の世界大戦が起こるなど、80年間はかなり激動の時代なのですが、屋敷内ではドラマティックな異変や悲劇などは起こらず、家族や男女の愛や絆が明るく楽しくにぎやかに、時にホロ苦さやペーソスをもって描かれています。戦死とか病気とかいった、お涙ちょうだいものでおなじみのネタで感動を誘うあざとさは全然ありません。この世に生まれて生きて愛して愛されて、命をまっとうしてそっと消えていく、そんなごく当たり前の人生模様、時の流れの優しさと深さが心に沁みる、そんな映画でした。時代や人が移ろっても、姿を変えずそれらを見守っている家が人間以上の存在感です。

 とにかく明るく騒々しいイタリア人!その楽天的で激情的な気質は、見ているだけだと面白いけど、関わるとなるとかなり疲れそう。喜怒哀楽が激しいところは、ちょっと韓国人とカブるところがありますが、どことなく粘着質で執念深く狂乱めいた韓国人の激情と違い、イタリア人のほうはカラっと後に引かず切り替えが早いので、イヤな感じはしません。登場人物が多く、みんな個性的でいい味だしてます。特にカルロの三人のオールドミス叔母が強烈で笑えます。ものすごい罵倒やビンタ、怒るたびに花瓶割ったりとか、かなり凶暴。私なら一緒に暮らせませんが、カルロ一家にとっては日常の風景になってて、やがて年月が経ち叔母さんたちも一人一人屋敷からいなくなってしまうのですが、家族だけでなく観てるほうもそれが寂しくなる愛すべき存在でした。

 叔母さんたちだけでなく、カルロの妻となるベアトリーチェや、その姉アドリアーナ、家政婦のアデリーナなど、女性たちがすごく魅力的でした。姉妹とカルロの三角関係も、ドロドロだったり悲痛だったりな描き方をしておらず、そっと胸に秘めながらも消えない恋だったのが切なくも優しい、大人のビタースウィートさでした。夫と姉が愛し合ってることを知りつつ、死ぬまでそれをおくびにも出さなかったベアリーチェの強さにも感銘を受けました。心優しく逞しいアデリーナも素敵な女性でした。

 イタリアのブルジョアジーの生活風景も興味深かったです。贅沢はしないけど、ガツガツ働かずとも豊かな生活ができる身分。戦時中に食糧難はあったけど、それ以外は特に困った様子はなかったカルロ一家。カルロのパパ、後にカルロも、学校の先生の給料だけで大家族を養ったり、大邸宅の維持や大勢の使用人の雇用とか無理だもんね。地味だけど、アンティークな家具やインテリア、衣装も歴史や上流社会の趣味の高さを感じさせて素晴らしかった。映画のためのセットではなく、本物の貴族の家で撮影したのかな。
 キャストもイタリア・フランス映画ファンには嬉しいメンツをそろえてます。壮年期から老年期のカルロ役は、イタリアの名優ヴィットリオ・ガスマン。大柄で立派な堂々とした体躯、一見いかめしいけど、同時にすごく優しそうで繊細そうでもあって。頼もしくも時々少年っぽくもあって、可愛く思えることも。アドリアーナ役は、フランスの大女優ファニー・アルダン。

 当時38歳ぐらい、おんな盛りだった頃のファニーおばさま、そのクールな佳人ぶりは男だけでなく女も惚れる!見た目も演技も女おんなしておらず、どちらかといえば剛毅で男性的なところが、時代や男に流されない自立した女性役にぴったり。理知的でエレガントという彼女の魅力は、いつかは褪せて失ってしまう若さとか美貌とは違う、永遠に輝く宝石のようなもの。モデルのような長身、そして美脚で颯爽と闊歩する姿のカッコいいこと!でも、フランス人のファニーおばさまがなぜイタリア女性役を?彼女のイタリア語は吹き替えなのかしらん?
 ベアトリーチェ役は、数々のイタリアンエロス映画で男たちのリビドーを刺激したステファニア・サンドレッリ。今回はエッチな美女役ではなく、明るく家族思いな奥さん役を好演。家政婦のアデリーナ役は、「わが青春のフロレンス」や「愛すれど哀しく」などで知られるオッタヴィア・ピッコロ。彼女の素朴な可愛さ、すごく好き。老年期パート、老けメイクでも可愛いおばあさんでした。アドリアーナの交際相手のフランス人男性役で、名優フィリップ・ノワレがちょこっとだけ出てます。
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熟女の遍歴

2023-02-17 | フランス、ベルギー映画
 お松のフランス大女優映画祭①
 「ジョーンについて」
 出版社の社長ジョーンは、ダブリンで暮らしていた若い頃の恋人ドグと偶然再会する。ドグと別れた後ひそかに彼との子を産んで育てたジョーンのもとに、その息子ナタンが訪ねてきて…
 ジェシカ・チャステインやニコール・キッドマン、ケイト・ブランシェットといった当代一のトップ女優たちがリスペクトする、女優が憧れる女優イザベル・ユペール。そのキャリアと年齢の重ね方は、まさに女優としては理想的。アンチエイジングな枯れたエレガンス、軽快でクールな演技は、アラ還にしてますます魅力を増し、世界各国の才ある映画監督から今なお引っ張りだこなユペりんです。彼女を唯一無二な女優にしているのは、やはりあのシレっとスットボケたところでしょうか。重苦しい宿業や心の闇を抱いた役でもそんな風には全然見えず、木で鼻を括っているような演技や風情が独特すぎるけど、いかにも特異でしょ?個性的でしょ?な押しつけがましさや自意識過剰さは微塵もないところも、彼女をオンリーワンな女優にしています。

 この作品のユペりんも、いつもと同じでクールでニヒル、そしてシレっとしてます。冒頭、カメラ目線で観客に自分語りを始めるジョーン、その半生は結構ヘヴィで波乱万丈なんだけど、ちっとも苦労や悲しみを滲ませても漂わせてもおらず、実は傷ついてます疲れてますと同情を媚びることもなく、肩をすくめて淡々と平然とした感じなのがユペりんらしいヒロインでした。フツーの女優なら、運命に翻弄され傷ついた悲しい女、または運命に抗う強い女、みたいないかにも映画的なヒロインとして熱演するだろうジョーン役ですが、イザベル・ユペールはそんなありきたりなことはしません。男との恋に破れようと、未婚の母になろうと、母親に捨てられようと、サラっと受け流してシレっと生きてるジョーンもまた、イザベル・ユペールの個性と魅力を活かすために創造されたヒロインでした。

 恋人や息子への、ジョーンのベタベタしない冷淡な優しさが、大人の女って感じで素敵でした。あんな風に軽く突き放した感じで、でも大事に思ってることは相手に伝わる接し方ができたらなあ。いつでも誰にでもドライで軽やかなジョーンがカッコいいのですが、実はヤバい人だったということが終盤になって判明。長い月日が経っても克服できない悲しみで、ある意味狂気に陥っていたジョーン。え?!な事実に驚きつつ、やっぱりねとも。イザベル・ユペールがフツーの女であるわけがなく、期待通り(笑)イカレ女だったので安堵もそういった狂気も、悲しみと決別して新たな一歩を踏み出す姿も、やっぱ特段に劇的な言動も変化も見せずサラっとシレっとしてるのが、これぞイザベル・ユペール!でした。
 ジョーンの恋人であるドイツ人の作家とか、ジョーンの母親とかがエキセントリックな珍キャラで笑えた。日本人の空手家カズオと日本に出奔する母ちゃんの、北斎の絵もどきにタコとセックスしてる痴態や、何ちゃって日本人な扮装や日本語の台詞は、日本をリスペクト?それともディスってる?ジョーンの息子ナタン役は、オゾン監督の「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」でセザール賞を受賞したスワン・アルロー。相変わらず個性的な顔。ナタンは実は…なトリッキーな設定を、上手に伏線とかで描いてないので、ラストの事実判明が唐突で反則っぽくなってしまったのが残念。ダブリンやパリ、フランスの田舎など、ジョーンの人生に合わせたかのように、それぞれに色彩や温度感が違う映像も美しかったです。ジョーンの田舎にある家、あんなところに住んでみたいわ~。イザベル・ユペールの、ナチュラルでフェミニンな趣味の高いファッションもトレビアン。中盤のちょっとパンクでファンキーな衣装や髪型もカッコいい!
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絶交宣言!“おまえが嫌いになった”

2023-02-09 | イギリス、アイルランド映画
 「イニシェリン島の精霊」
 1920年代、激化するアイルランド本土の内戦をよそに、平和な日常を保っていたイニシェリン島。気のいい独身男パードリックは、親友のコルムから突然絶縁を宣告され…
 数年前に絶賛された「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督待望の新作。早くも2023年マイベストかもしれぬ映画を観てしまった!現在アメリカの賞レースを席捲中で、来たるアカデミー賞でも多部門でノミネートされてるなど、絶賛の嵐に高まった期待を裏切らぬ、いや、期待を上まわる秀作でした!いや~ほんま面白かったです!こういう滑稽で狂ってる映画、大好き!いちおうコメディ映画ということになってますが、笑えると同時にゾっとするような人間関係の歪みや心の暗い深淵、狂気が描かれていて、とにかく奥が深い内容。それをすごく面白い話にしてるところが驚異。マクドナー監督の洞察力と脚本家としての才能には畏怖あるのみです。決して貶めるつもりはないのだけど、この映画が最高級の食材(脚本、演出、演技)で作られた絶妙な、世にもまれな珍味の料理だとすれば、キムタク主演の某時代劇大作は糖分と脂肪が多いジャンクフード、に思えて仕方がないです(ジャンクフードも好きですが(^^♪)。

 昨日まで仲良くしていた親友から突然、おまえのことが嫌いになった、もう話しかけてくるな、なんて冷たく言われ相手にされなくなったら…私もパードリックみたいに困惑し周章狼狽、落ち込んだり原因を知ろうとしたりするでしょうけど、あそこまで頑として拒絶されたら怒りや不快感のほうが勝って、何様のつもり?!こっちこそおまえなんか要らんわ!と相手以上の嫌悪で絶縁上等!となるでしょう。さすがにそんな経験はないけど、この映画のキーワードである絶交…大なり小なり、友情にしろ恋愛にしろ血縁関係にしろ、生きていれば誰でもしたりされたりはありますよね。あんなに仲良しだったのに、ふとした言動で相手の本性にハっと気づいてしまい、それが耐えがたくなって距離を置き、いつしか関係はフェイドアウト。同様に、あんなに親密だった人がよそよそしくなり、気づけば連絡もくれなくなり没交渉に。私もどっちもあります。どちらも寂しい悲しいことだけど、人生には築けば崩れるものある、来れば去るのも必定なのよと、私を含めほとんどの人は後ろめたさや割り切れなさと折り合って、他にもいる大事な人や新しい人との関係に目を向けるものですが、パードリック&コルムはそうはならなかった。その人間関係こじらせっぷりが壮絶すぎて笑える、けどサイコちっくで怖い!

 まず、パードリック。ほんとアホみたいに人のいい、愛さずにはいられない男。一方的な絶縁宣告にオロオロする姿が可哀想!なんだけど、見ているうちにコルムの気持ちも理解できてくるんですよね~。こんな奴とずっといたら、こっちまでアホになりそうという恐怖。無知無教養なのはまだいいとして、コルムの心情を察することなど到底できない、何を言っても伝わらない鈍感さが致命的でした。さらにあのしつこいかまってちゃんぶり、執着もヤバすぎる。ほとんどストーカーと化してましたし。救いのない悲惨な状況になっても、この期に及んでまだ友だちに戻れると信じてるの!?な無邪気すぎる言動には、もう笑うしかなかった。愚鈍だけど善良で見た目も悪くないし仕事も真面目だし、恋人か嫁を見つけるとか酪農業を発展させるとか、もっと他にできることあるじゃろ~と呆れつつ、狭い世界に埋没してると愛とか夢とか向上心とか見つかりようがないんだな~と戦慄も。

 次にコルム。話が進むうちに、こんな所でこんなバカと死ぬまで一緒、という人生に対する彼の絶望や焦燥、閉塞感、孤独が伝わってきて、冷たくされるパードックよりも可哀想に思えてきます。善人だけど愚かで退屈なのは、パードリックだけでなく他の島民も同じなのに、コルムがパードリックだけを徹底的に自分の人生から排斥しようとしたのはなぜ。絶交しても、パードリックが非道い目に遭ったりすると、そっと助けてくれたりするコルムの優しさはいったい。考察しがいのある複雑で興味深い心理です。コルムにしろパードリックの妹シボーンにしろ、頭がよく感受性が強い人にとっては、イニシェリン島のような閉鎖的で非文化的な、平和だけど何もない土地は地獄みたいなもの。シボーンのように自由を求めて島を出ることもできない老人コルムは、やはり人知れず精神崩壊してしまったため、あのような常軌を逸した頑なな拒絶、そして狂気的な自傷行為へと至ったのでしょうか。気の弱い人は要注意な血生臭さ、野蛮さです。まったく解かり合えず受け入れられず、どんどん険悪に過激に悪化していく終止符の打てない争いが、アイルランド内戦と重なるところも秀逸な脚本です。

 パードリック役のコリン・ファレル、キャリア最高の名演かも!大好きなコリン、もう長いことファンやってますが、ついにキター!!って感じ。オスカーにも初ノミネート!👏受賞すればファンは感涙の欣喜雀躍!今コリンの受賞のため、願掛けの酒断ちしてますハリウッド的な大ヒット狙い作品ではなく、才ある気鋭の映像作家作品で個性と演技力を深め、年齢を重ねてじわじわといい役者へと進化していったコリン。マクドナー監督にも寵愛され、「ヒットマンズ・レクイエム」「セブン・サイコパス」に続いての主演。いや~演技も見た目もコクが出てきたというか、味わい深くなりましたね~。故郷アイルランドが舞台だったためか、素朴な田舎者っぷりが自然すぎる。あの見事なまでの八の字眉、傷ついた子犬のような瞳、デカい図体で男くさい風貌なのに、頑是ない少年みたいで可愛すぎる!私なら、くだらない話しかできない粗末なオツムでも、コリンみたいな男なら邪険にするどころか溺愛しますよ。じゃれてくる大型犬みたいで可愛いじゃん!

 可哀想なんだけど、確かにイラっとさせウンザリさせる、でも憎めない男を可愛く、そして何かやらかしそうな不穏さも漂わせながら、珍妙・絶妙に演じたコリンに喝采あるのみです。
 コルム役のブレンダン・グリーソンも、「ヒットマンズ・レクイエム」に続いてのマクドナー監督作出演。恬淡と頑迷な、静かなる狂気の演技には何度も息をのみました。神父への教会での告解シーンが笑えた。シボーン役のケリー・コンドンも、アホの子ドミニク役のバリー・コーガンも、オスカー候補も納得の好演。神父やドミニクの父である警官、噂好きな雑貨屋のおばはん、死神ババアなど脇キャラも、笑えるけど身近な人や自分自身ともカブる凡庸さ性悪さ卑小さで、そういう人間の描写にも唸らされる作品でした。

 俳優たち同様、ロバや犬、馬など動物たちの名演も驚異的で素晴らしかったです。特にパードリックが可愛がってたロバのジェニーが可愛い!赤いリボンつけてたり、パードリックと散歩や仲良くしてるシーンにはほっこり。イニシェリン島は架空の島で、ロケはアイルランドのアラン諸島で行われたとか。現代社会から隔絶された原始的な生活、荒涼とした清冽で神秘的な風景。その素朴な美しさに心洗われ、そして圧倒されます。数年前に行ったイニシュモア島を懐かしく思い出しました。また行きたくなりました。パプの黒ビールも美味しそうでした。

 ↑ コリン、ゴールデングローブ賞受賞おめでとう!次はオスカーだ!ブラピとのツーショット。若い頃は似非ブラピなんて揶揄されてたコリンも、今やブラピと肩を並べるまでに。共演NGではなさそうなので、ぜひW主演作を!
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キムタク天下布武!

2023-02-01 | 日本映画
 「レジェンド&バタフライ」 
 うつけ者と悪評高い尾張の織田信長は、美濃の斎藤道三の娘濃姫との政略結婚を強いられる。はじめは反発し合っていた信長と濃姫だったが…
 うう~ん…期待はしないようにしつつ、ひょっとしょたら?という淡い期待も抱いていたのですが、やっぱり思ってた通りな映画だった。本格的で重厚な戦国絵巻時代劇を期待するほうが悪い、と嗤ってくださいまあ、主演が日本一の大スター、木村拓哉さんですから。ある意味期待を裏切らない映画とも言えます。裏切ってほしかったけど。これまでの主演作同様、キムタクのカッコよさや個性を活かすことが絶対的至上命題。この新作時代劇もその例外ではありませんでした。例外になってほしかったし、それをちょぴり期待したのだけど…
 キムタク、ナンダカンダ言いつつ私、すごく好きなんですよ。あっと驚くような役や大胆な演技に挑む大人の役者キムタクが見たいと、ずっと願い続けていました。まるで叶わぬ恋心のように。キムタクにはそうさせる実力と魅力があると信じてるから。その気になれば絶対に、緒形拳や渡瀬恒彦みたいなスゴい役者になれるはず。でも、ご本人にはそんな気はサラサラなさそうで、50歳になっても精神年齢が低い作品や役ばかり。でも、惜しいという気持ちはだんだん、その徹底した不変のスタンスが高倉健や渥美清といった大物映画スターとカブってきて、いつも同じ俺様を貫くのもまた立派な役者道、そんなキムタクが好きな人のためだけのキムタクであり続けるキムタクへの畏怖になってきてもいます。

 20代の若い頃、テレビドラマで演じた織田信長を、50歳になって映画で再演したキムタク。見た目は老けても、芸風は全然ブレれないところがスゴい!若い信長なキムタクにはさすがに違和感あったけど、やっぱいい男です。小柄で痩せてるので貧相に見えることもあるけど、戦国時代の男性が長身でスタイル抜群とかのほうがおかしいですよね。実際に馬に乗って疾走するキムタクもカッコよかった。後半、魔王となった信長のキムタクは、髭も似合う熟年の色気が。ダークサイドに堕ちてしまった狂気も凄味と迫力があって、チャラいカッコつけおじさんという、いつものキムタクではありませんでした。信長の暗黒で血なまぐさい運命と悲劇に焦点が当てられ、シェイクスピアのマクベスみたいなキムタクが見られたら最高だったのに。ああ、何ということでしょう。この映画、前半はラブコメ、後半はお涙ちょうだい夫婦愛、という韓流ドラマもどきになってしまっていて、心の底からトホホでした。

 信長と濃姫のツンデレやりとり、二人の身近な人物たちの言動、ほとんど時代劇コントだった。巨額の製作費、壮大なスケールで時代劇コントとかくだらないお笑いは要らない、もうちょっと真面目にやってと、前半の軽すぎるノリは正直キツかった。途中で観るのやめて帰ろうかとさえ思ったほどに。後半、信長が魔王になってやっと面白くなってきたのに、不治の病に倒れた濃姫を信長が献身的に支えるというベタな純愛ものになって、この映画の監督や脚本家って韓流ドラマの観すぎなのでは失笑。いくら何でもあんな織田信長、ありえんわ~。

 終盤のハイライト、本能寺の変ではまさかのトンデモ展開が。南蛮船で洋装姿のキムタクもカッコよかったけど、最後の最後までコントかよ~私はこんな長い時間(3時間近くある)、いったい何を見せられたんだろうと虚しくなってしまいました。日本史に精通してない人でも変すぎてツッコミたくなる設定やキャラだらけなのも、この映画をコントにしています。豊臣秀吉と徳川家康が出てくるのですが、二人ともおっさん。確か信長のほうが年上だったはず。家康役は某イケメン俳優が特殊メイクをして演じてるのですが、そんな必然性どこにあったの。誰得?おふざけが多いところも、コント色を強めてました。謀反を起こす明智光秀は、逆に信長よりかなり年下の青年だったのも時代考証無視。

 歴史にあまりうるさくなく、キムタクがいつもの調子で韓流ラブコメ&純愛悲恋する姿を見たい人なら、すごく楽しめる映画と存じます。あまりCGを多用せず、お金をかけたロケ撮影とセットは見ごたえありました。いい俳優もお金も技術もあるのだから、往年のファンをも唸らせるような本格的時代劇は作れるはず!ライトなスイーツ時代劇ではなくて!
 
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