まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

夫が女になりました

2016-03-27 | イギリス、アイルランド映画
 「リリーのすべて」
 20世紀初頭のデンマーク、コペンハーゲン。画家のアイナーは、同じく画家の妻ゲルダに絵のモデルを頼まれる。女性の衣装を身につけたアイナーは、今まで気づかなかった本当の自分に目覚めて…
 世界で初めて性転換手術を受けた画家の実話の映画化。評判通りの佳作でしたが…涙の感動作!とか、腐的な萌え~とは、ちょっと違うんですよね~。触れてはいけない、できれば触れたくないタブーのような性の問題や苦悩を、目の前に突き付けられたかのようで困惑、狼狽してしまう…ワタシ的には、そんな映画でした。日本人って、性的なことに立ち入りすぎることを忌避しがちじゃないですか。なので、性同一性障害の苦悩や苦痛をかなりリアルに描写しているこの映画を観たら、ショックでドン引きする人って結構いるのではないかと…
 昔に比べたら、社会的認知度も高まり、権利も保障されつつあるLGBTですが、実際問題まだまだ道は険しい。特に私が住んでるようなド田舎では、アイナーのように堂々とカミングアウトしたり性転換したりして権利や自由を主張することは、まず無理ですし。劇中のように、LGBTは性的倒錯か精神病と断定され、差別偏見迫害でフルボッコにされますよ。今より理解がなく狭量な価値観や道徳観の中で、苦悩と苦痛を味わいながらも自分に正直に生きたアイナーは、すごく勇敢で幸せな人だな~と感嘆せずにはいられませんでした。

 しかしながら…アイナーって、ものすごく自分勝手で冷酷でもあるよな~と反感も覚えました。私は女なの!女にならなきゃ!と、ほぼ自分のことしか考えてないし、自分のしたいようにするだけだし。偽らず生きるため、生まれ変わるためには、何をしてもいいのかよ。彼に翻弄され傷つけられるゲルダが、可哀想すぎる!目覚めてしまったアイナーはゲルダに対して、おいおい~それはないだろ!?ひどい!な言動しまくるんですよ。特に非道いな~と呆れるやらムカつくやらだったのは、性転換手術を終えてコペンハーゲンに戻ってからのアイナー。ちょっとルンルンすぎ、ウキウキすぎじゃね?と、女になれて浮足立って調子ぶっこきすぎ。ヘンリクとデートしたりゲルダの目の前で彼と堂々イチャついたり、心配するゲルダをウザがる態度など、ふざけんな!と殴ってやりたくなった。思いやりなさすぎだろ。自分本位なのに、いざという時はゲルダに甘えて頼ってばかりな甘さ、弱さにもイラっ!身も心も女になっても、あの甘さと弱さは男のままだなと思いました。
 女のほうが、やっぱ強い。ゲルダを見ていて、心底そう思いました。ゲルダの強さは、超人的ですが。あそこまで気丈に寛容になれる女は、そうそういないでしょうし。夫が突然、女になっちゃうんですよ。想像しただけでも戦慄。フツーなら、即離婚。でも、ゲルダは女になってゆく夫を、献身的に支え守るんだから、頭が下がるどころの話じゃないです。男女の愛を超越した、まるで聖女、聖母のようなゲルダの愛は、悲しくも美しく崇高。アイナーの苦悩よりも、ゲルダの苦悩のほうが痛ましくて。ゲルダが芸術家で、ちょっと男っぽい性格だったのも、二人の関係にはよかったのかもしれません。それにしてもゲルダ…ちょっとした悪ふざけ、軽い変態プレイが、よもや夫の中に隠されてた変なスウィッチを押すことになるとは。彼女は全然悪くないけど、私のせいでと自責に陥る気持ちは、痛いほど解かってほんと可哀想だった。夫の女性化を戸惑いながらも応援しつつ、心のどこかで男の夫を求めてる、忘れられない彼女も、すごく切なかったです。

 この映画、深刻でデリケートなテーマを扱ってるのですが…私だけでしょうか?何か笑えるシーンが多かった。笑っちゃいけないはず、なのに、ここは笑いを狙ってるのかもしれない、と当惑しつつ内心クスっみたいな。アイナーの女物のドレスや下着、化粧に対する恍惚&ハっと我に返る焦りの表情は、リアクション芸人も真っ青の面白さ。夜メイクラブしようとゲルダがアイナーの服を脱がせたら、彼が女物の下着着てたり。さっきまでアイナーだったのに、知らん間にリリーになってたり。変身早っ!で笑えた。あと、女装してるアイナーに男たちが色目使ってくるところ。どっからどー見ても女装オカマかニューハーフなのに、美女と思い込むなんてありえない~。 舞踏会で出会ったヘンリクが、自分が男だと知ってて求愛してきたことにショックを受けるアイナーも、かなり笑止でした。バレてないと思ってたなんて。どんだけ自信あったんだよ。でもまあ、あんな風貌の女性、いないこともないですけど。ジェシカ・チャステインとか
 アイナー/リリーを熱演、いや、怪演したのは、ホーキング博士を演じた「博士と彼女とセオリー」でオスカーを受賞、今年もこの作品で2年連続ノミネートされた、今や英国映画界のホープとなったエディ・レッドメイン。

 いや~エディ、スゴいですわ。堂々たるヒロインっぷりが、チャーミングかつグロテスクで強烈です。もうノリノリで女になりきってましたね。過剰すぎて、女はそこまでしないよ!と笑えるぐらい女でした。やっぱ女じゃないよな~という未完成っぽさが、悲しくも不気味。全裸シーンも多く、鏡の前でポーズをとりながらアソコ(結構デカかった)を…のシーンも、悲壮なはずなのに笑えたわ~。とにかく、日本の男優には絶対できない衝撃的な演技でした。女房に苦労をかける純真な自分勝手夫って、ホーキング博士もそんなキャラでしたよね。
 ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルは、今年のアカデミー賞助演女優賞を受賞しました

 最近メキメキ頭角をあらわしているスウェーデン女優のアリシア。すごい美人じゃないけど、親しみのもてる可愛さ、素朴さに好感。苦悩する妻役を、暑苦しい大熱演ではなく、自然に爽やかに演じてた彼女の存在が、一歩間違えたらグロくてエグくなるところだった物語を救っていたように思われます。ラストの、悲しみや苦しみから解き放たれたような、恨みも後悔もなく誰かを愛しきった充足感あふれる彼女の笑顔が感動的でした。彼女の脱ぎっぷりも見事でした。それにしても…この映画の主役は、どちらかといえばアイナーよりもゲルダだったような。「博士と彼女のセオリー」のフェリシティ・ジョーンズは主演女優賞候補で、この映画のアリシアが助演女優賞、というのは???大人の事情?
 リリーに一目ぼれしてアプローチしてくるヘンリク役は、売れっ子のベン・ウィショー。

 ゲイ役でこの安定感、今やベンの右に出る者なしです。舞踏会でリリーをロックオンするヘンリクの熱く静かな視線、知的に詩的なヘンリクの口説き文句、リリーの唇の奪い方が情熱的でロマンティック、なんだけど、相手が女装オカマ、ニューハーフにしか見えないエディなので、かなり滑稽なんですよエディにブチューっとするベンですが。ラブシーンは女優と女装男優とどっちがキツいか、ちょっと訊いてみたいです『どっちもキツいよ!フツーの男がいい』と答えそうですね女として見てほしいリリーと、あくまでリリーが男だから惹かれるヘンリク。性同一性障害と同性愛は違うことを、二人は教えてくれます。ゲイ役を避けずに、むしろ積極的に演じてるベンが好きです。出番が少ないのが残念。
 アイナーの幼馴染の画商ハンス役を、ベルギーの男前ゴリマッチョ、マティアス・スーナールツが好演。

 ゴツっ!デカっ!相変わらずヌオオオ~と偉容なマティアス。とても画商には見えません。リリーとゲルダを見守る善い人役なのですが、ちょっともったいないような気もした。別にマティアスじゃなくても、イギリスあたりのイケメン俳優(マシュー・グードとかサム・クラフリンとか)でよかった役だし。フツーに善い人役にそぐわない、あのメガトン級の重量感と冷酷な目を活かした役を演じてほしいです。
 デンマークの街並みや当時の衣装、インテリアなども、美しく趣があって目に楽しいです。デンマーク行きたい!リリーとゲルダのファッション、例えばスカーフとか、今してもオシャレかも。
 
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美しき狂王

2016-03-23 | イタリア映画
 「ルートヴィヒ 神々の黄昏」
 バイエルンの若き国王ルートヴィヒ2世は、現実逃避のように芸術や城の建築に耽溺する。彼の常軌を逸した言動や浪費を危惧する大臣たちは、ルートヴィヒを廃位へと追いやり彼を軟禁するが…
 イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督といえば、高貴と耽美のマエストロ。ヴィスコンティ監督が描く貴族社会は、ハリウッドや韓国の成金セレブとはまったく別世界。イギリスの貴族とも、また違うんですよね~。イギリス貴族は、優美でどこか軽やかだけど、ヴィスコンティ監督のイタリアやドイツの上流社会は、退廃的で重厚。ゴージャスとかエレガンスとは違う、濃密で爛熟の美に魅せられます。庶民が想像やリサーチでこしらえたものとは違うリアリティも、実際にも貴族出身であるヴィスコンティ監督ならでは。衣装や室内インテリアとか、いかにも映画用に作ったような小道具感、セット感がなくて、細部にわたって本物っぽい。ほとんどがスタジオではなく、実際のお城で撮影したのでしょうか。美しい古城や庭園、王族や貴族たちの衣装やアクセサリーの美麗さ、ノーブルさに圧倒・魅了されます。

 醜いもの卑しいもビンボー臭いものを完全拒否な、めくるめく耽美と退廃。ルートヴィヒが生きた世界、それはある意味SFよりもファンタジーです。現実を拒むあまり、あっちの世界の住人になっていくルートヴィヒですが。明らかにき○がい!な人ではなく、即位したばかりの頃は、すごく繊細で内気で純真、真面目な王さまって感じ。確かにあんなにピュアだと、現実的な世界では生きていけないだろうな~。ワーグナーに金ヅルにされたり、従姉のエリーザベトに翻弄されたり。純粋培養で育った汚れを知らぬ、やんごとなき貴人って、あんな風なんだろうな~。美しく甘い蜜をたたえた花には、必然的に虫が寄ってきます。最悪の害虫がワーグナー。有名な音楽家が、あんなにズルい卑しいおっさんだったとは!見事なまでの寄生虫っぷりでした。愛人のコジマとグルになってルートヴィヒにタカる姿、醜悪だけど何か笑えました。

 ルートヴィヒが精神を蝕まれていく姿を、時間をかけて描いています。4時間近くあるので、集中力のない私は一日1時間ずつ観る、という連続ドラマ方式で観ましたどうしてルートヴィヒが狂ってしまったのか、はっきりとした原因とかは明らかにしてません。突然の死も、いったい何が起こったのか不可解なまま。そういう謎めいたところも、ルートヴィヒの悲しさ、魅力です。もともと精神疾患だった?とは思われますが。呪われた家系、というのも耽美的な設定。ルートヴィヒの弟王子が可愛くて(ちょっとスカーレット・ヨハンソン似?)可哀想だった。あの発狂を目の当たりにしたら、ルートヴィヒじゃなくても不安と絶望のどん底に陥りますよ。

 ヴィスコンティ監督といえば、やはり男色も欠かせません。ルートヴィヒも、女を愛せない男色家。美青年な侍従や将校や俳優を、妖しく寵愛するシーンが腐には嬉しい。男たちの乱交パーティっぽい宴は、「地獄に堕ちた勇者ども」でもありましたね。ルートヴィヒの発狂は、この男色も関係あるのではないでしょうか。美青年を愛する時のルートヴィヒは、いつも苦悩と苦痛と恐怖に満ちていて、ちっとも幸せそうじゃなかったし。鬱屈した現実から逃避したい気持ちは解からんでもなかったが、税金を浪費するのはいただけません。私がバイエルン国民だったら、あんな国王イヤです。
 ルートヴィヒ役は、ヴィスコンティ監督の寵童だったヘルムート・バーガー。

 オーストリア人のヘルムート、ハリウッドやイギリスのイケメンとは、かなり毛色が違う美男子です。冷たくて厳めしい美貌というか。たま~に北村一輝、目の錯覚でヒロミ!に似て見えたりした鉄腕アトムみたいな髪型も印象的です。晩年のルートヴィヒを演じてる時のヘルムートのほうが、若いルートヴィヒの時よりカッコよかった。シブくて端麗な紳士っぽくて。ヴィスコンティ監督作品で魅力のすべてを出しきったのか、監督亡き後は凋落してしまったヘルムートですが、「サンローラン」など最近また映画にも出るようになってるみたいですね。本国オーストリアでは、毒舌おじさんとしてTVのバラエティで人気者らしいと聞いて、何か切なくなりました。

 ルートヴィヒが唯一愛した(あくまで精神的な愛ですが)女性、オーストリアの皇后エリーザベト役のロミー・シュナイダーの美しさ、存在感にも圧倒されます。気高く威厳がありながらも、軽やかに愛らしく小悪魔的でもある貴婦人役なんて、卓越した演技力や壮絶な女優魂があってもできない役です。宝塚の舞台でも人気のヒロインとなったエリーザベトは、女優なら誰でも憧れる役でしょう。審美眼が高く厳しいヴィスコンティ監督にも絶賛されたというロミーの大女優ぶりこそ、この映画最大の見どころ、魅力かもしれません。奇しくもロミーは、若い頃に自分を人気アイドル女優にした「プリンセス・シシー」でも、エリーザベトを演じてましたね。まさに彼女にとっては、運命の役。華やかな人生、そして悲劇的な最期も、ロミーとエリーザベトは共通していて、大女優と皇后の不思議な因縁もまた映画的です。
 イタリア語に吹き替えられてたのが、ちょっと残念でした。ハリウッド映画で舞台がドイツやフランスなのに、みんな英語を喋るのはまあ仕方ないとして、せっかくヘルムートもロミーも、そしてルートヴィヒを支える軍人役のヘルムート・グリーム(「地獄に堕ちた勇者ども」ではクールな悪役を好演してましたね)も、母国語がドイツ語なのに。彼らがドイツ語で演じたバージョンが観たかった。
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年下の間男と…

2016-03-16 | 韓国映画
 「ハッピーエンド」
 リストラで無職となったミンギは、再就職活動にも身が入らず、生まれたばかりの娘の世話をしながら無気力に過ごしていた。夫の代わりに働いているボラは、昔の恋人イルボムと甘い逢瀬を重ねていたが…
 映画に関しては、近年では韓国のほうが(すべてとは言いませんが)日本よりすぐれているのではないでしょうか。最近の邦画は、もっぱら子ども、スウィーツ、ジジババがターゲットになっていて、どれにも当てはまらぬ私には嘆かわしい現状にあります。一部の秀逸な韓国映画は、邦画が失って久しい生臭さ、激情、悲痛さが内容にも場面にも満ちていて、強烈なインパクトを残すことも少なくない。この、韓国映画ファンの間では伝説となっている作品も、そのひとつです。
 まずこの映画、エロいです!これ、私にとっては最重要ポントなので!色気のない映画や俳優なんて、つまんないもんね。韓国映画で最も期待できるのは、生々しいエロさ。邦画ではもう見られないスゴい濡れ場、しかもそれを有名な人気スターが果敢に挑戦している、というのが韓国映画最大の魅力。よくやるな~と呆れるほどの魅了された性交シーンを、あまた見てきましたが…最も印象に残っている情交といえば、やっぱこの映画のそれなんですよね~。
 濡れ場じたいは、そんなにたくさんありません。冒頭と中盤の2回ほど。でも、その分1シーンがコッテリ濃厚でウェット。そんなシーンを見るたびに思うのですが…どうやって撮影してるんでしょう?ほんとにヤってるとしか思えないんですよね~。あの体位、あのアングル、あの動き、あの部分の密接…リアルな営みだけど、AVのようなただもうズコバコな雑な本番感ではなく、激しく生々しくも美しく撮られているのが、高度な演出と演技の成せるわざでしょうか。
 かつてのにっかつロマンポルノを彷彿とさせる雰囲気が好きです。ロマンポルノと大きく異なる点は、あくまで女優メインなロマンポルノに対して、韓国エロスは男優にも美しさ、色気を求めているところ。この映画で濡れてる男優も、すごいエロいですよ~。しかも、超イケメンです!韓国映画の素晴らしいところは、まさにここですよ。いろんな人気イケメン韓流男優が、すっぽんぽんになってアンなことコンなことしてきましたが、my best of 韓流濡れ男は今のところ何といっても、この映画のチュ・ジンモなんです。

 オットケ~!ジンモ~!あんた、ホントいい仕事したよ。当時は売り出し中の若手だったジンモですが、その勇気と役者魂を心から讃えたい。日本の若い男優には、まずできない大胆さに瞠目。とにかく彼、エロいです!ムチムチ(ムキムキじゃない)太い厚いマッチョな肉体美と、ツルツルではないちょっとザラっとした粗い浅黒い肌から、若い男のフェロモンがダダ漏れ。女を攻める動きが、上も下もディープで激しい!
 特に、ぐわんぐわんと動く腰とケツは、乙女淑女には正視不可能!ジンモのデカい厚いケツに女が指を食い込ませ、もっともっと動くよう催促するところが、淫らすぎて…男の下で上で快楽に乱れながら、『あなたのカラダが好き』と呟くヒロイン。確かにあんなジューシーなカラダの男、いちど味わったらヤバイいクスリみたいにハマりそう。とにかく、ジンモはスゴい役者!と、この映画だけで私は太鼓判を押せます。エロは最初で最後かと思いきや、後年ジンモは「霜花店」で再び仰天の濡れ場(しかもBL!)を見せてくれましたね…人気ドラマ「奇皇后」で初めてジンモのファンになった乙女淑女が、彼の濡れすぎた不倫とBLを見たら、ショックで卒倒するかもしれない。

 圧巻の脱ぎっぷりと濡れっぷりでしたが、年上の人妻に対する狂おしい恋も、オーバーではなく抑え気味に、だからこそちょっと不気味さヤバさがそこはかとなく出ていて、内面演技もなかなかのものなジンモです。ヒロインに翻弄され、一喜一憂する様子が何だかデカい仔犬っぽくて可愛かった。ちょっとオタクっぽいキャラ&服装でモサい男を演じてますが、カッコよさは全然隠せてません。あんな愛人、心の底から欲しいです私なら、あんな夫はポイ捨てしてジンモのもとへ奔りますよ。

 主人公の夫婦ボラとミンギを演じたのは、韓国を代表する名女優チョン・ドヨンと名優チェ・ミンシク。
 カンヌ女優賞を受賞した「シークレット・サンシャイン」のチョン・ドヨンも素晴らしかったけど、この映画の彼女も女優魂を炸裂させてます。大物女優なのに、大胆すぎる脱ぎっぷりに拍手。大したことない女優にかぎって、脱ぎ惜しむものなんですよね~。巧いな~とうならせてくれる表情をよくするのですが、特に秀逸だったのは ストーカーっぽく執着してくるイルボムに対して見せる、狂おしく愛される歓びと疎ましさからくる嫌悪感が入り混じった、何とも言えない複雑な表情。あれ、生半可な女優ではできない表情ですよ。ボラの浅はかさ、狡さ、満たされなさも、ああ女だな~と悲しい共感を抱かせてくれます。
 「オールド・ボーイ」での狂気的な激演が有名なミンシク氏ですが、この映画の彼のほうが怖いかも。フツーの冴えないおっさんが、愛ゆえにじわじわとダークサイドに堕ちていく過程を、静かに悲しく怪演してます。ボラとミンギの夫婦の間にある埋めがたい溝が、なにげないシチュエーションや台詞であぶり出されていたのも怖かったです。憎悪や嫌悪よりも、無関心と軽蔑のほうが辛い、傷つくよな~と、どうでもいい人扱いされるミンギを見てて思いました。
 ぶっちゃけ、物語じたいは懐かしのウィークエンダーで取り上げられるような、三面記事的な男女の痴情のもつれなのですが。演出と演技しだいで、生々しい人間ドラマに仕立て上げられるのですね。男たちを傷つけ追いつめたボラが迎えた末路は、あまりにも残酷で無残なものとなりましたが…男たちに狂おしく濃密に愛された彼女は、女冥利に尽きる人生だったのでは。何だか羨ましいような気持にもかられてしまいました。

↑↓イケてるジンモの画像、集めてみたニダ!

 長髪のジンモもチョアチョア~
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イケメンすぎる事件記者

2016-03-14 | 日本のドラマ(単発)
 松本清張スペシャルドラマ「黒い樹海」を観ました~。
 長野で起こったバス事故で、文化部記者の姉・信子を喪った祥子。自分に黙って信子が長野へ行った理由を知りたい祥子は、姉が担当していた有名人たちに疑念を抱く。元事件記者の吉井と協力して真相を探る祥子だったが、有力な情報を持つ人物たちが次々と殺害され…
 2夜連続の2本立てだったのですが、第一夜の「地方紙を買う女」は、主演の田村正和の何を言ってるのか分からない老人っぷりが見るに耐えず、途中リタイア。第2夜は、ちゃんと最後まで観ました。
 「黒い樹海」、今まで何度も映像化されてる清張作品ですが、ちゃんと観たのは今回が初めて。こんな話だったのか~と、悪い意味で驚きました。そんなことで連続殺人すんのかよ?そんな理由で殺されちゃったのかよ?と、ただもう呆れるばかり。魅惑的なタイトルからは、もっと憎悪と欲望にまみれたドス黒い人間関係や、恐るべき社会の暗部、心の闇、その中で樹海を彷徨うように真実を求めるヒロイン、みたいな話を期待してたのですが。犯人の正体も殺人の動機も、大それた犯罪にしてはセコいというか小さいというか。いま流行りのゲス不倫の発覚を防ぐためだけで、捕まったら死刑確実な連続殺人なんかするもんでしょうか。ベッキーが観たら嗤うよ。
 もっと危険な目に遭ったり、満身創痍になって闘い傷つきながら真実にたどりつくヒロイン、にしてほしかったです。事件解決も、別にヒロインが暴くって展開ではなく、犯人が勝手に暴走、自爆しただけだったのでガクっ。脚本と出演者の演技も、軽すぎ。もっと暗い重いシリアスなドラマにしてほしかったけど、土ワイや相棒や科捜研の女が好きなジジババ向けなので、そこはまあ仕方がない。
 スペシャルドラマなのに、驚くほどフツーに土ワイな内容でした。スペシャルだったのは、フツーの土ワイには絶対出ない(今のところは)人気女優と人気男優が主演だったことです。二人が土ワイしてたのが、新鮮といえば新鮮でした。
 ヒロイン祥子役は、つい最近結婚したことも記憶に新しい北川景子。

 男優には超甘いのに女優には鬼な私。でも、景子ちゃんは好きなんですよ昔から。最近の女優、女性タレントって、見てると返って疲れる元気健全娘とか、いい年してクニャクニャしてたり少女もどきなブリっコとか、カッコいい女気取った不自然サバサバ、のどれかじゃないですか。どれも私、苦手なんですよ。景子ちゃんは、どれにも当てはまらない、理想の女性らしさなので好き。もちろん、すごい美人だし。華やかな美貌と相反する静かな、ちょっと暗めの演技も悪くなかったです。うるさいくらいな過剰演技、私うまいでしょ!熱演してるでしょ!見て見て見て!な押し付けがましさがないところにも好感。
 でもね~。景子ちゃん、やっぱ祥子役には美人すぎます。あんな文化部記者、いませんよ。決してゴージャスな服は着ないけど、すご~くオシャレで高級感あるファッション、いつもセット仕立てみたいな髪型、完璧なメイクとか、まさにTHE 女優だったし。彼女が姉と住んでた目黒区のマンションも、記者が住めるの?!な部屋だったし。天井の照明みたいな時計が素敵だった。契約で雇われた見習い記者が、すぐに有名人のコラム担当になるのも変だった。あまりにも美人すぎて、スケベなセレブ役の沢村一樹や六平直政に狙われるのは、説得力ありました。景子ちゃんにビンタされて悦ぶ変態ドMなムーさんが笑えた。沢村一樹、久々に見たけど老けたな~。顔がシワクチャだった。
 景子ちゃんも美人すぎですが、吉井役の向井理もイケメンすぎます。でも好き!ムカイリー大好きこのドラマを観たのは、言うまでもなく彼が目当てです♪

 相変わらずスラ~っとしたスタイル抜群の長身、そして超小顔!黒づくめの衣装も、スタイリッシュでカッコいい!彼ってほんと、何着ても似合ってて(時代劇以外は)オサレですよね~。でもね~。ムカイリーみたいな記者も、景子ちゃんみたいな記者以上にいねーよ!もっとボロボロでしょ、男性記者って。あんな体臭もなさそうな爽やかで清潔な風貌、シワもヨゴレもない新品みたいな、どこのブランド?っぽい服着てる記者、ありえません。リアリティゼロです。
 ムカイリーは、本当にカッコいいんだけど…ハズレな役だと、とたんに大根が露見しちゃうんですよね~。ダークで怪しい演技も、とってつけた感じで不自然。そもそも、怪しい役ができないムカイリーの演技力不足以上に、あの役を怪しく見せようとした強引な脚本が悪い。準主役なのに印象薄すぎなムカイリーも、相変わらずでした。彼、ちょっと前にも松本清張原作のスペシャルドラマに主演したけど、あれもヒドい内容、ヒドい演技でトホホだったよな~。彼もいよいよ正念場だと思う。もう青年役は無理、とはいっても大人の男を演じられるような成熟も色気もまだないし。「遺産争族」の悪賢い裏表のある役がハマってたので、同じ清張作品なら「わるいやつら」とか「夜光の階段」の主人公役をやったらいいと思います。冷酷でブラックな役に本格的に挑戦して、役者開眼してほしいものです。
 脇役では、ムーさんの他にも麻生祐未とか尾美としのりとか、もったいないほどのチョイ役。「遺産争族」を観てた人には、ムカイリーと室井滋、鈴木浩介が再び絡むシーンにニヤリ、だったのでは。室井滋の無残な殺され方、何か笑いを狙ってたとしか思えなかった。古田新太のオネエな華道の家元とかも笑えたけど、コミカル風味は松本清張には合わないと思う…
 北川景子と向井理がモダンすぎるし、昭和臭プンプンな清張作品を現代にアレンジするのは、ちょっと無理があるとも思いました。そーいえば。景子ちゃんとムカイリーって、「パラダイス・キス」で共演してましたね。あれもかなりのトホホ映画だったな~。
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アイルランドの夏⑧ Slán, Éire!

2016-03-06 | 旅行、トレッキング
 いよいよというか、やっとというかアイルランド最終日。トリニティカレッジ内のカフェで朝食。美味しいアイリッシュブレックファストも、これで最後…と、たくさん皿に盛ってレジに(セルフサービスです)。支払おうと財布を開けると、げっ!空港までのバス代しか入ってなかった!ど、どうしよう!クレジットカードOK?とオズオズ訊くと、レジのおばはんは怖い顔でNO!仕方なく、なけなしのお金で朝食を食べたのでした。
 朝食を食べ終えると、トリニティカレッジのすぐ近くにあるアイルランド銀行(元は議事堂で、なかなか壮麗な建物)のATMへ。海外のATM利用なんて初めてで、うまくいくか心配だったのですが、すんなりお金おろせてホッ。 帰宅準備バッチリ。寮を出ると、宿泊初日に出会ったブラジル人の青年とばったり。別れの握手、また来てね!と優しい笑顔の彼。いい人だな~。海外で親切にされると、ひときわ心に沁みます。
 オコンネルストリートから、ダブリン空港に行くバスに乗ります。満席、ていうか、席に荷物置いてる人が多すぎ。海外に行くたびに痛感しますが、日本人的なエチケット感覚は通じないんですよね~。遠慮して損するほうがバカ、まず自分、みたいな考えと行動。ある意味見習いたいとさえ思うわ。
 ダブリン空港のエミレーツ航空カウンターで、搭乗手続き。エミレーツの航空機の客室乗務員もアレでしたが、ここの女性職員も相当なものでした。私、いちおう客なんだけど…質の悪い接客は、本当に嫌な気持ちになります。エミレーツ、もう二度と利用しません…
 アイルランドでは、付加価値税(VAT)という税金があるのですが、EU諸国以外の旅行者にはEU圏外に出る時に払い戻ししてもらえます。店でホライズンカードというカードを発行してくれて、以後買い物のたびにそのカードを出せば情報を入力してくれ、最後にまとめて払い戻ししてもらえる、というシステムです(カードを受けつてない店もあり)。端末登録をする必要があるので、私もダブリン空港のロビーにあるインターネットで登録。登録じたいは簡単で、ササっとできます。登録したら、空港内にある払い戻しデスクへ。職員のお兄さんが、テキパキと手続きしてくれました。払い戻し手続き、めんどくさいし、大した額が戻ってくるわけではないけど、まあこれも旅の体験。

 13時50分に、私を乗せた飛行機はダブリンからテイクオフ。名残や寂しさよりも、ああ日本に帰れる~という喜悦のほうが強かったです。飛行機内では、ブラッドリー・クーパーの「Aloha」とピエール・ニネの「Un homme idéal」を鑑賞。
 ドバイ到着、夜中の0時30分。アイルランド時間は21時15分、なので約7時間半のフライト?しんどい…けど、まだ帰路半ば。真夜中でもにぎやかなドバイ空港。また同じ店でスムージーを買って飲みました。りんご、セロリ、にんじんをミックスしたスムージーは、甘酸っぱくて美味しかったです。もうウロウロする気力も残ってなかったので、出発ゲート近くの椅子に座って半分寝てました。
 3時、ドバイ出発。もう機内で何かあったか記憶してないほど爆睡。気づけば関空に着いてました
 やっぱ日本がええわ~と、飛び交う日本語、日本の風景、日本人が疲れた私に安堵をもたらします。1週間ほどしか留守にしてなかったのに、何だか日本は涼しくなってました。同じ夏の終わりでも、やはり海外と日本では気候だけでなく風情が違います。その夜は、久々に大阪の友だちと会って、旧交を温めました。繰り出した大阪の夜の街。どこへ行っても、たいていの日本人は丁寧で親切。アイルランド人も冷たくて素っ気なかった、というより、海外ではどこへ行っても優しくしてもらえない私のほうに問題があるんですよ、たぶん、きっと
 朝、友だちの部屋を出て、高速バスに乗るため大阪駅へ。その時にはデジカメはあったので、紛失したのは大阪から広島に戻るバスだと確信してるのですが、バス会社に問い合わせても忘れ物なんかない、の一点張りでした…お母さん、僕のあのデジカメ、どこに行ったんでしょうね…
 想定外にダラダラと引っ張ってしまった旅行記、これにて終了♪お目汚し、ありがとうございます
 さて。次はどこへ行こっかな。ミャンマーかベトナム、こないだ向井理の旅行番組を観て、キューバもいいなと思ったが、遠すぎるかな~。ロンドンにもう一度行ってみたい。でも今いちばん行きたいのは、別府杉乃井ホテルです
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百合よりも薔薇が好き

2016-03-04 | 北米映画 15~21
 「キャロル」
 50年代のニューヨーク。デパートの販売員テレーズは、美しい人妻キャロルに魅了される。ひょんなことから、二人は急速に親しくなっていくが…
 去年のカンヌ映画祭や、今年のアカデミー賞でも話題となった名匠トッド・ヘインズ監督の新作。
 「エデンより彼方に」「ミルドレッド・ピアース」など、生々しく毒々しい女の苦悩や苦難、性をメロドラマティックに甘美に描く、というヘインズ監督の手法、手腕に、今回も濃密な時間を堪能することができました。とにかく、二人のヒロイン、キャロルとテレーズが魅力的、かつ女の悲しさ、身勝手さ、愚かさ、怖さも備えて畏怖、ドン引きもさせてくれます。
 まず、ブルジョア熟女の人妻キャロル。優雅でゴージャスなマダムのファッション、オーラ、貫禄に圧倒されます。そして、一目で気に入った女の子にロックオン、さりげなくもねっとりと口説く、狙った獲物は逃がさないラブハンターぶりには、姐さんやるな~と感嘆。イヤですダメですと拒絶できない強い光、力がみなぎってましたよ。夫も子どももいるけど実は同性愛者のキャロル。でも、隠れキシリタンのようにコソコソ、オドオド秘密にしたり後ろ暗げに行動なんてことはしない。元カノと仲良くしてたり、テレーズに迫ったり、レズで何が悪いの!な誇り高い態度がカッコいい。彼女の深い苦悩も、自分自身がレズであることではなく、正直に生きることを受け入れてくれない社会に対しての怒りによるもの。後ろ指さされようと、理不尽な苦境に立たされようと、絶望とか罪悪感とか自己嫌悪などでヨヨヨと挫けたりせず、自分を偽らず闘おうとする不屈さは、まさに男気、いや、女気?な戦士のようでした。

 キャロル役でまたまたオスカーにノミネートされた、今や泣く子も黙る大女優ケイト・ブランシェット。とにかく彼女、威風堂々としてて威厳がある!嫋々とした女の色気がなく、ニューハーフっぽい顔とガタイは、レズのタチ役にはピッタリでした。彼女のマダムファッションも華麗で目に楽しいです。ブランシェット姐さん、同じヘインズ監督の「アイム・ノット・ゼア」では男の役(ボブ・ディラン役)だったのも思い出されました。
 テレーズ役は、カンヌ映画祭ではブランシェット姐さんを押しのけて女優賞受賞、オスカーにもノミネートされたルーニー・マーラ。可憐!清純!優しく内気で受け身なテレーズのキャラも、言えないよね~断れないよね~傷つけたくない嫌われたくないもんね~と、共感だらけでした。ただ可愛く優しいだけの娘ではなく、傷つけるのはイヤだけど傷つくのはかまわない、という情熱や強さを内に秘めていたのが、すごく魅力的でした。キャロルに魅せられ迫られてる時の、緊張感あるときめきの表情が秀逸すぎ。ダークヒロインを激演してオスカー候補となった「ドラゴン・タトゥーの女」とはうって変わった役を好演したルーニー、やはり凡百の女優ではないですね。ラブシーンでは、堂々とヌードにも。30代であの少女っぽさも驚異です。彼女が着てた服とか帽子、いま着用してもオシャレかも。めくるめく愛の歓びと哀しみを味わい、傷ついたぶん勇気と強さを得て美しく成長するテレーズは、ある意味キャロルよりもこの映画のヒロインっぽかった。なので、ルーニー・マーラがアカデミー賞で助演女優賞候補だったは、ちょっと???でした。どう考えても主演なんだけどなあ。大人の事情でしょうか。

 女同士のラブシーンが、ちょっと私にはキツかったです。思ってたより濃厚だったので…やっぱ私、筋金入りの腐だわ~と痛感しました。これが男同士だったら萌えまくってだろうから私、どんな絶世の美女が目前に現れても、たぶんテレーズみたいに恋に落ちたりはしないだろうし、当然のことながら美しいレズ熟女が私に関心を寄せることなども絶対にない。女同士の愛には無縁だな~。薔薇は好きだけど百合は苦手、というのも、ある意味性差別なのかもしれませんね。
 今でこそLGBTは市民権を得ていますが、50年代で同性愛を貫くのは、本当に至難だったことでしょう。当時キャロルとテレーズのような決断と勇気を示した人たちの苦闘や努力が、今のLGBT権利獲得の礎となっているのでしょう。それにしても…キャロルの旦那さんとテレーズのボーイフレンドが、ちょっと可哀想だったかも。彼らのこと、狭量!とは責められないものがありました。フツーに善い人たちだったし。怒ったり反発したりするのは、むしろ当然のことではないでしょうか。ヒロイン二人よりも、傷ついて悲しんだのは男たちのほうです。愛のためなら、女のほうが男より冷酷になれるんだよな~。女って強い!怖い!と、あらためて思いました。
 キャロルとテレーズのファッションだけでなく、デパートとか街並みとか家のこまごまとしたものにも、古き佳き50年代アメリカの雰囲気が出てて、手抜きがなかったです。粉雪降るクリスマスのドリーミーさも、物語を美しくする手助けとなっていました。あれがもし冬じゃなくて夏だったら、また全然ちがった感じの映画になってたでしょう。
 
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美しすぎる殺人鬼!

2016-03-03 | フランス、ベルギー映画
 「死への逃避行」
 老探偵“鷹の目”は、ある女の素行調査を依頼される。その女カトリーヌは、金持ちの男を誘惑しては殺してヨーロッパを転々としている殺人鬼だった。いつしか“鷹の目”は、カトリーヌに亡き娘を重ね始めて…
 世界には素晴らしい女優がキラ星のごとく犇めいていますが、私にとって永遠不変の絶対的女優、映画の女神といえば、今も昔もイザベル・アジャーニなのです。数々の作品で、その唯一無二な美貌と演技でファンを圧倒、魅了してきたイザベルですが、代表作「殺意の夏」と同年に出演したこの異色作の彼女もまた、神がかり的な美しさと憑依的な演技を披露しています。全出演作中、最も美しいかもしれないイザベルです。

 イザベル・アジャーニといえば、強く深い愛ゆえに狂気の淵に落ち、破滅してしまうヒロイン。イザベル・アジャーニにしかできない、許されないヒロインばかりです。他の女優、フツーにきれい、フツーに演技が巧い女優が演じたら、とても見てられない滑稽で醜悪な女になってしまう役(「アデルの恋の物語」のストーカー娘、「ポゼッション」の化け物とセックスするき○がい人妻、「王妃マルゴ」の血まみれ淫乱王女etc.)も、この世のものとは思えぬイザベルの清冽、鮮烈な美貌とシャーマニックな演技で、魅惑のヒロインになってしまうのです。

 この「死への逃避行」のイザベル・アジャーニも、彼女ならではのヒロイン。女殺人鬼、という異常な役なのですが、アメリカの映画やドラマに出てくるステレオタイプなサイコ女とは一線も二線も画しています。まず、とにかく、美しい!!ちょっとね、ほんとにね、美人ともてはやされてる今の人気女優とは、美の質が違うんですよ。神秘的、というのが一番ぴったりな表現かも。神秘的に美しい女優なんて、今いないですよね~。謎とか秘密という言葉が、これほど似合う女優もいない。

 彼女を見るたびに、いつも思ってしまう。神さまが、一世紀に一人か二人、天工の美女を地上に生ませて、人間の中でどんな生涯を送るか試しているのでは…と。イザベル・アジャーニの美しさは、でも天恵というより呪いに近いかも。美貌ゆえに、フツーの人のような幸せには縁がない、フツーの人より悲運や不幸に愛される、そんな美しさ。ゆえに幸せになれない、幸せが似合わない。殺人鬼カトリーヌと大女優イザベル・アジャーニがシンクロする。クロード・ミレール監督の脚本、演出もまた、現実に背き、ふわふわと異郷を彷徨っている妖精、というイザベル・アジャーニのイメージを大切にしています。ゆえに、ファンの間で評価が高い作品になっているのではないでしょうか。

 殺人のたびに、名前やファッション、髪型や髪色、瞳の色、キャラも変えるカトリーヌ。イザベル・アジャーニの華麗なる七変化も楽しめます。レズシーンまであり。焦点の定まっていない瞳も、相変わらずヤバくて美しい。カトリーヌも狂気のヒロインですが、いつもの激情型とは違い、抑え気味な演技は不穏で不気味です。殺人鬼なのに、すごく可憐で清純なところもイザベル・アジャーニらしい。すご~く儚げであどけないんですよ。父親への失われた愛が狂気の原因、というのは「殺意の夏」と同じ。幼児退行的な表情と仕草は、ヤバいほど可愛いです。実生活では、お父さんとすごく仲がよかったというイザベル。愛するお父さんが他界した1983年は、「炎のごとく」「殺意の夏」そしてこの「死への逃避行」と、まるでパパ追慕みたいなファザコンヒロインばかり演じてます。お父さんへの想いを、少女みたいな純真で思いつめた演技へと昇華させたイザベルは、やはり天性の女優。同時に、哀しみや痛みさえも演技に反映させてしまうという、女優の業の深さに畏怖してしまいます。

 この映画、決してコメディではないのですが…何かクスっと笑えるシーンが多いんですよね~。それはたぶん、主演の故ミシェル・セローによるところが大きい。名作「Mr.レディ、Mr.マダム」など、フランスの名優にして名コメディアンでもあったセロー氏なので、そこはかとなくコミカルなんです。殺人鬼カトリーヌよりも、ある意味ヤバい人である“鷹の目”を、怖いというより滑稽に演じてます。いつしか亡き娘と見なすようになったカトリーヌの犯罪の証拠隠滅、死体処理までやり始め、パパが守ってあげるからね♪と、こっそり執念深くカトリーヌを追っかけ。カトリーヌが盲目の男と本気で愛し合う仲になると、激しく嫉妬。俺の娘に近づくなー!とプッツンして、男を殺しちゃったり。カトリーヌの恋人が“鷹の目”に突き飛ばされてバスに轢かれて死んじゃうシーン、これって非道い!んだけど、笑えるシーンでもあるんですよ。ヤバっ!と我に返り、盲人のフリしてシレっと逃げちゃう“鷹の目”。毒があってスットボけてるという珍妙さを、フランスの名優らしいエスプリ風味で名演してるセロー氏が味わい深いです。

 ブリュッセル、バーデンバーデン、ローマ、ニース。カトリーヌと“鷹の目”が転々とするヨーロッパの風景も、美しく旅情に満ちてます。
 「なまいきシャルロット」や「小さな女泥棒」など、シャルロット・ゲンスブール主演の佳作で知られるクロード・ミレール監督。フランソワ・トリュフォー監督っぽい作風が好きだったので、亡くなったというニュースはすごく悲しかったです。
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