まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

君の拳に恋してる

2023-11-19 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 秋の夜長の国際BL映画祭④ ニュージーランド
 「Punch」
 ニュージーランドの田舎町で父スタンと暮らす高校生のジムは、元ボクサーであるスタンの厳しい指導を受けながら、ボクシングのプロテストに向けトレーニングを重ねていた。そんな中、学校で変わり者扱いされているゲイのウェトゥと親しくなるジムだったが…
 ニュージーランド映画も普段あまり観る機会がありません。同じ田舎の風景でもニュージーランドは、イギリスやアメリカといった馴染みのある国と違い、どこか原始的な趣きが感じられました。お隣のオーストラリアは明るく開放的なイメージですが、ニュージーランドはどこか寂寥とした閉塞感が。ニュージーランドにはカンガルーもコアラもいないんですね。

 BLが特殊な恋愛じゃないのはフィクションの中だけで、今も現実では人間として異常な誤った“逆さまの世界”と見なされているのではないでしょうか。私の周囲でも、おじさんとかおばさんは平然と当たり前のように、女性っぽい人を“おかま”呼ばわりしたり、ホモとか気持ち悪いなんて言ってますし。この映画でも、同性愛、というか、自分たちとは相容れない、自分たちの理解を超えた価値観を持った人に対する無知な凡人たちの差別偏見と迫害が、あまりにも低能かつ暴力的で戦慄。心が貧しいと、人間が狭くて卑しくなってしまう怖さ。そうならないためには、もっと視野を広げて勉強しなきゃいけないと、あらためて痛感しました。

 異性愛者、もしくは白人なので自分たちは正しい、同性愛者、もしくは有色人種は異常かつ汚いので自分たちより下、なので虐げたり排除してもいいという、もうおなじみかつウンザリするような低能すぎる差別主義者が大手を振るってる国に生まれなくてほんとよかったと、この映画を観ても思いました。ニュージーランドも差別偏見がかなりキツくて野蛮。驚いたのは、女の子まで積極的にウェトゥをいじめてたこと。女の子があんな風にゲイに対して悪意ある言動をするシーンってあんまり見たことがないので、ちょっと衝撃的でした。

 いじめに屈せず、堂々と自分らしさを貫くウェトゥの誇り高さと勇気は称賛に価しますが、ちょっと自分らしさを貫きすぎというか、意地になって開き直ってる言動は挑発的で露悪的でもあって、不快感や反感を買うのも仕方がない部分が。自分に正直に生きることは大切、私も見習いたいけど、遠慮とか慎ましさといったものも失いたくないと思いました。学校ではヒエラルキーの上層部にいて、男女の取り巻きに囲まれ、将来はプロボクサー、という勝ち組DKなジムが、ウェトゥとの関りを通して本当の自分、本当に望んでいる生き方に気づかされるのですが、イジイジコソコソ独りで悩んで葛藤してるだけで、愛のために闘う姿勢はあまり見せなかったのが、ちょっと物足りなかったです。あんな田舎ですべてを失う覚悟でカミングアウトは、まあ確かにリングの上で戦う以上の不安と苦痛でしょうけど…

 最後の最後になって、ついに結ばれるジムとウェトゥですが。それまでフツーの友だちレベルな感じだったので、いきなりセックスとか唐突感が。そこに至るまで、互いに性的な欲望を抱いてしまう戸惑いや焦りなどの描写が、もっときめ細やかにあればよかったのですが。セックスシーンは、大胆だけど全然イヤらしくありません。あんな真昼間のビーチで全裸で絡み合うとか、羞恥心も人目を気にすることもないアオカン、私には無理ジム役のジョーダン・オオスターホフは、マット・デーモン+日本ハムの清宮、みたいな顔?小柄なゴリマッチョ。脱ぎっぷりがよく、すっぽんぽんになってビーチを走るシーンとかもありました。ウェトゥ役のコナン・ヘイズは、なかなかの美人さんでした。ジムのパパ役は、懐かしのティム・ロスでした。うらぶれたアル中の負け犬おやじっぷりが痛ましかったです。
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BLブートキャンプ!

2023-11-08 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 おほかたの秋をば憂しと知りにしをふり捨てがたき鈴虫の声

 深まりゆく秋、皆さまいかがお過ごしでしょうか。日中と夜との寒暖差のせいか、ちょっと風邪気味な私です。早く寝ればいいのに、チビチビと酒を飲みながら、大好きなBL映画で秋の夜更かしを楽しんでます。BL映画もいろんな国のものがありますね。各国のお国柄も楽しめるBL国際映画祭を開催しちゃいますよ(^^♪
 
 秋の夜長のBL国際映画祭① 南アフリカ  
 「Moffie」
 1981年、人種隔離政策下の南アフリカ。軍隊に徴兵された同性愛者の青年ニックは、目立たぬようにしながら過酷な訓練に耐え続けるが…
 普段あまり観る機会がない南アフリカの映画。ビル・ナイがオスカーにノミネートされた「生きる LIVING」のオリヴァー・ハーマナス監督作。
 軍隊って、BLでは人気のジャンルですよね。屈強なイケメンたちの、カッコいい軍服姿と美しい肉体。この作品もビジュアル的には、ミリタリーマニアな腐女子にとっては美味しい映画だと思います。ただ、かんじんのBLが、腐女子のニーズにあまり応えてないかも。男同士の恋愛や性愛シーンが、ほとんどないんですよ。同性愛そのものよりも、隠れゲイの目を通して描く当時の南アフリカ、その地獄のような軍隊生活と、セクシャリティや政治思想を表に出せない国で生きる恐怖や息苦しさをメインテーマにした映画かも。南ア出身でオープンゲイであるハーマナス監督が、主人公のニックと重なります。

 とにかく軍隊の訓練が過酷、ていうか異常!1981年って、そんな大昔じゃないですよね。ちょっと前まであんなことがフツーに行われていたなんて、ただもう絶句です。訓練なんかじゃない、ただの虐待でしたし。人権なんてないも同然。サディスティックな上官に、肉体的にも精神的にもコレデモカ!と虐げられ痛めつけられる若い兵士たち。私なら30分ももたずに死亡します。心身共に壊された兵士が、みんなの前で自殺するシーンは衝撃的でした。何事もなかったかのように訓練を続けるのも狂ってる。アパルトヘイトなんて信じられないことが長い間、堂々と行われていた南アフリカの、日本人には到底理解できない人権無視と人命軽視には、ただもう戦慄。

 白人たちの有色人種差別も非道すぎ。列車の窓からホームに立ってる黒人に罵声を浴びせ、汚物を投げつけるなんてことが嬉々として公然と。似たようなことは、今のアメリカでも起きてますよね。人種差別同様、性的マイノリティへの暴力的な嫌悪や排斥も異常。同性愛者だとバレたら人生終了、みたいな世情も。白人の異性愛者が、そんなにエラいの?自分たちの低能丸出しな蛮行を見ても何とも思わないのでしょうか。何とも思わないから怖いし、悲劇は終わらないんでしょうね。とにかく暴力的で理不尽な南アフリカ、徴兵や国境争いのない日本に生まれてよかった!と、心底思わせてくれるヤバい蛮国のひとつです。

 ニック役のカイ・ルーク・ブラマーが、なかなかカッコカワイかったです。ちょっとベネディクト・カンバーバッチに似てる?バッチさんを小柄にして可愛くした感じ?脱ぎっぷりもよく、細マッチョな肉体美でした。ニックと仲良くなるディラン役のライアン・デ・ヴィリアースも、なかなかイケメンでした。訓練が終わった野外の夜、濡れて冷えたニックをディランが温めるシーンが、ドキドキ胸キュンでした。二人とも裸、でも見つめ合ったり頬に触れる以外は何もしない、二人の秘めて抑えた想いがもどかしくて切ない。初めてのキスシーンも、軽くそっとだけどカップル成立!でキュンとなりました。後にゲイバレしたディランが、WARD 22と呼ばれる矯正施設送りになるのですが。この施設、ナチスドイツも真っ青な人体実験をしてたらしいですね。ラスト、除隊し再会した二人が海でハッピーエンド…と思いきや。そう簡単に恋人になれない、希望よりも絶望を感じさせる現実が、シビアな余韻を残します。

 ちなみにタイトルのMoffieとは、オカマ野郎とかいった意味の、ゲイに対する蔑称だそうです。ニックは英語を喋るのですが、他の兵士や上官はアフリカーンス語という英語と現地語が混ざった言語?で話していたのが興味深かったです。それはそうと。南アフリカ軍の軍服って、ちょっと可愛いかも。帽子とか女子が被ってもおしゃれかも。

 ↑ オリヴァー・ハーマナス監督の新作“The History of Sound”は、ポール・メスカルと「ゴッズ・オウン・カントリー」のジョッシュ・オコナー共演のBL映画!これは楽しみすぎるぞ!
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悪夢の帰宅

2023-07-12 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 夏のホラー映画祭②
 「Take Me Home」
 記憶喪失の青年タンは、病院で働きながら自分の出自を探っていた。そんな中、奇怪な現象で家族の存在を知り生家に戻ったタンは、そこで双子の姉タブティムとその夫、夫の幼い連れ子二人に出迎えられる。再会を喜びつつも、姉一家の異様さにタンは戸惑うが…
 タイのオカルト映画です。呪われた家、というのはホラーやオカルトの定番中の定番ですね。似たような映画や漫画たくさんあるので、設定や恐怖シーンに目新しさはなかったです。オカルトよりも、双子の姉タブティムの秘密と正体が怖くて気持ち悪かったです。

 あの豪邸の前の持ち主の呪いで、タンはこの世に存在していない者たち生前に繰り広げた惨劇を目の当たりにし、恐怖のどん底に…というのが大まかなストーリーだと思うのですが、後半になるとちょっと???な展開になり戸惑いました。生まれつき醜悪な奇顔だった姉は、記憶喪失になる前のタンの目の前で首つり自殺したはずだけど、タンが家に戻った時は美貌になってた。それは前の持ち主の呪いでしょうけど、姉の夫とその連れ子の双子はいったい何者?ラストは、幼い頃のタンの願い事が叶えられたということでしょうか。呪われたハッピーエンド?
 タン役のマリオ・マウラーが、なかなかカッコカワいいイケメンでした。

 小顔な童顔と長身で大柄な体格が、ちょっと大谷翔平に似て見えました。大谷くんをちょっと濃ゆくした感じ?タイ人にしては薄い顔で色も白く、腕の太さとかお尻のデカさとか非東南アジア的で、何となく西洋人っぽい?と思ったのですが、ドイツ人とタイ国籍の中国人のハーフだって。道理で。

 次々と襲い掛かるショッキングな怪現象に怯える顔、恥ずかしそうな笑顔も可愛かったです。脱いだらバキバキムキムキではないけど、ガッチリムッチリ分厚い感じで、私好みのカラダでした。オカルトの舞台となる豪邸の、見慣れた西洋や韓国のそれとは違う、東南アジアな造りやインテリアが珍しくて面白かったです。夜に起こる面妖なシーン、オカルト現象は怖くないけど、侵入者や気持ち悪い虫の気配とか蠢きとかは怖い!暑い真夏の夜は、いつもそれらに怯えて眠れない私です(^^♪
 
 
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男と男の夢芝居

2023-04-05 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 春のBL映画②
 「ソン・ランの響き」
 80年代のベトナム、サイゴン。借金取りをしているユンは、取り立て先で大衆歌劇団の役者リンと出会い、舞台での彼の演技に魅了される。ユンに反感を抱いていたリンだったが、酒場でのトラブルから救ってくれたユンと過ごすうちに、彼の優しさと孤独を知って…
 このベトナムのBL映画、想定外の佳作でした!BLとはいっても、男同士が愛の言葉を口にするわけでもなく、キスやセックスをするわけでもなく、一夜の静かな語らいで魂が触れ合う関係を築くといった、美しくも切ない精神的なボーイズラブストーリーでした。イケメンたちが狂おしく激しく心も体も燃やすBLも好きですが、こういうソウルフルなBLも素敵ですね。同性愛的なことは何もしないとはいえ、男女間の恋愛とは違う、惹かれ合う男と男の間だからこそ生じる胸騒ぎやときめき、とまどいは友情を超えた、まごうことなきBLでした。そのすべてが優しく繊細、そして悲しくて、しばらく心に残るラストの余韻でした。

 ユンとリンの間に芽生えて育った感情、そして交わす言葉や視線、表情はぎこちなくも微笑ましく、離れがたい、ずっと一緒にいたい、また会いたいという想いが強まり高まっていく様子は、静謐だけど濃密。まさに運命の恋人に出会った二人でした。同じ魂を分け合うこの世でただ一人の人って、男と女とは限らないんですよね。ユンはゲイじゃない(情婦?とセックスしてたし)ので、もしあのようなラストにならなければきっと、リンへの深まるだけの愛に悩むけど迷うことなく愛し続けるんだろうな、とか。リンはゲイなのかな?と思わせるものがありましたが、だからこそユンとどんな関係になっていくのか、二人の未来を想像(妄想)して幸せな気分になりたかったのに、ああ…(涙)

 ハッピーエンドだったら、よくあるライトでスウィートなBLものになってしまったでしょうけど、それでもいいから二人には幸せになってほしかったです。ユンのキャラや境遇でフラグはめちゃくちゃ立ってましたが、やっぱりそうなるか…な悲劇に嘆息。でもやっぱ、BLは不幸や悲しみにくるまれてこそ絵になるんだよな~と、あらためて思いました。

 歌劇と重なる男と男の愛、アジア、といえば名作「さらば、わが愛 覇王別姫」を思い出します。覇王別姫のような激情的でドラマティックで破滅的な大作ではないけど、このベトナム映画も甘美な夢を見た後のような余韻を残すという点においては、覇王別姫に引けを取るものではありません。覇王別姫みたいなクレイジーラブよりも、こっちのクワイエットラヴのほうが心に沁みるかも。とにかくユンが魅力的!腐にとってはキャラも見た目も理想の男!

 イケメンとか美男子ではないけど、いい男なんですよ~。寡黙で無骨、怒らせらたヤバい凶暴さを秘めてるけど、悲しいほどに優しくもある男。強くて優しいヤクザって、腐は大好きですよね。絡んできた酔漢たちを叩きのめしたり、役者として才能があることを信じさせてくれたり、ソン・ラン(ベトナムの民謡楽器)を美しく奏でたり、リンにとっては(腐にとっても)まさに王子さまみたいでもあったユン。その淡々とした孤独も、リンの乙女心?をくすぐる魅力に。リンがちょっとツンデレなところも、腐には胸キュン。二人が仲良くなるきっかけがファミコン(懐かしい)!クールで無表情のユンが、リンと一緒にゲームしてる時は子どもみたいに楽しそうで可愛かった。ファミコンシーンだけでなく、ユンが弾くソン・ランに合わせてリンが歌うシーンや、朝の窓辺シーン(ユンが買ってきた飲み物、あれ何?)とかも、かなりジワるシーンでした。

 ユン役のリエン・ビン・ファットは、ちょっとキム・ミンジュン+松山ケンイチ、を野生的に色っぽくした感じ?東南アジアの男前って、艶っぽいですよね~。色っぽいシーンは皆無だけど、肉体美は何度か披露してます。バキバキすぎないムキムキすぎない、しなやかに引き締まった美しいカラダでした。リン役のアイザックは、ニコラス・ツェー+窪塚洋介、みたいな美男子でした。
 80年代のサイゴン(現ホーチミン)の市井の生活風景も、情緒があって興味深ったです。ゴミゴミしたスラム街みたいなところに住んでるユンですが、部屋はシンプルでこざっぱりしてて、置物とか観葉植物とかアジアンなテイストがなにげにおしゃれ。ユンとリンが食べてた屋台の麺も美味しそうでした。ベトナムの大衆歌劇カイルオンは、中国の京劇を親しみやすいミュージカルにした感じ?ユンが弾くソン・ランの、はかなく哀しい音色も心の琴線に触れる美しさです。
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下宿人の誘惑

2022-08-12 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 夏のBL映画祭⑤
 「コバルトブルー」
 90年代のインド、ケーララ州。家族と暮らす作家志望の大学生タナイは、下宿人の男と恋に落ち彼との情事に溺れる。しかし男は、親が決めた結婚を嫌う妹アヌジャーを連れて姿を消してしまい…
 いっとき人気があったインド映画。恥ずかしながら、初めて観ました。インド人、やっぱ濃ゆいですね~。イケメンも美女も濃すぎて、胃に重い料理みたい。淡白な私には受けつけがたいものがあります。インド系でも、リズ・アーメッドとかコスティア・ウルマンぐらいの濃さなら丁度いいのですが。それはそうと。インドもちょっと前までは、LGBTに厳しい国だったようですね。90年代になっても同性愛は差別偏見の対象どころか正式に犯罪だった、とか信じがたい事実です。インドの人口を考えれば、当時もものすごい数の同性愛者がいたはずなので、彼らがすさまじい辛酸をなめたことは想像に難くないです。でもこの映画の主人公タナイは、そんなに深刻に苦悩してる様子もなく、何だか夢見る夢子ちゃんっぽくフワフワしてるんですよ。大学教授は彼に気があり、新しい下宿人の若い男とは恋愛関係に、とかゲイ遭遇率が高くない?そんなに出会えるもんなの?禁断の関係なのに、タナイと下宿人は結構おおっぴらにセックスしたりイチャイチャしたり、フツーならすぐバレるようなことばっかしてるので、表向きは厳しいけど意外と見て見ぬフリしてるユルさがインド社会にはあったのかな、とも思いました。

 しかしこの映画、ゲイの兄の恋人を妹が奪い家庭崩壊、という「想い出にかわるまで」も真っ青な結構なドロドロっぷり。タナイがさしずめ今井美樹で、アヌジャーが松下由樹、といったところでしょうかアヌジャーは見た目もキャラもボーイッシュ、美人だけどかなり男っぽく、いつも女の子とばかり仲良くしてて異性に興味がなさそう、結婚を死ぬほど嫌がってたこともあり、てっきり彼女も?と思い込んでしまってたので、唐突すぎる男との駆け落ちは腑に落ちないものが。下宿人の男とそんな感じ全然なかったし。兄と妹、両方を食った挙句に姿を消す下宿人の男、何者だったの?どういうつもりだったの?ただの無責任すぎるヤリチンバイセクシャル?とんだゲス野郎を下宿させちゃったものです。でも、彼に捨てられたことを機にタナイとアヌジャーは自由に生きる人生を選ぶことになるので、あの下宿人は古いものから解放される新しいインドを象徴する存在だったのかな。

 BLよりも、インドの風習や社会が興味深かったです。厳格で根強いカースト制度や家父長制、著しく軽視されてる女性の権利。とても近代社会とは思えません。古い因習に加え、同性愛は犯罪とするイギリスの植民地だった時代の悪しき名残など、インドの複雑さと歪みも垣間見えました。ファッションや食事など、これぞインド!でした。男性は涼やかで、女性は華やか。サリー着てみたい。料理が美味しそうでした。タナイ一家はわりと裕福だったこともあり、インドといえばの極貧風景はほとんどなく、舞台となったケーララはかなりトロピカルな南国風で、これもインドに抱いてるイメージとは異なってました。

 タナイ役の俳優はブサイクではないのですが、もうちょっと可愛いイケメンだったらと思わないでもなかった。名前不明の下宿人役の俳優は、英国俳優のエドワード・ホルクロフトを超濃ゆくした感じの男前で、肉体美をこれでもか!と見せまくってました。下宿人の職業は芸術家だったけど、芸術家が何であんなマッチョなの?男同士のラブシーンはソフト。湖のほとりでアオカンしてると象が現れるとか、インドでは当たり前のことなの?!まあ、熊が出てくるよりはいいのかな、でも象も怖いわ🐘
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ボーイズ LOVE LETTER

2022-07-29 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 夏のBL映画祭②
 「Snails in the Rain」
 80年代のイスラエル、テルアビブ。恋人と同棲中の大学生ボアズは、彼への恋心をつづった手紙を受け取る。それは同性からのもので、送られてくる愛の手紙はボアズの心を激しく乱すが…
 イスラエルも最近はLGBTに優しい国のようですが、かつては厳しく不寛容だったようです。この作品はBL映画というよりゲイ映画って感じ。中東の暑さの中でくすぶる男たちの情愛と肉欲が、こっちまで汗ばみそうになるほど濃密にねっとりと描かれています。
 男から男へのラブレターといえば。思い出すのは「三島由紀夫レター教室」です。小説の中でノンケ青年が人気ブサイク芸人からラブレターをもらい、その内容に心揺れるエピソード。自分自身のことはほとんど触れず、控え目ながらも真摯に情熱的に、ひたすら青年のことを賛美する愛の手紙に、キモい!と嫌悪を抱かない自分に戸惑う青年の心理が興味深いのです。青年をひそかに愛している熟女の、男色家のほうが女よりも男の弱みと泣きどころを掴んでいる、そして男はみんな自惚れ屋である、という分析には思わず膝を打ちました。この映画でも、同性からの詩的な愛の賛美にボアズは心揺さぶられ、周囲の男がみんな自分に熱い視線を向けているように見えてしまう彼の自意識過剰さは、まさに三島由紀夫の言う通りな男のメンタリティでした。

 同性からの愛の告白に揺れる想い。でも三島由紀夫レター教室の青年とこの映画のボアズのそれはかなり違います。青年は完全なるノンケでしたが、ボアズは同性愛者。でもそれを認めず否定し、必死にノンケとして生きようとしてるけど、ラブレターをきっかけに真の欲望が抑えきれなくなり苦悩、煩悶する姿が痛まくも哀れ。LGBTの権利が広く認知されたとはいえ、まだまだ社会的には同性愛は罪、害悪と見なされることが多いのが現実。自分の性嗜好をまるで臭いものに蓋をするように抑えたり隠したり、ビクビク怯えたりするボアズはイライラするほどチキンなのですが、だからといって堂々とカミングアウトすることが正しいとも思えなくて。本当の自分を生きることで得られる解放感や自由の代償の大きさ、失うものも多いことを考えると、ボアズの躊躇も偽りの人生も理解できます。LGBTに対して偏見を持ち差別してる人たちの狭量さのほうが、よっぽど恥ずべき罪、害悪だと思わない人のほうがまだ多い、という現実が悲しい。

 それにしてこの映画、まったく腐向けじゃないんですよ。ボアズをはじめ、男たちが意味もなく必要以上に裸になるシーンや演出が多く、かなりゲイ向け。中東の濃ゆい男たちの全裸やキス、自慰などに乙女な腐が求める美しさはなく、むせそうになるほどの肉欲の臭いで充満してます。ゲイゲイしいエロティックさよりも、ボアズの葛藤や恋人、家族との関係を繊細に深掘りしてほしかったかも。終盤に判明するラブレターの送り主は、そんなに意外ではなかったです。
 ボアズ役のヨアヴ・レウヴェニは、すごいイケメン、ていうか美男!ルックスが非一般人すぎて、フツーの大学生に見えん!端麗な超小顔、細マッチョな長身、性的フェロモンも濃厚で、女にも男にもモテモテな色男役にピッタリな風貌。脱ぎっぷりもハンパなかったです。彼女とのセックスシーンがエロかった。男とはキスどまりでしたが。ゲイゲイしいけど、男同士のキワどいR18的な性交シーンは皆無でした。

 あまり馴染みのないイスラエルの庶民の生活風景が興味深かったです。中東でもあまりアラビアンな感じではなく、ちょっと西欧に近い感じ?特に宗教を感じさせる表現も場面もなかったです。ボアズの彼女が作ってる料理が、日本ではあまり見かけないもので珍しかったです。徴兵制のあるイスラエル、韓国もですが、軍隊生活ってゲイにとってはいろんな意味で過酷。男たちがふざけて公開自慰とか、ゲイに限らず繊細な心を持つ人には戯れの域を超えた地獄絵図なのでは。ああいうのが男らしいとか男の付き合いとかいう価値観が怖いです。
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涙の茉莉花BL

2022-02-27 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 アカデミー賞の行方も気になるところですが、フランスではセザール賞が発表されました。わし的には、オスカーにノミネートされてる作品やスターより気になる受賞結果になってました。作品賞の“Illusions perdues”はバルザックの小説を映画化した文芸時代劇で、主演のバンジャマン・ヴォアゾンくんが新人男優賞を受賞!バンジャマンくん、可愛い!今後のさらなる躍進が期待されるイケメンです。共演のヴァンサン・ラコストも助演男優賞獲得。日本公開が待ち遠しいですね。

 嬉しいと同時に衝撃的だったのが、主演男優賞のブノワ・マジメル。ずいぶん前から貫禄がでて恰幅もよくなってたブノワですが、さらにどっしりでっぷり化しちゃってるではありませんか。でも美青年時代とは違う魅力と個性を培い、2度目の受賞で今やフランス映画界の重鎮に。カトリーヌ・ドヌーヴ共演の受賞作“De son vivant”では、余命いくばくもない主人公を演じてるブノワ。作中では↑の画像とは別人のように痩せやつれた風貌で、かつてのイケメンぶりをちょっとだけ蘇らせてます。役者ですね~。
 次はオスカーですね!

 「Malila The Farewell Flower」
 タイの農村でジャスミン畑を営むシェーンは、ガンで余命いくばくもない元恋人ピッチと再び愛し合うようになる。ピッチのためにシェーンは出家しようとするが…
 最近タイの映画やドラマも人気だとか。特にBLものは充実しているようで、この作品もなかなか味わい深い佳作でした。美しく静かな野生の風景の中、肉体も魂も溶け合うように交わす男たちの愛が切なく悲愴でした。男同士で愛し合うという禁断感はほとんどなく、二人とも全然コソコソしてなかったのが清々しいのですが、私はそんな堂々としたBLより、人目をしのんだ密会とか、迷いや罪悪感で煩悶する隠微なBLのほうが好きなんですよね~。禁じられるからこそ生まれるドラマが好きなんです。

 二人がどういう経緯で愛し合う仲になり、なぜ一度は別れたのかは詳しくは説明されておらず推察するしかないのですが、勝手な妄想も腐は得意で大好きシェーンにはかつて妻子がいて、幼い娘が大蛇に襲われて(噓でしょ?!タイの田舎、怖すぎる!アナコンダみたいな巨大な蛇に全身ぐるぐる巻きにされてる幼児、という衝撃的なシーンあり)死に、その悲しみから立ち直れず酒びたりになってしまい嫁と離婚、という事情があったらしいけど、シェーンも男同士の愛に怖気づいて女に逃げたパターンなのかな。偽りの人生の終わり方が悲痛。現実も未来も捨てシェーンが身も心も耽溺する刹那の愛は、かなり退廃的。希望あふれる明るい愛よりも、妖しく心惹かれてしまう私です。

 男同士のラブシーンが美しくも官能的です。亜熱帯の暖かい湿った夜気が、退廃的で厭世的な情交にぴったり。西洋人のカサカサした肌、運動みたいな情緒のない動きと違い、東南アジアの男の浅黒いぬめりけのある肉感的な肌の重なり、じっくりと相手の悦びを確かめるような愛撫や腰使いは、かなりエロティック。でも全然イヤらしくなく、心も愛し合い求め合っていればセックスもこんな風になるはずだよな~と、羨ましくなるような情感が漏れていました。そういうシーンを作り出せる俳優さんって、ほんとスゴいわ。全裸での絡みといい濃密なキスといい恍惚の表情といい、ぜんぶ演技ですもんね。

 ラブシーンは2回だけですが、行為だけでなく愛し合う場所も東南アジアの原始的な野趣があって印象的でした。主演男優二人の演技と見た目も、女よりキレイ系なメイクばっちりイケメンの軽薄な演技が苦手な私には好ましかった。シェーン役の俳優は、妻夫木聡を長身で逞しい体格にした感じのイケメン。優しく悲しげな笑顔が可愛かった。バキバキ筋肉ではなく、がっちりむっちりした肉体も私好みでした。ピッチ役の俳優は、やつれて黒くなった西島秀俊みたいでした。彼らの役者魂あふれるBL演技、日本の若い俳優もBLやるならあれぐらいはやってほしいものです。

 独特の死生観、出家、修行など、かなりスピリチュアルな映画でもありました。ウジ虫だらけの腐乱死体が起き上がって…なオカルトっぽいシーンもあり。出家のプロセスや修行服の着方、修行の旅のためのグッズ(あのテント、ほしい!)など、タイのお坊さんの修行描写も興味深かったです。ピッチがバナナの花や葉で作るバイシー(儀式用の装飾品)も、その精巧で美しくもはかない風情で霊的ムードを醸すのに一役買っていました。
 
 

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カウボーイの秘密!

2021-12-14 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
 1920年代のモンタナ州。牧場を弟のジョージと経営するフィルは、ジョージと未亡人のローズとの結婚に動揺し、ローズとその連れ子ピーターにつらく当たるが…
 「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオン監督久々の新作は、Netflix配信の西部劇。西部劇といってもカンピオン監督なので、もちろんドンパチ活劇ではありません。飛び交うのは銃弾ではなく、濃密で激しい愛と憎しみ!厳しくも美しい自然を背景に、複雑な人間ドラマが描かれていました。まず、主人公フィルとその弟ジョージの兄弟関係がどこか奇矯。その異様さで冒頭から掴みはOK!勇猛で聡明、牧場に君臨する王のようなカリスマな兄フィルと、朴訥で心優しく愚鈍なところもある弟ジョージ、正反対な人間性ながら兄弟愛は強く深く、互いに依存し合ってるような関係。うるわしい兄弟関係とは思えず、その息苦しさと薄気味悪さは不吉で不幸な予感を抱かせます。強い兄ちゃんのほうが弱い弟よりも依存度が高く、束縛してくるフィルをジョージは明らかに重いと思っていて、その不協和音が砂埃のように観る者の心にもたまります。

 それでも保っていた平和な均衡が、ジョージの結婚によって崩れてしまい、そこから地獄がスタート。愛する弟を、貧しく不美人なコブつきの未亡人に盗られた!ショックと屈辱、そして怒りから兄ちゃん大魔人と化し、恐怖の弟嫁いびり!とはいえ、おしんや渡鬼みたいにわかりやすく壮絶ないびりではなく、嫌悪と軽蔑に満ちた氷のように冷たいいびりなんですよ。ほぼガン無視、たまに底意地の悪い言葉を投げつけたり、人前で恥をかかせたり。玉の輿どころか針のむしろ。あれじゃあローズじゃなくても心が壊れます。男の中の男なはずのフィルなのに、憎悪と嫉妬の質が女性的。そう、それこそこの映画の核の部分なのです。男らしさという鎧の下に隠された本当の自分…ああ、腐心がザワつく…

 フィルの懊悩の炎にガソリンをぶっかけるのが、ローズの連れ子であるピーター。単細胞な荒れくれ野郎どもの世界に舞い降りた、見た目もキャラも妖精?宇宙人?な男の子。ひょろひょろした体、色白の肌、女の子のような顔と優しい物腰は、ものすごい異彩を放って面妖でもある。牧場の男たちからオカマ扱いされいじめられるピーターですが、オタオタオロオロしつつも怯えることなく動揺しないメンタルの強さ。ママを慰めるために可愛いウサギを捕まえたのかと思いきや、え!?なウサギの末路に衝撃。こいつタダもんじゃないなと、このあたりから観る者はピーターを警戒するようになります。

 ピーターもいじめるフィルですが、ローズへのいじめと違い、フィルのピーターを追う目には明らかに妖しい想いが宿っています。フィルの秘密を偶然ピーターが知ってしまったことがきっかけとなり、二人は親しくなっていくのですが。だんだんとピーターのほうが優位に立つようになる関係の変化が、スリリングな心理戦のようでした。ピーターによって、今まで固く封印していた弱さや苦しみが解かれ、戸惑いながらも開放感を得られるのが心地よさそうなフィル、愛し愛されるという希望もピーターに対して抱き始める。それを優しく静かに受けとめるピーター。二人が距離を縮め親しくなっていく姿は微笑ましく、そのまま幸せなBLに発展…は、もちろんしません。

 ラスト近く、真夜中の馬小屋で二人きり。ピーターの誘うような妖しさに魅入られたように引き込まれるフィルは、まさにヘビを前にしたカエルのようでした。やがて必然のように訪れる死、その衝撃の真実!怖っ!何という綿密で冷酷な抹殺でしょう。死に至るまでの伏線の回収や小道具の使い方など、サスペンスとしても脚本は優秀でした。それにしても。フィルがローズに対してあそこまで狭隘じゃなかったら。フィルがローズも受け入れてくれるよう、ピーターが忍耐強く努力してくれたら。タラレバせずにいられませんが、そんな結局みんないい人な雨降って地固まる的な話ではなく、戦慄のサイコサスペンスとして静かに幸せに幕を下ろしたのが、この映画の非凡さでしょうか。
 フィル役のベネディクト・カンバーバッチが、これまでで最高の演技とインパクト!

 頭脳明晰、そして性格が悪い、けど魅力的という役は、シャーロックをはじめバッチさんのオハコ。フィル役はその集大成ともいえるような役でした。常にエラソーな態度、ローズ母子をイビるイヤ~な奴なんだけど、不思議と不愉快じゃないんですよね~。ちょっとシニカルな笑いを誘うところは、イケズなシャーロックとかぶります。豪快ぶったマッチョ言動も、そこはかとなく滑稽だったり。鬼のような厳しい険しい表情、たまに狂気の深淵をのぞきこんでるような空虚な目つきがホラーですが、誰といても寂しそうな孤独の影が、傷つきやすい少年のようで胸キュン。特に印象的だったのは、ロープを作ってやるとピーターに申し出るシーン。まるで勇気を出して好きな子に告白してるみたいで可愛かった!馬を乗りこなす姿もカッコよかった。イギリス人なのにアメリカのカウボーイに自然になりきってました。とにかく荒々しくも超デリケートなバッチさんの、驚愕の全裸シーンなどまさに燃える役者魂の演技。こういう演技を堪能してしまうと、自分のことを“役者”と称している日本の俳優が恥ずかしくなります。来たるオスカーの候補は確実、受賞もありえる、いや、受賞すべき!

 バッチさんも強烈でしたが、ピーター役のコディ・スミット・マクフィーもディープインパクト!見た目だけでもう出オチに近い。美青年とかイケメンとかとはちょっと違う、かなり不思議で不気味でもある顔。たまに昔の松じゅん+サカナくん、みたいに見えたのは私だけ?ナヨナヨしてるけど強靭な精神力、そして冷酷さを秘めた魔少年、優しいサイコパス役にぴったりな妖しい風貌です。彼の演技もオスカーに値します。ローズ役のキルスティン・ダンストの好演も讃えたい。初代スパイダーマンのMJ役とか、じゃがいもみたいな顔して美人扱い、美人振る舞いに納得できず、長らく苦手な女優だったのですが、すっかりおばさんとなり心が病んでアル中になってしまうみじめな女を演じた彼女は、いい女優になったな~と心から思わせてくれました。ジョージ役のジェシー・プレモンスとは、実生活でも夫婦とか。派手でチャラいイケメン俳優ではなく、実直で堅実そうなブサイク俳優を選んだところにも好感。
 牧場の生活や仕事も興味深く、荒涼とした西部の自然も美しく撮られていました。「ピアノ・レッスン」もですが、ジェーン・カンピオン監督が描く男女の業は、残酷で醜悪で気持ち悪いんだけど、甘っちょろくて感傷的な映画よりも私は好きです。

 ↑まずはゴールデングローブ賞ノミネート達成!👏オスカーもウィル・スミスとの一騎打ちでしょうか。「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」のドクター・ストレンジも楽しみ(^^♪バッチさんにはコテコテのコメディに出てほしい!

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汝は二十歳で死ぬ

2021-12-10 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 「You Will Die at Twenty」
 ナイル川のほとりにあるスーダンの小さな村。ムザミルは生まれてすぐに、イスラム教の聖者から20歳で死ぬと予言される。敬虔な母同様、それを信じて育ったムザミルは20歳になる直前に、村はずれに住む老人スレイマンと知り合い親しくなる。世界を放浪したスレイマンとの交流は、ムザミルに広い世界への憧れを抱かせるが…
 珍しいスーダン映画。スーダンといえば、アフリカにある内紛がおさまらない物騒な国、というイメージ。自衛隊派遣が物議を呼んだPKOとか思い出されます。映画どころじゃなさそうなスーダンで、こんな美しい佳作が製作されるとは。失礼ながら意外でした。

 アフリカの国といえば、飢餓とか貧困、伝染病に民族紛争、不衛生で危険、ぜったい住みたくない生き地獄、なんて先入観と偏見を抱いてしまいますが、この映画の舞台となった村は、そんな苦患には満ちておらず、村人たちは素朴なシンプルライフを静かに平和に営んでいて、スマホもネットもないけどみんな特に不自由もなく、おかしな知識や情報に惑わされることもなく清らかに生きている。私たちが心身ともに、便利だけど不要で有毒なものに踊らされて歪められてるか、つくづく思い知らされました。東南アジアの後進国と違い湿気がないからか、ハエがぶんぶん飛んでたりとか暑さでぐったりしてたりとか全然なくて、光も青空も空気も乾いて澄んでるところも印象的でした。まばゆいまでに明るいけど、のんきでユルい陽気さはなく、みんなどこかストイックな感じなのは、信仰が生活の、人生の中心にあるからでしょうか。

 現代社会に毒されてはないけど、村人たちは古くからの因習や厚い信仰心に囚われ縛られていて、その閉鎖的な狭い世界はかなり窮屈にも思えました。そんな世界のしがらみと、未知の広い世界への憧憬との狭間で揺れるムザミルの20歳の決断と行動は、アフリカという特殊な国だけの特異なものではなく、どこの国の若者にも重なる青春の痛みと希望に衝き動かれてのもので、静かだけど大きな感動をもたらしてくれました。ナイル川や砂漠など静謐な悠久の風景や、神事などが醸すスピリチュアルな雰囲気、エスニックな衣装と家屋なども、アフリカの神秘や風趣を伝えてくれました。ムザミルのガールフレンドの髪型とか部屋とか、アフリカらしからぬモダンさで面白かったです。スレイマンの家のインテリアとか置物とか、同じものがほしい!と思いました。

 聡明で生真面目、どこか虚無的で内省的なムザミル、20歳で死ぬ運命(と周囲も自分も信じている)なのに、自暴自棄にもならず親孝行な優等生で、ほんといい子!私がムザミルなら、絶望的になってグレて身を持ち崩すでしょうし。ムザミル役の俳優がかなりイケメンで、美しい肉体のセクシーな男の子だったのもポイント高し。さらにこの映画、ほのかにBLのかほりがするんですよ。同性愛者は誰一人出てこないのですが、ムザミルひょっとして?と思わせたりする言動や、男たちとの絡みが多いんです。ガールフレンドから性的な誘いをされると嫌悪に近い表情で拒んだり。若くて男前な神官に裸になれと命じられ、美しい上半身を愛撫のように撫でられたり。お父さんやスレイマンとのスキンシップも、親子や友人以上のものが感じられた。

 子どもの時ムザミルをいじめていた幼馴染もイケメン!当時を悔いて謝る彼にスゲなくするムザミル、あのシーン何か萌えたわ。あの後二人がBLになるのかと期待してしまいました。映画のポスターも、ショタとイケメン青年のBL映画っぽいですし。この映画の監督、ゲイなのかな?と思わせる感性が、そこかしこに散りばめられていました。
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彼と僕の結婚

2021-10-29 | オセアニア、アフリカ、中東、その他のアジア映画
 秋の夜長のアジアBL映画祭③
 「Kasal」
 同棲中のカップル、弁護士のシャーウィンと映画監督のパオロは深く愛し合っていたが、結婚を望むパオロと違いシャーウィンは同性同士の結婚に懐疑的だった。そんな中、二人はシャーウィンの妹の結婚式に出席するため、田舎にあるシャーウィンの実家に向かうが…
 フィリピン映画も初めて観ました。これって私の無知と偏見のせいなんですが、フィリピンって文明化されてない極貧の国ってイメージだったので、映画の中のビル街や整然とした道路には驚きました。主人公二人も弁護士と映画監督という都会的な文化人たちで、決してリッチではないけどそれなりに恵まれた生活を送っている様子も意外でした。クールで優しいけど現実的で嫉妬深いシャーウィンと、繊細でちょっと不安定、脆いところがあるパオロの、甘く熱く求め合ったり激しく衝突したり、男女の恋人と何ら変わらないビタースウィートな愛が、いい感じに描かれていて素敵だなと思いました。仲間たちに付き合って何年目かの記念日を祝ってもらうシーンがあるのですが、フィリピンも都会だとLGBTに寛容なんですね。長く付き合ってると、幸せな関係を確実にするため社会的な保証や承認を得たくなるもの。ゲイに限らず、ぶつかるのは結婚の問題です。ちなみにタイトルのKasalとは、カタログ語で結婚という意味みたいです。

 結婚したいパオロと、結婚に意味や意義を見出せないシャーウィン。二人の主張や思いは男女とそう変わらないのですが、法律とか家族へのカミングアウトなど、同性同士の結婚に立ちはだかる壁はより大きく高いです。どうやらパオロの家族はパオロがゲイであることも恋人のシャーウィンも受け入れていたようですが、シャーウィンのほうはそうではなく、家族の前ではパオロとは親友同士で通そうとする。そんなシャーウィンに苛立ち傷つくパオロが痛ましい。でもシャーウィンってズルいチキン野郎!とは思えませんでした。どうやらシャーウィンの実家は保守的な名家みたいだったので、そう簡単にカミングアウトはできないのも理解。正直に生きれば自分はスッキリするけど、周囲の人を傷つけ苦しめるかもしれない。何かを犠牲できる勇気、そして冷酷さが自分らしく生きることには必要なのです。勇気がなかったシャーウィンを責めるのは酷。

 家族とのふれあいや軋轢を経て、二人が結婚するかしないかの揺れる想いにどう決着をつけるのかなと思ってたら、え?!ていうか、は?!な展開に唖然。そんなこと全然におわせもしてなかったので、唐突すぎる選択に可哀想すぎると同情(どっちがそうなのかは伏せておきます)。どういうつもりであの決断?推察するしかないのですが、あえていいように考えれば、男女の間だって永遠の愛なんてありえない、ましてや男同士の愛なんていつか壊れる。醜くそうなる前に、という悲観と絶望にかられて、でしょうか。他の男と寝たパオロを許せず、しつこく激しく責めていたシャーウィン。パオロの不安定で頼りないところに疲れてもう限界、と思ってたのかもしれません。いずれにせよ、深く強い愛が必ずしも幸せや希望につながるわけでなはない、と二人を見ていて思いました。いずれにせよ、結婚をしつこく迫るからウザくなって逃げたとか、愛が冷めたとかではなかったはず。

 フィリピンもタイやベトナム同様、東南アジアな風景。シャーウィンの実家は金持ちだけど、家屋とか庭の家畜とか料理方法とか、日本と比べるとかなり素朴というか原始的。結婚式が豪華で、朝から夜更けまで派手に騒いでたけど、いったいいつまでやってんの?あんな結婚式疲れるので出席したくないです。おばちゃんファンがショーの後に芸人にあげるおひねりみたいに、客が花嫁花婿の服にお金をピンで留める風習ってのがフィリピンにはあるんですね。男性の礼服がシンプルで爽やかでした。
 主演の男優二人はイケメンではないけど、個性的な風貌。シャーウィン役の俳優は濃ゆい端正な顔で、なかなかの肉体美でした。パオロ役の俳優は猿系のブサカワ顔。二人のセックスシーンは一回だけですが、かなりエロくて18禁🔞オーラルとか、ほんとにやってる?!なリアルさでしたが、過激で必要以上に扇情的なものではなく、愛し合ってる行為って感じがよく出ていて、こんなのでセックスしてるといいたいの?な手抜きで幼稚なラブシーンよりも好感が抱けます。日本でリメイクするなら、シャーウィンは向井理、パオロは池松壮亮がいいかな。
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