



父と暮らす貧しい少女アルフォンシーヌは、金持ちの老人の愛人となる。やがてパリの社交界で“椿姫”と呼ばれる高級娼婦となり、贅沢で享楽的な日々を送っていたアルフォンシーヌは、若き作家アレクサンドルと出会い真実の愛を知るが…
「わが青春のフロレンス」や「沈黙の官能」などのイタリアの名匠、マウロ・ボロニーニ監督の1981年のフランス映画。グレタ・ガルボ版や、コリン・ファース主演の「Camille」など、何度も映像化されてる「椿姫」ですが、この作品はマルグリット・ゴーティエがヒロインではなく、彼女のモデルとなった娼婦アルフォンシーヌの物語となっています。アルフォンシーヌの生い立ちや、どのようにしてパリ社交界の高級娼婦になったか、美青年との悲恋、そして不治の病など、ヒロインの名前が違うだけで、内容も展開も椿姫とほぼ同じです。椿姫の恋人アルマンは、この映画では原作者のアレクサンドル・デュマ(息子のほう)。「椿姫」って、作者であるデュマの恋愛体験が元になってるんですね。


何度も映像化されてる椿姫ですが、この映画では悲恋のメロドラマティックさや甘美さは排除されていて、若くして死を見つめるアルフォンシーヌが、冷ややかで虚無的な破滅に向かう姿を描くことに焦点が置かれています。若くて美しければ、貧しさも克服できるでしょうけど、さすがに不治の病の前では、若さも美しさも無意味、いや、呪わしくさえなる。夢も希望も抱かず、ただ訪れる死を静かに待っているアルフォンシーヌ、見苦しく取り乱したり、お涙ちょうだい的な言動を全然しないところが、返って特異なヒロイン。かといって気丈とか毅然としてる、といった感じでもない。もうどーでもいいわ、どーなったっていい、みたいなクールな自暴自棄風というか。短い命だから悔いなく生きよう、みたいなありきたりなヒロインではないところに、私は魅力を感じました。死だけが確実なものな女が選んだ道、それが娼婦。その隠微さ、耽美さに心惹かれます。


アルフォンシーヌ役は、若き日のイザベル・ユペール。「Les Ailes de la colombe」と同年の作品。当時28歳!17、8にしか見えない!かわいい!華奢で小柄な身体、あどけない童顔、まだ少女みたいです。見た目は少女だけど中身はミイラ、みたいな薄気味悪さも強烈。ほんとに病気みたいな青白い肌。悲劇のヒロインっぽさは全然なく、何を考えているのか読めない無表情、ただもうクール&ドライ、淡々と時にシレっとしていて、いつものユペりんです。脱ぎっぷりも大胆で生々しい、でもそれが何?みたいなシレっとしてるところがユペりんらしかったです。「眠れる美女」で、ユペりん扮する大女優が若い頃に出演した時代劇の一場面、令嬢が殺した牛の血を飲むという、いったい何なの?!なシーンが使われてたのですが、この映画だった!精力をつけるために牛の血を飲んでたようです。


この映画、とにかく衣装が素晴らしいです!写真集がほしいほど。アルフォンシーヌがとっかえひっかえするドレスや帽子、アクセサリー、どれも個性的で美しい!可愛くもあって、それでいてどこか闇を感じさせる趣きが、若きイザベル・ユペールに合ってました。おそらくセットではなく実際の貴族の屋敷や教会、劇場での撮影、田舎やパリの街、船上などロケの映像も、ほんとに当時にタイムスリップして撮ってきたかのような臨場感でした。


アルフォンシーヌを金持ちに売りつける女衒みたいな父役、イタリアの名優ジャン・マリア・ヴォロンテが、シブくてイケオジ。アルフォンシーヌにパラサイトするわ、デュマにもたかるわ、卑しい役なのに不思議とそうは見えず、人たらしな魅力が魔性のおやじだった。アルフォンシーヌが結婚する貴族役は、ドイツの名優ブルーノ・ガンツだった。アレクサンドル役の俳優がイケメンでした。
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