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”星降ル島ヌ唄”by 前山 真吾
昨夜は”人が橋を歌うとき”なんて文章を書いた。こちらの話の進め方のムチャクチャゆえに、もしかして誰にも意味が分らなかったかもしれないのだが。人は橋に歌心を喚起されたとき、そこに彼岸を見ているのではないか」とか、そんな事を言ったつもりなんだが。なんて余計な文章を付け加えるとますます意味が分らなくなるのだろうが。
そういえば、奄美の島唄にも橋を唄った歌があったのだった。らんかん橋という。「大雨が降ってらんかん橋が流されてしまった。おかげで河が渡れず、遭えなくなった恋人は泣いて帰った」という内容の唄。遠い昔にあった出来事から生まれた唄だろうか。昔において欄干があるというのは、かなり立派な橋のはずだが。
この唄など聴いていると、なんだか七夕の、星空を舞台にした織女と牽牛の逢瀬の物語など思い起こされてしまう。やっぱり橋は人の意識を違う世界に飛ばすカタパルトじゃないかとか、言いたくなっても来るファンタスティックな歌なのであった。
今回はその”らんかん橋”も含まれた奄美民謡の若手、前山真吾のデビューアルバム(2006年作)である。
飛び出してくる歌声に漲る、フレッシュさというか若い男のリアルな存在感がまず印象に残る。(ご本人は録音したものを聞いて、”自分はまだ青いな”とくさっていたそうだが)
同じ若手でも中孝介のような繊細な唄い口とは違い、かなり太い声質で土臭く迫る。そのもともとの声の太さと、奄美の伝統的な裏声を多用する歌い方の関係などに、裏声唱方の成立由来が見えてくるように思えて、なかなかにスリリングな気分である。
前山自身、奄美の唄に興味津々という気持ちがあり、民謡のフィールドリサーチなども積極的に行なっているそうで、その成果としての、他の人とは収録曲が一曲もダブらないアルバムなど、そのうち出してくれたらなあ、などと勝手な期待を公表しておこう。
ところで。実は私がこのアルバムで大いに心に残ったのは、前山の三線が織りなすリズムだったのだ、なんて言ったら、何しろ相手は”唄者”なのだから叱られてしまうかもしれないが。けど仕方がない、私はこのアルバムを聴いていて、唄と三線が織りなすリズムに思わず体が動き出してしまい、デタラメな踊りもどきを始めていたのだから。そんな経験ははじめてだ。
湧き出してくる、それこそ奄美の海に寄せては返す波のきらめきのようなリズム。それも、生まれたばかりの。そいつを新世代の唄者としての”売り”の一つとしても良いではないか、などとも思ったりする。
ともかくなんだか眩しいアルバムだなあ。