ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

見えない橋が導く所

2009-10-31 01:17:30 | 音楽論など

 昔、”アメリカ橋”という歌があって、演歌の山川豊や狩人なんて連中が歌っていた。まあ、あんまり興味の持てる歌でもないので、「アメリカ橋って知っていますか」という歌いだしの歌詞とメロディしか記憶にはないのだが。というか、なんで昔一度か二度聴いただけの歌の、ここだけ覚えているんだろうな。

 橋の歌といえば昨年、ここに”思案橋ブルース”の話題を書いた。
 あの歌、おそらく現地長崎の繁華街か何かに”思案橋”という橋があり、おそらく地元の恋人たちが、やや煮詰まった恋の行方に悩み、別れちゃおうかなあ~などと思い悩みながら橋の下を行く水などぼんやり見つめる、そんな風景を描いたのだろうと思っていたのだが、現実にはその場に橋などないとある日に知って驚いたのだった。
 結構由緒ある建造物だった思案橋の現物はとうの昔に撤去され、それ以前に肝心の、橋の下を流れていた川もとっくに暗渠となって姿を消し、その場には川が流れていた気配さえ残っていないのだった。

 写真を見ると、そこにはただ賑やかにネオンサイン瞬く繁華街があって、”思案橋通り”とかの表示がある。そこではもうかってあった”橋”は記憶からさえ姿を消し、土地登記上だけの存在となっているようだった。にもかかわらず”橋”の歌は作られ唄われ、全国的なヒット曲にさえなってしまった。
 この不思議な風景にはずいぶん夢中になり、いろいろな幻想を東シナ海のほうまで伸ばしたものだった。まあ、この件については何度も書いているが。

 昔の歌ばかりで恐縮だが、”異邦人”をヒットさせた久保田早紀が”4月25日橋”なる歌を作っている。
 彼女がポルトガルの地図を眺めている際に見つけた地名で、彼女はその橋の名にインスパイヤされて、小さな別れの歌を書いた。もう人々には忘れ去られかけている、町外れの古ぼけた橋の上で別れて行った恋人たちに関する歌を。

 後日、彼女がポルトガルを訪れ、目の当たりにした4月25日橋は詩人の感傷のネタになるようなヤワな代物ではなく、国家の威信をかけて作られたような、堂々たる大橋だったそうな。その曲を現地のミュージシャンをバックにレコーディングしなければならない立場の彼女は、非常に困ってしまったそうだが。でも、事情は分かるような気がする。そんなセンチメンタルな幻想を呼びそうな橋の名と思えば思えるもの。

 人の心にとって橋にちなむ歌を書く、あるいは好んで聴く、唄う、というのにはどういう意味があるのだろう。上に挙げたような奇妙なエピソードに触れるにつけても、何か特別の意味がありそうな気がしてならないのだが、それがなんなのか、まるで見当もつかずにいる。

 最近だったら韓国の演歌、”第3漢江橋”だなあ。他の事を調べていて、この曲名に出会った際、ビビッと来てしまったのだ、私は。自分はこの歌を好きになるだろう、と。
 You-tubeで探し当て、実物に当たってみても、その想いはつのるばかりだった。曲調は想像したより幾分かハードだったものの、韓国らしい辛口の感傷の吐露と思えば十分に納得できる。私はその曲を一発で気に入り、翌日には仕事の合間に鼻歌で歌いさえした。

 漢江といえば韓国の首都、ソウルの市内を横切って流れる大河である。そこにかかる橋。しかも”第3”である。きっと、街の外れの物寂しいあたりにひっそりとかかっているのではないか。大都会ソウルの外れ、寂れた街工場とか古ぼけたアパートとかがシンと静まり返って立ち並ぶあたり。鉛色に垂れ込めた雲の下、奇妙な運命の糸にもてあそばれた一組の恋人たちが今、別れを決める。第3漢江橋の下を流れる濁った水の流れを見下ろしながら。

 You-tubeの画像が、「修正前の歌詞」と「修正後の歌詞」とに分れているのも気になった。何ごとか韓国政府の禁令に触れ、オリジナル・ヴァージョンは発禁を食らったのだろうか?これはひょっとして”政治絡みの悲恋”という、初期の五木寛之の小説みたいな世界が展開されているのではないか。

 早々にオチを明かせば”第3漢江橋”は別れの唄ではなく、逆に恋が結ばれた恋人たちの喜びの歌であり、歌詞が改められねばならなかったのは、その一節に”私たちは一つになった”とあるのが儒教社会・韓国で顰蹙を買い、”私たちは誓い合った”と修正せねばならなかった、という事情であり、まあ五木寛之的ロマンはそこにはなかった。私の繰り広げた妄想は、相当にピント外れだったことになる。
 まあこんな具合で、橋の歌を前にすると人は妙な胸騒ぎに襲われずにいられないのだ。と思う。そんな気がする。なんなんだろうなあ、これは。

 さて、下の試聴は、その”第3漢江橋”である。もちろん歌詞はオリジナル・ヴァージョン。まあ、韓国語、分んないから同じことなんだけどさ(笑)





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