ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

地球港の立神は

2009-08-23 23:57:54 | 奄美の音楽
 ”加那ーイトシキヒトヨー”by 城南海

 さて、待望の城南海ちゃんのデビュー・アルバムである。それはいいんだけれど・・・一聴、「あ、そういうことだったのか」と、私は頭を掻いたのだった。
 これまで城南海がリリースしてきたシングルCDに関して抱いて来た疑問が氷解したと言うか、彼女に対する自分の理解が結構セコかったなと反省させられもしたのである。
 だいたいが、数日前にここに書いた、デビュー時の城南海を追ったドキュメンタリーへの我が感想というものが、こうなってくるといかにも小さな論であり、実に情けなくなってくる。
 あの文章で私は、「奄美の先輩唄者たちが集まった宴席で、自己流の島唄を比較的最近歌いだしたばかりの彼女は気が引けたのではないか」なんてくだらない方向に気を廻したが、城南海の音楽志向はそんな小さな世界にとどまるものではなかったのだ。

 では、いったい彼女は何をやりたいのだ?と問うなら、すでに彼女は自身のブログでも述べている。グイン、つまり奄美の伝統のコブシで世界の音楽の読み直しを行ないたいのだ、と。
 その文章を読んだ際、私は、まあ「世界の願い、交通安全」とか「人類が平和でありますように」とか、その種のありがちな標語的コメントかと思ったのだ。申し訳ないことに。
 歌手がインタビューで語る、「ジャンルにこだわらず音楽を作って行きたい」とか、ありがちなコメントがあるでしょ?なんか意味ありげだが実態がよく分らない。一応、言ってみただけ、現実に何をやるかといえば何をやるでもなかったりする。その一種と受け取っていたんだなあ、私は。が、彼女は本気だったのだ。

 このアルバムを聴いてみると、確かにここには城南海による「グインで編み直す世界音楽」のための試案が展開されている。グインを視点に掘り起こすワールドミュージック。そのための序章。
 そのタイトルからふと、奄美民謡の「太陽ぬ落てまぐれ」なんて曲を思い出してしまった冒頭の曲、”太陽とかくれんぼ”。そこではまず、南米からアフリカへと通ずるようなリズムに乗せて神話的風景が提示され、もう一つの世界の扉が開けられる。
 デビュー曲”アイツムギ”も新しく軽いサンバっぽいリズムが付され、奄美の伝統世界が海によってつながった、より広い世界に向けて漂い始める気配を感じ取れるようだ。
 その後も内外の民謡や民話にインスパイアされた曲が続き、カラフルな世界巡りが続いて行く。世界がグインによって目覚め、スイングし始めようとしている。

 一曲、アイルランド民謡が取り上げられているが、それは我々の知っている”正しい”メロディとは微妙に違っている。これなど、”グインvs世界”のとても分り易い構図であり、興味をそそられるのだった。中孝介の歌う”アベマリア”などと聴き比べてみるのも面白いだろう。
 それにしても城南海は、どこからこんな事を思いついたのだろう?そして、この盤のあちこちに溢れる、いいようのない”切なさ”の正体は?そしてこれから城南海はどれほど遠くへ行くのだろう?楽しみになってきた。非常に楽しみになってきたぞ。




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2 コメント

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やっと少し余裕が… (syomu)
2009-08-27 05:26:47
マリーナ号さんの感想を先に読んじゃったなぁ。
城南海ちゃんと里アンナちゃんのCD二枚とも発売当日に入手してたのに、一週間ぐらい何の余裕もなく追い詰められてました。
今、二枚とも目の前にあるんですが。
一曲目『太陽とかくれんぼ』は、チボ・マットのゴリラズのハトリさんが曲作っててびっくりしましたよ。DVDも実は今の時点でも見てないす。
さて、思い切り聞くぞ!!
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syomuさんへ (マリーナ号)
2009-08-28 05:09:41
 城南海ちゃんのアルバムは予想以上の世界を提示してくれて、嬉しいものでした。もう、次のアルバムが待ち遠しいです。そのうち、全曲オリジナルのものとか全曲、彼女なりに昇華したシマウタであるとか、そんなものも聴きたいです。
 一方、里アンナちゃんのほうは、なんか前作「吾島」から一歩後退してしまったようで、ちょっと残念な気がします。
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