ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ギリシャ歌謡珍種一枚

2010-10-20 00:02:44 | ヨーロッパ

 ”Songs My Country Taught Me”by Agnes Baltsa

 まあ、珍盤といっていいのかも知れない。ギリシャのクラシックの歌手に、故国の伝統的大衆歌を歌わせたアルバムである。どこの国にもこの種のものはあるんだろうなあ。日本で言えば誰になるんだろう、人気クラシック歌手に古賀政男先生とかの懐メロ歌謡を歌わせた、みたいな企画ものです。で、まあ珍盤となるとつい欲しくなってしまうのが物好きな野次馬リスナーの常でありますな。

 とりあえず、冒頭のアップテンポの曲は非常によい感じ。ブズーキが軽快なフレーズを弾き出し、歌手の朗々たる歌唱が、ギリシャの大衆歌を特徴付ける「この間、神様のところに行って一節パクって来たんだ」みたいな、天に向って伸び上がるような神秘的なメロディを歌い上げる。
 これが気持ちよくて、エーゲ海を波頭を割って快走するクルーザーかなんかを見る思いがした。ああ、こんなのが全曲入っていたら素晴らしいんだけどな。まあ、そうは行きませんけど。

 総じて、明るいタッチの曲は気持ちよく聴ける。それがギリシャの大衆歌謡の本質を捉えた歌唱か、という問題はひとまずこっちへおいておくとして。
 オーケストラのど真ん中にギリシャ音楽を代表する楽器であるブズーキがデンと腰を据えて、複弦をビリビリと歌わせる、そんな伴奏に包まれ、空高く声を響かせて歌手は歌う。光り溢れるエーゲ海の空を舞うように。

 ギリシャの大衆歌手はどちらかというと地面にめり込むみたいな、岩石みたいな重苦しさを呑んだ歌い方をするのが常なんで、これは不思議な心地良さ。なんか戦前のヨーロッパ映画のオペラ映画(というのかどうか知らない。まあ何となく感じは分かるでしょ)を深夜のテレビで見ているみたいな浮世はなれた至福感に包まれる感じだ。
 その代り、スローテンポの暗い曲はきつい。陰気なだけになってしまって。やっぱりクラシックの人に演歌は無理ってことでしょうな。

 で。どう総括したらいいんだろう。ギリシャ音楽の別の面を切り取って見せてくれたとでもいいましょうか。考えさせられたことにしましょうか。まあ、気持ちよい曲は気持ちよく、そうでない曲はそうではなかった、と。