”정인 From Andromeda”by Jungin
韓国のCDリリース事情というのもよく分からなくて、まずシングル盤がない。まあ、そういう行き方の国もあるだろ、それはいいとして。ではそのかわりフル・アルバムのリリースが頻繁に行なわれているかといえばそうでもないようで、何だか5曲入りとか6曲入りとか言う中途半端なミニアルバムという奴が幅を利かせているようだ。
けど、このミニアルバムというのも良し悪しでね。安価に手に入るのはいいけれど、たとえ素晴らしい歌手に出会えても、その盤をあっという間に聴き終えてしまうので、その才能を堪能する暇がない。試食だけして皿を下げられちゃう物足りなさがある。その後、ちゃんとした楽曲収録時間のフルアルバムが出ればいいけど、そうでもなかったりするんで、なかなかもどかしい思いをさせられるのだ。
このアルバムの主人公、ジョンイン嬢なんかは苦節10年なんて苦労人なのだから、初めからドーンとフルアルバムを出させてやればいいじゃないか、などと思わないでもない。
私がジョンインの歌に興味を持ったのは深夜、You-tubeを彷徨いながら、韓国の新人歌手たちの歌を聴き漁ってた時だった。ひときわパワフルな歌唱力で他を圧しながら、でも歌声の裏側に、ふと淋しい影というか、変なたとえだが知らない街角で迷子になり途方に暮れて佇んでいる子供の孤独、みたいなものがうかがわれたからだった。そりゃ、私の深読みかも知れないですよ、それは。でも、そんな影を感じたんだ、彼女の歌に。
ジョンインはもう10年近く前から韓国R&B界では実力派として知られた歌い手で、これまでもいくつかの重要なセッションに参加し、その喉を聞かせてきた。けど、なぜかソロ・デビューの機会に恵まれず、今年になってから遅いデビューを飾ることとなった。
先にも言ったように物がミニアルバムなんで、本の味見程度で終わってしまうのだが、それでもファンクありバラードあり、彼女の多彩な実力を垣間見ることは可能である。一部で評判を呼んでいるらしい3曲目の”憎みます”なんて曲など、さりげなく始まって後半、壮絶に盛り上がるあたり、これは聴き応えがあります。
ジャケが素朴な茶色の紙で、そいつにおそらくは彼女自身による文字やぶっ飛んだ感覚のイラストが描かれている駄菓子屋感覚も、お洒落なようでいてどこか下町風にぶっちゃけているジョンインの気の置けなさを表しているようで、良い感じだ。
そしてどこからやって来るのかしらない彼女の引きずる影はここにもあって、表ジャケでステージ衣装で佇むジョンインは、なんだかやっぱり途方に暮れた迷子に見える。なんたってアルバムタイトルが”アンドロメダ星雲からやって来たジョンイン”だからねえ。そういや、そんな星々を越えた天文学的孤独について、谷川俊太郎が詩にしてなかったっけ?