南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

裁判所構成法を読む 第2章判事・第3章檢事

2023年12月16日 | 治罪法・裁判所構成法
公布:明治23年2月10日
施行:明治23年11月1日(上諭)


裁判所構成法を読む 第2編第2章判事・第3章檢事

第2編 裁判所及ビ檢事局ノ官吏
第2章 判事
#裁判所構成法
第67条 判事ハ勅任又ハ奏任トシ、其ノ任官ヲ終身トス。
(コメント)
判事は勅任官又は奏任官であり、定年はなく終身である。「勅任官」とは、勅命によって叙任された官吏をいい、親任官と一等・二等の高等官である。「奏任官」とは、天皇への上奏を経て任ずる官職をいい、高等官三等から九等に相当する。

#裁判所構成法
第68条 大審院長ハ、勅任判事ノ中ヨリ天皇之ヲ補シ、各控訴院長及ビ大審院ノ部長ハ、司法大臣ノ上奏ニ因リ勅任判事ノ中ヨリ之ヲ補ス。其ノ他ノ判事ノ職ハ、司法大臣之ヲ補ス。
(コメント)
補任権限。大審院長、各控訴院長及び大審院部長は天皇が補任権限を有する(控訴院長及び大審院部長は司法大臣の上奏による)。その他の判事は司法大臣に補任権限がある。

#裁判所構成法
第69条 五年以上判事タル者、又ハ五年以上檢事・帝國大學法科教授若シクハ辯護士ニシテ判事ニ任ゼラレシ者ニ非ザレバ、控訴院判事ニ補セラルルコトヲ得ズ。
(コメント)
控訴院判事に任命される要件。5年以上判事であること等が必要。

#裁判所構成法
第70条 十年以上判事タル者、又ハ十年以上檢事・帝國大學法科教授若ハ辯護士ニシテ判事ニ任ゼラレシ者ニ非サレバ、大審院判事ニ補セラルルコトヲ得ズ。
(コメント)
大審院判事に任命される要件。10年以上判事であること等が必要。

#裁判所構成法
第71条 第六十九條及ビ第七十條ニ掲ゲタル年限ヲ算フルニハ、補職ノ時マデ各々其ノ條ニ列記シタル職務ノ一ノミニ引續キ從事シタルコトヲ必要トセズ
(コメント)
前二条で控訴院・大審院判事に任命されるには一定の年数を必要とする旨規定しているが、その年数は継続していることを要しない。断続的でも構わない。

#裁判所構成法
第72条 判事ハ、在職中左ノ諸件ヲ爲スコトヲ得ズ。
第一 公然政事ニ關係スル事
第二 政黨ノ黨員、又ハ政社ノ社員トナリ、又ハ府縣郡市町村ノ議會ノ議員トナル事
第三 俸給アル又ハ金錢ノ利益ヲ目的トスル公務ニ就ク事
第四 商業ヲ營ミ又ハ其ノ他行政上ノ命令ヲ以テ禁ジタル業務ヲ營ム事
(コメント)
判事の政治への関与禁止及び兼職禁止。

#裁判所構成法
第73条 第七十四條及第七十五條ノ場合ヲ除ク外、判事ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルニ非ザレバ、其ノ意ニ反シテ轉官・轉所・停職・免職又ハ減俸セラルルコトナシ。但シ、豫備判事タルトキ及ビ補闕ノ必要ナル場合ニ於テ轉所ヲ命ゼラルルハ、此ノ限ニ在ラス
2 前項ハ、懲戒取調べ又ハ刑事訴追ノ始メ若ハ其ノ間ニ於テ、法律ノ許ス停職ニ關係アルコトナシ。
(コメント)
判事の身分保障。
原則:意に反して転官・転所・停職・免職・減俸なし。
例外:74条、75条の場合。刑法の宣告を受けた場合。懲戒の処分を受けた場合。

#裁判所構成法
第74条 判事、身體若ハ精神ノ衰弱ニ因リ、職務ヲ執ルコト能ハザルニ至リタルトキハ、司法大臣ハ、控訴院又ハ大審院ノ總會ノ決議ニ依リ、之ニ退職ヲ命ズルコトヲ得。
(コメント)
判事の身分保障の例外(73条が原則を規定)。
要件:心身の衰弱により職務を執ることができないこと。
手続き:控訴院又ハ大審院の総会の決議を経て司法大臣が退職を命じる。

#裁判所構成法
第75条 法律ヲ以テ裁判所ノ組織ヲ變更シ、又ハ之ヲ廢シタル場合ニ於テ、其ノ判事ヲ補スべキ闕位ナキトキハ、司法大臣ハ之ニ俸給ノ半額ヲ給シテ、闕位ヲ待タシムルノ權ヲ有ス。
(コメント)
判事の身分保障の例外(73条が原則を規定)。
要件:①法律により裁判所の組織を変更するか、組織を廃止すること、②当該判事を捕すべき欠員がないこと
効果:俸給の半額を支払い、欠員を待たせることができる
このような規定があるのは、裁判所の組織がまだ流動的だったからでしょうか。

#裁判所構成法
第76条 判事ノ官等、俸給及ビ進級ニ關ル規程ハ、勅令ノ定ムル所ニ依ル。
(コメント)
判事の身分保障。判事の官等、俸給及び進級は勅令で定める。この勅令は、判任官官等俸給令(明治19年勅令第36号)である。裁判所構成法令の制定(明治23年)以前から制定されている。

#裁判所構成法
第77条 判事ハ退職シタルトキハ、恩給法ニ依リ恩給ヲ受ク。
(コメント)
判事の身分保障。戦前の公務員制度(官吏制度)において、官吏には恩給制度が設けられていた。判事は退職後に恩給法による恩給を受ける。

#裁判所構成法
第78条 判事ノ俸給ハ、判事ニ對シ懲戒取調べ又ハ刑事訴追ヲ始メタルガ故ニ停職シタルニ拘ラズ、引續キ之ヲ給ス。
(コメント)
判事の身分保障。判事は、懲戒取調べ・刑事訴追開始により停職となることがある(73条2項)。しかし、この場合でも本条により判事の俸給は全額支給される。

第3章 檢事
#裁判所構成法
第79条 檢事ハ、勅任又ハ奏任トス。
2 第七十六條及ビ第七十七條ハ、檢事ニモ亦之ヲ適用ス。
3 檢事總長及ビ檢事長ノ職ハ、司法大臣ノ上奏ニ因リ、勅任檢事ノ中ヨリ之ヲ補ス。其ノ他ノ檢事ノ職ハ、司法大臣之ヲ補ス。
(コメント)
検事も判事と同じく勅任官又は奏任官であり、定年は規定されていない。検事の官等、俸給及び進級は、判事同様勅令で規定される(76条)。また、退職後恩給の支給を受ける(77条)。

#裁判所構成法
第80条 檢事ハ、刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルニ非サレバ、其ノ意ニ反シテ之ヲ免職スルコトナシ。
(コメント)
検事の身分保障。検事のそれは免職に関する異のみである。判事は「転官・転所・停職・免職・減俸」とその範囲が広い。判事の身分保障が手厚いことがわかる。

#裁判所構成法
第81条 檢事ハ如何ナル方法ヲ以テスルモ、判事ノ裁判事務ニ干渉シ、又ハ裁判事務ヲ取扱フコトヲ得ズ。
(コメント)
検事は判事の裁判事務に干渉することができないし、裁判事務を取り扱うこともできない。司法の独立性。

#裁判所構成法
第82条 檢事ハ、其ノ上官ノ命令ニ從フ。
(コメント)
検事は上官の命令に従わなければならない。判事には同様の規定がないが、これも司法の独立性の観点からである。

#裁判所構成法
第83条 檢事總長、檢事長及ビ檢事正ハ、其ノ各管轄區域内ノ裁判所ノ、檢事ノ職務ノ範圍内ニ在ル事務ヲ、自ラ取扱フノ權ヲ有ス。
2 檢事總長、檢事長及ビ檢事正ハ、其ノ管轄區域内ニ於テ、或ル檢事ノ取扱フべキ事務ヲ、他ノ檢事ニ移スノ權ヲ有ス。
(コメント)
検事総長、検事長及び検事正の権限規定。

#裁判所構成法
第84条 司法警察官ハ、檢事ノ職務上其ノ檢事局管轄區域内ニ於テ發シタル命令及ビ其ノ檢事ノ上官ノ發シタル命令ニ從フ。
2 司法省又ハ檢事局及ビ内務省又ハ地方官廳ハ、協議シテ警察官中各裁判所ノ管轄區域内ニ於テ、司法警察官トシテ勤務シ、前項ノ命令ヲ受ケ及ビ之ヲ執行スル者ヲ定ム。
(コメント)
司法警察官は検事の職務上の「命令」に従う義務を有する。現行法では、検察官の指示・指揮権として刑事訴訟法で規定されている(同法193条)。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする