南斗屋のブログ

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軍の法務官の役割とその教育

2023年04月27日 | 歴史を振り返る
(法務官の経歴のあった矢口洪一と高木文雄)
これまで矢口洪一(元最高裁長官)や高木文雄(元大蔵官僚、元国鉄総裁)が若かりし頃、海軍の法務官だったことを紹介してきました。

(法務官の役割)
軍という組織を維持していくためには、規律を保たなければなりません。規律の最たるもの刑罰です。刑罰を適用するには裁判が必要であり、軍の中で裁判を運用するのが法務官の役割です。
刑罰法規の適用、即ち刑事訴訟を担うのは検察官と裁判官なので、軍の法務官は、検察官役となったり、裁判官役となったりします。同じ事件で検察官と裁判官を兼ねることはなく、事件によって検察官役となる場合、裁判官役となる場合があったそうです。

(法務官になるための試験と教育)
当時法務官になるには、高等文官試験司法試験に合格することが必須でした。既に紹介した矢口洪一も高木文雄も同試験をパスしています。この試験に合格した上で、陸軍又は海軍に法務官候補として採用されるのが、法務官となる第一歩です。
矢口洪一の場合は、海軍法務見習尉官として任官しています。ところが、これ以前ですと「法務官試補」として任官していたようです(原秀男『法の戦場』)。
呼び方が違うのは、時期の違いによるのかもしれません。原秀男は1940(昭和15)年に任官、矢口洪一は1943(昭和18)年9月 に任官しており、矢口洪一の方が時期的に後で、矢口洪一のときから学徒出陣が始まっており、その影響から制度が変わっているのかもしれません。

法務官は軍法会議(軍の裁判所)で裁判官役と検察官役を務めなければならないので、法務官試補の教育(実務修習)も両方のカリキュラムがありました。
裁判官の修習は、軍法会議を取り仕切っている法務官のもとについて実務を習っています。
検察官の修習は、検察官職務取扱に任命され、憲兵隊(軍の警察)が送致して来た者を取調べ、起訴するか否かを決するという捜査を学ぶこと、軍法会議で検察官役として立ち会っている法務官についていき法廷に立ち会う法廷立ち会いに関することがあります。
 また、刑が確定すれば、検察官役として、形の執行を指揮するという役目もあります。高木文雄は「見習い勤務中に上官殺人事件を担当させられ、銃殺執行に立ち会うなど緊張した」と書いており(『私の履歴書』)、これも、刑の執行指揮の教育の一環であったということになります。

なお、法務官の実務修習は本来1年6ヶ月ですが、原和男は戦争の影響で8ヶ月に短縮されたと述べています。





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