南斗屋のブログ

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公立病院の医療過誤は、国家賠償責任か不法行為責任か

2021年02月18日 | 地方自治体と法律
医療過誤訴訟といいますと、不法行為責任を問うのか、債務不履行責任を問うのかがどちらで請求を構成していくのか、ということがよく論じられます。

公立病院の場合は、不法行為責任を追求するのか、国家賠償でいくのかという問題が加わります。
実際には、公立病院であっても、不法行為責任で訴状が作成されることが多く、また裁判所もその構成を問題視しないので、弁護士がこの問題を意識することはあまりないようではあります。

まずは条文を確認してみましょう。
国家賠償法1条1項「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」

公立病院の医師は「公務員」ですから、国家賠償法での請求になるのではないかとも考えられます。
問題は、公務員の医師の治療行為が、同項にいう「公権力の行使にあたる」と言えるかです。

宇賀先生の教科書「行政法概説Ⅱ」を参照しましたら、以下の記載がありました。

宇賀「行政法概説Ⅱ」
*裁判例は大勢は、国家賠償1条1項の「公権力の行使」の意義について広義説(純粋な私経済的作用は公権力の行使に含めない説)を採っていると考えられる。
*公立学校における教育作用や公立病院における医療作用については、純粋に私経済的行為とみることは問題があるが、他方、私立の学校や病院で行われるものと異なった取り扱いをする合理的理由を立証することも困難である。
*公立学校における教育を「公権力の行使」とするのが、裁判例の大勢である。
 例:最高裁昭和58年2月18日判決(民集37・1・101)、最高裁昭和62年2月6日判決(判例時報1232・100)
*公立病院等における通常の医療は公権力の行使ではないと裁判例はしているが、公立学校における教育と公立病院の通常の医療とを区別する根拠は十分に示されていない。
なお、医療行為であっても、強制接種や勧奨接種は「公権力の行使」とされているし、措置入院、措置入院患者に対する治療は「公権力の行使」とされている。

 ここから宇賀先生も判例を整合的に理屈付けることに困惑していることを読みとれるように思います。

「公権力の行使」の意義についての広義説がいう、「純粋な私経済的作用」には公立病院の医師の治療行為はピッタリとは当てはまらないようなのですよね。だから、宇賀先生は
「公立病院における医療作用については、純粋に私経済的行為とみることは問題がある」というわけです。

しかし、私立病院で行われている医療行為と公立病院の医療行為と何が違うのかといえば、何も違わないし変わらない。
 実際、こんなふうに判示している最高裁判例がありますからね。

「公立病院において行われる診療は、私立病院において行われる診療と本質的な差異はなく、その診療に関する法律関係は本質上私法関係というべきである」(最高裁平成17年11月21日判決・民集59巻9号2611頁)

この判例は公立病院の診療に関する債権の消滅時効期間についてのもので、時効期間は地方自治法236条1項所定の5年ではなく、民法170条1号により3年と解すべきであるという結論に関する理由付けで用いられています。

ここまで最高裁が言い切っているのだから、国賠は問題にならないだろうと言ってしまいたいところですが、それなら学校で行われる教育はどうなのか?私立学校での教育と公立学校での教育と何が違うのか。判例は公立学校における教育を「公権力の行使」とするのがほとんどではないか。そのようなことと整合性を保てるのかというのが、「公立学校における教育と公立病院の通常の医療とを区別する根拠は十分に示されていない。」という宇賀先生の指摘に表れているような気がします。

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