南斗屋のブログ

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地方自治体の債権回収と少額訴訟

2021年02月08日 | 地方自治体と法律
債権回収のテキストを読んでいますと、民事訴訟には通常訴訟のほかに、少額訴訟というものもあり、少額訴訟は簡易迅速な処理手続きで、1回の期日で審理を終えて判決をすることを原則とする特別な訴訟手続きであると説明されています。1回の期日で審理を終えることを1期日審理の原則と呼びますが、長くかかりそうな訴訟が一回で終わるし、簡易迅速だからこの少額訴訟という制度を利用したほうが良いのではないかと考えるのも無理はありません。
しかし、必ずしもそう上手くいくとは限らないのです。
理由の第1は、1期日審理の原則を貫徹させるため、当事者は期日前または期日において全ての攻撃防御方法提出しなければならないと規定されているからです(民事訴訟法370条2項)。この規定どおりにやろうとすると、被告の主張をすべて予想し、それに対する反論を考え、証拠も揃えておかないといけないということになります。被告の主張立証は、期日前だけではなく期日当日になされても良いように規定されていますので、期日にいきなり被告から主張があっても、原告は反論反証ができるように準備をしておかなければならないということになります。原告側の地方自治体の職員が指定代理人を務める場合は、これはかなり負担が大きいのではないでしょうか。
2番目に被告が出頭すれば裁判所は和解を勧めてくるのが一般的ですが、被告との事前折衝がない場合、庁内の決済の関係で和解受諾を当日行うのは困難ではないでしょうか。これを裁判所側からみると、一回での審理を求めながらも、一回で訴訟が終了しないではないかということになりまして、なんのために少額訴訟を選択したのかと思われてしまうかもしれません。
第3に、少額訴訟の提起には年間10回までの回数制限があります(民事訴訟法368条1項など)。よって、10回を超える場合はそもそも少額訴訟の利用ができないいうことになります。
以上から、地方自治体の職員が指定代理人となって訴えを提起する場合は、通常訴訟の方がよく、少額訴訟はあまり向いていないのではないかと思います。

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