少し現実に戻って。とにかく沖縄をめぐる情勢、政府の対応がひどすぎて、何か書きたいと思い続けているけれど、書くとなると調べることも多いし…という状態。中学教科書の検定結果も公表され、これも書きたいけれど、いずれもっと調べてからにする。安倍政権の政策、あるいは首相以下の発言のあれこれが、反対というレベルを超えて、どこから手を付けていいのか判らない絶望感さえ感じる。
そんな中で、もう書かなくていいかと思った「大阪都構想」なるものが甦ってしまって、5月に住民投票がある。その前に府議選、市議選が今行われている。「大阪都」に自民党大阪府連は反対のはずなのに、「憲法改正の同志」が欲しい安倍首相が橋下市長を持ち上げる。橋下市長は首相にすり寄る。「公明党は許せない」などと言ってたのに、昨年12月の総選挙で、公明現職のいる選挙区に「維新」は候補を擁立しなかった。その後、公明党は「都構想」に反対のはずなのに、住民投票を行うのは容認するなどと不思議なことを言って、都構想の採決に賛成してしまった。賛成した議案に、住民投票では反対するのか?こういう「裏取引」(誰だって、そう思うでしょう)は、やだなあ。
橋下市長、あるいは「大阪維新の会」をどう考えるべきか、重大性、緊急性が今よりもあった時期がある。その時期に「大阪都構想」をどう考えるべきかについて書いた。基本的には今と同じなんだけど、時間が経ったので、もう一回書いておきたいと思う。「維新」側の考えも知りたいと思う人は、「大阪都構想―二重行政を解消し、大阪は豊かになる」というホームページがある。一々読む気もしないけど、詳しく知りたい人は参照。大阪都構想は紆余曲折があったけど、一応いまのところ、「大阪市を解体して、5つの特別区に分割する」ということが基本。大阪の土地勘がないから、僕にはよく判らないけど、その区割りは以下のようなものとされている。
■東区 城東区、東成区、生野区、旭区、鶴見区
■北区 北区、都島区、淀川区、東淀川区
■湾岸区 港区、此花区、福島区、大正区、西淀川区、住之江区
■中央区 西成区、中央区、西区、天王寺区、浪速区
■南区 阿倍野区、平野区、住吉区、東住吉区
さて、「大阪都」というものは、僕の見るところ、要するに「単なる思い付き」であって、現代人によくある「自分から不幸になりたがる人々」の発想法だと思う。やって見れば判るけれど、面倒なことがあるだけで、かえって不便になるだけだと思う。そのことは、冷静に考えればすぐに判ることである。現在もすでに大阪市のサービスは切り詰められているようだが、「大きいことで得られるメリット」が基本的にはなくなってしまう。大阪市民が大阪市全域で受けられているサービスが、新設の「特別区」の住民だけになるのである。(もちろん、大阪府に移管されて同様に受けられるサービスもあるだろうが、それは旧大阪市民だけではなく、大阪府民全員が共通に受けられるものである。
さて、そういう問題を考える前に、「大阪市はどのくらい大きいのか」を見ておきたい。二重行政だの何だのと言われるのは、つまりは「大阪府の中で大阪市が大きな位置を占めている」というイメージから来ている。だから、府と市で張り合うだの、協力しないだのということが起きるということらしい。今までの府と市の関係は、外部の人にはよく判らないから何も言えない。そういうこともあるのかもしれないが、要するに「大阪市の大きさ」と言っても、絶対的な基準はなく相対的なものである。(例えば、相撲取りの世界で「小兵」と言われる力士でも、一般社会では「ずば抜けて大きい」わけである。)
さて、では「大きさの基準」は何だろうか。大きくは3つあるだろう。「面積」「人口」「税収入」である。前の二つは「目で見て理解しやすい」指標だが、本当に大事なのは税収の方かもしれない。だけど、税収の割合を調べるのは面倒なので、個々では面積と人口を見ておくことにする。(税収に関しては、府税収入の中で、大阪市民が納税している割合を見るだけでなく、大阪府の各市町村税の合計の中で大阪市税収入がどのくらいあるかも調べる必要がある。また市が解体されると、市税がどのように「府税」と「特別区税」に分割されるのかも。)
さて、まずは東京から。
東京都の面積は、2,190.90km²
東京23区の面積は、622.99km² 割合は、約28.5%。
東京都の人口は、13,392,417人
東京23区の人口は、9,157,590人 割合は、約68.4%。
*面積は3割にも満たないが、人口は3分の2以上が区部に集中している。
では、大阪の場合。
大阪府の面積は、1,904.99km²
大阪市の面積は、225.21km² 割合は、約11.8%。
大阪府の人口は、8,845,977人
大阪市の人口は、2,687,456人 割合は、30.4%
*東京都に比べて、大阪府の中で大阪市が占める割合は、半分以下だということが判る。
やはり大都市の問題だから、人口が重要なので、他の道府県の場合も少し見てみたい。
①北海道の人口(5,432,200人)の中で、札幌市の人口(1,936,239人)が占める割合(35.6%)
②神奈川県の人口(9,097,624人)の中で、横浜市の人口(3,710,824人)が占める割合(40.8%)
③同じく、神奈川県の政令指定都市である川崎市の人口(1,461,866人)と相模原市の人口(722,679人)を加えて、神奈川県で政令指定都市の人口が占める割合(64.8%)
④福岡県の人口(5,091,964人)の中で、福岡市の人口(1,522,368人)と北九州市の人口(961,873人)の合計が占める割合(48.8%)
以上を見れば判るように、「大阪市が大きすぎる」という前提条件にそもそも疑問がある。「大阪都」みたいな発想が意味を持つんだったら、大阪より大きな横浜市こそ、まず対象にならないとおかしい。特に神奈川は三つも政令指定都市があるというのは、確かに問題もあると思う。大阪の場合は、都道府県の中でひとつの市に人口が集中しているのは確かだが、その割合は東京などに比べてみれば、まだ大きいとは言えないのである。(なお、大阪府にも堺市というもう一つの政令指定都市があるが、当初は一緒に都構想に乗るはずが、脱退してしまった経緯がある。)
ところで、以上の数字を見てもわかる通り、東京都で特別区部への人口集中は際立っている。しかし、これは理由があるのであって、歴史的経緯がある。東京では古く1878年(明治11年)に区制が敷かれ、15区が置かれた。浅草や深川を東端として、後はほぼ山手線内のあたりであるが、実はその当時は新宿、渋谷、池袋などの駅は郡部にあったのである。しかし、1923年の関東大震災で大きな被害を受けた東京市は、郊外に人口が移ってしまい、一時は大阪市に人口を抜かれる。ところが、1932年に郊外の5郡82市町村を東京市に編入し、20区を新たに置いて、合計35区になる。その「大東京市」が戦時下の1943年、内務省主導で(戦時中で東京市民の意向などと関係なく)、東京都に再編された。そして、1947年に23区体制になったのである。この「大東京」誕生がなければ、新宿や渋谷に止まらず、現在は高級住宅地とされる成城や田園調布など、みな東京市の外だったわけである。
大阪も随時「市域拡大」を行ってきたが、東京ほど大規模な拡大をしていない。だから、東京の感覚では特別区になってもおかしくない距離の町が、独立した市になっている。都市というのは、中心部から近い地区に住んでいた中流階級が郊外に移転して、旧市街には貧困地区ができるようなことが起きやすい。(東京は東西格差があるので、むしろ「山の手」と「川向う」という差異になる。)だから、「生活保護世帯が多い」といった問題も、「大阪都」で解決するような問題ではなく、世界的に生じる「都市拡大」に取り残された地域という問題だと思う。大阪市だけ解体しても、逆に問題がさらに大きくなるという可能性が高いのではないだろうか。
そんな中で、もう書かなくていいかと思った「大阪都構想」なるものが甦ってしまって、5月に住民投票がある。その前に府議選、市議選が今行われている。「大阪都」に自民党大阪府連は反対のはずなのに、「憲法改正の同志」が欲しい安倍首相が橋下市長を持ち上げる。橋下市長は首相にすり寄る。「公明党は許せない」などと言ってたのに、昨年12月の総選挙で、公明現職のいる選挙区に「維新」は候補を擁立しなかった。その後、公明党は「都構想」に反対のはずなのに、住民投票を行うのは容認するなどと不思議なことを言って、都構想の採決に賛成してしまった。賛成した議案に、住民投票では反対するのか?こういう「裏取引」(誰だって、そう思うでしょう)は、やだなあ。
橋下市長、あるいは「大阪維新の会」をどう考えるべきか、重大性、緊急性が今よりもあった時期がある。その時期に「大阪都構想」をどう考えるべきかについて書いた。基本的には今と同じなんだけど、時間が経ったので、もう一回書いておきたいと思う。「維新」側の考えも知りたいと思う人は、「大阪都構想―二重行政を解消し、大阪は豊かになる」というホームページがある。一々読む気もしないけど、詳しく知りたい人は参照。大阪都構想は紆余曲折があったけど、一応いまのところ、「大阪市を解体して、5つの特別区に分割する」ということが基本。大阪の土地勘がないから、僕にはよく判らないけど、その区割りは以下のようなものとされている。
■東区 城東区、東成区、生野区、旭区、鶴見区
■北区 北区、都島区、淀川区、東淀川区
■湾岸区 港区、此花区、福島区、大正区、西淀川区、住之江区
■中央区 西成区、中央区、西区、天王寺区、浪速区
■南区 阿倍野区、平野区、住吉区、東住吉区
さて、「大阪都」というものは、僕の見るところ、要するに「単なる思い付き」であって、現代人によくある「自分から不幸になりたがる人々」の発想法だと思う。やって見れば判るけれど、面倒なことがあるだけで、かえって不便になるだけだと思う。そのことは、冷静に考えればすぐに判ることである。現在もすでに大阪市のサービスは切り詰められているようだが、「大きいことで得られるメリット」が基本的にはなくなってしまう。大阪市民が大阪市全域で受けられているサービスが、新設の「特別区」の住民だけになるのである。(もちろん、大阪府に移管されて同様に受けられるサービスもあるだろうが、それは旧大阪市民だけではなく、大阪府民全員が共通に受けられるものである。
さて、そういう問題を考える前に、「大阪市はどのくらい大きいのか」を見ておきたい。二重行政だの何だのと言われるのは、つまりは「大阪府の中で大阪市が大きな位置を占めている」というイメージから来ている。だから、府と市で張り合うだの、協力しないだのということが起きるということらしい。今までの府と市の関係は、外部の人にはよく判らないから何も言えない。そういうこともあるのかもしれないが、要するに「大阪市の大きさ」と言っても、絶対的な基準はなく相対的なものである。(例えば、相撲取りの世界で「小兵」と言われる力士でも、一般社会では「ずば抜けて大きい」わけである。)
さて、では「大きさの基準」は何だろうか。大きくは3つあるだろう。「面積」「人口」「税収入」である。前の二つは「目で見て理解しやすい」指標だが、本当に大事なのは税収の方かもしれない。だけど、税収の割合を調べるのは面倒なので、個々では面積と人口を見ておくことにする。(税収に関しては、府税収入の中で、大阪市民が納税している割合を見るだけでなく、大阪府の各市町村税の合計の中で大阪市税収入がどのくらいあるかも調べる必要がある。また市が解体されると、市税がどのように「府税」と「特別区税」に分割されるのかも。)
さて、まずは東京から。
東京都の面積は、2,190.90km²
東京23区の面積は、622.99km² 割合は、約28.5%。
東京都の人口は、13,392,417人
東京23区の人口は、9,157,590人 割合は、約68.4%。
*面積は3割にも満たないが、人口は3分の2以上が区部に集中している。
では、大阪の場合。
大阪府の面積は、1,904.99km²
大阪市の面積は、225.21km² 割合は、約11.8%。
大阪府の人口は、8,845,977人
大阪市の人口は、2,687,456人 割合は、30.4%
*東京都に比べて、大阪府の中で大阪市が占める割合は、半分以下だということが判る。
やはり大都市の問題だから、人口が重要なので、他の道府県の場合も少し見てみたい。
①北海道の人口(5,432,200人)の中で、札幌市の人口(1,936,239人)が占める割合(35.6%)
②神奈川県の人口(9,097,624人)の中で、横浜市の人口(3,710,824人)が占める割合(40.8%)
③同じく、神奈川県の政令指定都市である川崎市の人口(1,461,866人)と相模原市の人口(722,679人)を加えて、神奈川県で政令指定都市の人口が占める割合(64.8%)
④福岡県の人口(5,091,964人)の中で、福岡市の人口(1,522,368人)と北九州市の人口(961,873人)の合計が占める割合(48.8%)
以上を見れば判るように、「大阪市が大きすぎる」という前提条件にそもそも疑問がある。「大阪都」みたいな発想が意味を持つんだったら、大阪より大きな横浜市こそ、まず対象にならないとおかしい。特に神奈川は三つも政令指定都市があるというのは、確かに問題もあると思う。大阪の場合は、都道府県の中でひとつの市に人口が集中しているのは確かだが、その割合は東京などに比べてみれば、まだ大きいとは言えないのである。(なお、大阪府にも堺市というもう一つの政令指定都市があるが、当初は一緒に都構想に乗るはずが、脱退してしまった経緯がある。)
ところで、以上の数字を見てもわかる通り、東京都で特別区部への人口集中は際立っている。しかし、これは理由があるのであって、歴史的経緯がある。東京では古く1878年(明治11年)に区制が敷かれ、15区が置かれた。浅草や深川を東端として、後はほぼ山手線内のあたりであるが、実はその当時は新宿、渋谷、池袋などの駅は郡部にあったのである。しかし、1923年の関東大震災で大きな被害を受けた東京市は、郊外に人口が移ってしまい、一時は大阪市に人口を抜かれる。ところが、1932年に郊外の5郡82市町村を東京市に編入し、20区を新たに置いて、合計35区になる。その「大東京市」が戦時下の1943年、内務省主導で(戦時中で東京市民の意向などと関係なく)、東京都に再編された。そして、1947年に23区体制になったのである。この「大東京」誕生がなければ、新宿や渋谷に止まらず、現在は高級住宅地とされる成城や田園調布など、みな東京市の外だったわけである。
大阪も随時「市域拡大」を行ってきたが、東京ほど大規模な拡大をしていない。だから、東京の感覚では特別区になってもおかしくない距離の町が、独立した市になっている。都市というのは、中心部から近い地区に住んでいた中流階級が郊外に移転して、旧市街には貧困地区ができるようなことが起きやすい。(東京は東西格差があるので、むしろ「山の手」と「川向う」という差異になる。)だから、「生活保護世帯が多い」といった問題も、「大阪都」で解決するような問題ではなく、世界的に生じる「都市拡大」に取り残された地域という問題だと思う。大阪市だけ解体しても、逆に問題がさらに大きくなるという可能性が高いのではないだろうか。