尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ブラジル映画「バクラウ 地図から消された村」

2020年12月16日 22時18分08秒 |  〃  (新作外国映画)
 渋谷のシアター・イメージフォーラムで「凱歌」というドキュメンタリー映画を上映している。(18日まで。)11時10分から一回上映なので、朝早く家を出たら途中で電車が停まってしまった。でも11時上映開始と思い込んでいて、スマホを見直したら11時10分開始だった。この10分間の余裕で何とか間に合った。坂口香津美監督がハンセン病療養所多磨全生園に10年間通って撮影した映画である。ハンセン病における「断種」の問題に深く迫った映像記録である。

 「凱歌」は機会があったらどこかで見て欲しい映画だけど、ハンセン病をめぐる問題点は今までに書いているので、ここでは別の映画を書いておきたい。シアター・イメージフォーラムは何とシニア料金が1300円なので、最近はあまり行かなくなっている。でも「凱歌」に続けて上映されているブラジル映画「バクラウ 名前を消された村」は見たかった。そんな映画は知らないという人が多いと思うけど、自分も実は同じだった。先に「燃ゆる女の肖像」を書いた時に2019年のカンヌ映画祭を調べていて、「バクラウ」が審査員賞を受賞していたことに気付いたのである。

 ブラジル映画では「ぶあいそうな手紙」というのを今年見たけど、あれは南部の都市ポルトアレグレの物語だった。この「バクラウ」というのは、それと全く別で、どことも知れぬ荒涼たる奥地の村である。昔ブラジルに「シネマ・ノーヴォ」という運動があって、グラウベル・ローシャアントニオ・ダス・モルテス」という荒れた奥地の映画があった。この映画に出てくる土地も、本当に荒れている感じで「何か」が起こりそうだ。この地に暴力が吹き荒れる様はまるで「西部劇」。

 村の長老格の祖母が死んで、テレサは久しぶりにバクラウに帰って来た。しかし、途中で一本道の道路で事故が起きていて不吉な感じを与える。案の定、その後村には不思議な出来事が相次ぐ。チラシには「謎の飛行物体」「殺人部隊」「不吉な訪問者」「狙われた水」などとおどろおどろしく書かれている。しかし、謎の飛行物体は「空飛ぶ円盤」型をしているドローンである。誰がドローンを飛ばしているのか。そして給水車が銃撃され、観光客などいない村に謎めいたバイクの男女二人組が現れる。一体この村で何が起こっているのだろうか。

 誰かに殺害された村人の死体が発見される。携帯電話がある日から通じなくなり、グーグルアースで村を探しても名前が載っていない。「名前を消された村」である。古典的な物語では「孤立した村」は、「孤島」だったり「災害」だったりで生じる。しかし、現代では「最新IT技術」が必要なのである。映画の半ば頃になって、謎の事態は「襲撃部隊」が引き起こしていることが判る。だが目的が不明で、何を狙っているのかが判らない。そして「明日は電気が停まる」という。

 最後は襲撃部隊と村人の戦いを描く。「七人の侍」以来の定番的展開だが、この映画では村人が隠れてしまって「沈黙の村」となる。一体どうなって行くのか、強い緊張感がみなぎる。ラストになって真相が明らかになるが、そこで政治によって「消された」ことが判る。確かに「権力」が関与しない限り、携帯電話や電気が停まるはずはない。監督はクレベール・メンドンサ・フィリオジュリアノ・ドネルスの二人がクレジットされている。前者のフィリオ監督は「アクエリアス」(2016)という映画が東京国際映画祭で上映されている。

 ソニア・ブラガ(蜘蛛女のキス)やウド・キアーが出ているが、まあ俳優で見る映画ではない。どっちかと言えば「ジャンル映画」的な作りだなと思うし、暴力的な描写も多い。しかし、ブラジル奥地の「西部劇」にも「世界」は現れる。ほとんど何でもありの暴力に突然さらされた人々はどうすればいいのか。荒涼たるブラジル奥地の風景を見るだけでも、心の中に熱い風が吹きすさぶ感じがする。この暴力的な世界が世界の現住地なのだろうか。不審なドローンにはご注意を。
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