尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

タリバン、アフガニスタンを制圧ー鍵は中国が握る

2021年08月16日 22時30分34秒 |  〃  (国際問題)
 前日まで「反政府武装集団」と報じられていたアフガニスタンタリバン(英語表記=Taliban)が首都カブールを制圧した。ガニ大統領はアラブ首長国連邦に脱出したと伝えられる。1996年から2001年まで続いたかつての「タリバン政権」時代と同じ名前の「アフガニスタン・イスラム首長国」を樹立したとしている。(ガニ政権時代の国名は「アフガニスタン・イスラム共和国」。)「タリバン」(またはタリバーン、ターリバーン)とはアフガニスタンの最大民族パシュトゥン人の言語で「学生」という意味で、イスラム神学校の「神学生」のこと。
(大統領官邸を制圧したタリバン勢力)
 アフガン情勢急変を受けて書いているのではなく、実は昨日から次は「タリバンの勝利近し」という記事を書くつもりだった。タリバンがもうすぐ首都を制圧するのは間違いなさそうだったが、それにはもう一週間ぐらい掛かるのではないかと思っていた。まさか15日に陥落するとは思っていなかったが、事態が動くときは急変することが多い。1975年のヴェトナム戦争終結時のサイゴン陥落もそうだったし、ベルリンの壁崩壊やその後の東欧革命もそうだった。今回はアメリカ軍の撤退表明を受けて、国軍の空洞化が一挙に進んだ。バイデン政権は遠からずこうなることを予測していただろうが、それは「9・11」の20周年の後になると踏んでいただろう。
(脱出したガニ大統領)
 アメリカ国内ではトランプ政権時代から「アフガン撤退」が進んでいた。そのために「撤退後」を見越したタリバンとの和平協議も行われ、「アフガン国土を外国攻撃の拠点にしない」(かつてのように「アル=カイダ」などテロリスト集団と手を結ばない)という約束がなされている。20年に及ぶアフガン戦争でアメリカは多くの犠牲を払い、もう撤退するのはやむを得ないというのがアメリカの大方の世論だと思う。しかし、「9・11」(2001年の同時多発テロ)をきっかけに始まったアフガニスタンへの武力行使なのだから、20年を前に「我々の犠牲は報われなかった」とバイデン政権の「失敗」を追求する動きも出て来るだろう。
(タリバン兵)
 反政府勢力は普通は少数民族とか思想的な対立関係とかの背景がある。少数派が時間をかけて大きくなって政権を獲得するもので、中国共産党キューバ革命などの例を見れば判る。しかし、タリバンに関しては、それが当てはまらない。1994年に突然強大な武装勢力として出現した。当時のアフガニスタンは、1989年のソ連軍撤退後の「軍閥」割拠時代だった。そのような情勢の中でパキスタンとの国境地帯でイスラム神学を学んでいた学生たちが決起した。そしてその規律ある戦いぶりが住民の支持を受けた。そういうことになっているが、実はパキスタン国軍の諜報機関が関与して「育成」したことが判明している。

 アフガニスタンは工業化が遅れた国だから、武器を自ら作る能力はない。だから「タリバン」も外国の軍備や資金の援助がなければ戦えない。タリバンの黒幕はパキスタンサウジアラビアだった。パシュトゥン人はパキスタンでは少数民族だが、アフガニスタンでは45%を占める最大民族である。この同族意識とイスラム教スンニ派の共通性で、パキスタンの援助を受けながらイスラム国家成立を目指したのがタリバンだった。また麻薬の密売も資金源だと言われている。もっとも近年は支配地域が広がってきたため、通常の「税金」や「関税」が資金の中で大きな位置を占めていると言われる。
 
 1996年には事実上全土を制圧したが、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦しか承認しなかった。タリバン支配下ではパシュトゥン人以外の少数民族の圧迫女性の抑圧娯楽の禁止、社会主義時代のナジブラ元大統領を初めとする公開処刑バーミヤン渓谷の仏教石窟(世界遺産)の爆破など、人権無視、イスラム法厳格支配の蛮行が多かった。今回はさすがにそこまではしないと楽観するわけにはいかない。「イスラム国家」樹立を進める以上、「イスラム法」に基づく反近代的な発想がやがて現れてくると思うべきだ。

 しかし、これほど急速に全土を制圧したということは、ある程度旧勢力に妥協しているんだと思う。少数民族は抹殺するぞという方針なら、パシュトゥン人以外の民族は大きな犠牲を覚悟で徹底的に抵抗するだろう。アフガニスタンは全土がほとんど山岳地帯で、各地域の独立性が高い。それぞれの地域に武装勢力がいるが、彼らの実権をある程度保障することで、急速な勢力拡大を実現できたと考えられる。そのまましばらくは事実上の「連合政権」のような統治になるかもしれない。今後の最大の注目点は中国がいつ承認するかだ。実は中国は7月末にタリバン幹部を招待して会談を持っている。そこで何が話し合われたかのか。
(中国の王毅外相と会談するタリバン幹部)
 恐らくは「タリバン政権」は(対米国のテロ支援をしないだけでなく)、中国のウィグル人独立運動も支援しないことを約束したのではないか。その代わりに中国はアフガン内部の人権問題も非難しない。アフガニスタンは「一帯一路」に加わって中国は全面的に支援する。そういうことだと推定できる。米国はアフガニスタンで米国に協力した人々を見捨てる。タリバンはウィグルなど他国で虐げられているイスラム教徒を支援しない。中央アジアは中国が覇権を握る。タリバン政権は当面は世界に承認を求めるためおとなしくしているかもしれないが、銃で成立した政権は支配が固まれば「強硬派」が実権を握るのが歴史の法則だ。僕はそう予想している。
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