尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「サマーフィルムにのって」、「部活」青春映画の快作

2021年08月17日 21時04分04秒 | 映画 (新作日本映画)
 新鋭の松本壮史監督のデビュー作「サマーフィルムにのって」という映画は、拾い物の青春映画の快作だった。簡単に言えば、女子高生が夏休みに時代劇映画を撮影しようとする話である。「時代劇」なんてテレビドラマでもなくなって、今どきの女子高生が知ってるわけないと思うと、DVDで何でも見られる時代である。女子高生なら市川雷蔵だろうと思うと、「雷蔵様は美しすぎる」ということで、この映画の女子高生は勝新太郎のファンである。勝新じゃ暑苦しすぎないかと思うが、そういうのが好きっていう女子高生って確かにいるのだ。

 「ハダシ」(伊藤万理華)は映画部のために「時代の青春」というシナリオを書いたけど、部内では部長が書いた「好きっていうしかないじゃない」(だったかな)というラブコメが圧倒的に支持されて撮影出来ない。放課後は何故か自由に使える廃バスに、友だちの「ビート板」「ブルーハワイ」と集まっては、昔の時代劇を見る日々。三船敏郎の話も出るけど、何といっても「座頭市物語」(第一作)の大ファン。座頭市のモノマネもよくやってる。映画部で撮れなくても何とか自分で作りたいんだけど、主役を頼める人がいない。
(3人の友人と)
 ところがそこに、何故か凛太郎金子大地)という凜々しい男子が現れて、ハダシは主役を頼みに追い回す。同級生でもない人間が急に現れるのはおかしいが、凛太郎は実は「未来人」なのだった。つまり「時をかける少女」である。ビート板が原作を読んでるシーンが伏線になっている。なんで未来から来たかというと、実は「ハダシ監督は未来の巨匠」で、全作品を見たのに文化祭でやったと記録にあるデビュー作だけ残ってないからわざわざ見に来たのである。そんなバカなと言ってしまえば、それっきりである。

 何とか凛太郎を主役にして、外れ者をスタッフに頼んで、いよいよ撮影開始だ。デジカメは映画部が使っているから、ハダシたちはスマホで撮る。今やそれでも可能な時代なのである。打倒ラブコメを合言葉に、皆で盛り上がり、いよいよ決闘シーンのため海辺のロケへ。そうしたらそこに映画部も来ていて、いろいろあって…。だけど、ハダシは悩みに悩んでいる。毎日のように脚本を書き直している。そして秘かに凛太郎に好意を抱いているらしき気配も…。書いてるだけだと伝わらないかもしれないが、何か(この場合は時代劇映画製作)に熱中している青春の熱が見ている者に伝染してくるのである。
(映画撮影中)
 撮影は終わり、いよいよ編集作業。ゲリラ上映するつもりだったが、体育館で映画部のラブコメに続けて二本立てで上映出来ることになった。そしてラストシーンが近づいて来て…。突然ハダシは飛び出していって、上映を止めてくれという。自分が真に撮りたかったラストは違うんだと。そこでどうする。体育館の掃除道具を使って、あるべきラストのチャンバラを始めるのである。そのラストというのは、要するに「座頭市物語」のラストの市と平手造酒(みき)の決闘シーンである。お互いに敬愛し合っている二人を切り結ばせるべきかどうか。そこでこの映画は単なる映画オタク的な世界を越えて、より深い青春の輝きを見せる。

 主役のハダシ監督の伊藤万理華元乃木坂46で2017年卒業後は俳優などで活躍中という。その他期待できる若手役者が出ているが、僕は知らない人ばかり。なんで「ハダシ」と呼ばれているのかも不明。親も出て来なければ、映画部内の描き方も不明。「未来人」なんて設定もおかしいけれど、そういうのを越えてエネルギーに満ちている。まさに夏休みという感じ満載の映画。映画作りの映画、部活の映画、夏休みの映画、文化祭の映画といった今まで幾つも作られた青春映画の定番を踏まえつつ、こんな発想でも物語を作れると感心した。
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