磯田道史「日本史の内幕」(中公新書)は人気の著者らしく新書部門のベストセラーになっているらしい。同じく本郷和人「日本史のツボ」(文春新書)も人気を呼んでいる。正直言って、そういう本はあまり読まないんだけど、野澤道生「やりなおし高校日本史」(ちくま新書)という本もあるから、まとめて読んでみた。個別テーマの歴史本と違って、一般向け概説みたいな本は敬遠することが多いけれど。

磯田道史さんの「日本史の内幕」は、この中では一番読みやすくて面白い。磯田氏は映画になった「武士の家計簿」「殿、利息でござる」(原作「無私の日本人」)の原作者である。歴史ノンフィクションが映画化されるだけで珍しい。ほとんどが読売新聞に連載されたエッセイで、読みやすいのはそういう事情もある。この本を読むと、磯田氏がほんとに古文書が好きなんだなあとよく判る。
歴史、特に日本史に関しては何かしら人に語りたいと思う人は多いだろう。今も司馬遼太郎で済ませている社長も多いだろうが、実はもうだいぶ古くなっている。でも新書レベルでも、今はずいぶん難しい。やさしくて面白くて、「訓話」とか「授業」にすぐ使えるエピソードがいっぱい。そういう需要に答えたような本だが、題名は期待外れ。「日本史の内幕」というほどの秘密情報はあまりなくて「秀吉は秀頼の実父か」の章ぐらい。それより「磯田道史の内幕」の方が多いし、ずっと面白い。
この本は「古文書の楽しみ」あたりが正しい書名だろう。本当に古文書オタクみたいな話が満載だ。必然的に「近世」が多く、ちょっと広く取って戦国から明治初期ぐらいの話が多い。だから古代史や近代史の重要な話がない。それはもうやむを得ないので、エッセイ集なんだから「話のタネ」と思って読むのが正しい。もう少し日本の歴史を系統的に考えたいという人には、「やりなおし高校日本史」がお勧め。著者の野澤氏は愛媛県の日本史教師で、教科書やセンター入試なども使いながらいくつかのポイントを語っている。僕はこの本が一番面白かった。

「やりなおし高校日本史」というけど、「日本史B」が対象だろう。Bというのは、週4時間を基本とする科目で、大学入試は大体こっち。職業高校や定時制高校は大体「日本史A」だと思う。ペリー来航以後の近現代を中心に扱うが、「やりなおし高校日本史」では最後の方の2章、明治14年の政変と昭和初期の2大政党の話である。それだけ。昔から「歴史の授業が戦争の前で終わってしまったから、戦争を知らない」なんて言われる。やってないから「やりなおし」の対象にならないのかと言いたくなる。高校日本史をやりなおそうというんだったら、今じゃ入試にもよく出る戦後史まで扱わないといけない。
それはともかく、この本では桓武天皇じゃなくて嵯峨天皇、源頼朝じゃなくて後白河法皇など、人物の選び方に工夫している。さらに執権北条氏は将軍になれなかったの?ならなかったの?とか、生類憐みの令の評価など、この本に書かれている「日本史の内幕」が面白い。最初の方は判っている話ばかりだなあなんて思ったけど、だんだん語り口のうまさを楽しめるようになった。話自体は日本史に関心がある人には、珍しくはない。でも教材やエピソードなどの取り上げ方に工夫があって、読みごたえがある。ちょっと難しいかなという感じもするけど、イマドキちくま新書を読んでみようという人なら、このレベルでいいのかなと思う。
ところで著者の野澤氏は愛媛県の中高一貫校で教えているとある。ということは育鵬社を使ってる(使わせられている)ということだ。愛媛と言えば、加計学園問題で出てきた加戸知事がいたとこで、石原都知事がいた東京と並んで、一番最初に扶桑社の中学歴史教科書を採択したところ。「歴史修正主義先進県」である。著者はさりげなく「アジア太平洋戦争」なんて書いているけど、「大東亜戦争」と書かれている教科書を使うことをどう考えているのか。書けない、書かないのかもしれないけど、僕は「今の日本人にとって歴史を学ぶとはどういうことか」こそ語って欲しいと思ったりもした。まあ、とにかく日本史をちゃんと考えるためには読んでみる価値がある。(「日本史のツボ」は次回に。)

磯田道史さんの「日本史の内幕」は、この中では一番読みやすくて面白い。磯田氏は映画になった「武士の家計簿」「殿、利息でござる」(原作「無私の日本人」)の原作者である。歴史ノンフィクションが映画化されるだけで珍しい。ほとんどが読売新聞に連載されたエッセイで、読みやすいのはそういう事情もある。この本を読むと、磯田氏がほんとに古文書が好きなんだなあとよく判る。
歴史、特に日本史に関しては何かしら人に語りたいと思う人は多いだろう。今も司馬遼太郎で済ませている社長も多いだろうが、実はもうだいぶ古くなっている。でも新書レベルでも、今はずいぶん難しい。やさしくて面白くて、「訓話」とか「授業」にすぐ使えるエピソードがいっぱい。そういう需要に答えたような本だが、題名は期待外れ。「日本史の内幕」というほどの秘密情報はあまりなくて「秀吉は秀頼の実父か」の章ぐらい。それより「磯田道史の内幕」の方が多いし、ずっと面白い。
この本は「古文書の楽しみ」あたりが正しい書名だろう。本当に古文書オタクみたいな話が満載だ。必然的に「近世」が多く、ちょっと広く取って戦国から明治初期ぐらいの話が多い。だから古代史や近代史の重要な話がない。それはもうやむを得ないので、エッセイ集なんだから「話のタネ」と思って読むのが正しい。もう少し日本の歴史を系統的に考えたいという人には、「やりなおし高校日本史」がお勧め。著者の野澤氏は愛媛県の日本史教師で、教科書やセンター入試なども使いながらいくつかのポイントを語っている。僕はこの本が一番面白かった。

「やりなおし高校日本史」というけど、「日本史B」が対象だろう。Bというのは、週4時間を基本とする科目で、大学入試は大体こっち。職業高校や定時制高校は大体「日本史A」だと思う。ペリー来航以後の近現代を中心に扱うが、「やりなおし高校日本史」では最後の方の2章、明治14年の政変と昭和初期の2大政党の話である。それだけ。昔から「歴史の授業が戦争の前で終わってしまったから、戦争を知らない」なんて言われる。やってないから「やりなおし」の対象にならないのかと言いたくなる。高校日本史をやりなおそうというんだったら、今じゃ入試にもよく出る戦後史まで扱わないといけない。
それはともかく、この本では桓武天皇じゃなくて嵯峨天皇、源頼朝じゃなくて後白河法皇など、人物の選び方に工夫している。さらに執権北条氏は将軍になれなかったの?ならなかったの?とか、生類憐みの令の評価など、この本に書かれている「日本史の内幕」が面白い。最初の方は判っている話ばかりだなあなんて思ったけど、だんだん語り口のうまさを楽しめるようになった。話自体は日本史に関心がある人には、珍しくはない。でも教材やエピソードなどの取り上げ方に工夫があって、読みごたえがある。ちょっと難しいかなという感じもするけど、イマドキちくま新書を読んでみようという人なら、このレベルでいいのかなと思う。
ところで著者の野澤氏は愛媛県の中高一貫校で教えているとある。ということは育鵬社を使ってる(使わせられている)ということだ。愛媛と言えば、加計学園問題で出てきた加戸知事がいたとこで、石原都知事がいた東京と並んで、一番最初に扶桑社の中学歴史教科書を採択したところ。「歴史修正主義先進県」である。著者はさりげなく「アジア太平洋戦争」なんて書いているけど、「大東亜戦争」と書かれている教科書を使うことをどう考えているのか。書けない、書かないのかもしれないけど、僕は「今の日本人にとって歴史を学ぶとはどういうことか」こそ語って欲しいと思ったりもした。まあ、とにかく日本史をちゃんと考えるためには読んでみる価値がある。(「日本史のツボ」は次回に。)
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