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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

芦川いづみの映画再び①

2016年02月07日 00時01分00秒 |  〃  (旧作日本映画)
 神保町シアターで、「恋する女優 芦川いづみ アンコール」を上映中。性懲りもなく再び通って見ているが、そうすると他の新作映画や演劇、美術などのヒマが取れない。のみならず、市川崑監督や田中登監督などの特集も行われていて、そっちも行くつもりが時間が取れない。まあ、家から近い神保町シアターを優先させるが、ボケッと芦川いづみを眺めているのもいい。

 あまり書くつもりもなく、趣味で見ているだけでいいと思ったのだが、いろいろ見ていると書きたくなってくる。第2週の6日には「春の夜の出来事」など3本見てしまった。その映画の事をちょっと書きたくなった。まあ、映画としてはちょっとしゃれた小品というだけで、それほど大した映画ではない。1955年の西河克己監督作品。西河監督は後に吉永小百合主演で「伊豆の踊子」「絶唱」などをいっぱい作ったが、さらに70年代になると、百恵・友和主演で「伊豆の踊子」「絶唱」をまた作った。僕が同時代で知っているのはそっちの方だが、日本を代表する職人監督の一人。

 「春の夜の出来事」は大富豪の財閥当主が偽名で自分の会社の懸賞に応募したら当たってしまい、身分を隠して雪の赤倉観光ホテルに出かけていく。家族は心配して、執事の吉岡(伊藤雄之助)が社長と偽って付いていくことになる。まだ心配なので、身分を偽っていく客がいるから配慮して欲しいとホテルに電話してしまう。ところで、もう一人懸賞の当選者がいて、そっちは若い失業青年なんだけど、ホテルはこっちの青年を富豪と勘違いし、本当の富豪には粗雑な扱いをしてしまう。そこでドタバタがいろいろあり、吉岡が家族を呼んでしまう。そこで娘の芦川いづみが女中頭の東山千栄子と赤倉にやってくるが、娘と青年が運命的に出会ってしまい…という軽いコメディである。

 脚本は中平康河夢吉とクレジットされていて、河夢吉はペンネームだろうが、このソフィスティケート感覚は中平の持ち味だろう。西河監督のごく初期作品で、富豪は若原雅夫、青年は三島耕だから、それほど重視された作品ではないだろう。だから赤倉観光ホテルとタイアップして作っているのかと思うが、この実在ホテルがよく名前を使わせてくれたような設定。でも、あの特徴的な建物が出てくるからロケしている。パーティ場面などはセットだろうが。当時は妙高高原駅が「田口」と言ったが、その駅も出ている。だけど、この日本を代表する名ホテルをチラシは「山間のリゾートホテル」、某サイトは「赤倉グランドホテル」と表記している。
(赤倉観光ホテル)
 1930年代、日本政府は1940年東京五輪に向けて国際観光立国を目指してもいた。日本各地に外国人も宿泊できるような本格的な国際観光ホテルを相次いで作るというのも、その国策による。そこでできたのが、赤倉観光ホテル、琵琶湖ホテル、蒲郡ホテル(現・蒲郡クラシックホテル)、雲仙観光ホテル、川奈ホテル、日光観光ホテル(現・中禅寺金谷ホテル)などである。それ以前からある、日光金谷ホテル、箱根宮ノ下の富士屋ホテル、軽井沢万平ホテル、奈良ホテルは有名だけど、1930年代に作られたホテルを知らない人が結構いる。その中でも赤倉観光ホテルは温泉と展望の素晴らしさは日本有数。ちょっと高いけど、ここに泊らないで日本の温泉は語れない。泊らないでも、夏にカフェテラスで日本一おいしいフルーツケーキを食べるのは最高。

 ホテルの話が長くなってしまったが、仮装パーティが開かれるという、日本ではありえないような設定で、芦川いづみがピーターパンの扮装で出てくるという、とびきりキュートな場面が見逃せない。でも、ニセ富豪の青年に言い寄るご婦人連が多く、芦川いづみはホテルを飛び出し、ゲレンデに青年が追っていく。東山千栄子もコメディエンヌの才能を発揮していて楽しい。俳優座の大女優にして、小津の「東京物語」の母という印象が強すぎるんだけど、木下恵介作品ではコミカルな役柄が多い。また、ホテルの客として、作曲家黛敏郎がニセの黛敏郎役で出ているのもご愛嬌。即興で作ってと言われ、不思議な現代音楽を作ってしまう。小品ならでは楽しさである。

 もう一本、同じ西河監督の1958年作品、「美しい庵主さん」は、芦川いづみが尼さん姿で出てくるファン必見の作品。ペ・ドゥナが警官姿出てくる(「私の少女」)も良かったが、その不可思議な魅力において、芦川いづみの尼僧こそ忘れがたい。

 有吉佐和子原作の映画化で、小林旭と浅丘ルリ子が夏休みに、ルリ子が昔疎開していた地方の尼寺に卒論の勉強と称して転がり込む。そこに芦川などがいる。東山千栄子はこっちでも出ていて、受け入れる寺の尼僧。旭・ルリ子の初めての本格共演だというが、後々の運命を思わせるような、親しくもあり、溝もあるような役柄。そこに清涼剤のように芦川いづみが出てくるが、まあ映画としてはまとまりがない。お寺は伊豆でロケされたらしい。伊豆大仁の随昌院というところだとある。
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6 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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河夢吉は (さすらい日乗)
2016-02-08 09:26:46
河夢吉とは、西河克己と中平康と二人で書いたもののペンネームで、元はケストナーの小説だそうです。原作料は高くて払えないので、権利者の高橋健二氏にいくらかを払って了承してもらったと書いてあります。この頃は、西河克己は、中平康は、仲が良かったのだそうです。
また、西河克己監督は、芦川いづみがごひいきだったように思えます。彼の奥さんの写真と感じがよく似ていますから。
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ご教示ありがとうございます (ogata)
2016-02-08 21:17:12
 それは知らなかったので、ありがとうございます。まあ、監督のペンネームだとは思っていましたが、あえてケストナーから作るということが面白いと思います。 この映画はたいしたことはないけど、中平風のシナリオだと思いました。

 それはともかく、翌日に見た「あじさいの歌」。何十年ぶりですが、あの洋館の素晴らしさにビックリしました。野毛山公園近くの、旧横浜銀行頭取邸だということですが、もっとご存知でしょうか。今も残っているのなら、見てみたいものですが。情報がないので、今はもうないのでしょうか。



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これは西河克己らしい作品だと思いました (さすらい日乗)
2016-02-11 08:14:00
『春の夜の夢』の富豪が誰か最後まで分からず、資料を見て若原雅夫と知り驚きました。若原も三島耕も、どちらかといえば「大根役者」なのに、きちんと演じさせていた西河克己の演出力はすごいと思いました。
この作品の趣旨は、金持ちも貧乏人も和解せよという願望で、フェビアンニストを標榜する西河克己らしい筋書きだと思いました。

横浜銀行にいた知人に聞きましたが、1970年代には当該邸宅はなく、今は職員住宅がある場所だろうとのことでした。
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間違えました (さすらい日乗)
2016-02-11 14:22:38
『春の夜の出来事』でした。
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ありがとうございます (ogata)
2016-02-11 21:20:34
 「あじさいの歌」の邸宅に関する情報、ありがとうございます。残っていたら、その後の近代建築保存ブームで、何かの動きがあったでしょう。だから、多分ないんだろうと思ってましたが、残念ですね。

 「春の夜の出来事」ともう一本、忘れてしまったけれど、お屋敷が出てきます。外見だけで、中はセットという感じですね。日活映画にはよくお屋敷が出てきますが、同じところが何度も使われています。日活関係者の家だと聞いたことがあります。本当かどうか知りませんが。

 「さすらい日乗」ブログの方も参考になります。他の皆さんも読んでみてください。
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『乳母車』でしょうか (さすらい日乗)
2016-02-12 08:11:50
芦川いづみがプールから白い水着で出てくる映画ですが、これはブリジストン社長の石橋氏のお屋敷だそうです。つまり、鳩山由紀夫元首相のお母様のご実家ですね。木村威夫さんの本に書かれています。芦川いづみの白い水着姿も良かったですね。
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