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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「ともしび」-映画に見る昔の学校②

2011年12月04日 00時24分59秒 |  〃  (旧作日本映画)
 フィルムセンターの香川京子特集で「ともしび」という映画を見た。1954年、北星映画社。家城巳代治(いえき・みよじ)監督作品。栃木県部屋村で撮影されている。部屋村はその後藤岡町になり、現在は合併して栃木市になっている。足尾鉱毒事件で遊水地とされて廃村に追い込まれた谷中村の隣村である。遊水地の建設が強行されると、「葦」(あし=よし)が生えるところとなり、村民に刈り取る権利が与えられた。村の重要産業が「よしず」編みで、その刈取りと編み作業が丹念に描かれている。今見るとそういう歴史的背景のある事情が映像に残されたのが貴重だ。

 この村は貧しい。中学校に勤める松熊先生(内藤武敏)は、若くて熱心で生徒や親に慕われている。2年B組の学級目標は「みんなで決めて みんなで動く」。教科書を買えない貧困家庭には、持ってこなくていいぞという。大関松三郎の詩を読んであげたり、クラス文集を作ったりする。夜も家に教えに来てくれる先生のおかげで、2Bは学校で一番成績が伸びたといわれている。

 この村の村長(花沢徳衛)は戦前は小学校長で、教育に尽くしたとして還暦記念に中学に銅像ができる。今日はその除幕式の日である。ところが幕がうまく引けず、引いたらヒゲが本物そっくりで何だかおかしくて子供たちが笑い出す。自然な笑いなのだが、これが村長には一大不祥事である。夜の懇親会において「この不祥事は赤い教師の存在が生んだ」と決めつけ、松熊先生を異動させろと決めてしまう。こうして突然学期途中で異動命令が出る。いくら戦後直後でも、戦後憲法下でこんな無法があるのかという経緯である。翌年から異動ならともかく。

 新しい先生はやり方が全く違う。教科書がないものはすぐに買えと言う。仙太の家は貧しい上に、姉(香川京子)も倒れたりして、買う余裕がない。先生は容赦しないので学校に行きたくないと言う。先生は何かと言うと顔をはたく。みんなはそれはやめて欲しいと生徒大会で言おうと考える。果たして言えるだろうか。村長は突然「拡声器がいる」と言い出す。しかし、村の予算はないと言う。行事や運動で疲れさせ、生徒を考えさせないためには、大声で命令を出せる拡声器がいると村長は考えたのだ。それを村の予算ではなく、生徒がよしずを編んでお金を出そうという。生徒の勤労精神を養ういい機会だと。生徒からすれば、家の貴重な収入源で、せっかく作ったものを学校に持ってくる余裕はない。これも生徒大会の議題にあるが、生徒は自分たちの気持ちを言えるだろうか。

 「保安隊」という言葉が出てくる。戦後日本の再軍備は、1950年にマッカーサー指令で警察予備隊が作られ、52年に保安隊、54年に自衛隊と改名された。たった2年しかなかった保安隊という言葉が、この映画ではたびたび出てくる。保安隊志願者の学力が低いのが問題化していて、村長は中学で補習をやれと言うのである。村の教育はもう完全に戦前の教育を復活させたい保守派が牛耳っているのである。そんな風土で、生徒に学力を付けさせるために頑張ると「赤い」と言われて排斥される。そのような勢力との闘いが重要な意味を持っていた時代の、学校に関する証言の映画である。

 結局1年もいられなかった先生だが、村にまいた種は芽を伸ばすという展開になっている。独立プロ製作、日教組協力の映画だから当然だが、素直に感動できる。それは村の貧しさ、保守派の論理などが丁寧に描かれているからだ。当時は日本映画の全盛期で、溝口健二、小津安二郎、成瀬巳喜男、黒澤明らの映画史に輝く名作が綺羅星のごとく作られていた。しかし、当時のベストテンでは左翼独立プロの作品がかなり入っている。日本の左翼系インディペンデント映画は世界史的にも、もっと重要視されていいと思っている。伝統ある中国映画が革命後に教条主義になる中、イタリアと並ぶ社会的リアリズム映画は日本で作られていた。

 家城巳代治監督は、美空ひばりの「悲しき口笛」を撮った後で松竹を退職、53年に学徒兵を描く「雲ながるる果てに」で注目され、その後1957年に田宮虎彦原作の「異母兄弟」を映画化して代表作とした。60年代以後はテレビが多くなってあまり映画が作れなかった。作りが素直なので、大傑作を作ったというより、いくつかの佳作を残した監督と言えるが、その分記録的な価値が生じていると言える。「ともしび」という映画も現地の子供たちをたくさん使い、ほとんどロケで作られている。そこが今見ると面白い。
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