ちょっと時間が経ってしまったが、国民民主党が衆議院で2022年度の当初予算案に賛成したというニュースには驚いた。他の野党が批判するように、政府提出の予算案に賛成するのは「与党と同じ」である。「内閣総理大臣指名選挙」「内閣不信任案」への対応ほど重くはないけれど、それと同等程度に重大な判断のはずである。災害対応等の補正予算に賛成することはあっても、衆院選でから半年も経ってないのに、「野党」として当選した議員が当初予算案に賛成するなど聞いたことがない。
(国民民主党の玉木代表と岸田首相)
そういう決断をした大きな理由に「ガソリン税のトリガー条項凍結解除」という問題がある。と言われても、すぐには判る人は少ないだろう。僕もそうだが、では一度調べてみよう。まず「ガソリン税」というけど、正式には「揮発油税」「地方揮発油税」である。戦前にもあったが、戦時下でガソリンが配給になったので一時停止。1949年に復活して、その後何度かの引き上げがあった。現在の本則では「1キロリットル当たり、24,300円」だが、1993年から租税特別措置法で「1キロリットル当たり、48,600円」と税率が倍額になっていた。そして、2008年3月31日でその特別措置が切れてしまったのである。
特別措置が延長出来なかったのは、当時は「ねじれ国会」だったからだ。2007年の参院選で自民党が大敗し、衆参で多数派が違うようになった。民主党(当時)は「ガソリン値下げ」を主張して、特別措置延長に賛同しなかった。もめたのは単に税率だけではなかった。1954年以来、ガソリン税や自動車重量税は「道路特定財源」とされていた。これは田中角栄らの議員立法で成立したもので、ガソリン税の税収はすべて道路建設に使われたのである。この「道路特定財源」化によって、全国的な道路網整備が進んだのは間違いないが、時代も変わって廃止するべきだというのが民主党の主張だった。
細かなことは省くが、結局「道路特定財源は廃止」になり、代わりに「当分の間」特別措置(ガソリン税倍増)を延長することになったのである。そして2009年の政権交代によって、マニフェストで「ガソリン値下げ」を掲げた民主党政権が誕生した。だから特別措置は廃止するべきだったわけだが、実際に政権についてみれば諸課題が山積みで、ガソリン税の引き下げが困難になったのである。その代わりに、ガソリンの3か月の平均小売価格が1リットル当たり160円を超えたら、特例税率を停止する「トリガー条項」が設けられたのである。「トリガー」(trigger)というのは、銃の引き金のことである。精神医学では「病気を引き起こした原因」として使われる。「引き金を引く」と「銃弾が飛び出す」みたいな関係にある場合に使う。
(トリガー条項の説明)
内容的にはレギュラーガソリンの全国平均価格が3か月連続で1リットル160円を超えた場合、ガソリン税の旧暫定税率分の1リットル25.1円を減税し、3か月連続で130円を下回れば税率を戻すというものである。ただし、さらに先があって、2011年3月11日の東日本大震災で、復興財源を確保する必要に迫られた民主党政権は、臨時特例法を制定して4月27日から、別に定める日までトリガー条項を凍結することになった。こういう細かい話はすっかり忘れていた。ガソリン税の問題は多分当時は報道を通して知っていたと思うけど。国民民主党の玉木雄一郎代表は、元財務官僚で2009年に民主党から初当選して、1年生議員ながら政調会長補佐を務めた。そういう経歴から、この問題に詳しいということなんだろう。
従って、「トリガー条項凍結解除」は法律の改正が必要で、なかなか成立への道筋は見通せない。何故なら、地方の税収減の問題があるからだ。鈴木財務相によれば、「1年間で国1兆円、地方で0.5兆円、合計1兆5700億円の減収」だという。国税の税収減は、今行われている「補助金支給」がなくなるわけだから、プラスマイナスゼロかもしれない。しかし、地方財政の場合、5000億円の税収減は何らかの形で国が補填する必要があるだろう。その問題を考えると、「トリガー条項発動」を主張するならば、その影響を受ける地方への支援策を「予算案」に付け加える必要がある。ガソリン税引き下げによる税収減もあるから、当初の予算案を書き直す必要が生じる。当初予算案に賛成するという選択肢はあり得ない。
ここで原則を振り返っておくと、そもそも議会とは「税金の使い道」を決めるためのものだ。内閣総理大臣は衆議院の多数派から選ばれるんだから、内閣が作った予算案が成立するのが当たり前である。野党がそろって反対しても、予算は与党の賛成多数で成立する。与党をめぐる大スキャンダルなどが起こって、予算案審議が進まないなど特別な事情がない限り、予算は2月末頃に衆議院を通過する。憲法の規定で、予算案は衆議院で成立した1ヶ月後に(参議院の採決が済んでなくても)成立する。「予算成立」は、野党が採決に応じるかどうかの問題であって、無事に採決までこぎ着ければ「後は儀式」である。
与党は別に野党に賛成して貰う必要はない。野党は自分たちが野党であることを示すために、反対票を投じる。もちろん、予算案が成立することは判っている。そういう性格の投票なんだから、そこで予算案に賛成するということは、「与党入り宣言」に近いとみなされるわけである。しかし、政治はガソリン税のトリガー条項だけじゃない。様々な問題がいくつもあって、自民・公明と違う公約を掲げて選挙したばかりなのに、何で予算に賛成できるのか、僕には全く判らない。もちろん、国民民主党がどうするかは、僕が決めることではない。与党になってもいいわけだが、支援団体の労働組合も全部賛成なのだろうか。今は民間の大企業では、組合員に自民支持者も多いというが、それでも組織全体として「与党入り」にすぐ賛成するとは僕には信じられない。
(国民民主党の玉木代表と岸田首相)
そういう決断をした大きな理由に「ガソリン税のトリガー条項凍結解除」という問題がある。と言われても、すぐには判る人は少ないだろう。僕もそうだが、では一度調べてみよう。まず「ガソリン税」というけど、正式には「揮発油税」「地方揮発油税」である。戦前にもあったが、戦時下でガソリンが配給になったので一時停止。1949年に復活して、その後何度かの引き上げがあった。現在の本則では「1キロリットル当たり、24,300円」だが、1993年から租税特別措置法で「1キロリットル当たり、48,600円」と税率が倍額になっていた。そして、2008年3月31日でその特別措置が切れてしまったのである。
特別措置が延長出来なかったのは、当時は「ねじれ国会」だったからだ。2007年の参院選で自民党が大敗し、衆参で多数派が違うようになった。民主党(当時)は「ガソリン値下げ」を主張して、特別措置延長に賛同しなかった。もめたのは単に税率だけではなかった。1954年以来、ガソリン税や自動車重量税は「道路特定財源」とされていた。これは田中角栄らの議員立法で成立したもので、ガソリン税の税収はすべて道路建設に使われたのである。この「道路特定財源」化によって、全国的な道路網整備が進んだのは間違いないが、時代も変わって廃止するべきだというのが民主党の主張だった。
細かなことは省くが、結局「道路特定財源は廃止」になり、代わりに「当分の間」特別措置(ガソリン税倍増)を延長することになったのである。そして2009年の政権交代によって、マニフェストで「ガソリン値下げ」を掲げた民主党政権が誕生した。だから特別措置は廃止するべきだったわけだが、実際に政権についてみれば諸課題が山積みで、ガソリン税の引き下げが困難になったのである。その代わりに、ガソリンの3か月の平均小売価格が1リットル当たり160円を超えたら、特例税率を停止する「トリガー条項」が設けられたのである。「トリガー」(trigger)というのは、銃の引き金のことである。精神医学では「病気を引き起こした原因」として使われる。「引き金を引く」と「銃弾が飛び出す」みたいな関係にある場合に使う。
(トリガー条項の説明)
内容的にはレギュラーガソリンの全国平均価格が3か月連続で1リットル160円を超えた場合、ガソリン税の旧暫定税率分の1リットル25.1円を減税し、3か月連続で130円を下回れば税率を戻すというものである。ただし、さらに先があって、2011年3月11日の東日本大震災で、復興財源を確保する必要に迫られた民主党政権は、臨時特例法を制定して4月27日から、別に定める日までトリガー条項を凍結することになった。こういう細かい話はすっかり忘れていた。ガソリン税の問題は多分当時は報道を通して知っていたと思うけど。国民民主党の玉木雄一郎代表は、元財務官僚で2009年に民主党から初当選して、1年生議員ながら政調会長補佐を務めた。そういう経歴から、この問題に詳しいということなんだろう。
従って、「トリガー条項凍結解除」は法律の改正が必要で、なかなか成立への道筋は見通せない。何故なら、地方の税収減の問題があるからだ。鈴木財務相によれば、「1年間で国1兆円、地方で0.5兆円、合計1兆5700億円の減収」だという。国税の税収減は、今行われている「補助金支給」がなくなるわけだから、プラスマイナスゼロかもしれない。しかし、地方財政の場合、5000億円の税収減は何らかの形で国が補填する必要があるだろう。その問題を考えると、「トリガー条項発動」を主張するならば、その影響を受ける地方への支援策を「予算案」に付け加える必要がある。ガソリン税引き下げによる税収減もあるから、当初の予算案を書き直す必要が生じる。当初予算案に賛成するという選択肢はあり得ない。
ここで原則を振り返っておくと、そもそも議会とは「税金の使い道」を決めるためのものだ。内閣総理大臣は衆議院の多数派から選ばれるんだから、内閣が作った予算案が成立するのが当たり前である。野党がそろって反対しても、予算は与党の賛成多数で成立する。与党をめぐる大スキャンダルなどが起こって、予算案審議が進まないなど特別な事情がない限り、予算は2月末頃に衆議院を通過する。憲法の規定で、予算案は衆議院で成立した1ヶ月後に(参議院の採決が済んでなくても)成立する。「予算成立」は、野党が採決に応じるかどうかの問題であって、無事に採決までこぎ着ければ「後は儀式」である。
与党は別に野党に賛成して貰う必要はない。野党は自分たちが野党であることを示すために、反対票を投じる。もちろん、予算案が成立することは判っている。そういう性格の投票なんだから、そこで予算案に賛成するということは、「与党入り宣言」に近いとみなされるわけである。しかし、政治はガソリン税のトリガー条項だけじゃない。様々な問題がいくつもあって、自民・公明と違う公約を掲げて選挙したばかりなのに、何で予算に賛成できるのか、僕には全く判らない。もちろん、国民民主党がどうするかは、僕が決めることではない。与党になってもいいわけだが、支援団体の労働組合も全部賛成なのだろうか。今は民間の大企業では、組合員に自民支持者も多いというが、それでも組織全体として「与党入り」にすぐ賛成するとは僕には信じられない。
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