尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ドナルド・キーン、堀文子、直木孝次郎等ー2019年2月の訃報①

2019年03月17日 22時57分24秒 | 追悼
 パソコン不調期間があって、2月の追悼特集を書いてなかった。重要な訃報が多かったので、来月回しにしないで書いておくことにする。100歳の訃報が多かったのだが、100歳に近いということで一番扱いの大きかった日本文学者のドナルド・キーンから。1922~2019.2.24、96歳。晩年に日本国籍を取得して、ずいぶん多くの報道があったから、多くの人が名前を知ってた。僕は2011年に講演を聞いたが、日本各地に残る浄瑠璃の素晴らしさという演題から、今ひとつよく判らなかった。 

 古典文学の研究が多く、あまり読んでないんだけど、最近「日本人の戦争」(文春文庫)を読んだ。永井荷風、高見順、伊藤整、山田風太郎などの戦時中の日記を取り上げて分析した本。作家の日記に限られているが、すごく面白くて日本人必読本。よく知られているように、キーンは戦時中にアメリカ海軍に所属して、日本人捕虜の通訳や兵士が残した日記の翻訳をした。(それ以前に「源氏物語」に感動して、日本語を学んでいた。)日本が「敵性語」などといって英語を禁止していた時に、アメリカは日本語専門家を養成していた。「戦争」はキーンの生涯の関心事で、戦時中に知り合った捕虜との交流も長く続いている。国籍取得後は憲法9条擁護を訴えていた。

 谷崎潤一郎川端康成三島由紀夫安部公房などと知り合って、三島や安部の翻訳もある。日本文学の巨人たちと同格の知己だった。2004年に出た「同時代を生きて」という鼎談集があるが、その時に語り合った鶴見俊輔も亡くなり、瀬戸内寂聴だけが生き残っている。多くの報道の中で、僕が一番印象的だったのが、「国籍は変わっても、味覚は変わらない」と言って「和菓子が苦手」だったという話。あれほど日本の古典を愛していても、和菓子がダメだなんて。

 画家の堀文子が死去。1918~2019.2.5、100歳。この人のことをそんなに良く知っているわけではない。村松友視極上の流転 堀文子への旅」(中公文庫)が面白いと聞いて、文庫になった時に読んでみたぐらい。そして確かに「極上の流転」の話だった。60年代初頭、夫の死後に世界を放浪。やがて90年代にはインカ、マヤ遺跡などへ旅行。2000年になって幻の植物ブルー・ポピーを求めてヒマラヤを踏破。東京新聞の訃報に2014年1月9日に掲載された特定秘密保護法反対の投書があった。「戦争は防げる」とぶれなかった画家だという。
 
 古代史家の直木孝次郎が死去。1919~2019.2.2、100歳。古代史の実証的研究を進めた戦後の代表的な歴史学者の一人。遺跡の保護運動にも関わった。歌人でもあり、時々朝日歌壇に短歌が載っていた。この人もまた戦争に最後までこだわりを持ち続けた人である。古代史の専門家じゃないから、専門書は読んでないけど、有名な中央公論社「日本の歴史」の第2巻「古代国家の成立」を中学時代に読んで大きな影響を受けた。このシリーズは有名な学者の名著が多く、今も読まれ続けている。井上光貞、石井進、黒田俊雄、佐藤進一、永原慶二、林家辰三郎、児玉幸多、奈良本辰也など、そうそうたる顔ぶれ。存命なのは色川大吉、今井清一の両氏だけか。
 (直木孝次郎)
 着物デザイナーで、上野の鈴乃屋の名誉会長小泉清子が、2月7日に死去、100歳。府立第一高女卒で大先輩にあたる。上野の大きな店がある。戦後の女性初の国会議員の最後の一人、佐藤きよ子が死去、99歳だった。2018年10月26日のこと。
 (小泉清子)
 中国共産党の改革派として知られる李鋭が死去。 2月16日、101歳だった。1937年に入党した最古参の党員で、50年代には毛沢東の秘書も務めた。しかし、1959年に彭徳懐グループとして党籍はく奪、文革期には投獄された。1079年に名誉回復、80年代には中央組織部副部長、中央委員担った。天安門事件後も「改革派」として存在感を示していた。岩波現代文庫に「中国民主改革派の主張 中国共産党私史」がある。
 (李鋭)
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1 コメント

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Unknown (omachi)
2019-03-24 12:07:43
お腹がくちくなったら、眠り薬にどうぞ。
歴史探偵の気分になれるウェブ小説を知ってますか。 グーグルやスマホで「北円堂の秘密」とネット検索するとヒットし、小一時間で読めます。北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。 その1からラストまで無料です。夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。順に読めば歴史の扉が開き感動に包まれます。重複、 既読ならご免なさい。お仕事のリフレッシュや脳トレにも最適です。物語が観光地に絡むと興味が倍増します。平城京遷都を主導した聖武天皇の外祖父が登場します。古代の政治家の小説です。気が向いたらお読み下さいませ。(奈良のはじまりの歴史は面白いです。日本史の要ですね。)

読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。
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