シネマヴェーラ渋谷で「Film Gris 赤狩り時代のフィルム・ノワール」という特集上映をやっている。第二次大戦直後のアメリカ映画には社会批判的な犯罪映画が大量にあり、それを「Film Gris」(フィルム・グリ)と呼ぶらしい。ほとんどはB級犯罪映画だが、中にはアカデミー賞作品賞を取った『オール・ザ・キングスメン』やノミネートされた『十字砲火』などもある。しかし、それらは占領下の日本では公開されず、この時期のアメリカ文化受容に欠落が生じることになった。この手のB級犯罪映画は大好きだし、赤狩り時代のアメリカにも関心がある。貴重な機会だから何本か見に行ってみた。
今回の特集には多くの監督の作品が入っている。その中にはジョセフ・ロージーやジュールス・ダッシンのように、アメリカを捨ててヨーロッパで映画を作り続けて大成した監督もいる。エイブラハム・ポロンスキーのように、雌伏の後に60年代末になって再び監督に戻れた人もいる。しかし、サイ・エンドフィールドという監督は知らなかった。紹介を読むと、赤狩りでアメリカを追放されたと出ている。全く聞いたことがないんだけど、その後の作品が少しは日本で公開されているようだ。そもそも映画を見ると、クレジットが「サイ」じゃなくて、「シリル」だった。Cyril Endfield(1914~1995)である。
(サイ・エンドフィールド監督)
日本語の紹介は少ないので英語版Wikipediaを見ると、ペンシルバニア州出身のユダヤ系移民2世で、イェール大学に入学する時に大恐慌で父の事業がつぶれて1年遅れたという。学生時代は演劇と急進的左翼運動に熱中していたらしい。そして演劇では食べていけず、夫婦でハリウッドに赴いた。当時よくある人生行路を送ったわけである。戦後になって短編映画で認められ、長編映画も任されるようになり、1950年に2本の映画で少し注目された。それが『アンダーワールド・ストーリー』と『群狼の街』である。ところが1951年になって下院非米活動委員会で名が挙り、他の人の名を答えることは出来ないと考えてイギリスに向かった。
(『アンダーワールド・ストーリー』公開時のポスター)
『アンダーワールド・ストーリー』は特ダネ優先で書いた記事がもとで、証人がギャングに殺害された記者が主人公。新聞社をクビになり、そのギャングに金を出させて、小さな町レイクタウンの新聞社の共同経営者になる。到着した日に有力新聞社主の息子の妻が殺害される。そして黒人のメイドが逮捕されるが、地方紙の経営者は父を継いだ若い女性でメイドとも長い知人だった。犯人とは思えないと救援会を立ち上げるが、やがて有力新聞社の手が回って彼らは孤立していく。真犯人は早くから観客に提示され、正義より金で動く主人公がどうなるのかが焦点。黒人メイドも実は白人が演じているが、「ニガー」と表現されている。ラストが甘いが、有力新聞をめぐる権力の動きなどに批判的な眼差しがある。
(『群狼の街』公開時のポスター)
『群狼の街』はラストの群衆シーンの迫力で忘れがたい映画だ。失業中の主人公は妊娠中の妻と幼い長男と抱えて、何とか仕事を探すが見つからない。ボーリング場で会った男に仕事があると誘われるが、それは強盗の運転手だった。断りたいが他に仕事もなく、引きずり込まれていく。男はついに殺人事件を起こすが、主人公はそんな成り行きを全く想像していなかった。主人公の苦悩、ついに精神的に破綻して捕まるが…。それを新聞のコラムニストが極悪人として告発し、そのため住民の怒りが沸騰して警察に押し掛け、犯人を殺せと要求する。これは1933年に起こった実話で、フリッツ・ラング監督『激怒』という映画にもなっているという。煽動の恐ろしさを描くこの作品は、明らかにマッカーシズム(赤狩り)批判に違いない。
サイ・エンドフィールド監督は当初イギリスでも警戒されたようだが、結局送還されることはなく、やがてイギリスで映画を作れるようになった。『SF巨大生物の島』とか『ズール戦争』などの作品が日本でも公開された。演劇やテレビでも活躍したようだが、結局はあまり大きな成功を収めたとは言えない人だろう。その中で「民衆暴力」批判映画として、『群狼の街』は再評価されているという。日本で作られた『福田村事件』などとの比較検討なども必要だと思う。
今回の特集には多くの監督の作品が入っている。その中にはジョセフ・ロージーやジュールス・ダッシンのように、アメリカを捨ててヨーロッパで映画を作り続けて大成した監督もいる。エイブラハム・ポロンスキーのように、雌伏の後に60年代末になって再び監督に戻れた人もいる。しかし、サイ・エンドフィールドという監督は知らなかった。紹介を読むと、赤狩りでアメリカを追放されたと出ている。全く聞いたことがないんだけど、その後の作品が少しは日本で公開されているようだ。そもそも映画を見ると、クレジットが「サイ」じゃなくて、「シリル」だった。Cyril Endfield(1914~1995)である。
(サイ・エンドフィールド監督)
日本語の紹介は少ないので英語版Wikipediaを見ると、ペンシルバニア州出身のユダヤ系移民2世で、イェール大学に入学する時に大恐慌で父の事業がつぶれて1年遅れたという。学生時代は演劇と急進的左翼運動に熱中していたらしい。そして演劇では食べていけず、夫婦でハリウッドに赴いた。当時よくある人生行路を送ったわけである。戦後になって短編映画で認められ、長編映画も任されるようになり、1950年に2本の映画で少し注目された。それが『アンダーワールド・ストーリー』と『群狼の街』である。ところが1951年になって下院非米活動委員会で名が挙り、他の人の名を答えることは出来ないと考えてイギリスに向かった。
(『アンダーワールド・ストーリー』公開時のポスター)
『アンダーワールド・ストーリー』は特ダネ優先で書いた記事がもとで、証人がギャングに殺害された記者が主人公。新聞社をクビになり、そのギャングに金を出させて、小さな町レイクタウンの新聞社の共同経営者になる。到着した日に有力新聞社主の息子の妻が殺害される。そして黒人のメイドが逮捕されるが、地方紙の経営者は父を継いだ若い女性でメイドとも長い知人だった。犯人とは思えないと救援会を立ち上げるが、やがて有力新聞社の手が回って彼らは孤立していく。真犯人は早くから観客に提示され、正義より金で動く主人公がどうなるのかが焦点。黒人メイドも実は白人が演じているが、「ニガー」と表現されている。ラストが甘いが、有力新聞をめぐる権力の動きなどに批判的な眼差しがある。
(『群狼の街』公開時のポスター)
『群狼の街』はラストの群衆シーンの迫力で忘れがたい映画だ。失業中の主人公は妊娠中の妻と幼い長男と抱えて、何とか仕事を探すが見つからない。ボーリング場で会った男に仕事があると誘われるが、それは強盗の運転手だった。断りたいが他に仕事もなく、引きずり込まれていく。男はついに殺人事件を起こすが、主人公はそんな成り行きを全く想像していなかった。主人公の苦悩、ついに精神的に破綻して捕まるが…。それを新聞のコラムニストが極悪人として告発し、そのため住民の怒りが沸騰して警察に押し掛け、犯人を殺せと要求する。これは1933年に起こった実話で、フリッツ・ラング監督『激怒』という映画にもなっているという。煽動の恐ろしさを描くこの作品は、明らかにマッカーシズム(赤狩り)批判に違いない。
サイ・エンドフィールド監督は当初イギリスでも警戒されたようだが、結局送還されることはなく、やがてイギリスで映画を作れるようになった。『SF巨大生物の島』とか『ズール戦争』などの作品が日本でも公開された。演劇やテレビでも活躍したようだが、結局はあまり大きな成功を収めたとは言えない人だろう。その中で「民衆暴力」批判映画として、『群狼の街』は再評価されているという。日本で作られた『福田村事件』などとの比較検討なども必要だと思う。