トランプ大統領は、就任直後から大統領令を連発し、公約を実現するスピードは「記録的なペースだ」と自画自賛した。英語では〝record pace”(レコード・ペース)と表現していて、なるほどそう言うのかと思った。だけど、その中の目玉の一つ、「7か国入国禁止令」は、連邦裁判所によって差し止められた状態にある。当初は裁判でずっと争うと言っていたが、いまのところ最高裁には上告していない。
上告しても現在の最高裁判事の構成からみて、却下される可能性が高いからだろう。その代わりに、新たな大統領令を出すという観測もなされている。その問題のゆくえは判らないけど、トランプ政権発足後の「記録的なペース」は、むしろ閣僚人事の承認の遅れの方だろう。まだ半分も承認されていない。マティス国防相は早々と承認されたが、ティラーソン国務長官はずいぶん遅れた。
民主党が抵抗しているからだが、もともと「破格の人事」を行った政権側に問題がある。行政経験がないだけでなく、問題発言や問題行動があった人物が多い。選挙の論功行賞と思われる人事もある。共和党主流派からの抜てきもなく、挙党一致という感じもしない。選挙時に協力しなかった人は一貫して干されている。これはいずれ、大きな問題や内紛が起きる可能性を予見させる人事案だろう。
案の定というべきか、13日には安全保障担当大統領補佐官のマイケル・フリンが更迭された。安全保障担当補佐官と言えば、かつてのキッシンジャー(ニクソン政権)やブレジンスキー(カーター政権)、あるいはコンドリーザ・ライス(ブッシュ政権)やスーザン・ライス(オバマ政権)などのそうそうたる顔ぶれが務めてきた。やはりトランプ政権にとって誤算だろう。ただし、本人が辞任したのではなく、「ロシアとの事前接触をめぐって副大統領の調査に対して事実を伝えていなかった」ことに、トランプが怒って更迭したものである。これだけをもって「トランプ政権の行き詰まり」と決めつけるのは問題が多い。
上院の閣僚承認投票を見ていると、共和党議員は基本的には結束して臨んでいる。僕は上院の公聴会などで問題発言をして、人事の撤回に追い込まれる可能性も想定していた。だけど、今のところ教育長官のベッツィ・デボスの投票で共和党から2人が造反しただけである。(その結果、50対50になり、通常は採決に加わらない上院議長のペンス副大統領が賛成して、やっと承認された。これは米政治史上初の事例である)
このデボスという名前は覚えておいた方がいい。この先、アメリカの教育界ではとんでもないことが起こる可能性が高い。アムウェイ創業者の一族出身で、「慈善家」という肩書なんだけど、一貫して公教育を敵視し、チャータースクールなどを推進してきた。今回も上院の質問で「学校に銃を持ち込むことの可否」を問われて、「灰色熊に襲われないため必要」という「珍答弁」をしたそうだ。全米の教育関係者や教員組合が反対運動を繰り広げ、その結果二人の共和党議員が反対に踏み切った経緯がある。
そういうケースもあるわけだが、ティラーソン(国務長官)やムニューチン(財務長官)の承認では共和党の52票が結束して投票している。民主党は46、無所属2(一人はバーニー・サンダース)だから、共和党がまとまっている限り、最終的には閣僚人事も承認されることになる。そして、今のところ、デボスのようなケースを除けば、共和党議員は結束していると見ないといけない。
マスコミでは反対運動が大きく報道されるけど、もともとトランプに入れなかった人だろう。トランプに入れた人が、それを後悔しているのかと言えば、今のところそんなことはないと思う。本当に雇用が増えるのか、今はトランプにチャンスを与えるべき時期だと思っているはずである。そして、少なくとも株価は上昇しているじゃないかと思ってると思う。(安倍首相の言い分と同じように。)
昨年の大統領選では、支持政党と違う候補者に入れる人が増えるという観測があった。しかし、実際にはどちらの党も支持政党の候補者に入れた人が圧倒的多数に上ると見られる。それはニューヨークタイムスのウェブサイトに出ている出口調査によるものだが、調査そのものの信頼性もあるかと思うけど、それにしてもどちらも90%以上の投票になっている。日本の選挙の感覚で言えば、各陣営とも「地盤を固めた」ということである。
それはどうしてかと思うと、下院議員選挙や(3分の2の州で)上院議員選、あるいは知事選や住民投票なども一緒に行うわけで、セットで投票するということも大きいだろう。それとともに、民主党と共和党がはっきりと価値観で違ってしまったということもある。銃規制や同性婚、妊娠中絶、「大きな政府か、小さな政府か」などの問題で全く価値観が異なっている。だから、候補者に不満があったとしても、基本的に支持している党の候補に投票することが多くなると思われる。
その一つが前回書いた最高裁判事の指名権の問題である。反オバマの共和党主流派にとって、トランプがいかに危険だと思ったとしても、リベラル派判事をこれ以上増やさないためにはトランプを押し立てるしかない。同じようにサンダース支持者も、ヒラリー・クリントンに不満があったとしても、共和党政権に戻って最高裁が保守化する危険性を冒すわけにはいかない。そういう動機も大きいように思う。
赤(共和党)と青(民主党)は、今は「水と油」というのに近い。ホテルのユニットバスなんかだと、赤い方がお湯、青い方が水で、両方を出しながら適温にして風呂をためる。だけど、今では(どっちがどっちかは判らないけど)、片方からは油が出てくるのである。どうやっても中間でまとまるということはできない。単に経済政策などなら、中間で妥協することができるけど、アメリカで問題になっている争点は宗教的、イデオロギー的に妥協することが難しい問題ばかりである。だから、せっかく政権に復帰できた共和党が、(トランプはやり過ぎだと内心では思っているかもしれないが)、早々に内部対立が激しくなり、民主党と一緒になってトランプ反対になるということは当面はないと考えておかないといけない。では、今後どうなっていくと予測できるか、それは次回。
上告しても現在の最高裁判事の構成からみて、却下される可能性が高いからだろう。その代わりに、新たな大統領令を出すという観測もなされている。その問題のゆくえは判らないけど、トランプ政権発足後の「記録的なペース」は、むしろ閣僚人事の承認の遅れの方だろう。まだ半分も承認されていない。マティス国防相は早々と承認されたが、ティラーソン国務長官はずいぶん遅れた。
民主党が抵抗しているからだが、もともと「破格の人事」を行った政権側に問題がある。行政経験がないだけでなく、問題発言や問題行動があった人物が多い。選挙の論功行賞と思われる人事もある。共和党主流派からの抜てきもなく、挙党一致という感じもしない。選挙時に協力しなかった人は一貫して干されている。これはいずれ、大きな問題や内紛が起きる可能性を予見させる人事案だろう。
案の定というべきか、13日には安全保障担当大統領補佐官のマイケル・フリンが更迭された。安全保障担当補佐官と言えば、かつてのキッシンジャー(ニクソン政権)やブレジンスキー(カーター政権)、あるいはコンドリーザ・ライス(ブッシュ政権)やスーザン・ライス(オバマ政権)などのそうそうたる顔ぶれが務めてきた。やはりトランプ政権にとって誤算だろう。ただし、本人が辞任したのではなく、「ロシアとの事前接触をめぐって副大統領の調査に対して事実を伝えていなかった」ことに、トランプが怒って更迭したものである。これだけをもって「トランプ政権の行き詰まり」と決めつけるのは問題が多い。
上院の閣僚承認投票を見ていると、共和党議員は基本的には結束して臨んでいる。僕は上院の公聴会などで問題発言をして、人事の撤回に追い込まれる可能性も想定していた。だけど、今のところ教育長官のベッツィ・デボスの投票で共和党から2人が造反しただけである。(その結果、50対50になり、通常は採決に加わらない上院議長のペンス副大統領が賛成して、やっと承認された。これは米政治史上初の事例である)
このデボスという名前は覚えておいた方がいい。この先、アメリカの教育界ではとんでもないことが起こる可能性が高い。アムウェイ創業者の一族出身で、「慈善家」という肩書なんだけど、一貫して公教育を敵視し、チャータースクールなどを推進してきた。今回も上院の質問で「学校に銃を持ち込むことの可否」を問われて、「灰色熊に襲われないため必要」という「珍答弁」をしたそうだ。全米の教育関係者や教員組合が反対運動を繰り広げ、その結果二人の共和党議員が反対に踏み切った経緯がある。
そういうケースもあるわけだが、ティラーソン(国務長官)やムニューチン(財務長官)の承認では共和党の52票が結束して投票している。民主党は46、無所属2(一人はバーニー・サンダース)だから、共和党がまとまっている限り、最終的には閣僚人事も承認されることになる。そして、今のところ、デボスのようなケースを除けば、共和党議員は結束していると見ないといけない。
マスコミでは反対運動が大きく報道されるけど、もともとトランプに入れなかった人だろう。トランプに入れた人が、それを後悔しているのかと言えば、今のところそんなことはないと思う。本当に雇用が増えるのか、今はトランプにチャンスを与えるべき時期だと思っているはずである。そして、少なくとも株価は上昇しているじゃないかと思ってると思う。(安倍首相の言い分と同じように。)
昨年の大統領選では、支持政党と違う候補者に入れる人が増えるという観測があった。しかし、実際にはどちらの党も支持政党の候補者に入れた人が圧倒的多数に上ると見られる。それはニューヨークタイムスのウェブサイトに出ている出口調査によるものだが、調査そのものの信頼性もあるかと思うけど、それにしてもどちらも90%以上の投票になっている。日本の選挙の感覚で言えば、各陣営とも「地盤を固めた」ということである。
それはどうしてかと思うと、下院議員選挙や(3分の2の州で)上院議員選、あるいは知事選や住民投票なども一緒に行うわけで、セットで投票するということも大きいだろう。それとともに、民主党と共和党がはっきりと価値観で違ってしまったということもある。銃規制や同性婚、妊娠中絶、「大きな政府か、小さな政府か」などの問題で全く価値観が異なっている。だから、候補者に不満があったとしても、基本的に支持している党の候補に投票することが多くなると思われる。
その一つが前回書いた最高裁判事の指名権の問題である。反オバマの共和党主流派にとって、トランプがいかに危険だと思ったとしても、リベラル派判事をこれ以上増やさないためにはトランプを押し立てるしかない。同じようにサンダース支持者も、ヒラリー・クリントンに不満があったとしても、共和党政権に戻って最高裁が保守化する危険性を冒すわけにはいかない。そういう動機も大きいように思う。
赤(共和党)と青(民主党)は、今は「水と油」というのに近い。ホテルのユニットバスなんかだと、赤い方がお湯、青い方が水で、両方を出しながら適温にして風呂をためる。だけど、今では(どっちがどっちかは判らないけど)、片方からは油が出てくるのである。どうやっても中間でまとまるということはできない。単に経済政策などなら、中間で妥協することができるけど、アメリカで問題になっている争点は宗教的、イデオロギー的に妥協することが難しい問題ばかりである。だから、せっかく政権に復帰できた共和党が、(トランプはやり過ぎだと内心では思っているかもしれないが)、早々に内部対立が激しくなり、民主党と一緒になってトランプ反対になるということは当面はないと考えておかないといけない。では、今後どうなっていくと予測できるか、それは次回。