尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

9月の映画日記-新作編

2014年10月01日 20時55分36秒 | 映画 (新作日本映画)
 まず、9月30日に見た映画から。テアトル新宿で21時10分からレイトショーで、松江哲明「フラッシュバックメモリーズ3D」を見た。昨年の公開作品だけど、見逃していた。僕の言う旧作とは何十年も前の映画のことだから、新作扱いでここに書く。これはキネ旬ベストテン10位に入ってビックリしたけど、やはり驚異の映画ではあった。実は3D映画を見るのは初めてなんだけど、これは確かに3Dで作る意味があったと思う。交通事故で記憶障害になったディジュリドゥ奏者GOMAの音楽活動を描く映画で、後半になって舞台演奏シーンの後ろに本人や妻の日記が字で出てくると非常に心打たれるシーンとなる。大体、ディジュリドゥなんて言われても、それも知らなかったけど、オーストラリアのアボリジニーの楽器で、今調べたらシロアリに食べられて空洞になったユーカリの木で作った金管楽器だという。木だけど、音の出る原理から金管楽器に分類されると出ている。その不思議な音も迫力なんだけど、記憶障害(高次脳機能傷害)になっても演奏は「体が覚えていた」というのがすごい。首都高で追突されたらしいが、身体機能に大きな影響はないらしいのに、記憶に影響が出ているらしい。「博士の愛した数式」や「メメント」などほど大変ではない感じだが、これはまさに実話というか、ドキュメントである凄さがある。3日まで上映されている。

 その前にキネカ大森で、大林宣彦の最近作「野のなななのか」(2014)と「この空の花-長岡花火物語」(2012)を見た。アンナに好きだった大林監督も、10年前の「理由」を最後に新作は見ていなかった。大林監督作品には、けっこう凡作が多いけど、90年代後半からはセルフ・リメイク感の強い作品が多くなって、見なくなってしまった。そんな中で、今回の2本には共通点が多い。
地方発のインディーズ映画で、かつ上映時間が3時間近い。
②日本の美しい風景(新潟の山古志と北海道の芦別)が随所に映し出される「風景映画」。
③反戦、反原発の思いが生で強く打ち出されている。
④生者に混じって死者が画面に登場し、この世とあの世の境があいまいである。
⑤一輪車の子どもたち(長岡)や野の楽士隊(なななのか)による祝祭的幻想空間。
⑥しかし、出過ぎなくらい有名俳優が登場してきて、プロの映画になっている。
 こういう「地方発」のお勉強幻想映画で、見て長い感じはしないけれど、でも長すぎはしないか。ドキュメントでも作れるところを、劇映画にして有名俳優が出るところに「地方」を超える試みになるとも言える。デジタルなら作れるという映画でもあるだろう。どう評価していいのか迷うところも多いのだが、「ポスト3・11」の精神を伝え続ける意味はあるだろう。それに今「なによりも戦争は嫌だ」という声(特に「被害だけでなく加害の面も)を残すことも重要性も判る。でも一番の印象は、山古志や芦別の美しい風景を見てみたいという気持ちになるということだろう。芦別は昔クルマで通ったけど、カナディアンワールドの建物がまだきれいに残っているように見えたのが印象的。赤毛のアンの家に今年は少しは人が行っているのかな。

 その前に見た映画では、カンヌのコンペに出た河瀬直美「2つ目の窓」はとても良かった。河瀬監督も期待を裏切る作品が多く、今回も意気込みにもかかわらずカンヌで無冠で終わり、公開されても見なかった人がいるのではないかと思う。僕も終了直前に見たので、ここで書かなかったけど、奄美の大自然の中で育つ若い男女を描き、とても素直に感動できる。今後機会があれば見て欲しい映画。

 今公開中の映画では、「フランシス・ハ」が実に面白くて最高。この不思議な題名の由来はラストに判るので注目。ノア・バームバックという監督は僕は初めてだが、主演・共同脚本の女優グレタ・ガーヴィグのダメぶりが最高。ダンススクールの練習生のフランシスは、27歳になっても目が出ない。ルームシェアしてる友達がどんどん男と結ばれ、仕事も順調なのに、自分は夏の旅公演メンバーに選ばれない。周りには選ばれるようなことを言っていたから、不運の目が転がっていく。ちょっと人付き合いが外れた感じの女の子が、やっぱりアメリカにもいて、「非モテ系」と字幕は出てるけど、そういう世界を描いている。このフランシスのダメっ子ぶりが実におかしくてチャーミング。日本の若い女性にも是非見て欲しい映画。「火のようにさみしい姉がいて」を見る前の時間が空いて、渋谷のユーロスペースで見たんだけど、掘り出し物でまた見たい映画。
 
 チリ映画の「NO」は記事を書いたけど、他ではガス・ヴァン=サント「プロミスト・ランド」がオイルシェールをめぐる環境問題を扱い、面白かったけど、脚本が作り過ぎか。主演のマット・デイモンより、同僚役のフランシス・マクドーマンドが「ファーゴ」を思い起こさせる名演・イタリア映画が好きで、去年のベネチアグランプリの「ローマ環状線」と岩波でやっている「ローマの教室で」を見たけど、どうもいま一つの感がした。アカデミー外国語映画賞の「グレート・ビューティ」は見たかったけど、見る前に終わってしまったので、どこかで見たい。新作も見たい映画がいっぱいあるが、どこかで見られるだろうとつい逃しがちになる。
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