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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

民意を反映しない中選挙区制②

2013年06月19日 00時41分17秒 |  〃  (選挙)
 「中選挙区」を考える話の続き。僕はこの話を主に国政の問題として書いている。原理的には地方自治体の選挙も同じだけど、じゃあ現在行われている都議会議員選挙には「中選挙区」があるから間違っているという主張はしない。何故かというと2つあって、一つは地方選挙では首長を住民が直接選ぶ「大統領型」になっているということがある。議会構成がどうなろうと、知事や市長は別に選ばれるんだから、強大な権力を持つ首長に対して、議会にはできるだけ多様な勢力がいる方がいいわけである。

 地方議会の選挙も比例代表制にすべきではないかというと、確かにリクツではそうなんだけど、特に町村議会なんかになれば「無所属議員」がとても多い。無所属議員にとっては、比例代表にする意味がない。都議選なんかは、各党が全力を挙げる「首都決戦」になっているが、それでも一人一党的な議員もいるものである。国政選挙が政党間の争いになるのは当然なので、選挙制度の話もそれを前提に書いているけど、もし全立候補者が無所属なんだったら、選挙制度をどうするかという議論は意味がなくなる。

 さて、では国会議員の一番大切な仕事は何だろうか。これをタテマエで答えると間違ってくる。リクツで言えば、国会は国権の最高機関で、三権分立の中の「立法」を担当するから、「法律をつくること」などという答えになる。でも現実には世界中で立法機関より行政機関の方が実質的権力を持っている。「サミット」なる主要国のリーダーが集まる場には、世界の行政のトップしか来ない。皆が知ってる世界のトップは、その国の行政機関の長の名前である。大体、日本人であっても、首相の名は知っていても、衆参両院議長、および最高裁長官の名前を言える人がどれだけ言えるだろうか。日本の行政機関の長、内閣総理大臣は国会が指名する。従って、国会議員選挙というものは、実質的に「首相選挙人」を選ぶ選挙である。国会議員選挙の方法が大切な理由はそこにある。国会議員の選び方は、国民が「どの党に投票したか」=「誰を総理大臣として支持するか」を正確に反映するものでなくてはならない

 では実際にどんな問題があるか。「中選挙区」がある一番最近の選挙である、2010年参院選を見てみる。この時は2009年衆院選で民主党が大勝したものの、普天間基地移設問題などで鳩山由紀夫首相が辞任し、菅直人内閣に替わった直後だった。菅首相の消費税発言などで民主党が敗北し、民主党が参議院の過半数を失い、「衆参のねじれ」が生じた。いろいろな問題もあったけど、地方の一人区(つまり小選挙区)で民主党が負けたことは確かである。だけど、千葉選挙区(定数3人)のような例はどう考えるべきだろうか。
 小西洋之(民主)  535,632 当選
 猪口邦子(自民)  513,772 当選
 水野賢一(みんな) 476,259 当選
 道あゆみ(民主)  463,648 落選
 椎名一保(自民)  395,746 落選
 小西候補の3万5千票を道候補の得票に加えれば、道候補は49万8千票となり、みんなの党水野候補を上回るではないか。自民党も2人立てたが合わせて90万票だから、完全に真っ二つになって2人とも45万票だったら共倒れしていた。千葉選挙区が3人でいいのかという問題もあるが、一応3人で比例代表で選べば、民主100万、自民90万、みんな47万なんだから、民主党が2人当選、自民党が1人当選というのが正しい民意というべきではないか。与党が1人、野党が2人、という結果は明らかに民主党の票が割れた失敗によるものである。(もっとも総野党を合計すれば、野党系2人当選も正しいと言えるが。)

 一方、東京選挙区(定数5人)を見てみる。
 蓮舫(民主)     1,710,734 当選
 竹谷とし子(公明)  806,862 当選
 中川雅治(自民)   711,171 当選
 小川敏夫(民主)   696,672 当選
 松田公太(みんな)  656,029 当選
 小池晃(共産)     552,187 落選
 東海由紀子(自民)  299,343 落選
 この場合の問題は、票割の失敗ではない。自民党は2人立てたが、合わせて100万だからまだ全然支持を回復していなかった。完全に真っ二つになっていたら共倒れしたのも千葉と同じ。問題は蓮舫に票が集中して、蓮舫票を二つに割っても85万以上だから、1位と2位である。つまり民主党は3人当選できる票を集めていたのである。蓮舫個人を支持したのだという人もだろうが、菅内閣の現職閣僚だったので蓮舫票は民主党内閣支持票と見なすしかない。(仮に蓮舫が比例で出ていたら、だいぶ民主党当選者を増やしたのではないか。)千葉も東京も、「みんなの党」が落ちて民主党が当選する方が正しいという話になったが、別に他意はない。単なる一例をあげただけ。こういう風に票が多すぎることによるゆがみも「中選挙区」では起こるという例である。これも東京選挙区を比例代表で選べば、民主が3人になったわけである。

 このような例は、昔の衆議院選挙ではいつも起こっていた。僕も含めて、皆そういうもんだと思っていたのである。選挙に強いとは、「票割がうまい」ということで、そういう選挙のプロがいる党が勝つのは当然だと思っていたわけである。自民党や社会党が共倒れしても、それは仕方ない、その候補者が悪いと思っていたのだけど、あらためて考えてみると、総理大臣を選ぶ時にこれでは困るのではないかと思うようになったのである。中選挙区ではこういうことが起こるという例を挙げた。これを理論的に考えうるとどうなるかという話を次会に。
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民意を反映しない中選挙区制①

2013年06月18日 00時56分01秒 |  〃  (選挙)
 国政選挙が近づくと、93年の「政治改革」は失敗だった、衆議院は前の「中選挙区制」に戻すべきだという議論が出てくる。中には「民意を反映しない小選挙区制度」をやめて、「民意を反映する中選挙区制」に戻すべきだという人がいる。これが実は大間違いで、小選挙区制は民意を反映するが、中選挙区制は民意を反映しない。もちろん比例代表制は「民意を一番正確に反映する」。だから比例代表制度一本にすべきだという議論なら判るが、中選挙区制に戻すというのでは、議論の筋道がおかしい。

 そのことが判っていない人が多いようなので、何回かかけて中選挙区制度の問題点を書いておきたい。なお、どういう選挙制度にしても、国民の支持率が高い党が1位となることは変わらない。当たり前である。どういう細工をしても、投票者が多い党が勝つという選挙の根本は変わらない。しかし、選挙制度によっては、第2党や第3党、あるいはそれ以下の少数党の議席は大きく変わってくる。そういう少数党は、いくら議会で頑張って演説しても、国会の投票ではすべて負ける。だから議会外の反対運動との連携を重視する必要がある。そして国民運動の盛り上がりを背景に、次回の選挙で多数をめざすわけだ。そういう少数政党もある程度は議会内にいた方がいいだろう。そうでないと、国会が活性化せず汚職やボス支配が横行しやすい。また少数党支持者は議会に期待できないので、議会政治そのものを破壊したくなってくる。

 さて、議論の筋道を最初に示しておくと、まず「民意を反映する」という意味の問題がある。だけど、それから書きだすとリクツっぽい話が多くなるので、たとえ話で議論していきたい。僕が言っている「民意の反映」とは、何よりも選挙の理論上の問題である。と同時に、国政選挙とは何かという問題も考えておかないといけない。現実に今も中選挙区がある参議院選挙で、どういう弊害が起こっているかも実例で示したい。またこの問題は何よりも「憲法改正」の問題と絡んで出てきている。そのことを無視して議論しても意味がない。「どうして中選挙区が民意を反映すると思われているか」という問題も、そのことと関わっている。そういう問題を順番に見て行きたい。一回で書くには長すぎるので、何回かかかると思う。

 さて、たとえ話。ある国で憲法改正を主張するA党(国民の支持率55%)憲法護持を主張するB党(国民の支持率45%)があるとする。この2党しかない。現実には同じ国といえども政党支持率の地域差があるわけだが、たとえだから「地域差は全くない」と仮定する。国会は定数100名の一院制。憲法改正は、国会が3分の2以上で発議し、国民投票の過半数で成立する。つまり今の日本と同じ仕組みとする。
 
 さて、小選挙区制だった場合、選挙ではA党がすべての選挙区で勝利し、100議席を獲得する。一方B党はゼロとなる比例代表制だった場合A党は55議席を獲得し、B党は45議席を獲得する。だからどっちの選挙制度でも、A党首が内閣を組織し、予算や法律はA党の主張が通るのである。しかし、憲法改正問題に関しては違ってくる。小選挙区だったら憲法改正を発議できるが、比例代表だったら発議できない。たとえの前提条件から、国民投票が行われれば憲法改正は成立するはずである。従って憲法改正がなるかどうかは、選挙制度にかかっている。

 この場合、小選挙区制ではB党の議席がゼロとなってしまうのは、あまりにヒドイではないかと思う人が多いだろう。何しろ国民の45%が支持しているのである。そのことを指して「民意を反映しない小選挙区制」というわけだろう。その場合、「45%の支持がある党は国会の45%の議席を占める権利がある」と思うんだったら、比例代表制にすべきだと主張する必要がある。いや、45%でなくてもいいけど、せめて35%程度が当選して欲しい、そうでないとおかしい、つまり「35議席あれば憲法改正は阻止できるから、まあいいや」というんだったら、現実的にはありうるだろうけれど、論理的には成り立たないわけである。

 このように「小選挙区は民意を反映しない」という意見は、各党の投票数と獲得議席数が離れすぎているのがおかしい、それが「民意を反映していない」という趣旨なんだと思う。しかし、各小選挙区ではどこでもA党の候補者が55%の得票をして当選したのであり、まさにその地域の国民の民意を反映してA党が議席を獲得するわけである。その結果、国会の全議席をA党が獲得するというのは確かに独占が過ぎると思うけれども、それぞれの選挙結果が民意を反映したものであるのは間違いない。つまり「民意の反映」の意味が違っている。選挙なんだから、多数票獲得者が当選するのは当たり前で、小選挙区制がいいかどうかは別にして、小選挙区当選者は誰にも文句を言われる筋がない、その選挙区の民意の結果の当選なのである。

 では「中選挙区制」だったらどうだろうか。かつての日本では3~5人を選んでいた。それが一票の格差の問題から、最終的には2人区、6人区も出来た。(なお、奄美地区だけ、米軍占領から日本復帰した後で、独自の1人区の奄美群島区となっていた。)だから、このたとえでは3~5を基本とし、3人区が10、4人区が10、5人区が6あるとする。合わせて100。さて、結果はどうなるだろうか。答えは「判らない」である。なぜなら、この制度では多数議席を取るために、両党とも各選挙区で複数の候補を立てるしかない。だから同じ党同士で票を奪い合うことになる。4人区では、支持率だけから考えると、両党とも2人が当選して分け合うはずである。しかし55%を3人で分けると、18.3%となる。B党が2人しか立てなかったら、自動的にA党から2人当選するはずで、最下位でもいいから当選できるかもしれないと考えて、地元の県議や市長などが新人として立候補するだろう。A党乱立を見てB党も3人目を立てるかもしれない。3人区、5人区も同じで、基本はA党の方が10%ほど支持が多いはずだが、それがどう割れるかで当選者がどうなるかはやってみないと判らない。つまり、中選挙区は票割の成功失敗という偶然により、選挙結果が左右される

 ただ、多分はっきり言えることがある。それはA党もB党も候補が乱立することにより、A党の当選者が7割にも8割にもなるとは考えられないということである。基本は55対45の割合を、3、4、5の定数に反映させた数が当選者のベースになるはずだ。つまり、中選挙区は偶然に支配されるけど、比例代表制に結果的には似てくる。都議選には8人区というすごい所があるけれど、これでは候補で選びようがなく、ある意味では党の支持率を反映する比例代表制に限りなく近いと言える。しかし、それなら比例代表制にしたらいいではないかと思うが、それではダメなんだろうか。(続いて、中選挙区制の実際の弊害、および中選挙区制が理論的に民意を反映しない理由などを。)
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