実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

復興のレシピ  実戦教師塾通信二百三十九号

2012-12-25 12:11:49 | 福島からの報告
 忘年会&お祝い


 経営


 私がお迎えに行きますから、と言った板さんは、5時に「ふじ滝」に着いた。小名浜の店でいいところがあるんです、そう言って車は湯本から小名浜まで30分走り、通称鹿島街道を少し裏に入った。こじんまりとした、そしてこぎれいな店がそこにあった。
           
 社長さんはまだ着いていなかった。板さんが電話すると、こんな日でもないと買い物できないから、と言ったらしい。ホワイトボードだのガムテープだのと、ホームセンターでの買い物だ。
 主賓が遅れてくるならちょうどいい。私たちは先に席に座って待つ。そして、この先の話になった。板さんがどうするのか、私は聞きたかった。働いている店先では到底聞くことができないが、今日は聞ける、そう思った。軽い話ではないし、板さんの口も軽くない。しかし、板さんの腹は決まっていた。
「あと半年ですね」
軽のワゴンで、魚をあちこち売って回っていた女将さんが、避難所のサザンに板さんを見いだし、スカウトした。そもそもそれが始まりだった。
「あの頃の話と全然違うんスよ」
その後の経過は、このブログで書いた通りだ。若手を育ててからあの店を出る、という当初の考えはもうない、と言い切った。
「だから、もう何にも教えてないスね」
 その辺で社長さんが現れた。話が続いた。経営に向いていない社長さんと三人で、経営の話になった。今やっているネットでの干物販売にまつわる問題だ。要するに、ネットの力をどの程度信用したらいいものか、ということだった。おそらく、ここでもひっくり返った構造がある。ネットにどれだけ取り上げられるか、ネットでどう評価されるかという問題は、干物が美味しいかどうかとは関係がない。
 少し前だが、月に300万円の赤字を出している割烹店から相談を受けたことがある。まじめに浅草で下積みをし、力のある板前がオーナーである。親から受け継いだ店だったためか、おそらく「野心」を持った。大きい店にリニュアールした。さらに良くないことに、ベテランの板前を雇い入れた。これでうまく行くわけがない。店の経営のいろはを知らない40代の板前が、その向こうを張りかねないベテランの板前をやりくりしつつ、包丁を振るう。味と手際が対立しても、ほかのことまで頭は回らない。客は離れ、味も落ちる。回転寿司やチェーン店に負けたのではない。
 客は五人いればいい。私はその時に言った。店はひとりで始め、小さく始めるべきだった。店を大きくするのでなく、したいのなら暖簾分けという形が良かった。大切な客という、その五人は、忌憚なく言ってくれる人、美味しい!とも言うが、今日の料理は一体どうしたというのだ、ということを言ってくれる人、そんな客が五人いれば、みんなが喜ぶ料理店ができる。耳寄りの「美味しい」話は、ちゃんと伝わっていく。
 ネットは、この辺りの事情に本当は立ち入れない、と私は思っている。思い入れがない分、力は入らないし、読み手/利用者がそこまで要求しない。やらせまであるネットの指針は、やはり「数」なのだ。数といえばユニクロ。ユニクロは大企業となり、世界を席巻している。しかし何より、「羨望の服」ではないし「絶対に着たい」ものではない。「あってもいい」「一年着れればいい」「着ていて惨めなものでもない」ものだ。そんな点での便利さが受けているだけだ。
 しかし、板さんや社長さんが目指すものは違っている。
 小名浜の店は、しばし三人の話で熱くなった。


 モツ煮込み

 お通しです、と出されたのが尾頭付きまるごとのキンキの煮物。この小料理店『紫』の名物だそうだ。それが大皿に乗ってくる。そして香の物が二種類出てくる。私は目を疑い、小鉢の方がお通しで、キンキはコース料理の初めの一品ではないのか、と板さんに何度も聞いてしまった。コースは頼んでいない、だからこれはお通しなんです、と板さんが嬉しそうに言う。この「お通し」のおかげで、ほかの料理はそんなに頼めなかった。充分満喫してしまうのだ。歯が満足に残ってない社長さんは、肉を食べない。お新香も食べない。ラーメンや魚はまだ食べられる、などと言っている。そのせいなのか、料理に殆ど感想めいたことを言わない社長さんが、一体干物の味にどうこだわっているのか、そのうち攻撃しないといけないと、私は思っている。そんな社長さんを放っておいて、私と板さんは料理談義に華を咲かせた。
 頼んだ「出汁まき玉子」がでてきた。大根おろしが添えられていない。そのことを私が言うと、
「そのまま食べて欲しいからですよ」
と、料理人の気持ちを察するように言った。そして、醤油を垂らしたらいいものかどうか迷う私に、
「醤油で食べるようになってしまうから、かけない方がいいです」
と断言。出汁の風味が死んでしまうということらしい。そして、出汁まきの「出汁」が何なのか、私はあれこれ言ったが、これは鰹の本だしです、と口に含んだ板さんが言う。さらに、
「化学調味料をバカにしてはいけませんよ」
と、私の心中を察するかのように言った。ぐるぐると幾重にも巻いた玉子焼きが三角に切ってあるのは、筍の先を思わせる。それがほこほこと湯気をあげている。優しい玉子と出汁の味が、口の中を膨らんでいく。
 板さんが店を始めたら、モツ煮はやるのか、という話になった。なんと「くさの根」ですでにやっている、というのだ。いつも定食ばかり頼んでいたからか、一品料理に気がつかなかったのだろうか。以下はそのモツ煮のレシピである。ブログに載せちゃうけど、という私に、板さんはいいとは言わなかったが、ダメとも言わなかった。ので、書く。私はストーブでこれを作るつもりである。
○関西のモツ煮は醤油。関東は味噌。白味噌がいい。八丁味噌は香ばしさが味を奪う。
○入れるのはモツと大根だけ。こんにゃくもニンジンも、そして生姜も入れない。
○酢も入れない。大根がモツを柔らかくし、臭みもとる。
○大根1,5 モツ1の割合で。
以上である。確か調味料は味醂と酒だけだったと記憶している。大根の切り方や、その大きさまで言ってくれていた。ここは企業秘密で言えません、という部分はないような気がする。みなさんも是非どうぞ。復興のレシピです。


 ☆☆
そのストーブですが、先日、煙突というのか、炎があがる部分を持ち上げてうっかり落としました。あれってガラスなんですね。割ってしまったのです。そのまま使うと目が痛い痛い、とても使えない。仕方ないので、急場しのぎにエアコン!を使っていたら、先日立ち寄ったホームセンターに勤務する仲間が、お取り寄せできますよ、と注文してくれました。やれやれ、モツ煮作れます。

 ☆☆
前回の北上の林檎と一緒に梱包されていた新聞は、もちろん地方版が「いわて」です。18日付ですから選挙はすでに終わっているのですが、選挙前の岩手の様子が書かれていました。少し抜き書きします。
「小沢王国崩壊」「足早に次の遊説地に出発した。…その間、わずか15分」「集まった数十人の聴衆…反応に熱はなかった」「震災後、姿を見せない小沢氏に対する不満が被災地にはくすぶっていた」「小沢氏が初めて被災地に入ったのは今年1月」「選挙のときだけ来るなら正直来てもらいたくない」
 なんと震災から一年近く、小沢氏は被災地、しかも地元岩手に姿を見せなかったのですね。奥さんの手記はやっぱり本当なのでしょうか。小沢氏地元の盟友は今はなく、しかも袂をわかった彼らは再選。小沢氏の得票数は大きく前回を割ったといいます。選挙屋はもう終わるのでしょうか。
    
  (写真に写っていませんがスローガンの一番目が「脱原発!」です)

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1 コメント

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忘れてはならないもの (リーガルハイ)
2013-07-25 11:32:34
如来寿量品第十六
余国に衆生の。恭敬し信楽するものであれば。
われまたかの中において。ために無上の法をとく。
汝等これをきかずして。ただわれ滅度すとおもえり。われ諸の衆生を見れば。苦海に没在せり。
かるがゆえにために身を現ぜずして。
それをして渇迎を生ぜしむ。
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