実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

『新聞記者』 実戦教師塾通信六百六十一号

2019-07-19 11:43:46 | エンターテインメント
 『新聞記者』
     ~新しい挑戦か~


 ☆初めに☆
その頃、ドラマでは三菱を臭わす『空飛ぶタイヤ』(wowow2009年)が、映画では日本航空を標的とする『沈まぬ太陽』(角川ヘラルド2008年)がヒットしていました。それで私の口から、日本の映画やドラマも権力に一石を投じることが出来るようになって来たのかな、とついそんな言葉が出たのです。もちろん、かつてもそういう映画はありました。『砂の器』(74年)や『地の群れ』(70年)がそうですが、前者は監督スタッフ陣が私財を投げ打ち松竹を説得して出来上がった例外的存在です。そして後者は独立プロ。メジャーな流れからは遠かった。
私がつぶやいた相手は、ずっとこの世界の前線に立ち続けている人物です。この時は、いつもの静かな反応とは違い、
「先生、それは違います。二つとも、もう『終わった』ことを題材にしてるんです」
現在進行中の面倒なテーマを、大手の娯楽企業が扱えるものではないという言葉には、いつにない激しいものがありました。
 ☆☆
映画『新聞記者』が、好評のロードショーです。

まさに決着を見ていない、進行中の出来事がテーマと思えます。だからこそ後味の悪い、先の見えない終幕でした。
配給は「スターサンズ、イオンエンターテイメント」。あの時「先生、それは違います」と言ったあの人は、今度はなんと言ってくれるのでしょう。

 1 森加計問題?
 まさに森加計問題が舞台だ。なにせ原作が記者会見で官邸事務方から「同じ質問をしないように」注意を受け、
「答えてないから繰り返してるんです」
と食い下がった東京新聞の望月衣塑子(いそこ)なんだから。2017年の加計問題に関する望月のたび重なる質問で、官邸は色をなし「特定の新聞と記者への取材制限」を主張したことは記憶に新しい。

「あの人は文書改竄(かいざん)のことで死ぬような弱い人ではありません」
そう訴える、内調(内閣官房情報調査室)の若手キャリアの言葉だ。ここで私たちはもちろん、森友学園をめぐる文書改竄で自殺した近畿財務局の職員を思い出す。当時の世論は、もっぱら「公文書の改竄という許されない事態」という批判に終始した。しかしそうではないんだ、と映画は言っているかのようだ。映画はフィクションと考えるにしても、文書改竄は珍しいことではない、それよりも改竄してまでやりたいことが何なのか見極めないといけないんだと言っているのだった。映画ではそれらが、内調の送り出す捏造(ねつぞう)ニュースやデータで、混乱に導かれる。たとえば映画の開幕シーンは、女性問題を問われる学長だったか議員だったか。これが前川喜平であることは疑いがない。ある人物を抹殺するためには、一定の「真実」を通して「信頼」をつぶすことだという戦略が、映画では繰り返される。どこからがフィクションで、どこまでが事実なのか区別しにくい展開はしかし、徐々に映画を観るものの立ち位置や思いに食い込む。思い通りにされているのは私たちではないのか、と。
「これがウソかどうかを決めるのは、国会や警察ではない。国民だよ」
そう言う内調・上司の言葉はリアルだ。

 2 今日も昨日のようでありたい
 この映画が投げかけているテーマは、内調・上司の口から出されている。
「私たちの役割は、平穏な国民の生活を守ることにある。そこに波風たてるものは、速(すみ)やかに居なくなってもらわないといけない。そんなことに躊躇はいらない」
国家日本をになう意志と頭脳は、苦悩よりは平静を、そして動揺ではない無表情を選び取っている。ちなみにその人物が表出されているさまは見事だ。これを演技というのだ、映画を見ていて何度も思った。
「組織ってイヤですね」
とは、この映画を見た友人の言葉だ。そうなのか。
 人々は「今日が昨日のようである」ことを望む。それは大切なことなのだ。しかし同時に「未来を変えたい」人々が常に存在する。そして「昨日のようでいたい」と思う人々は、多くが彼らときしみを生じさせる。アメリカで公民権運動を展開して暗殺されたキング牧師が一番恐れたのは、白人至上主義者やク・クラックス・クランではない。「今までの生活習慣を守りたい」人々だった。学校も同じだ。あの坊主頭が長髪解禁となるのは、たかだか30~40年前、周囲の風景とのあまりの落差に、とうとう学校が動いた結果だ。内調・上司の言葉の「国民」を「学校」に変換するがいい。おおごとが起きると学校は一気に組織の貌(かお)を現す。また言うが、
「私たちは全校の生徒を守らないといけないんです」
と言った校長は、ひどい例ではない。「普通」なのだ。

 3 掌(てのひら)を返す
 前川喜平が2017年の加計問題の記者会見で、
「『総理のご意向』文書を認め、『行政が歪められた」』と政権批判」
したことは覚えていると思う。しかし、出会い系バーの女性と前川氏が不適切な関係にあったという読売と産経の報道が、この会見の三日前だったことを覚えているだろうか。会見前の強烈な脅(おど)し。後日談として、この女性が、
「前川とは最も親しかった。身の上の相談や就職に関する相談にのってもらった。報道については、今になって真実とは思えない報道がなされている。前川から口説かれたことも手を繋いだこともなく有り得ない」
等という証言をしている(文春)。でき損ないのハニートラップと言えようか。
 これも思い出しておきたい。元福島県知事の佐藤栄佐久の収賄(しゅうわい)事件。知事が原発容認から反対に転じたその年!収賄の疑いで逮捕される。最高裁は「収賄罪は有罪。しかし賄賂(わいろ)額は0円」という信じがたい判決である。

 その時相手は、突然「掌を返す」のだ。
 映画で、若手キャリア上杉は結局、相手の懐(ふところ)に飲まれたのだろうか。



 ☆後記☆
以前、前川氏のことを話題にしたことがあります。覚えてますか。大川小学校の第三者委員を決めるに際してのことです。佐藤和隆さんの問いかけに、結局前川氏は答えなかったのですが、やっぱり聞きたいと今でも思っています。
 ☆☆
「組織」で思います。ジャニー喜多川社長が亡くなった直後に、公正取引委員会からスマップに関する「注意」があったこと。興味深いですね。このことに関して報道が、横並びに「遠慮」していることも、です。
 ☆☆
さて、今日は終業式。いよいよ夏休み! 子どもたちもみんなもお疲れさま! 涼しい(寒い?)日も多くて、なんか楽な7月だったせいか、もうけた感じ。これから暑いぞ、楽しもうね!

     袋田の滝です。夏休みバンザイ!

最新の画像もっと見る

コメントを投稿