実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

館山・中2自殺  実戦教師塾通信二百九十五号

2013-07-03 16:55:09 | 子ども/学校
 教師の善意/親の愛

     ~補記 館山・中2自殺~


 1 事件当初


 あくまで報道されたことが一定の事実と認定した上での話ではあるが、絵に描いたような学校のいじめ対処だった。それをここで検証しておく。そして、親の子どもに対する見過ごせない過失も、残念ながらあったようだ。それはここでは取り上げないが。
 2008年9月10日、中学二年生の子が「もうこの世に疲れました」という遺書を残して自宅で自殺した。このことを在校生がはっきりと知らされたのは、学校からではなく報道からだったことは間違いないようだ。

『当時私たちには何も知らされないまま、全校生徒が集められ、その方が「亡くなりました」とだけ伝えられ、「マスコミに聞かれても、何も言わないでください」と言われました。
その後、いろんな話が流れ始め、自殺らしい、野球部内でいじめがあったらしいなどの噂(うわさ)から、ようやく状況が把握(はあく)できたという感じでした』

この発言は、報道にはあがってないが、事件から4年後の、一級下の卒業生の言葉だ。当時の保護者も同様だった。臨時保護者会で、学校はこの子が「亡くなった」ことは伝えているが、「自殺」のことは言っていない、と発言している。
 私は学校関係者なので分かる。学校が「自殺」という表現を避けるのは、
○遺族の感情に配慮する
○生徒が動揺(どうよう)する
からだ。想像だが、学校は遺族に対して、「この自殺という事実を生徒に公表してもよろしいですか」または「いかがいたしましょう」という打診(だしん)をしていない。あくまで想像ではあるが、99%間違いない。婉曲(えんきょく)に、
「事故かも知れませんが、極めて残念な亡くなり方でした」
なる言い方で生徒に伝えることも出来るのだ。しかし、噂(うわさ)なんかで伝わるよりずっといい、という判断を学校というものはなかなか出来ない。「いずれ分かること」という道を選ぶ。しかもその場合は、学校が直接伝えることで生じる「伝えたこと」「伝え方」を追及される心配はない。「おおごとを避ける」ことを日常としている、学校の条件反射的対処だ。
 次だ。以下の文はこの子が亡くなってすぐあとに発行された『学校便り』(「館山三中学校便り」10月6日号)からの抜粋(ばっすい)である。ひどいものだ。

『今回の調査などを通して、○○君の死に直接つながる事実があるかどうか観て参りました。その結果、「からかい」等のいじめにつながるいくつかの事実はありましたが、直接、○○君の死と結びつくと思われる要因は分かりませんでした。
 改めて、ご遺族に対し弔意(ちょうい)を表すとともに、○○君のご冥福(めいふく)をお祈りいたします』

生徒や保護者の声を裏付けるように、確かに「自殺」という表現を避けているようにしか見えない。そしていつものことだが、どこにも感じられない「生徒の死への悲しみ」。死んだのは保護者ではない。本人なのだ。病気で死のうが溺れて死のうが、こんな冷たい扱いはしない。この子がどうして死を選んだのかという疑問を少しでも学校が持ったとしたら、学校は「いじめにつながるいくつかの事実」にぶつかるしかない。それで、この問を学校は必ず回避(かいひ)する。そうしないと「生徒の死の原因」に対面するからだ。
 その子の小学校卒業アルバムのページをめくると、生徒写真のところどころ、顔の部分を油性ペンで塗りつぶしたり、ナイフで削(けず)ったあとがあるという。
「顔を消された子がいじめた子かどうかは分からない」
と父親が言っている。


 2 「臭い」のはオメエラの方だよ

 以上に報告したことは、あんまり報道されなかった部分だ。以下は報道されたところだ。しかし、学校がどんな風に問題を大きくしてきたか、また、学校というものがそういう体質を持っていることを見ておかないといけない。
 
①アンケート廃棄(はいき)
 ご存知と思うが、事件直後に行われた生徒へのアンケートは廃棄されている。廃棄が明らかになった当時の報道によると(2012,10,12読売千葉版)、

○市教委は公文書の管理規定によって、このアンケートの保存期間を「5年」とした。が、学校は事件当時の一年生が卒業した段階で廃棄。

学校側の言う、その理由が傑作(けっさく)である。

○調査実施後、いじめは収束したと判断、当該(とうがい)生徒の卒業を機に処分したが、軽率(けいそつ)だった。

である。アンケートを廃棄した理由は「いじめがなくなったと思った」からである。待てよ。アンケート調査は、男子生徒の自殺が「事件性(いじめが)あるかどうか」を調べるためだったんじゃなかったのか。校内からいじめがなくなれば(なくなる筈はないのだが)、男子生徒の自殺の「なぜ?」は終わるというのか。

②記述未公表
 醜態(しゅうたい)は続く。2012年11月の再調査アンケートのことを、この6月の報道で知っていると思うが、その回答の中に
「『臭い』『うざい』『死ね』など言っているのを聞いたことがあります」
「当時の学校のずさんな対応に今でもあきれています」
「いじめを隠蔽(いんぺい)しているようにしか見えませんでした」
などという複数の答があったことが分かっている。市民団体と報道されているが、「館山三中いじめを考える会」の情報公開請求で見つかったものだ。このことへの市教委のコメントが悪臭(あくしゅう)を放っている。

○全くの記載漏れ(きさいもれ)であって、隠(かく)したのではない。
○自殺との関連を確認できないという結論は変わらない

である。
 まず、あまり知られていないように思うが、この再調査アンケートはなんと「記名式」で行われた。私たちは普通、こういった調査をかなり気づかって行う。机を離し、隣を見ずに、終わったらアンケートを裏返しにさせる。そして、集めるのはテストの時のように後の生徒が集めるのでなく、教師が集める。その間、生徒は目を閉じているように私たちは言う。すべては生徒のプライバシー、あるいはとりわけ「被害者」となっているかも知れない生徒を守るためである。こんなの「無記名」で行うのが大原則だ。
 それがこの再調査アンケートは「記名式」だ。おそらく、学校のずさんな対応を指摘(してき)した生徒は、勇気を奮(ふる)って書いている。しかし、
「似たような指摘の回答は別にあり、結論は変わらない」
と、市教委は冷静だ。こういう場合は「場違いに冷静だ」と言った方がいいな。分かるだろうか。これをひとつの流れで読もう。市教委は、
「男子生徒が『臭い、死ね』と言われていたとか、学校がいじめを隠蔽したとか、それがなんですか」
と言っているのだ。なぜなら、
○「学校がずさんな対応をしたかどうか」を、調べたのかどうか
○「『臭い、うざい』と男子生徒が言われているか」どうかを調べたのか
が答えられていないからだ。それが大切なのであって、その結果をどう考えたのかという問題が大切なのだ。
「こんな回答はまだありますよ」
「単なる記載漏れです」
はあまりにふざけてる。
 そしてこの二週間後に、またまた公表漏れが明らかになった。前回と同じく、市教委は
「皆さまにご迷惑をかけ、深く反省している」
という「お詫(わ)び」を、遺族(いぞく)や関係者にしたそうだ。一体どんな「迷惑」をかけたというのか、詳(くわ)しく聞くまでもないだろう。
「単なる記載漏れではあるが、関係者の誤解を招(まね)くことをしてしまった」
「自殺と結びつく要因ではないことに変わりはないけれど」
「すみませんでした」
となることは知れている。こんなの日本語じゃねえよ。


 3 再再調査は必要か

 父親が息子のために腰をあげたのは遅い。それはちょうど事件の二年後のことだった。2012年9月とは、大津のいじめ事件がメディアでもクローズアップ(フジテレビで関係者を実名で出してしまったのは2012年7月)していた時期と重なる。同じく7月に、この大津事件に文科省が直接調査に乗り出したこと、大津の越市長が定例会県で、学校と教育委員会の調査の不十分さを認めたことなどがあった。館山の父親はそれに触発(しょくはつ)されている。そして「館山三中いじめを考える会」が結成される。
 父親も頑張った。その後、市教委・学校を相手に回して、5時間にも及ぶ話し合いも持っている(2012,9,26)。しかし、この父親が言うように、「再再調査」を要求するのもいいが、「それはできない」という、市教委の時間かせぎの口実(こうじつ)にしかならないように思える。もう充分材料は揃(そろ)っている気がする。
 まずは「記述漏れ」のアンケート回答への見解から始めてもいいのではないか。その回答と
「自殺との関係」
なんかは問題ではない。例えば
「ずさんな学校の対応」
とはなんだったのか、あったのかなかったのか、ないと市教委が判断したなら、その根拠(こんきょ)はどこにあるのか、というそんなスタートで充分な気がする。


 ☆☆
大学で久しぶりに剛柔会宗家の山口先生とお会いしました。受講生の皆さんにはいわきの駄菓子(銘菓)『じゃんがら』を持って行って大喜びされ、皆さんが福島のことを聞いてくれるしで、おおいに幸せを受けました。そして、
「アンタにあげようと思って」
と、先生が「オレが作ったもんだが」と、棍(棒術に使う棒)を私にくれるのです。
「さすがだね」
と、私が送る「気」の上達もほめてもらえて、幸せばかりの一日でした。

 ☆☆
ニュースで言うように、確かにスーパーの鰻(うなぎ)、安いですね。先週の土曜日、柏のうなぎの名店は、夕方に行列を作っていたそうです。22日の土用を待てない人たちがいるのですね。夏はやっぱり鰻です。土用の丑まで待ちます。おいしいふっくらした鰻、食べたいですね。

最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
電波障害 (KD43・6)
2013-07-04 08:50:21
前日、東京スカイツリーU+1F5FCに賄う、アンテナU+1F4E1工事を受けました。
スカイツリーの電波相当強いみたいですね。
私の家では、今まで、千葉テレビ、東京MX、放送大学、埼玉テレビ、も受信していたのですが、
スカイツリーに切り替わってからは、全く写らなくなりました。工事していただいたので、現在は埼玉テレビ以外は、正常に写っております。
今回は、スカイツリーの電波が強いので、他の弱い電波が届かなくなったので、家庭に設置されている、ブースターの調整で済みましたが、近所で、如何わしい無線でも始めたのか、それとも、トラックドライバーが、周波数ガンガンに上げて、家のアンテナ焼き付いたか?等と非常に勘ぐりました。
結果スカイツリーの方で、無料で工事していただいたので、良かったですが、アノときは本当に悲しかったです。
今回は、中2のいじめ自殺問題、哀しいですね。
その後の対応も。
なんか、いじめに、効く抜群な特効薬てか、ワクチンなんかは、開発出来ないものですかね?
変毒医薬できるような教育ですとか。
空手の寸止めで、心の中に住んでいる、臆病者を吹き飛ばすことは出来ませんか?
いずれにしても、大人が確りとして、真剣に考えていくとても大事な問題です。
先生、いつも、ありがとうございます。
ブログ楽しみにしています。
それじゃいってきます!

返信する
館山中2いじめ自殺事件 (小出一彦)
2013-12-03 18:48:20
 もっと早く拝見すればよかったと思っております。私は、「館山いじめ問題を考える会」の事務局を担当しております。
 そこで一つだけお話したいと思います。それは、「父親が息子のために腰を上げたのは遅い」という点です。これは、地元でも聞かれた声で、「大津に便乗したのか」とさえ言う人もいました。
 しかし事実は違うのです。2008年9月10日に発生したのですが、父親はその直後はどうしていいかわからず年を越しますが、翌年の2月には担当課に出向き質問されたのを皮切りに、市教委への質問などされているのです。ですから、大津事件が表面化する3年5カ月前になります。そして納得できないとして、裁判も考え、弁護士の事情聴取も行われました。しかし、姉と弟の精神的な状況が悪化、その対応で時間が過ぎ去り、裁判は断念されました。
 その後に大津の事件がクローズアップされ、市議会で取り上げられ、大きく表面化したという経過です。
 私どもは、それまではご遺族もそういう事柄も全く知らなかったのですが、知人を介して支援要請があり、「館山いじめ問題を考える会」発足となったわけです。
 いずれにしましても、こうした場で取り上げていただき、感謝の言葉もありません。
返信する
ありがとうございます (琴寄政人)
2013-12-04 10:43:37
 お父さん頑張っていたのですね。事実の詳細を知らせていただき感謝に耐えません。
 中学校の現場にいたものとして、学校の学校的対応は多少分かるつもりでいます。そして、その分憤ることも多いのです。この記事は「考える会」の石井議員のブログ記事もあわせて考え、書かせてもらったものです。
 これからもなんらかの形で支援・応援出来たらと考えています。
 ありがとうございました。
返信する

コメントを投稿