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今市事件・上 実戦教師塾通信八百八十五号

2023-11-03 11:16:21 | 戦後/昭和

今市事件・上

 ~「冤罪」という場所~

 

 ☆初めに☆

今夏の読書特集で『殺人犯はそこにいる』(清水潔)を取り上げました。そしてこの本を取り上げたのは、袴田さんのことが差し迫っているからではありませんと書きました。あとで話すつもりですとも書きました。私が今市事件に近づこうとしていたからです。2005年に起きたこの事件を覚えているでしょうか。そして逮捕から判決に至るまでの、多くの不可解を覚えている方もいるのではないでしょうか。今年の暑さが始まる前、この事件と直接関係する方から、力を貸して欲しい、という連絡を受けました。栃木からわざわざ、私のところまで出向いて来られました。私のようなもので役に立つかどうか、心もとありませんでした。でも、感謝の気持ちで話をうかがい、私からも尋ねたいことを確認出来ました。今市事件の現況と、この再審に向けた国民救援会の動向を、二回にわたってお知らせします。

 

 1 一審判決まで

 この号は、事件の経過と内容の確認にしたい。これは2005年の12月1日に起きた事件だ。栃木県の今市で小学校1年の女の子(吉田有希ちゃん)が行方不明になった。翌日、有希ちゃんは茨城県の山林の中で、無残な遺体となって発見される。事件から8年、警察は商標法違反(偽りブランド所持)の罪で、栃木県・鹿沼在住の勝又拓哉さん(当時32歳)を逮捕する。それが1月29日なのだが、のちに女児殺人を自供するのが、2月18日。実は偽りブランド容疑で拘留可能なのは、最大23日間である。つまり、拘留期限ぎりぎりでの自供ということになる。検察が有罪の決めてとした母親への「あんな事件を起こして……ごめんなさい」という手紙は、この自供数日後に書かれる。初めは7枚書いたのを「長すぎる」と、何度も修正を命じられて2枚にされた手紙だ。もとの手紙はシュレッダーにかけられる。さらにこのあと、自供内容と事実との不可解な不一致が、数多く出て来る。第一の不可解は、容疑者がキスをする・身体を触る等のわいせつ行為を行う、その後バタフライナイフで身体を10個所以上にわたって刺す、という自供を裏付けるDNAがどこからも出なかったことだ。もちろん、遺体のあちこちから複数のDNAが検出された。あるものは捜査員のものと分かった。そして、誰のものか分からない(弁護団は「真犯人」のものかもしれないと主張)ものも検出された。しかし、容疑者の勝又さんのものだけは出なかった。疑問符だらけの一審(宇都宮地裁)は物的証拠がない不十分性を言いつつ(知りつつ?)、無期懲役を言い渡す。「こんなのでいいのか」と述べる裁判員もいたが、「自供の映像を見たら犯人だと思った」なる、天を仰ぐような裁判員の発言も覚えている。

 

 2 高裁の不可解

 不可解は続く。控訴審で高裁が、一審の破棄を命じる。勝又さんに対する正当な判断が降りた、のではなかった。取り調べが正当な範囲を越えて、不当に拘束して行われたこと。これはいい。問題は、一審で認めた殺害場所と時間には合理的な疑いが残る、とした方だ。高裁はここで何をしたか。場所と時間を拡大するよう、検察に促したのだ。訴因変更である。「これなら可能だ」ということか。なぜか高裁は繰り返し、容疑者が犯人であることは疑いがない、と主張している。また、一審で争われたことが二審では消える(正確には「重要な争点でなくなる」)ことは注目しないといけない。裁判では一般的にあることらしい。私は大川小学校の事件の際、遺族と対面する中で知ったのだが、控訴審では裁判の争点が変わり、それ以前の争点は公判から遠ざかるようだ。では、今市事件はどうか。一審で争われた「わいせつ行為」が見当たらない。これでは訴因変更をはじめ、一審破棄が検察を有利に仕立てているように見えて当然だろう。高裁の判決文「被告人の凶行により突然に被害者を失った遺族らの心痛は察するに余りある」は、高裁の心情なのだ。読める人は読んで欲しい(控訴審_判決文.pdf)。100頁に渡る判決文は「あくまで確立性(判決文では「蓋然性」と表記)の問題ではあるが、だからと言って犯人でないとは言えない」論調で満たされている。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は一体どこに行ったのか、と思う内容だ。公判で検察が有罪の根拠とした、

容疑者の飼い猫の毛が被害者から見つかった/容疑者は犯行に使われた?スタンガンを持っていた/容疑者の車が犯行現場近くのNシステム(自動車ナンバー自動読み取り装置)で確認された/児童ポルノのビデオ所有

等々の容疑について書けなかったのだが、これら「有罪の根拠」が「容疑者に特定すべき事柄」なのか?という疑問は持つだろう。繰り返すが、物的証拠は何もない。判決文を読めば、この気持ちは強まるばかりだ。勝又さんは現在、最高裁判決に従って無期懲役に服しているのだ。こう見えて、猜疑心の強い私でも、最低これだけは言える。

「再審を認め、公正な審理をしなくていいのか。いや、しなさい」

 

 ☆後記☆

「お兄ちゃんのため」に頑張っている、実弟の高瀬有史さんには頭が下がります。柏に来ていただいた際には、勝又さんが逮捕された後の、自分や家族・親族周辺に訪れた大変な出来事まで話してくれました。私に出来ることは何なのでしょう。とりあえず、今までの私の微々たる経験や考えを話しましたが、とても参考になりましたと言ってもらえて、良かったのかなと思っています。次号では、守る会総会で聞いた「再審(やり直し裁判)の壁」は、具体的課題をお知らせします。えん罪今市事件 | 勝又拓哉さんの家族会 もあります。良かったら見てください。

今日は文化の日。三連休ですね。秋はこれ、柿のオレンジと空の青ですよ。近くの二松学舎付属高校で~す🍂

11月です。今月の子ども食堂「うさぎとカメ」は、トン汁にうどんをからめます。久しぶりに飾り寿司も登場です。楽しみです。そして、楽しみにして下さいね


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