千の天使がバスケットボールする

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「ルリボシカミキリの青」福岡伸一

2011-10-01 12:04:40 | Book
久しぶりに「週刊文春」を手に取ったが、記事の間に実に様々な分野で活躍されている方たちのエッセイが掲載されている。おっとっ!福岡ハカセを発見。なんだか、秋のもぎたて「10大スキャンダル」だの、みずほ3人衆「厚顔天下り」やら「会長辞任! エリエールより軽い1万円札」などの勇ましい記事が踊る中、ハカセのパラレルターンパラドクスのエッセイは涼やかな高原にある小さな別荘のようだ。ルリボシカミキリの青、フェルメールですら作れないその青に震えた感触が、ハカセのセンス・オブ・ワンダーの原点だった。本書は、そんなハカセによる教育論をこっそりひめた「週刊文春」連載のコラムをまとめた一冊である。

ここでは、著者は自分を福岡ハカセと称して自分自身と多少の距離をおき、”ハカセ”になった元福岡少年を語ることによって、大切な何かをひとつもちながら旅をすることの豊かさを説いている。そして、それがずっと静かに自分を励ましてくれることを。それは、ハカセにとってはルリボシカミキリの青だった。不思議なクールな青の色をもつカミキリを私はちっとも美しいとは感じない。昆虫が苦手で嫌いだからである。残念なことに「虫愛づる姫君」ではない。しかし、少年ハカセが、見る角度によってさざ波のように淡く濃く変化する”青”に心がふるえた感性はとてもよくわかる。何を美しいと感じ、何にセンス・オブ・ワンダーを感じるかは人それぞれであろう。向井万起男さんは、不謹慎かもしれないが、顕微鏡で見るガン細胞を美しいと言っていたが、それは私にも共感できる。大人になって、社会の荒波にもまれて自分の美しさを感じる感性を失いかけた疲れた旅人に、福岡ハカセは居心地がよく静かな別荘に案内をしてくれる。

「日本一高い家賃」

こんな気どらないシンプルなタイトルもハカセらしい。けれども、ついのぞいてみたくなる。何と、福岡ハカセは日本一高い家賃を払っている。たった一坪3億円!これは事実である。しかし、そこに居住しているのはハカセではなく、マウスの受精卵だ。縦2センチ、横1センチほどのスペースで、温度は常に”快適な”マイナス196℃。要するに坪単価にすると3億円になるが、実際に受精卵凍結保存サービスの受託サービス会社に払っているのは、月2万円ほど。それでも確かに、高い家賃だ!最高の部屋に静かに住んでいる凍結されたマウスの受精卵の話から、やがてヒトの受精卵へと話題はうつり、一体いつヒトはヒトになるのか、という本源的な問いをなげかけてくる。日本の民法上では、「胎児は相続については、既に生まれたものとみなす」としか規定されていないそうだ。車内から聞こえてくる女子大生の下宿の家賃の話題から、このオチまでの流れはうまい。ハカセの生活の中心は研究と教育の二本柱で、今は超多忙な方だと想像する。いったいに、理系の研究者は、日常生活でも根本的な原理を考える思考方法が自然に身についているようだが、それにしても、福岡ハカセの現象への深い思索とひきだしの多さにはいつも実に楽しませてくれる。

福岡ハカセの別荘は、静謐さの中に、日常の流れに見失いがちな哲学がある。白衣を着た詩人は名エッセイストでもあった。だから、つい何度も訪問したくなりリピーターになってしまうのだった。次の出版も待たれる。ラブコール!

■アンコールも
「動的平衡」
・ノーベル賞よりも億万長者
「ヒューマンボディショップ」A・キンブレル著
「ダークレディと呼ばれて」ブレンダ・マックス著


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