千の天使がバスケットボールする

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東京クヮルテットの室内楽 

2007-02-19 23:44:13 | Classic
勤務先のクラシック音楽好きの前上司が、私が東京クヮルテットの室内楽を聴きに行くという噂を小耳にはさみ、「さすがにイイところをついているな~。」と、詠嘆調の感想をもらしたそうだ。でしょっ!とちょっとご自慢の私だったのだが、やはり東京クヮルテットの演奏会は、耳の肥えた音楽通の方もうらやましがるくらいの充実ぶり。仕事の万難を排しても、銀座王子ホールにかけつける価値大であった。

冒頭のハイドン「五度」の音の最初の発音からして、その音の豊潤さんに圧倒される。これまでのハイドンのユーモラスながら人の良さそうな室内楽というイメージを修正されるではないか。幸松肇氏のライナーノーツにあるように、ハイドンの芸術性への心境が成熟期にあたる劇場的演出効果という言葉どおりに、ドラマチックに情熱的に音楽が奏でられる。この時代の上品だがむしろ純粋な室内楽という枠にはおさまらない東京クヮルテットのアプローチ。
CDやこれまでの経緯から、創立35年を超えた世界最高峰のカルテットという円熟さへの期待を、よい意味で裏切られた。
やっぱりさすがに気迫、集中力充分の世界中を演奏旅行している大人の4人組である。
続くベートーベンの「挨拶」も、ベートーベンへの深い理解と愛情が感じられる愛らしく、さらにエネルギッシュな演奏に会場は、少しずつ静かな熱気に包まれていく。

後半は、出演者のご「挨拶」もかねて、簡単にトークを交えてなごやかな雰囲気で演奏が続く。プッチーニの「菊」をイタリアで初演したときに、この曲がかの国では葬儀の時のBGMとは知らず、会場が居心地の悪い水を打ったような静けさに包まれたというエピソードを磯村さんが披露された。確かに「菊」は、葬儀にふさわしく粛然とした美しくも悲しい情感に満ちた曲である。一音、一音、魂をこめた音づくり、悲しみをたたえているとは言え、積極的で力強さをひめた演奏は、東京クヮルテットの個性と選択を最も感じられた。余韻にひたりながらも、シューベルト、ヴォルス、ボロディンと多彩なアンコール・ピースが並ぶ。
最後の文字どおりアンコール曲の熱演に、観客は興奮に包まれた。使用楽器は、95年より日本音楽財団からパガニーニが所有していたという「パガニーニ・クヮルテット」というストラディバリウスによる4台の楽器をセットで貸与されている。池田菊衛さんによると、パガニーニの4本でセットにして使用するという意思を守り、財団が楽器を集めてセットで貸与しているそうだ。パガニーニは、その作曲や自ら開発した技法だけでなく現代の遠い島国に豊かな響きを結果的にもたらすという別の遺産も残したというわけである。

この演奏会を通して感じたのは、室内楽は1/4×4=1ではないということだ。ひとつの曲を分業するのではなく、ひとりひとりの演奏が1×4となり、シナジー効果をもたらし優れた演奏になる。また第一ヴァイオリンの個性が、カルテットの持ち味にかなり反映されるというのも感じた。

閑話休題。
いつものとおり、開演ぎりぎりに客席にはいった時に、真っ先に目に入ったのが、あのヴァイオリニストの樫本大進さんである。
演奏会終了後、購入したCDにサインをしてもらおうと並んでいると前の方が樫本さん。一人でコンサートにいらしたもよう。順番を待ち、第一ヴァイオリンのマーティン・ビーヴァーさんの前にくると、会話をしながら抱き合っているではないか。こんなチャンスはめったにないっっ、と「樫本大進さんでいらっしゃいますよね。」と思い切って声をかけた。
すると笑顔ではいっと即答される。この間の短くも幸福な会話をネットで公表するのは失礼にあたるので秘密だが、当日の演奏会の感想を一言披露。
「本当に今日は素晴らしい演奏で、僕は嬉しくってずっとにこにこと微笑みながら聴いていましたよ!」
ステージから離れた大進さんは、この会話や彼の音楽から推察されるとおり、大変素直で好青年そのもの。きっと将来大きな世界的ヴァイオリニストに成長されると、私は確信しましたね。
(樫本さま、なんの面識もないのに声をかけてしまい失礼しました。それにも関わらず、貴殿のきどりなく、誠意あり、また音楽への深い愛情を感じられる会話をうれしく楽しませていただきました。今後益々のご活躍を期待しております。)

------ 07/2/19 王子ホール -------------------------
マーティン・ビーヴァー(ヴァイオリン)
池田菊衛(ヴァイオリン)
磯村和英(ヴィオラ)
クライブ・グリーンスミス(チェロ)
ハイドン:弦楽四重奏曲 第76番 「五度」 ニ短調 Op.76-2 Hob.III:76
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第2番 「挨拶」 ト長調 Op.18-2

プッチーニ:菊の花
シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番 「四重奏断章」 ハ短調 D.703
ヴォルフ:セレナード ト長調
ボロディン:ノクターン(弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調より 第3楽章)

■アンコール

ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10 より 第2楽章
ハイドン:弦楽四重奏曲 「騎士」 ト短調 Hob.III-74 より 第4楽章


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2 コメント

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素敵なコンサート (romani)
2007-02-23 00:02:53
こんばんは。

素敵なコンサートに行かれましたね。
プロだけではなく、アンコールもこれまた素敵。
私も行きたかったのですが、どうしても仕事の都合がつかず諦めました。

このカルテットは、何といっても誠実な音楽の作り方が素晴らしいですよね。
ハイドンもベートーヴェンも、またバルトークを弾いても、決して「はったり」のない彼らの演奏は、私の中でも常にスタンダードなものです。

また、樫本大進さんとの出会い、羨ましいなあ。
樹衣子さんと樫本さんの会話も、是非近くで拝見したかったです。(笑)
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romaniさまへ (樹衣子)
2007-02-24 23:58:41
なんとなくromaniさまもいらっしゃるような気がしておりましたが、残念でしたね。会場は勿論満席。楽器を抱える方が多いのが特徴でした。
本当に素晴らしい演奏でしたよ。さすがに世界に誇るカルテットです。

樫本さんは、身長170センチぐらいでしょうか、ステージで拝見する度に体重は音楽とともに充実しつつある。(笑)
なんとなく一人で所在なげな雰囲気でしたが、あつかましくも声をかける蛮勇をふるいおこさせる親しみやすさがありました。
やはり日頃はお忙しく、このようにコンサートに行かれることは少ないようです。もっとたくさんお話がしたかったです。

>私の中でも常にスタンダードなものです。

それはこのカルテットに対する最高の誉め言葉ですね。
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