「Mozart: Grosse Messe C - Moll/ Bernstein」

「孤独なボウリング」を読了し、コミュニティにおける一般的互酬性の価値におおいに共感しているのだからして、ベートーベンの交響曲第７番のＣＤを貸したからといって決して見返りを期待していたわけではないが、勤務先という共同体でクラシック派になりつつある方からレナード・バーンスタイン指揮、バイエルン放送交響楽団のモーツァルト『アヴェ・ヴェルム・コルプス』（他、大ミサ曲ハ短調）のＤＶＤを借りた。情けはひとのためならず・・・。

90年4月5日、バイロイト近郊の,ヴァルトザッセン教会でのライヴ録画によりＤＶＤというだけあって、確かに荘厳な教会の雰囲気はＤＶＤ向きでりっぱな絵になる。そして、ヤンキーだが、その教会にふさわしい指揮者、レナード・バーンスタインも西の横綱・カラヤンに負けないくらい絵になる。と、思って観ていたのだが、なにか私の中のイメージのレニーとは雰囲気が違う。ミサ曲の神々しい歌を聴きながら、確かにユダヤ人の血を感じさせるのだが、頬のこけたレニーの表情にふと思い当たった。この演奏会の半年後、10月14日に彼は長年のヘビースモーカーがたたったのか、肺がんによって亡くなったのだった。

あらためてそのことを考えながら聴くモーツァルト最晩年の「アヴェ・ヴェルム・コルプス」やミサ曲を、こうして映像で聴くのも感慨深いものがある。
モーツァルトのどの曲についても言えるのだが、特にこのミサ曲は愛する妻、声楽家でもあるコンスタンツェのために作曲されており、荘厳ななかにも華やかで透明感のある美しさを放っている。レニーの振る指揮棒から紡ぎ出されるモーツァルトの世界は、なにものにもかえがたい音楽の泉だ。
ただ惜しむらくは、ソプラノのアーリーン・オジェーはうまいのだが、少々地味かもしれない。これは鑑賞者の好みもあるかもしれないが、声につやが足りないとも感じる。メゾ・ソプラノのフレデリカ・フォン・シュターデのメゾ・ソプラノ特有のしっとり感ははないが、美声。テノールのフランク・ロパードとともに、この教会の雰囲気にふさわしい演奏会ともいえる。
そして何よりも素晴らしいのが、バイエルン放送交響楽団の合唱団である。これぞ、”ヨーロッパの声”という歴史を感じさせるのは、宗教音楽だからだろうか。
なんともいえない、バームクーヘンのように（←バームクーヘン大好きなので）幾重にも重なった声の厚みに、東洋の小さな島の体重の軽い日本人にはかなわないものを感じる。やはり、こうしたミサ曲はたとえクリスチャンでなくとも、このような教会で聴いて初めて本物を聴くことができるのかもしれない。

今年の春に発売されたが、セールで1000円をきる値段。そんなものかと思うが、内容は安売りとは大違い。聴く価値は大。



【曲目】
モーツァルト：ミサ曲 ハ短調 K.427
同：アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618
同：エクスルターテ・ユビラーテ K.165（踊れ、喜べ、幸いなる魂よ）
【演奏】
レナード・バーンスタイン(指揮)、バイエルン放送交響楽団＆合唱団
アーリーン・オジェー(S)
フレデリカ・フォン・シュターデ(Ms)
フランク・ロパード(T)
コルネリウス・ハウプトマン(Bs)
フリーデマン・ヴィンクルホーファー(Org)