千の天使がバスケットボールする

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「リスボンへの夜行列車」パスカル・メルシエ著

2012-05-21 22:31:26 | Book
人生とは自分探しの旅。
自分はいったい何者なのか、本を読んでも、映画を読んでも、音楽を聴いても、友人と語り合っても、結局はすべて自分探しにつながると感じている。ブログを更新していくのも自分探しの一環だ。
そんな私には、この本の主人公グレゴリウスの感情と行動はいたくセツナカッタ・・・。

古典文献学者でギムナジウムの教師ライムント・グレゴリウス、スイスのベルン在住の57歳。彼が、本書の主人公である。元教え子と結婚していたこともあるが、今はバツイチの独身男。ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語まで精通し、その博識ぶりと指導力で生徒からは慕われつつも尊敬の念をもたれている名物教師。特技は10人もの生徒と同時にチェスをさすこと。これまでの人生にそれほどの不満はない。平日は、8時15分前にブンデステラッセを曲がって中心街とビムナジウムを結ぶキルヒェンフェルト橋を渡る。毎日毎日、決まって8時15分前だ。

ところが、ある日、彼はその橋から身を投げ出そうとするポルトガル人女性と出会い、更に、その後、古書店でポルトガル語の「言葉の金細工師」という本と出会ってしまった。ふたつの偶然の出会いは、グレゴリウスのこれまでの人生に奇跡のような化学反応をおこし、気がつけば、彼はリスボン行きの夜行列車に乗っていた。
何のために。

リスボン行きは、「言葉の金細工師」の著者、アマデウ・デ・プラドを探すために。

 「我々が、我々のなかにあるもののほんの一部分を生きることしかできないのなら―残りはどうなるのだろう?」

私たちは人生を生きているつもりでいても、それはほんの一部にしかならないのではないだろうか。アマデウのこの言葉に、共感とおびえと焦燥を感じなかったとしたら、あなたはうらやましいくらいに若い人だ。グレゴリウスはそれまでの謹厳実直な人生を放り出し、アマデウを探し求める旅を続け、かっての教師、アマデウの妹たち、親友、初恋の女性や激しく恋をした女性を尋ねていく。手にはいつも哲学のような文章がひらかれているアマデウその人の「言葉の金細工師」の本を大切にたずさえて。まるで人生と旅の杖のかわりのように。

アマデウを求めて探す旅は、表裏一体でグレゴリウスという自分自身を探す旅路でもある。そして、彼らの間にたちあらわれるのが、キリスト教の神である。信仰と無神論を語らずしてヨーロッパ精神を語ることはできない。その点で、一度の通読では本書を読みこなせたことにはならないとも感じている。

さて、もうひとりの主人公のアマデウは、天才的な頭脳や貴族の出自がもたらすさまざまな苦悩や不幸を背負い、おりからの独裁政権下に親友達と抵抗運動にかかわっていく。少々、非現実的で神話のような存在なのだが、旅路に少しずつあかされていくアマデウという人物像と彼の文章が、ミステリー小説に哲学の要素もとりいれていて、インテリゲンジャーから単に読書好きの私のような者まで、幅広い層に読書の楽しみももたらしてくれる。本書はドイツでは200万部のベストセラーとなり、世界中で刊行部数が400万部を超えるそうだ。人生、愛、友情、失望、死、様々な語るべき言葉が溢れていて、そして深みがある名文が次々とあらわれては心をゆさぶってくる。それは、ぞくっとくる最後の一行まで。

ちなみに本書を読もながらこれは映画になると感じていたのだが、実際に映画化がすすんでいるそうだ。主演はジェレミー・アイアンズ!他にブルーノ・ガンツやクリストファー・リーなどが出演しているとのこと。これは映画の方も観たい。


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