千の天使がバスケットボールする

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『金色の嘘』

2006-07-24 23:54:37 | Movie
嘘にもさまざまなカタチがある。誠意のない嘘、その場かぎりの嘘、たわいのない嘘、計算高い嘘と無邪気な嘘、そして”秘すれば花”のような芸達者で意外性のある嘘。

生まれながらにして美貌と賢さを授かったシャーロット(ユマ・サーマン)は、恋人アメリーゴ公爵から彼の所有するイタリアの古城で婚約を知らされる。19世紀初頭、没落貴族の末裔である彼は、城と家名を守るためにシャーロットの友人である米国の大富豪の愛娘マギー(ケイト・ベッケンセール)の資産と結婚するという。卑小な打算というよりも、正しく合理的な選択と考える彼は、シャーロットに別れを告げ、新妻マギーと新しい家庭、新しい愛情を育てる決意をした。
シャーロットにとっては、衝撃だった。アメリーゴ公爵への愛情は、彼の結婚後もなんらあせることもなく、つらく苦しい日々が続く。しかも、こともあろうことか、アメリカ人のマギーは彼女と夫が恋人だったことを全く知らないのである。ふたりの関係を知っているのは、社交界でも殆どいない。

そしてマギーといえば優しく容姿の端整な夫と幸福な結婚生活を送るが、ただひとつ気がかりなのは早くに妻を失った父のことだった。これまで父と娘は、お互いに相手を思いやり、それぞれの妻、母を失った空虚感をうずめるかのように絆が深かった。ところが、父アダム・ヴァーヴァーは、シャーロットの落ち着いた品格のある美貌に興味をひかれていく。そして彼の生涯の夢である母国での美術館建設に、彼女の美貌と聡明さをパートナーとして求めていくようになる。それぞれの、計算と嘘と不確かな愛情で、シャーロットとヴァーヴァー氏は結婚する。

ロンドンの大きな屋敷の中で、夫とその娘である友人を欺き、妻と名誉と富をえたシャーロット。妻と産まれた長男に愛情をそそぎながらも彼女の愛を拒みきれないアメリーゴ公爵、友人と夫の関係に疑惑を感じ始めながらも真実を見つめることにおびえるマギー。そして、有り余る財産で美術品収集に情熱を傾けながらも、若い妻を見守るヴァーヴァー氏。不安、疑惑、愛情、憎悪、嫉妬、悲しみがそれぞれの胸にさかまく頃、シャーロットがマギーとアメリーゴの結婚祝いに購入した金色の盃が屋敷に届けられる。その輝くばかりの素晴らしい金色の盃には、ほとんど気がつかれない小さな嘘が隠されていた。しかし、その小さな嘘はたとえどんなにめだたなくとも嘘であるがゆえに、金色の杯の輝きは曇る。

ヘンリー・ジェイムズ原作「金色の盃」を、「眺めのよい部屋」を製作したジェームズ・アイボリー監督が映画化。
4人の家族の関係をつきつめれば、昼メロや韓国ドラマ以上のドロドロとした人間関係なのだが、あくまで品よく、感情をおさえた良質の室内劇になっている。貴族階級では、不倫や情事も繊細なレースをほどこした美しい衣装ほどの装飾なのだ。しかし、シャーロットとアメリーゴには、昔々彼の古城で実際に起こった義母と息子の情事をつきとめ処刑した凄惨な史実から、不倫の罪と罰の恐怖から逃れられない。そして父と娘の他人の入る隙がないくらいの、親子の愛情の排他性。開放的なアメリカ人である彼らの、逆に閉鎖的な構成が奥ゆきを与えている。また新興のアメリカが、ヨーロッパの美術品を経済力にまかせて買いあさる図も、後のヨーロッパと米国の未来の関係を暗示している。素朴でおひとよしの米国人の親子という類型的な人物に、結局恋人たちはその素直で正直な愛情と懐の深さに屈するのである。
徹底的に細部まで当時の貴族階級や新興米国の大富豪の家の調度品、絵画、衣装を忠実に再現している本作は、それだけでも一見の価値あり。
嘘が支えた家族、夫と妻の関係。その嘘は、果たして金色の盃だったのか。


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