インドの聖者たちの教えの中でも、親しみやすい名著として評判なのは、ガンガジの「ポケットの中のダイヤモンド」。他の本みたいに分厚くないし、語り口も易しい。このジャンルの本を何冊も読むより、これ一冊を何度も読み返したほうがいいかもしれない (・・・という気がした。まあ、他の本を読む前から決め付けるワケにもいかんけど)。
序文を、あのエックハルト・トールが書いている。エックハルト・トールといえば、「現代のスピリチュアル・リーダー」だ。そういう人が、ガンガジから影響を受けたことを公言している。それを見ても分かるとおり、インドを出て巡業生活に入ってからというもの、欧米の精神世界に大きな影響をおよぼしてきた人。
ガンガジはアメリカ人の女性だけど、縁あってインドに赴き、かの高名なるプンジャジ(パパジ)に弟子入りした。英語で言えば“Poonja”(プーンジャ)だし、本文では「パパジ」となってるけど、筆者は「プンジャジ」という呼び方に慣れ親しんでいるので、この名前でいきたい。
ガンガジは、精神世界を探求すべく、わざわざ遠くて暑いインドにまで赴いた。とはいっても、別にアメリカでの生活が苦しくて、そこから逃れたかったわけではない。むしろ、どちらかといえば何不自由ない生活を送っていた。それでも、何かが決定的に欠けていた。
精神世界の探求とは、「ポケットの中のダイヤモンド」を探し求める、壮大なる旅なのだ。本当は、探し求めているダイヤモンドは、アナタのポケットの中に入っている。でも、それを見つけるために、わざわざ遠回りをしなきゃいけない。「なんとかならないものか」とは思うけど、この世界はそういう風にできてるんだから仕方ないか・・・。
それはともかく、幸運にも、世界最高の師にめぐり合ったガンガジ。師のプンジャジは、目がキラキラした人だった。「何が欲しいのか言ってごらん」と言われたガンガジは、「自由」と答えた。
師は、「正しい場所に来たね」と言い、「何もしないでいなさい」というアドバイスをくれた。
プンジャジいわく、アナタの問題のすべては、行動し続けることにある。すべての行為をストップしなさい。動いてはいけない。何かに向かって動くことも、何かから遠ざかることもしてはいけない。この瞬間に、じっとしていなさい・・・。
「行為」といっても、立ち上がって歩いたりとか、そういうことを言ってるわけではなかった。というのも、それを聞いているガンガジは、もともと座ってジッとしていたからだ。ここで師が言ってるのは「精神的な行為」すなわち、「思考」をストップせよ・・・ということを意味していた。
このことに気づいたとき、「私」という存在の物語から、「物語の奥底にいつもあった存在の終わりのない深み」へと、驚くべきフォーカスの転換が起こった。なんという平安、なんという休息! その瞬間、もはや、「私という物語」に縛られていなかった。
ガンガジは、もともとアメリカでも精神世界の探求者だったので、それまでにも宇宙との一体感や崇高な至福感を感じた瞬間が何度もあった。でも、このときにインドで感じた恍惚感は、まったく性質が違っていたという。
思考が停止したガンガジ。師は、いくつか質問をして、本当に思考が停止したことを確認した。次に師が言ったことは、「一軒一軒たずねて、その経験を人々に語れ」・・・ということだった。
それから、ガンガジのスピリチュアル伝道の旅が始まった。世界中で講演会をひらき、あらゆる階層、職業の人々と話をするようになった。そんな対話を積み重ねた結果として生まれたのが、「ポケットの中のダイヤモンド」という本。
こうして、師との出会いにより、「私という物語」から解き放たれたガンガジ。それにしても、その「私という物語」とは、いったい何なのだろうか。
(つづく)