ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

犯則と処遇・総目次

2020-11-08 | 犯則と処遇

本連載は終了致しました。下記目次各「ページ」(リンク)より全記事をご覧いただけます。


前言 
ページ1

1 序論‐「犯罪」と「犯則」(と「反則」) ページ2

2 犯則行為に対する責任 ページ3

3 責任能力概念の揚棄 ページ4

4 法定原則 ページ5

5 処遇の種類 ページ6

6 矯正処遇について(上) ページ7

  矯正処遇について(下) ページ8

7 矯正センターと矯正スタッフ ページ9

8 更生援護について ページ10

9 保護観察について ページ11

10 少年の処遇について ページ11

11 矯導学校について ページ12

12 教育観察について ページ13

13 未遂犯について ページ14

14 共犯について ページ15

15 過失犯について ページ16

16 生命犯―生と死の自己決定について(上) ページ17

   生命犯―生と死の自己決定について(中) ページ18

   生命犯―生と死の自己決定について(下) ページ19

17 性的事犯(上) ページ20

   性的事犯(下) ページ21

18 財産犯について ページ22

19 薬物事犯 ページ23

20 累犯問題について ページ24

21 組織犯について ページ25

22 汚職について ページ26

22´  経済事犯について(準備中)

23 交通事犯(上)―自動車事故について ページ25

   交通事犯(下)―公共交通事故について ページ26

24 思想暴力犯について ページ27

25 反人道犯罪について ページ28

26 刑事司法から犯則司法へ ページ29

27 犯則捜査について ページ30

28 犯則捜査の鉄則 ページ31

29 人身保護監について ページ32

30 検視監について ページ33

31 監視的捜査について ページ34

32 出頭令状について ページ35

33 被疑者取調べの法的統制 ページ36

34 被疑者の身柄拘束について ページ37

35 現行犯人の制圧について ページ38

36 時効について ページ39

37 真実委員会について(上)―招集 ページ40

   真実委員会について(下)―審議 ページ41

38 矯正保護委員会について ページ42

39 少年司法について ページ43

40 不服審及び救済審について ページ44

41 修復について ページ45

42 社会病理分析について ページ46

43 特別人権裁判について ページ47

44 防犯について ページ48

45 復讐心/報復感情について ページ49

46 被害者更生について(準備中)

結語 ページ50

コメント

犯則と処遇(連載第29回)

2019-02-01 | 犯則と処遇

23 交通事犯(下)―公共交通事故について

 現代の科学技術社会を特徴づける事象として、鉄道、船舶、航空機といった公共交通機関の著しい発達があるが、それに伴い、これら公共交通機関による死傷事故(公共交通事故)も跡を絶たなくなっている。
 こうした公共交通事故は、自動車事故とは異なり、より複雑で高度な機械的システムとそれを運営する法人企業組織を背景として生起してくることから、自動車事故のように、単純な過失犯として処理し切れないことが多い。

 そこで、公共交通事故が発生した場合は、まず事故原因の行政的な調査を先行させることが合理的である。そのためには、中立的な事故調査機関を常設する必要がある。
 この先行調査の結果、またはその過程で個々の交通機関要員の業務上過失が明らかとなった場合は、そこで初めて捜査機関に通報され、犯則行為としての過失責任を究明するための捜査が開始される段取りとなる。

 ただし、船舶や航空機の場合は、事故に関わった航海士や操縦士の法的な過失の有無とは別に、航海士や操縦士としての職務上の義務を適切に果たしたかどうかという観点からの審判手続きが捜査に先行される。具体的には、海難事故に関する海難審判のほか、航空事故に関する航空審判といった準司法的手続きである。
 こうした審判手続きと過失犯としての責任を究明する司法手続きとは目的を異にするとはいえ、両者の結論が完全に齟齬を来たすことは好ましくない。とりわけ、審判手続きでは義務違反なしとされながら、司法手続き上は有責とされるねじれは当事者に当惑と司法不信をもたらすであろう。
 そこで、審判手続きは司法手続きに先行して進められる必要があり、審判の結果、実質無答責に相当する義務違反なしとの結論が出た場合には、当該要員を改めて司法的に追及することは禁止されるべきである。

 ところで、組織を背景として引き起こされる公共交通事故では個々の要員の過失責任を追及するだけでは不十分であったり、個々の要員の過失を立証し切れないことも多い。そこで、こうした場合は運営組織の安全対策不備を一つの犯則行為とみなして対応する必要も出てくる。

 ただし、これはいわゆる組織犯とは異なり、法人としての過失犯であるので、通常の組織犯対策の出番とはならず、別の対策が必要となる。同時に、ここでも「犯則→処遇」の定式は貫徹されなければならない。
 具体的には、事故を引き起こした運営組織に対しては営業停止処分が課せられるほか、事故を繰り返す累犯的な組織に対しては究極の解散命令も課せられる。こうした組織の活動と存亡に関わる処分は単なる行政処分ではなく、司法手続きによって付せられる一種の対法人処遇である。

コメント

犯則と処遇(連載第28回)

2019-01-31 | 犯則と処遇

23 交通事犯(上)―自動車事故について

 交通事犯は交通手段が発達した現代社会に特有の現象であり、18世紀のベッカリーアの想像を超えた現代型犯則行為である。交通事犯を広く取れば、鉄道や船舶、航空機に関連する犯則行為も含まれるが、本章(上)では最も日常的な自動車に関連するものに限定して論ずる。

 自動車に関連する交通事犯の大半は過失犯であるが、速度違反や飲酒運転など道路交通法違反は故意犯である。いずれにしても、交通事犯に、長期的な矯正処遇を要する犯則行為者はいない。

 特に交通事犯の中心を占める自動車運転中の過失による死傷事故は、運転者の過失という人的要素ばかりでなく、道路状態や自動車の性能という物的要素も要因となって引き起こされる。
 典型的には、見通しの悪い道路で欠陥車を運転している人が不注意であれば、極めて高い確率で死傷事故が発生する。このように自動車運転中の過失による死傷事故は道+車+人という三要素が三位一体的に絡み合って惹起される。
 事故の物的要素は、道路補修や自動車の性能強化といった物理的対策を通じて克服することが可能である。人的要素に関しては、そもそも運転適性のない者を事前に運転そのものから遠ざけることが効果的である。具体的には、著しく注意散漫な者や運動神経に制約がある者、アルコール・薬物依存傾向のある者に対しては運転免許を認めないか、少なくとも矯正的な特別講習を義務づけ、問題傾向の改善が認められるまで免許を保留とすることである。

 他方、道路交通法規に基づく行政的な交通取締りは、交通事故防止にとって有効ではあるが、あまりに瑣末すぎたり、多すぎたりする規則は誰も守り切れず―しばしば取締担当者ですら!―、無意味である。 

 各種道路交通法違反については、まず速度違反や酒酔い運転などのように、それ自体に死傷事故の危険が内包されているような危険運転行為に限って処遇の必要な犯則行為とみなし、その他の細かなルール違反は免許停止などの行政的なペナルティーに委ねることが合理的である。
 「犯則→処遇」体系の下でも、速度違反や酒酔い運転などそれ自体に過失による死傷事故の危険を内包する危険運転は故意犯であるが、それらは本質上行政取締上のルール違反であって、多くは反社会性向の低い犯行者によるものであるから、その処遇としては保護観察とすれば十分である。
 ただし、速度違反や飲酒運転などの危険運転の累犯者に対しては、永久免許剥奪処分が効果的である。

 問題は、こうした道路交通法に違反する危険運転中の過失によって死傷事故を起こした者の処遇である。といっても、以前の項で述べたように、軽過失は業務上過失の場合を除き犯則行為とすべきでないから、ここで過失とは重過失及び業務上過失の場合である。

 道路交通法に違反する危険運転行為とその間に犯された過失行為とは一連的であっても危険運転行為中に必ず過失行為を犯すと決まっているわけではない以上、本来別個の故意行為と過失行為である。 
 これもすでに論じたように、こうした犯則行為のパッケージにおいては、犯則学的に見て最も中核的な犯則行為の処遇に従うのであったところ、確率的に過失による死傷事故は、何らかの危険運転行為を前提としており、死傷事故を起こしやすい危険運転中に事故を起こすのは、元来危険運転行為に内包されていた危険が現実化しただけのことであるから、中核的な犯則行為とは、まさに過失行為にほかならない。従って、以前に述べた過失犯としての処遇そのものに付することになる。

 ちなみに、飲酒運転事故はモータリゼーションが高度に進んだクルマ社会にあって、酒類の販売規制が緩やかであれば、不可避的に発生する事故である。酒類に対する宗教的禁忌などから酒類の製造・販売が禁止されている国、逆に酒類の販売規制は緩やかだが、モータリゼーションがほとんど進んでいない国では飲酒運転はまれである。
 そこで、飲酒運転の撲滅とは言わないまでも大幅な減少を目指すのであれば、酒類の販売規制の強化(専売制の導入など)とともに、脱モータリゼーションにも正面から取り組まなければならない。 

 ところで、自動車交通事故の中でもひき逃げは悪質な事故隠蔽行為と評価されやすいが、事故を起こしてパニック状態にある者の心理を冷静に考えれば、ひき逃げは、司法上正当な防御権の行使ではないとしても、ある種の条件反射的な防御行動と理解することができる。
 このような防御行動を回避させ、ひき逃げを防止するためには、逃走せず自ら事故を通報し、与えられた状況下で必要十分な被害者救護を尽くした事故者は、反社会性向の低さを考慮して、軽い処遇を与えることが効果的である。

コメント

犯則と処遇(連載第17回)

2018-12-23 | 犯則と処遇

15 過失犯について

 「犯則→処遇」体系における犯則行為とは基本的に、意図して犯則行為を実行する故意行為であって、不注意による過失行為は例外的な犯則行為である。
 そのうえ、「犯則→処遇」体系からすると、処遇の対象とすべき過失犯は、結果を容易に予見し得たのに不注意で予見せず、漫然と危険行為をし、または必要な結果回避行為を怠る重過失犯の場合であり、軽過失犯は処遇の対象外である。

 もっとも、職業上高度の注意義務が課せられている者の過失、すなわち業務上過失の場合は、軽過失犯も含め処遇対象となる。業務者は一般市民が容易に予見し得ない結果に対しても、職業上の知識経験に基づき予見し、結果発生防止のために適切な対応を取ることが可能であり、またそうすべきでもあるからである。
 なお、「業務」とは、職業的に反復継続している仕事のことであり、職業的運転手が休日にマイカーを運転する行為は「業務」とみなされない。このような場合は、私的な運転者と同様だからである。ただし、職業運転手としての技能があることを考慮すると、一般の日曜ドライバーの場合よりも重過失が認定されやすいであろう。

 いずれにせよ、過失犯は通常、反社会性向が低く、一過性のものであるから、一般的な重過失犯については「保護観察」で足りると考えられる。
 ただし、病的なほどに著しく注意を欠いた場合や、同種過失行為を繰り返す過失累犯は「第一種矯正処遇」に付する必要があろう。また業務上過失犯の場合は高度の注意義務に違反した反社会性に照らし、やはり最大で「第一種矯正処遇」が相当である。

 ところで、過失犯の中で最も多いのが、いわゆる交通事故、すなわち自動車運転過失犯である。公共交通事故を含めた交通事犯をめぐる諸問題に関しては後の章で改めて取り上げるが、「犯則→処遇」体系の下では、自動車運転過失とその他の過失とをことさらに区別することはしない。
 すなわち、非業務上の自動車運転過失については、重過失の場合に限り一般的な過失致死傷犯として、業務上の自動車運転過失については、軽過失の場合を含めて業務上過失致死傷犯として処遇される。

コメント