ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

犯則と処遇(連載第40回)

2019-04-02 | 犯則と処遇

34 被疑者の身柄拘束について

 「犯罪→刑罰」体系に基づく犯罪捜査は最終的に犯人を処罰することを目的としているため、捜査の段階から犯人を捕縛することへのこだわりが強い。このように刑罰が確定する前の段階における刑罰先取り的な身柄拘束―未決拘禁―は、極力最小限度のものであるべきとされながら、その原則が厳守されることは少ない。  
 「犯則→処遇」体系の下でも、犯則捜査段階での被疑者の身柄拘束は全面的には避けられないが、それは段階を追って、かつ必要不可欠な場合に限り、原則として所要の期間に限定される。

 具体的には、嫌疑の深まった被疑者に対して、まず移動制限命令が出される。移動制限命令とは捜査機関が指定した特定の地域内にとどまり、やむを得ず地域外へ移動する必要のあるときは、捜査機関に移動先や目的、期間等を届け出ることを被疑者に命じる措置である。そのうえで、捜査機関は任意に、または前出の出頭令状をもって被疑者を取り調べる。  
 これが捜査の本則ではあるが、被疑者が移動制限命令または出頭命令に従わない場合はじめて正式の身柄拘束となる。逆言すれば、こうした段階を踏んでいない限り、いきなり身柄拘束に及ぶことはできないということになる。

 正式の身柄拘束にも段階があり、まずは仮留置である。仮留置は人身保護監の発する令状によらず被疑者を拘束する措置である。仮留置をするには所定の幹部捜査員の発する仮留置令書を要し、かつその期間は身柄確保から24時間に限定され、仮留置中に取調べをすることは許されない。
 被疑者を仮留置した捜査機関は直ちに人身保護監に報告しなければならず、24時間を超えて身柄拘束をするには、人身保護監の発付する勾留状によらなければならない。

 勾留状の発付請求を受けた人身保護監は、捜査機関側と被疑者側双方が出席する公開の勾留審問を開き、勾留の理由を告げ、被疑者側の意見を聴く。被疑事実の根拠が弱い場合や被疑者側が今後、捜査に全面協力することを誓約した場合は勾留請求を却下する。  
 それ以外の場合は勾留状を発するが、勾留期間は30日に限定される。30日を経過すれば、勾留状は自動的に失効し、被疑者を釈放しなければならない。
 ただし、捜査機関は釈放に際し、逃亡防止のため、移動制限やGPS装置装着などの条件を付することができる。GPS装置を装着するには、人身保護監の許可を要する。被疑者がGPS装置を無断で取り外したり、釈放後に逃亡したりした場合は、改めて勾留状を得て拘束することができる。
 この再勾留の期間は無期限である。無期限再勾留に対し、被疑者側は保釈を請求できるが、保釈金によって担保することは許されない。 

 一方で、例外的に30日を超えて勾留を継続できる場合がある。この継続勾留には、被疑者に常習性または連続性が認められる場合や被疑者が第三者に報復をするおそれがある場合における防犯を目的とする防犯勾留と、被疑者に対する第三者による報復のおそれや被疑者の自殺のおそれが認められる場合に被疑者を保護することを目的とする保護勾留の二種がある。  
 これらの継続勾留も、改めて人身保護監による勾留審問と勾留状によらなければならないが、継続勾留の期間は無期限である。
 継続勾留に対する保釈は、保護勾留の場合にのみ認められる。防犯勾留の場合は、被疑者が入院加療を要する傷病を発症するなど人道上の理由がある場合に限り、人身保護監の許可によって一時的な停止が認められるのみである。

 正式に身柄を拘束された被疑者の拘束場所は独立した拘置所または捜査機関に付設された留置場であるが、後者の場合、捜査機関は警備を含めた留置場の物理的な管理権のみを有し、被疑者の身柄の管理権は人身保護監に属する。
 人身保護監は拘束施設における被疑者の処遇に対して責任を負い、被疑者の申立てに基づき調査した結果、不適切な処遇が認められば、直ちに改善を命じることができる。
 改善が見られない場合、人身保護監は人身保護令状を発して被疑者を即時に保釈するか、別施設に移送することができる。また拘束施設の看守が暴力行為などの人権侵害に及んでいた場合は、取調べの場合に準じ該当者を訴追することができる。


コメント    この記事についてブログを書く
« 共産論(連載第23回) | トップ | 犯則と処遇(連載第41回) »